第7章 第6話 1年生
今まではただぼんやりとすごい人だと思ってきた。そういうことが当たり前にできる、元からかんなとは違う特別な人間だと。何も知らないから、そう思ってしまっていた。
でも、大矢卯月は。
「それそこでいいよー。うん、あーそれは瑠璃に訊いて!」
「あーそうだねー……。ごめん、あたしが間違ってた! 悪いけどやり直そう!」
「うわぁぁぁぁ買い忘れた! すぐ必要だよね。うん、ごめんだけど買ってきて!」
喫茶店の配置決め。このクラスの絶対的王者である大矢卯月が指示を出しているが、意外と抜けているところが多い。むしろそこを黄冬瑠璃や大雪晦花たちにフォローしてもらっている。
ただ生意気で偉そうなだけの女じゃない。ちゃんと、リーダーしている。
おそらくずっとそうだったのだろう。それに今さら気づくなんて。かんなは本当、何も見えていなかった。
「大矢さん、かんな何すればいい?」
こんな姿を見させられたらかんなもやるしかない。嫌だけど、貢献するしかない。
「んー、人手は割と足りてるよね……。じゃあ瑠璃と練習してきて」
「練習?」
教室の隅でひっそりとカップに目を落としている黄冬瑠璃。近づいてみると、
「……ラテアート?」
「あ、天平さん。どう? かっこいいでしょ」
ラテアート……とは言ったものの全然できていない。ただクリームがカップの中で積まれているだけだ。
「去年ねー、お兄さんがラテアート作ってくれたの。それがかっこよくてかっこよくて……。卯月ちゃんの家行った時も優しくしてくれてね、すっごいかっこよかったの。惚れちゃったよねー……かっこよかったもん」
「はぁ……そうですか」
なんでこいついきなり大矢主水の話しだしたんだ。だいたいあの陰キャ別にかっこよくないでしょ目腐ってんのか。ていうかたぶん過去が変わったのそれが原因だなー……。単純な奴め。
「あ、でも天平さんお兄さんのこと嫌いなんだっけ?」
「嫌い……嫌いだよ? うん普通に嫌い……」
「そっかわかんないかー……。そうだよねー。お兄さんのいいとこって他人にはわからないっていうか不器用っていうか……。そこがまたかわいいんだけどねー」
……なんだこの後方彼女面。こいつそもそも大矢主水に好意伝わってないぞ。ただ単になぜか懐かれてるとしか思われてないのに。
「……まぁそう思うんならそれでいいんじゃない? それで満足できるなら充分だと思うよ」
「……なにそれ。なんでマウントとろうとしてるの?」
「や、別にー?」
そんなこんなで。かんなの文化祭準備は始まった。




