第6章 第36話 天変地異
「いきなり呼び出されて何かと思えば……決闘とはテンションが上がりますね」
ハロウちゃんがリルさんを連れ出したのは、川辺から離れた森の中。上にも下にも崖があり、人目につきにくい場所だ。
「わたくしスポーツというものに興味を持ちまして。ルールに縛られた中での勝負。中々斬新ですわよね」
「天国にはスポーツなんてありませんからね。そもそも娯楽がないって話ですが。……にしても意外です。ハロウさんが人間界の文化に興味を持つなんて」
「わたくしも同意ですわ。でも当然でしょう? スポーツならばリル様に勝つことができるのですから」
「確かに。身体能力だけでは決まらないおもしろさがありますよね。で、種目は?」
リルさんがワクワクした顔で訊ねると、ハロウちゃんは無から二本の細剣を作り出した。先端こそ丸まっているが、その輝きは本物を超える美麗さを放っている。
「フェンシング、というものをご存知でしょう? 相手に剣を突き刺せれば勝ち。非常にシンプルですわ」
「フェンシングはそんな単純じゃありません! いいですか、フェンシングの起源は……」
「そこまでは興味ありませんわ。これは大矢様のゲイ・ボルグを参考に創り出した剣。能力も同じく先端に当てることでの雷撃。これを使った勝負ですことよ」
「おぉっ! 元ネタ的に『クルージン』と名付けましょうっ!」
「……まぁ別に、名前なんてどうでもいいのですが。これを相手に突き付けた方の勝利。雷撃も天使がいたっ! ってなる程度に抑えてありますわ」
「天使のいたっ! って人間なら気絶しますよ……。当然、今の私も」
そう言いながらもリルさんは楽しそうに剣を振るって舞っている。負ける気は一切ないのだろう。
実際のフェンシングは知らないが、このルールだと単純な身体能力が物を言いそうな気もする。いくらリルさんが弱体化しているとはいえ、おそらく。今も尚リルさんの方が上だ。
「ではさっそく、はじめましょうか」
「よーい、ドン! ですっ!」
リルさんが元気よく号令をした瞬間。リルさんの姿は消えていて。
「……ほんと、ズルですわ」
ハロウちゃんのお腹を、リルさんの細剣が貫いていた。弱体化していてもこの速度。ハロウちゃんもかんなも一切反応できなかった。だが、
「ズルと言えばあなたこそでしょう。実体化してくださいよ」
貫いてはいても、感電はしていない。実体化しているリルさんは、天使体のハロウちゃんに触れられないからだ。
「そんなルール、定めた覚えなくってよっ!」
「っ」
至近距離からの突きを軽々と避けたリルさんは一度距離をとる。
「……まいりましたね。水着作るのに天使パワー使っちゃってもうほとんど残ってないんですよ」
綺麗すぎる身体をさらに際立たせるリルさんの白いビキニがまぶしい。おそらく今のリルさんに天使化する力は残っていない。対してハロウちゃんは自由自在。天使化したまま一方的に嬲り殺すことができる。
これがハロウちゃんの勝ち筋。何をしても絶対にリルさんに勝てなかったハロウちゃんの、最後の維持。こんなガン有利な状況で負けたらハロウちゃんは……。
「いたっ!」
一度瞬きをしただろうか。いや、しなかったかもしれない。
だが一瞬目の前を激しい光が覆い、次の瞬間にはハロウちゃんの身体は地面に倒れていて。
「部分天使化……必修科目にするですよね」
腕だけを天使化させることにより、最小限の力で勝利を収めたリルさんが苦しそうな顔で息を吐いていた。
「ほんと……ズルですわ」
かんなですらズルだと思うルール設定。嫌いなはずの人間界の文化の研究。
それを持ってしても、リルさんには勝てなかった。
そうまでして勝ちたかったリルさんに、ハロウちゃんは負けた。
「では私、泳いできますのでっ!」
「ちょっと待ってよ、リルさん」
そんなの認められない。どんな努力をしても敵わない相手がいるなんて、認めてたまるか。だから。
「第2ラウンド、行こうか」
かんなは倒れているハロウちゃんからクルージンを奪い、その剣先をリルさんに向けた。
「それはいいのですが……私、神無さんに干渉できないんですよ。さすがにそれでは勝ち目が……」
「いいよ別に。リルさんがかんなを攻撃しても……」
噴火が起きた。地震が起こった。ような、気がした。
「つまり、主水さんを傷つけたあなたに復讐をしてもいいということですね?」
リルさんの迫力が、天変地異にも負けないほどに迸っているんだ。
これに、ハロウちゃんは勝とうとしたんだ。すごいな……かんななら絶対あきらめてる。
でも今は。
「ハロウちゃん、見ててよ。これがかんなが作る新世界だよっ!」
「私は主水さんほど甘くないので……二度と主水さんに近づけなくなるくらいボッコボコにしてあげますっ!」




