第6章 第38話 命の使い方
〇主水
2019年 8月25日(日) 17:12
「ごめん……主水。わたしのせいで……」
「いやいいよ。悪いのは俺の運動神経だ。まさかここまで流されるとはな……」
木の陰に座り、芽依と慰め合う。確かにどちらが悪いかと訊かれたら、たぶん芽依に過失があるのだろう。
数時間前に行われた川遊び。ずっと降っていた雨がいよいよ本当に危険な水準まで達し、引き上げようとした際のことだ。
芽依が足を滑らせて川に落ちた。周りには誰もいなかった。だから俺が助けに飛び込んだ。そして、かなりの距離を流された。
洗い直してみれば当然のことをしただけ。どちらも悪くなんてない。だから今は、
「これからどうするかだな……」
台風の影響で川の流れは速く、荒く、激しく、俺たちを押し流した。途中で芽依に追いついたまではよかったが、流されている最中に何度も岩に当たり、共に満身創痍。特に芽依は脚を強くぶつけたようで、ここまで歩くのだって精一杯だった。
俺もかなり脚が痛い。陸に近づくために脚をばたつかせた時からなぜだか燃えるように熱い。我慢はできるが、たぶんこれは俺だからだ。芽依がいなかったらたぶん歩くという選択肢はとらなかった。
「このままここに……ってわけにもいかないよね」
「ああ……。たぶん、無理だ」
水に濡れ、雨が降り、気温も低い。この状態で助けを待っていたら、たぶんその間に低体温症で死んでしまう。
「主水……。その上着、脱いだ方がいいよ。体温が奪われちゃう」
「ああ……そうだな」
その通りなのだが、これを脱ぐわけにはいかない。
もしもの時のために内ポケットに忍ばせているゲイ・ボルグ。最悪の状況を考えた時、これがどうしても必要になる。
AEDの代用。あるいは腕辺りを犠牲にした発火。
前者は確実性は低いが、後者なら。どこか洞窟を見つけたら迷わず実行するつもりだ。
「とりあえずおぶって宿舎を目指す。胸は許してくれ」
上着を腰に巻き、立ち上がる。正直言って、この状況だ。俺は死んでも構わない。芽依だけは。芽依だけは死なせられない。
リルは力のほとんどを失っている。生き返らせることができたとしても1人が限界だろう。
だが芽依1人が死んでしまった場合。ギリギリのリルが力を使ってくれるかはわからない。
ハロウをアテにするのもリスキーだ。スポーツ大会の時生き返らせてくれたが、自分の命を預けられるほどの信頼はない。元々俺を殺すつもりなんだから。
だから死ぬとしたら俺だ。命の限りを使って山を登っていく。
「主水……ごめんね」
再び謝る芽依に何も返さず、俺は歩き始めた。




