突き離し
「握りが甘いぞ!」
「はいっ!」
実戦訓練が始まり今日で3日目。最初の頃は覚束なかった短剣も徐々に使いこなせるようになり、訓練はどんどん進んだ。あれから夢は見なくなったが毎日同じ時間に起きてアルド団長に短剣を教えて貰った。それでも、真司の様なスキル持ちとはまだ打ち合えなかった。
「よし、チセイお疲れ様」「ありがとうございます!」「はは、構わんさ、勇者様には教えられないからな」「え、アルド団長でもですか?その理由は、あったりするんですか?」正直に言って、アルド団長の教え方は俺が使えなかった短剣を完璧に使えるようにできるぐらい上手い。わからないところがあれば実演して、詳しく解説もしてくれる。その団長が勇者である優輝に教えられないのは腑に落ちなかった。
「教えるのは、スキル持ちがやった方が良いからな」「そういうのもあるんですか?」「んー、言ってなかったがそういう教導用って言われるスキルもある」
そうんなことを話して、今日の朝の特訓は終わった。最近は、趣味についても話し合う程には団長とよく話している。もっとも、こうして話し合えるのは朝ぐらい。団長は勇者である優輝を守り成長させる為にここにいる。だから、訓練中は中々話すことができない。
正直言って、兄なんていなかった俺にとってアルド団長は歳の離れた兄のような存在になりつつある。まあ、そんな風に思って過ごしていると、あっという間に滞在最後の日になってしまった。
訓練開始から2週間目、もはや朝の訓練が日常となったこの日の訓練終わりにアルド団長が今日はいつもと違う訓練になると伝えてくれた。
普段より、奥地へと進み森の奥での訓練は、普段より少し強くなったスライムとの戦いだった。これには、他のみんなは苦戦していた。俺はアルド団長が仕込んでくれた短剣投げで遠くからスライムの核を破壊して倒している。
と、言ったものの本当のところを言うと、未来君の職業のおかげで普段と同じように楽に倒せている。
未来君の職業は《指揮者》戦闘系の職業ではないが、戦況を把握したり、今起こしたい行動への最も良い効率を計算できたりと、とても便利なものだった。
だが便利すぎてこの中では、俺が一番弱い能力で他のメンバーの役に立てるわけもなく最早、個人での戦いをして他のメンバーの邪魔にならないようにする数合わせ要員と化していた。
「そろそろ終わりにするぞ!」アルド団長が呼びかけ、パーティーの皆んなが帰還の用意を始めたその時だった。
周りの空気が一気に冷たく、重く変わった。そして周りの温度が下がったことが原因か、薄く霧が出てきた。
「み、皆固まれ!何か来るぞ!」
勇者パーティーの護衛についいる騎士団員のギルさんが声をかけて皆んなを呼び寄せた。そして全員がちょうど固まったときだった。アルド団長が先に戻ってしまったのが痛かった。
森の奥から現れた巨大な動く骸骨、いわばがしゃどくろのような魔物だった。そいつを見た瞬間、一瞬で「勝てない」と察知する、体が死を覚悟する。そんな恐怖を身を覆った。
「まさか、デットソロー!?そんな馬鹿な、こんな魔物はこの森にはいないはずだぞ!?」
「デットソロー!?」
ギルさん曰くデットソローとはSからFまである魔物のランク中2番目に高いAランクの魔物とのことだった。もちろんそんな魔物に勝てる訳もない、そんな中で俺たちが選ぶべき手段は一つ…
「全員!退却!!」
ギルさんの声が響く同時にデッドソローはその大きな手を振りおろし、攻撃を始めた。
「くっ、シャインボール!」
攻撃を必死に避け、勇輝が返しに光の弾の攻撃魔法を当てると、属性的に有利だったらしく少し警戒したのか避けていた、が、すぐにデッドソローは動き出し、次の攻撃を繰り出した。
「っ!前園さん危ない!」
「え?」
赤坂君がそう叫び、咄嗟に前園さんの方を向けば、デッドソローが今度は腕を横から振り、木を倒して当てようとしていた。そんな彼女を見て俺は……
「っ!」
「!?」
気づけば前園さんを突き飛ばしていた。これが噂に聞く体が勝手に動くと言うやつかと動いた後思った。
木が倒れ、俺の足は木の下に少し挟まってしまった。幸いなことにすぐ抜けたのだが、足を挫いてしまい、引率のもう1人の騎士団員に支えてもらった。
そしてもう一度デッドソローが横に手を振り払った。かろうじて避けれる距離かとそう思った直後………
「…え?」
体が後ろに後退した。
一瞬、理解できなかった、支えてくれている騎士団員に突き飛ばされたこと、そしてそれが分かった瞬間、体に激痛が走った。デッドソローに殴られたと今度は身体が吹き飛ばされる感覚の中ですぐにわかった。
「智慧!!」
突き飛ばしたことを他の騎士団員を誰も見ていない反応を見るに、俺はただ攻撃を喰らってしまっただけに見えているようだった。
そして、デッドソローが今度は突き飛ばした騎士団員を狙って腕を振り下げた。
「ひっ」
その騎士団員は炎魔法のスキルを持っていたようで、咄嗟に火炎弾をデッドソローの肋骨に当てた。すると構造的な弱点だったのか骨の破片が少しだけ散らばった。
「今だ、逃げるぞ!!」
「でも、木城が!」
(俺は、見捨てられるのか…)
朦朧とした意識の中、見捨てられた絶望感を感じながら俺はそう感じた。いつから僕は人生の道を踏み外した、いや外されたのだろう。
あの召喚された日が無ければ、あのまま普通の高校生として青春を過ごして、中々彼女できないって嘆いて、結局、好きな人が出来て結婚して、それで……いつかは普通に病気とか寿命で死ぬと思っていた。
もしあの日に仮病でも使って学校を休んでいたら、そうでなくとも学校を遅刻してホームルームに間に合わないでいたら、そもそも僕に何か才能さえあれば。
一度考え出すと自分にとって都合の良い思いが出てきて止まらない。
きっと僕の人生は、あの日に変わってしまって、その時に神様が『君には、人とは違う人生を歩んでもらう』とそう決定付けたのだろう。
「「〜〜〜〜〜!!!」」
パーティーのみんなの声がどんどん小さくなっていく、それと同時に体の痛みも引いてくる。そして、徐々に意識も薄闇に包まれて消えていく。
ああ、日本人として悪い人生としか言えないこの人生、もっといい人生を、この次はファンタジーなんて関係ない世界で