第6章 第34話 虐げる二人 2
(おーくんとこ行きたいなぁ……。後ろから驚かせてそのまま押し倒して……。ふふ、【R-18】【R-18】【R-18】……)
こんにゃくがなくなりすることがなくなったかんなは、月長水菜が見える木の後ろに隠れて一度深呼吸する。今からやることはそれなりに悪いことだ。でも月長水菜自体犯罪行為に及ぼうとしているからまぁ罪悪感は薄い。
(にしても退屈だなぁ……。夜の森を怖がる年齢でもないし、真剣におーくんを……)
「っ」
月長水菜が怖い系大丈夫なことは心を読めることからわかっていた。だがそれは幽霊なんていないと当たり前に思っているから。
いたら、普通に怖いでしょ?
「な、なに……?」
月長水菜が周囲をぐるぐると見渡し、後ずさるようにする。そりゃあ風もないのに辺りの木々が急に激しく揺れるとか怖いだろう。
かんながやっていることは、天使の身体能力をフルに使って木の間を高速で駆けているだけ。月長水菜からは暗いに加え、速すぎて何が起きているかわからないだろう。
「ぉ、おーくん……!」
(たすけにいかないと……!)
逃げること。そして逃げ道はわかっていた。大矢主水のところ。守ってもらうのではなく助けに行くというのは意外だったが、結果は変わらない。
「空気砲!」
「ぇっ、な、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ただ月長水菜の横の木の陰から空気を思いっきり殴るだけ。それだけで強烈な風が発生し、月長水菜の身体を吹き飛ばした。
「あぐっ!? ぁ……うぅ……」
月長水菜の身体は、吹き飛ばされた後木に当たって沈んでいく。それなりのダメージだ。しばらくまともに動けないだろう。
イベント同好会の関係性がある以上、かんなが直接接触することはできない。だから後は任せるよ。
「こんばんは、月長先輩」
「う、うーちゃん……!?」
ペアのハロウちゃんから離れ、待機してもらっていた大矢卯月が月長水菜の前に現れた。遠くて暗いが天使の瞳にはくっきり見える。
「うーちゃんここ危ないから逃げ……!」
「ネットで調べただけなんでミスっても許してくださいね」
動けない月長水菜の身体に容赦なく縄を這わせていく大矢卯月。
「ぁ……ぅ……」
「へぇ……案外いい眺めですね。悪くない」
さすがの要領のよさと言うべきか、数分後には見事な亀甲縛りが完成していた。
「だめだようーちゃん……野外なんて……」
「なに期待してんですか気持ち悪い。あたしがやることはこれだけですよ」
そう言って大矢卯月が取り出したのは、ハチミツのチューブ。
「ちょっ……それ、ちがっ! それはレベルが……!」
「当たり前でしょ、復讐なんだから。何倍返しにするに決まってんじゃん」
すぐさま何をするつもりか理解した月長水菜が本気で怯えた顔を見せる。夜の森の中でハチミツを塗られ、放置。地獄絵図になることは間違いない。
「ごめ……ごめんなさい……! スカートのポケットにスマホ入ってるから……! 消していいからお願い……!」
「ロック番号は?」
「0414!」
「おにぃの誕生日じゃんきも……。うわ、しかもフォルダおにぃの写真ばっか……これ盗撮だよね? 犯罪だから」
「そ……れは消さないで……くださいぃ……!」
「まぁ写真は記念にもなるからね。消さないでおいてあげる」
スマホを操作し自分の画像だけ消した大矢卯月は、その後躊躇なくハチミツを月長水菜の頭の上にかけた。
「ひぅ……話が……ちがうよぉ……」
「なんであたしがあんたの言うこと聞かなきゃいけないの? じゃ、またね」
「まっ、まってぇぇぇぇ……!」
必死に叫ぶ月長水菜を木にくくりつけ、大矢卯月は平然とその場から立ち去る。ここは肝試しの場。いくら叫んでも助けが来ることはないだろう。
「……本当にこれでよかったんですの?」
その光景を見ていると、天使体になったハロウちゃんがかんなの隣に現れた。
「まぁあれただのローションだし大丈夫だと思うよ」
「そうではなく……あれで本当に仲良くなれるとでも?」
かんながやっていることは視点を変えればただのいじめハチミツはやりすぎだと言ったのも大矢卯月だし、他人を虐げて悦に浸るタイプではないだろう。
そして何より、大矢主水はこんなことしない。それでも。
「これがかんなのやり方だよ」
かんなにはこんなやり方しか思いつかなかった。思いつかなかったことはできない。だからこれが失敗だったとしても、受け入れるしかない。
だってもうこの時間は、二度とやり直せないのだから。
2019年 8月24日(土) 20:58
「ぁ……ぁ……ぁ……」
あれから約30分後。月長水菜の様子を見に行くと、よほど怖かったのか失神し、白目を剥いて泡を吹いている月長水菜を発見した。
「……ありがとね。あんたのおかげで復讐できた。あんまり気分はよくないけどね」
脅しの材料となる写真を撮りまくりながら大矢卯月は控えめな感謝の言葉を述べる。
「あんたもこんなことやりたくなかったでしょ?」
大矢卯月には悪いが、かんなはそんなに性格がよくない。他人が苦しんでいるのを見るのは気分がいいし、兄にも復讐しようとした。そして大矢卯月と接点を持つことができた。だから。
「……でも、やってよかったと思うよ」
「……そう」
今は。今はこんなことしかできない。それでも、いつかは――。




