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本当の友人と本物の恋人

「なんで、私たちがこんな格好でいるんですかねぇ」

「仕方ないだろ。男女で組んでいるのは少ないんだから、お鉢が回ってきた。ただそれだけだ」

「だからといって、こんな格好じゃなくてもやっぱりよかったですよね?」

「いや、それは……」


 煌びやかなパーティー会場。

 パメラにとっては憧れではあったが、まさかこんなふうに入ることになるとは思わなかった。それにまさか騎士としての格好ではなく、ドレスを着た状態で。この格好はレオンが指定したものらしいが、彼の考えが理解できなかった。





 彼女がここ、パーティー会場にドレス姿で来ることになった理由は二日前に遡る。


『お前らのおかげで、仕事が溜まりまくった。その尻拭いをしてやっておいたから、その代わりにちょっと仕事を頼む』


 レオンと一緒に街を回った翌日、ジーノ団長に呼ばれた二人は一枚の書類を渡される。

 それを読んだパメラは理解が一発でできず、解説をジーノとレオンにお願いすることにした。


『このパーティーはブルックベア侯爵の誕生日会ですよね。その会場でなにか事件が起こるとでも?』

『ああ。最近、貴族個人の主催のパーティーを装った、少年少女の闇オークションが流行っているらしい。司法長官のブルックベア侯爵のことだからないとは思うが、念のため行ってくれないか』

『なるほどですね。とはいえ、俺たちはたった二人しかいません。どこまでの成果を上げればよろしいでしょうか?』

『いや、とくになにもしなくていい。ただ警備のついでに不自然な人の流れがないか、それだけ見ておけ』

『わかりました』


 二人のやりとりでようやく理解できたパメラ。わかりましたと頷いた……――






 のはいいのだが、昨晩、夕食をとり終えたパメラはいきなりレオンに連れだされ、かなり立派な建物に連れこまれた。


『ここは?』

『俺の実家だ。明日の朝に戻ってくるよりも、少し遅いが今日中に戻ってきた方が、明日の準備が楽になる』


“準備が楽になる”?

 レオンの言っている意味がよくわからなかった。たしかジーノ団長は、警備のついでにと言っていなかったか。だから準備をする必要なんてないのではと思ったのだが、硬いこと言うなと先に言われてしまう。


『こっちのほうが守りやすい。それにお前も気になるだろ?』


 意地悪っぽい笑みを浮かべたレオンはそう言って、パメラの手を引っ張って家の中に連れこまれた。

 やはりロレンツォ王太子の親戚なだけあって、先日介抱してもらった官舎とは違って、かなり立派なものだった。それに建物の中には何人もの侍女やメイドたちがいて、パメラは彼女たちの手によって頭から足まで磨かれる。

 ひと皮剥かれたパメラは、すべてが高級なもので揃ってる部屋でソワソワしていた。

 さすがに落ち着かなかったので、しばらくベッドの中でモゾモゾしていたが、気づいたら朝になっていた。どうやらいつの間にか寝ていたらしい。

 前日に世話をしてくれた侍女やメイドたちによってもう一度磨かれ、“レオンの指示”に従って可愛らしいドレスを着させられる。


『レオン様がこちらを着せろとお命じになられたので』


 最初、隊服ごときに何人もの侍女やメイドたちはいらないと思って着替えを断ったのだが、レオンの指示があったらしく、あれよこれよという間に違うものを着替えさせられてしまった。

 先日着せられたもの以上に肌触りがよく、そのうえパメラが好きな柄が散りばめられている。どこで知ったのかわからないが、自分のことをよくわかってもらっているとすごく嬉しくなった。

 玄関でレオンと落ちあったとき、なにかパメラの対応がまずかったのか、一瞬、ムッとした雰囲気を出したが、いつも通りに戻った。彼も《アザミ祭り》で見たときよりもなぜか気合が入っているようで、いつもの鬣のような髪もひときわきっちりと整えてあった。

 すでに玄関の外に待っていた馬車に乗りこんだ二人は、ブルックベア侯爵の屋敷へ向かった。




「でも、なんだかすごく緊張します」

「俺もだ」

「そうなんですか?」


 屋敷のホールの中にはすでに着飾った若い男女が揃っている。その中にはパメラの幼馴染、カーティアの姿もあった。

 隣にはかつての婚約者、シリックス侯爵の姿もあった。

 どう声をかければいいかわからなかったパメラだが、先にカーティアに声をかけられた。


「あれ、パメラ。今日は騎士団は大丈夫なの……って、隣はもしかして“酒好きの獅子公爵”?」

「あはは、ちょっといろいろあってね」


 声をかけられたパメラはどう答えるか迷ったが、あまり隠しごとが得意ではないので、レオンを頼ることにした。


「そのとおりだ。個人的(・・・)にブルックベア侯爵に招待された。彼女も休日だというから、一緒に来ないかと誘ったんだ」


 さすがはこういうときの対応にレオンは慣れていた。

 さりげなく彼女をそっと引き寄せながら、嫌味なく言ってのけてしまう。その根性をパメラは身につけたかった。

 しかし、カーティアは首を傾げ、へぇ、そうなんですかとなにか含みを持たせた言い方をする。


「どういう意味だ?」


 彼女の仕草に警戒感をあらわにしたレオン。

 ムッとした表情でカーティアを問いつめると、無邪気な表情でレオンに近づいてきた彼女。

 レオンにまで見捨てられたくない。そう思ってギュッと手に力を込めたが、離されるどころか、レオンも彼女を強く握ってくれた。


「なんで彼女を選んだんですか? パメラは世間知らずで粗相をするかもしれませんよ。彼女を選ぶくらいならば、私のようなちゃんと礼儀作法を知ってるほうが安心するんじゃありませんか?」


