第6章 第33話 レッツ肝試し!
2019年 8月24日(土) 20:12
「おーくんみてみてっ、化け猫さんだよ~?」
肝試しの会場である森の中。メイド服に猫耳カチューシャをつけたあざとい月長水菜が、猫の手を作って大矢主水にアピールしていた。
「それでいいんだ……」
肝試しは森の中をペアで歩き、祠に置いてあるお札を拾って帰ってくるというシンプルなもの。生徒会とイベント同好会が脅かし役で、月長水菜自身は大矢主水へのアピールにしか興味がないようだが、それでも明かり一つない森の中では多少の怖さはあるだろう。
「水菜はそれでいいのよ……」
「うわぁっ!?」
背後からの生徒会長さんの登場に、大矢主水が情けない悲鳴を上げる。それもそのはず。白い和服を着た生徒会長さんの顔はボッコボコになっており、素人クオリティを遥かに超えていた。
「どう? メイクがんばったのよ。中々のものでしょ?」
「な、中々っていうか……がんばりすぎ……」
最初こそビビリにビビっていた大矢主水だったが、徐々に落ち着きを取り戻していった。まぁ大矢主水ほど死に近い人間もいないだろうから慣れたのだろう。
「誰もただの肝試しでここまでやるとは思っていないでしょう? そんな舐め腐った連中を、私が最初に出ることで驚かせるのよ。でもずっとこれでいくとただの恐怖だけでしょう? だから後半の水菜たちで中和。この辺りがちょうどよく怖くて、ちょうどよく楽しい肝試しなんじゃないかしら」
「なるほど。だから俺何もしないんだ」
「いいえ。主水はただ立ってるだけで怖い」
「さいですか……」
まぁ確かに陰キャならではの存在感のなさは肝試しにもってこいか。よくあるよくある。班活動とかでお昼ご飯でお店に入った時「5人……あれ? 6人いる。なんだいるなら言ってよー!」ってやつだ。いることに気づかれないから悪口言われ放題だしね。はは、死ね。
「天平は……なに?」
「こんにゃくです。釣り竿で貼っつけます」
「陰キャあるあるだな」
「それ伝わるのかんなだけですよ? 死ね」
ここで言う陰キャあるあるとは、リア充共がコスプレとかをしてる中、やることのない陰キャはこういうありきたりな奴をやらされるというやつだ。劇の木の役ってなんだかんだお調子者がやるんだよね。かんなたちの役目は台詞一つない村人Dなんですよ。
「じゃあそろそろ始まるわ。みんな、呪い殺すわよっ!」
「おー……?」
よくわからない生徒会長さんの掛け声があり、全員が持ち場につく。イベント同好会的には最初が生徒会長さん、2番手が大矢主水。3番手がかんな、4番手が月長水菜になる。かんなの目的を考えるとかなりありがたい配置だ。
「うえぇ……。ごめんね、リルちゃん……わたしこういうの苦手で……」
「大丈夫ですよ! 私が守ったげますっ!」
まず最初に現れたのは、ビビり過ぎてへっぴり腰になっている翡翠芽依と、袖をつままれながら堂々と歩いているリルさんペア。
「主水こわかったね……」
「そうですね! さすがの私も主水先輩にはびっくりしましたっ!」
大矢主水……。まぁいいや。とにかくこんにゃくを翡翠芽依に……。
「ふっ」
「!?」
こ、こんにゃくが弾け飛んだ……! リルさんが目にも止まらぬ速度で腕を振り抜いたんだ……!
「ど、どうしたの……?」
「虫がいたので払いましたっ!」
「あ、ありがとう……」
なんかかっこいいなあの天使……。ていうかこれでかんなできることなくなっちゃったんだけど。
「すごいねリルちゃん……怖いの平気なんだ……。幽霊とかさ、いたらと思うと……」
「うーん……。こういうところに幽霊はあまりいませんね。本来人間は死ぬと人型の魂になるんです。それを天使が天国か地獄に運ぶので幽霊は現れません。ただそれは人間が死を受け入れていないから元の形を保ってるんですね。死を望んでいる魂は人の形を保てず、霧散するんです。こうなると天使が運ぶのは一苦労。特別な事情がない限りは放置しますね。それがいわゆる幽霊というもので、こういう人里離れた場所にはあまりいないんですよ。自殺者がいた場合は別ですが、それをするには宿舎が近すぎですからね。大丈夫ですよ」
すっごい天使事情話してる……。当然翡翠芽依は当然信じていないようだが、危ういっちゃ危ういなぁ。
さて、こんにゃくがなくなった以上かんなにできることはない。いや、やることが絞られたと言った方がいいか。
月長水菜に復讐する。そして友だちを作る。それが今のかんなにできることだ。




