第1話 最高の肉体
神にやられてから何年経っただろう。
街の道端に捨てられた俺は 最初はジョセフという男に拾われた。
ジョセフの家族は元気な息子が一人と ヘレンという昔酒場で踊り子をしていたと言う赤毛で胸に大きな果実を実らせたジョセフとは不釣り合いの妻と暮らしていた。
あいつはかなり無理をして店に何日も通い、少しずつ心を開かせてようやく今の奥さんを口説き落としたらしい。
けど 拾った腕輪を自分の物にしてしまう行為はよろしくない。
落とし物として 届けていればよかったんだ。
「あなた お仕事頑張ってね。チュ!」
「ママ~ ずるいよぉ~」
「あはは 子供の前だぞ。ヘレンはまったく ははは」
「じゃぁ あなた子供で。今度ね ふふふ」
「じゃぁ いってきます!」
家族に見送られて いるのは俺。
仕事から帰って毎晩、ヘレンと楽しく生活を営んでいるのは俺なんだ。
だけど ジョセフじゃない俺はつじつまが徐々に会わなくなってきたのでジョセフに肉体を返して俺は別の肉体に引っ越しをすることにした。
「なあ ヘレン 俺の腕輪だけど ちょっと ハメてみてみたくないか?」
「あなたが肌身離さず付けている大切な腕輪よね。いいわよ。ハメてみたいわ」
男物のアクセサリーを女性には装備させるのは難しいし、あとでわかった事だけど自分の意思で腕輪を装備したいと思わなければ 相手の体は乗っとれないという厄介な品物だった。
話がそれたが ヘレンになってしまえば引っ越しの8割は完了したのも同然。
ジョセフの体の時に狙っていた男に プレゼントと称して俺を渡せば次のデートまでにはちゃんと俺を装備してくれる。
人妻に手を出そうなんて変な気を起こさなければ この男もこんな事にはならなかったのに。。。
こうして俺は 都合が悪くなるまで何回も何回も人の人生を借りながら生きた。
まるで鳥のカッコウように。
ただ 俺に乗っ取られたその後 不幸になると言うことは今のところないはずだ。
なにせ 乗っ取った体は100%以上の力を発揮することが出来るようになる。
自分でもすごい能力だと思う。
まあ 体の方が悲鳴を上げるようなことがあっても、腕輪である俺自身は 痛くも痒くもないというのがカラクリなんだけどね。
そのおかげで ジョセフの仕事も成功したし、ヘレンも妊娠したらしい。夢が叶ってよかったじゃないか。
そして今の俺はこうなっている
「ギガ!ファイアボルト!! 勇者さま早くこちらへ・・」
ギュルル・・
俺はビッツという魔導士として勇者パーティーに参加し 名をはせるべく戦っていた。
人の体を仮暮らしする生活も 飽きてきたし自分の人生が欲しくなった。
ちなみに この体だけどビッツはタダで俺に体をくれた いいヤツなんだ。
「えぇぇぇん えぇぇぇん お父さん・・ お母さん・・」
「可哀そうに。。魔物に両親を殺されたんだね。同乗するよ。だけど君には魔力があるようだね。復習したいか?君の様に両親を殺された人たちの仇を打ちたくないか? そうか・・そうか・・ ではいい方法を教えてあげよう。へっへへ」
俺は 腕輪の事をすべて正直に話したんだ。
100%以上の力が発揮できるようになることを話すと自分から腕輪が欲しいと言ってきたんだ。
悪魔の契約なんて 結ばなければよかったのに・・・。
「うっ・・ すまないが 仲間を助けに行ってはもらえないだろうか?」
「いいえ 今 ヒールを唱えます。ハイポーションもありますし 回復させてみんなのところへ向かいましょう」
勇者は 鍛錬によって極限まで鍛え抜かれたその手のひらで俺の手を掴んだ。
青い瞳の先には いつも希望が灯り相手に勇気を与える。
そんな むしろ魅了すると言ってもいいくらいにまっすぐな瞳は今は下を向いている。
「遺跡の呪いで俺は死ぬ・・ 肉体は滅びたりしないが精神が気力を失いやがて死ぬ呪い。いずれは廃人のようになってしまうことだろう。どういう意味かお前なら理解できるだろ?」
「呪いですか?初めて聞いた呪いです」
「だが 呪いを受けながらとは言え、あの数のモンスターを切り抜けることが出来たのは ビッツよ。お前がいてくれたからだ。そこで頼みがある。ビッツ!いいや 腕輪の主よ。 その腕輪を俺にハメさせてくれないか!!」
精霊の加護のある勇者には なんとなく俺の正体について予想がつていたようだ。
長い戦いだった事もあり カマをいくつもかけて調べていたのかもしれない。
じゃぁ なぜ俺を殺さなかった?
お世辞にも 俺は善人じゃない。
あの神に腕輪に変えられてしまってから神を憎んだ事もあったけど
怒りなんて感情は 年月を超えて長くは続かない。
だから 心の隙間を埋めるために いろんなことをやってきた俺をなぜ殺さなかった?
「あはは ビッツ。お前は俺の仲間だぁ。それに魔王を倒してくれるなら俺の体くらい貰ってくれてかまわんよ。魔王を倒したら結婚でもして幸せになれよ・・」
勇者は 腕輪を俺から外すと自分の腕にはめた。
俺の事なんて 認めなければよかったのに・・。
廃人になったって いつかは呪いを解く方法が見つかるかもしれないじゃないか!!