第5章 第6話 脅迫~プロローグ~
〇神無
2019年 4月2日(火) 07:38
「神無様」
(なあに? ハロウちゃん)
通い慣れた通学路を新しい制服で歩いていると、隣を歩くハロウちゃんが話しかけてきたので心の中で返事をする。ハロウちゃんは天使体で、かんなと大矢主水以外には見えない。口に出さないよう意識してはいるけど、ふとした拍子に普通に話しかけてしまいそうで少し怖い。
「昨日の出来事は少々やりすぎたので、卒業論文には書かないことにしましたの。なので本日からが物語の始まり。これを読んだ方が勘違いしないように自己紹介してくださいまし」
(そうだねぇ。天使に選ばれようが、大矢主水じゃあ主役にはなりえない。ちゃあんと説明してあげないとねぇ)
そう。あんなクズはかんなのかませにしかならない。
(はじめまして。この物語の主人公、天平神無です。この論文は、かんなが仇である大矢主水をぶっ殺すまでのお話です。これから1週間かけてじっくり苦しませるのでお楽しみにっ)
さて。自己紹介も済んだところで。
(ハロウちゃん、例のものはぁ?)
「ちゃんと集めましたわ。ただあまり大っぴらにはしないでくださいまし。本来ここまでの協力をするわけにはいかないのですから」
(わかってるってぇ。ばれなきゃいいんでしょぉ?)
「その通りですわ」
ハロウちゃんに用意してもらったのは物ではない。人間を形成する最も大事な情報。過去だ。
誰しも明かされたくない過去はある。そしてその過去は、明かされたくない故に手に入りづらい。
天使にとっては関係ないけれど。
「大矢主水と親しい人間の過去を集めましたわ。ですが天国にばれないようにするため、収集経路が少々特殊。大矢様が変える前の情報になりますわ」
(関係ないよ、過去なんだから。あのゴミが人の過去の悩みを解決できるわけないし、この情報はかなり使える)
この情報を使い、大矢主水の友人を脅迫する。ばらされたくなければ大矢主水に関わるなとでも言えば、おとなしく従ってくれただろう。まさかそれでも大矢主水なんかと一緒にいたいなんて言う人間もいないだろうし。
これで大矢主水は絶望する。なんせ友だちがいなくなるってことは、自分の死に直結するんだから。誰にも頼れず、誰にも相談できず。死の恐怖に怯えながら足掻く。想像するだけで笑みが零れる。
「楽しくなってきたね、ハロウちゃん」
「そうですわね。リル様の絶望の顔を見るのが楽しみですわ」
ここからだ。ここで大矢主水を殺し、かんなの過去を変えて生き返る。
同情なんてしない。それだけのことを大矢主水はしたのだから。
何が覚えておけよだ。なぜあんな目をお前がしている。
お前にその資格はない。お前が全部、悪いんだろうが。
クソ陰キャが調子に乗りやがって。身の程をわからせてやる。
そう。かんなこそが、正しいんだ。