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八盟の英雄  作者: 高麗豆腐
第1章 召喚と神と王国
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プロローグ

 いつから僕は人生の道を踏み外した、いや外されたのだろう。


 あの日が無ければ、あのまま普通の高校生として青春を過ごして、中々彼女できないって嘆いて、結局、好きな人が出来て結婚して、それで……いつかは普通に病気とか寿命で死ぬと思っていた。


 もしあの日に仮病でも使って学校を休んでいたら、そうでなくとも学校を遅刻してホームルームに間に合わないでいたら、そもそも僕に才能さえあれば。


 一度考え出すと自分にとって都合の良い思いが出てきて止まらない。


 きっと僕の人生は、あの日に変わってしまって、その時に神様が『君には、人とは違う人生を歩んでもらう』とそう決定付けたのだろう。


「「〜〜〜〜〜!!!」」




 みんなの声がどんどん小さくなっていく、それと同時に体の痛みも引いてくる。そして、徐々に意識も薄闇に包まれて消えていく。



 ああ、日本人として悪い人生としか言えないこの人生、もっといい人生を、この次はファンタジーなんて関係ない世界で


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ピピピピピ


 「ん、煩い」



 小煩い目覚ましの音を聞き、朝起きたばかりの重たい体を起こす。


 今日は月曜日。月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。


 それでも学校に遅れないように余裕を持って起きて、前日に用意したカバンを持って親に挨拶して学校に向かう。


 学校に着き、周りの友達に挨拶をして席に着く。そしていつも通り先生が来てホームルームが始まる。


 いつもならそれで授業の用意をする僅かな合間の時間があった。


 席を立ち、カバンから荷物を取り出そうとしてふと、下を見たところで……


 凍りついた

 

 床には昨日まで影も形も無かった幾何学模様と円環が存在していた。それに気付いた周りの生徒も同じように凍りついて、"それ"を俗に言う魔法陣らしきものを注視していた。これが良くなかったのかもしれない。それは、音もなく一気に教室全てに広がると、輝きを放った。


 そこでようやく異常事態に気付いた生徒が悲鳴を上げた。未だ教室にいた一条先生が声を上げる「急いで、教室の外に‼︎」同時に魔法陣の輝きが爆発し、その光がどんどん視界を包み込んだ。


 数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻すが、そこには既に誰もいなかった。


 そんな教室に一人、遅刻してきた生徒が入ってくる。だがそこには既に誰もいない。蹴倒された椅子に、開かれたままの水筒、散乱するカバンやリュック、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消したような様子。


 慌てた生徒が職員室に駆け込み、この事件が知られることになる。この事件は、朝の高校で起きた集団神隠しとして、大いに学校を騒がせるのだが、それはまた別の話。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 僕が目を覚ますと、周りに広がっていたのは煌びやかな装飾に包まれた空間だった。


 壁や床は大理石の様な白亜の石で作られていて、中世の騎士鎧を着た兵士恐らく騎士がずらっと並んでいた。


 自分の周りを見ると、そこにはクラスメイトの皆がいて、まだ気絶している人、すでに起きて同じように周りを見渡している人と分かれていた。


 次に目についたのはそんな僕たちを玉座のような椅子に座りながらこちらを見つめている冠を被った法衣を着た老人。

 

 こんな光景を見て何故か僕は一瞬で状況を理解していた。


 ああ、これ異世界召喚系だと。


 

 「異世界より参られた勇者殿達よ!よくぞおいでなられた!皆様の事を私が国を代表して歓迎いたします!


 多分、というか絶対王様でだろう人は、僕たちが全員起きてからそう言い放った。


 それを聞いて全体から湧き上がる様々な声の数々。不安がる声に怒りっぽい声、怯えた声もありつつ、少しだけ興奮したような声が聞こえた。


 かくいう僕はというと……正直言って怖かった。人によるだろうけど、ここなら普通のオタクとかには喜ぶ状況とは思うけど、僕は生憎、そういうのではないし戦闘とかそういうのには到底向いていないであろう性格をしている。何より、傷つけることも、傷つくことも嫌だ。


 そんな中こんなイレギュラーもイレギュラーに巻き込まれたとあれば怖い。……まぁ少しもワクワクしてないといえば嘘になるが。


 「ちょっと待ってください!異世界ってなんなんですか!?そんな嘘ついたってダメですよ!?これは立派な誘拐ですからね!」


 僕たちの悲鳴とか泣き声とかざわついた声の中で、女性の声が響いた。声の主は僕たちの担任の一条先生だとすぐにわかった。一条先生の見た目は茶髪にロング、女性にしては高い170よりちょっと低いくらいの身長。


 先生は僕たちの間を通り、王様(仮)の前に出て言い放った。


 「私たちを一体どうするつもりなんですか?誘拐にしては拘束も何もしてないなんて、しっかりと説明してください!」


 先生の声で泣き声とかが少し収まり僅かに静かになった中、王様(仮)ゆっくりと瞬きをしてから口を開いた。


 「勿論です、説明はしっかりとさせていただきます。しかし、異世界から招いた勇者様達をこの謁見の間で立ったままというのは憚られますので、」


 「ここで結構です」


 王様(仮)の誘いをキッパリと断って先生はまたキッと王様(仮)を睨みつけた。


 それを見た王様(仮)は立ちあがろうとしていた腰をもう一度玉座に戻し語り始めた。


 「……わかりました。勇者様方が警戒するのも当然の事、ならば此処で話させていただきましょう」


 

 僕の新しい世界は、此処から始まった。

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