 公衆の面前だろうとも、婚約者がいる身だろうとも、気にもせずにレオンにしだれかかろうとするカーティアは、まるでお伽噺のお姫様のようだ。

 けれども、パメラにとっては普段のカーティアの言葉とは思えず、それに惑わされるレオンではなかった。


「パメラは世間知らずなんかじゃない。それどころか、俺よりもしっかりとしている。もしかすると、社交界のことを指しているのならば、それも間違ってるな。彼女はすごく努力家で、今はできなくてもいずれは慣れてくるから問題ない」


 そう言って、婚約者のほうを鋭い視線で見やるレオン。

 早く自分の婚約者を連れていけと言わん態度に、シリックス侯爵も渋々であったが動いた。

 なんでダメなの!?とカーティアは叫ぶが、レオンは一切取り合わない。それどころか、さらに冷たい言葉で突き放す。


「君は相変わらず(・・・・・)だな。自分が中心に回ってると勘違いしているみたいだが、周りはそうじゃないといつになったら気づくんだ?」


 レオンが自分の思うとおりに動かないカーティアはなんでなんでなんで!?と喚くが、彼は気にも留めない。パメラは事の成り行きに呆然としていたが、続けて放たれたレオンの言葉に目をひん剥いた。


「もしかして、それとも君は自分が奪った(・・・)婚約者を捨てようとするつもりなのか?」


 シリックス侯爵がパメラを捨てたのは彼の心変わりによるものだが、それを仕向けたのは、幼馴染のカーティアだったのだ。

 婚約者の本性に気づいたシリックス侯爵、そして、彼らのゴシップに食いついた参加者たちはカーティアとパメラ、レオンを代わる代わる見る。


「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなのよ!? なんで、私がパメラに負けなきゃなんないのよ! 王宮女官の話だって最初はパメラに来たけど、どうしてもってお父様に頼みこんで回してもらったのよ! 王宮女官になれば、いい男性と結婚できるってみんな言うから、私もできると思ったのに、あとから来たパメラのほうが先に婚約したのよ! だから私が奪ってやったのに! なんなのよ、あんたは!」


 シリックス侯爵の中でジタバタと喚くカーティアに、だれも同情することはなかった。

 幼馴染の変貌ぶりになにも言えないパメラ。やられたこと自体は決していいことではないが、まさか自分のせいでこうなってしまったことを考えると、ここに来なかったほうがよかったのではないかとさえ思ってしまう。

 しかし、それを否定するように、レオンは冷たく言い放つ。


「なにもパメラが気に病むことじゃない。間違ったのはお前だ、カーティア・ベラモンド。少なくとも現段階ではパメラに直接的な危害は加えてないから、王立騎士団としては手を出すことはない。しかし、今後、もし手を出すようならば、個人的にきっちりと落とし前はつけさせてもらう。それはシリックス侯爵、君もだ。きちんと監督しろ」


 レオンがロレンツォ王太子の親戚だということは有名な話だから、たとえ侯爵だろうと彼に逆らえば首が吹き飛ぶどころの話じゃないと理解できたのだろう。コクコクと頷くだけのシリックス侯爵と、敵に回してはいけない人を敵にしてしまったと青ざめたカーティア。

 参加していた貴族たちも、レオンの気迫に押し黙るほかなかった。


「これはこれはなにか不手際でもありましたかな?」


 カーティアが起こした騒動によって凍りついた大広間に、どこかのんびりとした声が響く。

 このパーティーの主催者、ブルックベア侯爵が登場したのだ。四十絡みの侯爵はレオンやシリックス侯爵とは違って貫禄のある紳士だった。


「お騒がせして大変申し訳ありません。私の恋人(・・)にくだらないことを言ってくる無礼者がいまして、ほんの少し忠告をしていただけです」


 この場で起きたことの顛末は、すべてほかの参加者たちが目撃している。

 レオンの言葉にほとんどの参加者たちも軽く頷く。それを見たブルックベア侯爵は周囲を見回し、ほほうと髭を触りながら頷いた。

 それ以上にパメラは、レオンが『自分の恋人』だという言葉の真意を探りたかった。それは仮初のものなのか、それとも本当のものなのか。仮に前者ならば、それはそれでよかった。そもそも自分は子爵令嬢。王太子と親戚である彼には到底及ばない身分だ。しかし、もし後者ならば……――――


「ま、よい。ここは王宮ではないから、くれぐれもあまり騒ぎが大きくならなければ構わない」


 侯爵の言葉に少し不穏な雰囲気を醸しだしたレオンだったが、一瞬でその気配を消し、一礼した。

 パメラも彼に倣い一礼したが、再び顔を上げったときにはすでにシリックス侯爵とカーティアの姿は見えなかった。

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