騎士団長視点 その1
村へと先に戻っていた俺の耳に入った情報は、チセイが行方不明という聞きたくないものだった。幸いなのは死んだ姿は見ていないというもの。だが確率的に考えれば、可能性は零に等しいようなもの、それでも智慧を助ける為に行動方針を立てる。
「それで、デッドソローの襲撃を受けて撤退したと……分かった王都から騎士団の援軍を呼べ。それと、冒険者ギルドに警戒を呼びかけておけ」
「はっ!了解しました」指示を出して、騎士の1人を王都へと送り出す。A級のデッドソローともあれば、流石に俺が動かなければならないだろう。
まずは、チセイが行方不明になった森の奥地へと向かいデッドソローを探し、チセイを連れて帰る。だが、出発しようとした俺は勇者に付けていた騎士の1人に止められた。
「お待ちください、団長が今いなくなればデッドソローから村を守ることができません!」
「しかしな」
「聞けば、行方不明になったのは『災厄の器』でしょう⁉︎何故、助けに行くのです!」
それを聞いて、俺はチセイが持つ職業が仇になったと悟る。チセイの持つ職業は厄介の元になると思っている奴は多い、それでもチセイには罪はない。故に、一つの言葉を使う
「お前に、謹慎処分を下す」
「な、何故、私が⁉︎」「連れて行け」
誰もが黙り込み、俺の一挙手一挙動を見守る状態になった。そこに勇者パーティーのシンジが場所を伝えたいと申し出てきた。俺としては場所を知る人間の手は借りたいのは山々だが、勇者パーティーを壊滅させかねないA級の化け物との戦いには連れていきたくはなかった。
「残念だが」「でも、アイツは親友なんだ!お願いです、俺をいかせてください」
「場所まで、案内しろ。但し、デッドソローが出たら付き添いの騎士がお前を連れ帰る。いいな?」「はっ!」「ありがとうございます‼︎」
「行くぞ」そう言うと俺は全力で、森の奥へと進んだ。
だが、静かな森の奥地へと足を踏み入れると異変に気付いた。
森があり得ないほど静かなのだ。普段からいるスライムの姿やホーンラビットの姿すら見えない。まるで、何かに怯え身を守る為に姿を隠しているような様子だ。
だが、デッドソローならば周囲に霧が発生する。おかしな事態に疑問が浮かぶが、先へと進むしかなかった。
森の奥地へと進むこと20分。背後には、息を切らしたギルとシンジがいた。それを見て、全力で走り過ぎたと気付いたが止まることはできない。仕方なく、1人で進もうと考えたときだった。
周囲には、いつの間にか霧が出ていた。背後にいるギルに目配せをして、シンジを連れて行かせる。「ちょっ⁉︎、団長さんチセイを!」「すまない」
2人の気配が遠ざかるが、肝心のデッドソローは姿を見せない。
「どういうことだ?」
怪しく感じた俺は、もう少し奥へと踏み込んだ。
そこで見たのは、圧倒的な力との邂逅だった。それは西方の鬼人に伝わる、具足と呼ばれる鎧をつけ、同じく鬼人に伝わる刀と呼ばれる、剣を持っていた。
そこまでなら、このような場所にいる変わった存在で片がつく。だがデッドソローを相手にしながら、子供と戯れるような余裕でA級の魔物を相手にしているそれは、只者ではない。
「《流星》」その言葉の直後に、閃光がデッドソローの頭蓋を蒸発させると、デッドソローは力を失い崩れ落ちた。
すると、人で言えば胸の辺りだろうか、そこの骨が砕けると中から何かが、デッドソローの本体が飛び出した。
だが、その存在はそれをも読んでいたらしく、飛び出した直後にまた同じ閃光に貫かれデッドソローの本体らしいものは消え、霧も晴れた。閃光に貫かれた消えた場所には魔石が落ちていた。
あまりの光景に呆然としてしまったが、チセイの行方を知っている可能性があるその存在に問いかけずにはいられなかった。
「ま、待ってくれ頼む、黒髪の少年を知らないか⁉︎」
「……」呼び止められた何者かが振り返るがその顔を認識することは出来なかった。そして、こちらを見ると興味を失ったとばかりに姿を消した。
「っ!くそ、チセイ生きていてくれよ」
だが、この後チセイを探すことは叶わなかった。