第7章 第3話 イキリ陰キャ
「主水さん、私は……!」
「よぉ大矢」
尚も食い下がってくるリルを黙らせたのは、話しかけてきた奴らの存在。
「……おはよう」
林間学校で散々俺を殴ってきた、同じクラスの名前も知らない2人だ。
「お前なに髪とか染めてんの?」
「プッ、似合ってねぇ~!」
……お前らに言われたくないけどな。それに染めたって言ってもほとんど黒に近い茶色。こいつらの派手な髪色に比べたらだいぶマシだ。
「おい、なに無視してんだよ」
話すこともないので黙っていると、その内の1人が肩を殴ってきた。ふざけてか本気かはわからない。痛みなんてほとんど感じなかったからだ。
「お前やっぱむかつくわ。ちょっとこっち来い」
当然何も感じなかったので無視していると、2人に路地裏の方へ引きずられ、
「おらっ!」
頬を殴られ、散らばっているゴミ袋の上に転がった。やはり痛みはないが、口の中に血の味が広がった。慣れてくるとそんなに不快でもないが。
「おらどうした! 女がいねぇと何もできねぇのかよ!?」
「……主水さん、少し待っててください。私が出ます」
(いやいい。それじゃあ根本的な解決にならない)
実体化するために路地裏の奥へ行こうとするリルを引き止める。
(こいつらは俺が何もしないって。何もできないってたかをくくってるんだ。間違ってないけど、少し古いよな)
それは少し前の話だ。今の俺は、違う。
「……先仕掛けてきたのはお前らだぞ」
こいつらは、邪魔だ。宍戸さんといる時にこんなのに絡まれたら、またダサいところを見せてしまう。
もう昔の俺とは違うんだ。俺は、これから変わるんだ。
30%なら当たっても骨折程度で済むだろう。それなら大丈夫だ。動きづらくなるだけで、動けるしたいして痛くもない。
「30%……!」
「君たち、そこで何やってるんだっ!
2人の脚を狙っていると、そこに1人の警官が走ってきた。
「やべ、逃げるぞ!」
暴力を振るうくせに逮捕されるのが嫌なのか、2人は路地裏を走り去っていく。
「君、大丈夫?」
追いかけてやろうかとも思ったが、さすがにそれでは正当防衛とは言えないだろう。
「……はい。ありがとうございます」
警官に頭を下げ、口から垂れた血を拭う。
「……まったく。ああいう奴らは消えないな……」
小さくぼやく警官にもう一度頭を下げ、通学路に戻る。あいつらの骨を折るのはまた別の機会だ。だが暦祭開催までには始末しておかないと……。
「……主水さん。あなた今、人に暴力を振ろうとしましたね」
計画を立てていると、またリルが妨害してきた。今のを見ていなかったのか。
(俺は被害者だぞ。やられたらやり返す。普通のことだろ)
「ええそうですね普通のことです。でもあなたは! そんな人じゃなかったっ! そんなことができる人じゃなかったから私は……!」
(じゃあ俺が黙って殴られてればよかったのか?)
リルの顔も見ずにそう言う。
(俺が今まで反撃しなかったのは、できなかったからだ。できるようになったらそりゃするさ。痛いのは嫌だからな)
「違いますっ! あなたは今、自分を見失っているっ! 私はちゃんと、わかってますから……!」
リルの顔なんて、見れない。
(……ごめん)
わかってるよ。俺が間違ってることくらい。
でもどうしても思ってしまうんだ。普通の人間になりたいって。
たぶん普通人は、殴られたら殴り返す。だから俺は……。
(ごめん……)
謝ることしか、できない。
もう自分でも、何をするのが正しいのかが、わからない。




