第6章 第32話 変身願望 3
〇神無
2019年 8月24日(土) 12:38
「……そのメイド服はなに?」
「うっさい……」
本日のイベント、バーベキュー。外で肉やら野菜やらを楽しそうに焼いているリア充共を眺めていると、昨日も見た恥ずかしい姿の大矢卯月がかんなの方に歩いてきた。
「そんなことより復讐、手伝ってくれるんでしょ。あたしをこんな目に遭わせた月長水菜に」
「あぁあの人にやられたんだ……」
大矢卯月は月長水菜にはめられ……うんハメられ、弱みとなる写真を撮られてしまっている。これを消すのが大前提。できればやり返せるのがベストだ。
「……協力してもらう側が言うのはどうかと思うけどさ、あんまりひどいことはしたくないんだ。……一応兄貴の友だちだし」
この兄妹は……。全く似てないくせに、こういうところはそっくりだ。なんかむかつく。
「卯月ちゃ~ん、こっちおいで~」
大矢卯月の甘さにイラだちを覚えていると、遠くから月長水菜が大矢卯月を呼んでいた。
「……なに、ですか?」
「敬語使えてえらいね~。せっかくだし卯月ちゃんのことあだ名で呼びたいんだ~。うーちゃんとか! そこで、はいっ!」
遠くでの出来事だが、天使の目にははっきりと見える。真っ白のうさ耳を大矢卯月の頭に着けたのが。
「わ~かわいい~っ! しばらく語尾ぴょんね~」
「誰が……!」
「ん~? いいのかな~?」
「くっ……うっ……うぅっ……! わかりました、ぴょん……!」
「よくできました~。うーちゃんかわいいね~」
あの大矢卯月が。あんな奴に、いいようにやられている。その事実が何よりもむかつく。
「前言撤回っ! あいつぶっ殺すっ!」
「同意見。とりあえず作戦考えてきた」
怒り心頭の様子で戻ってきた大矢卯月に、これからの計画を話す。
「この後肝試しあるでしょ?」
「ああ、台風近づいてるとかで明日の予定が今日にずれたんだっけ?」
「うん。イベント同好会は驚かす側。つまり1人になる機会がある。そこを狙う」
「具体的には?」
「まだ考えてないけど大矢さんはペアの子から離れてくれればいいよ。こっちでなんとかする」
「ふーん。ずいぶんそっちの負担が大きいね」
大矢卯月の瞳が。カーストトップのそれに変わる。嫌な目だ。すごく、馬鹿にされている気がする。
「あんた何がしたいの? あたしとそんな仲良くないよね」
ああ怖い。格下を見下すその視線が。でも。
(友だちがほしいのかな? まぁ別にどっちでもいいけど)
大矢卯月の心の声が聞こえる。ずっとこうだったんじゃないだろうか。
こっちが勝手に馬鹿にされていると思っていただけで。リア充共はかんなのことを、何とも思っていない。
知ろうと思わなかったから知らなかっただけ。知られたいと思われなかったから知らなかっただけで。
本当は、ずっと。
「……大矢さんのお兄さんってさ、本当はあんなんじゃないよね」
遠くでリルさんのために肉を焼き。翡翠芽依のことを横目で見て。月長水菜にあーんさせられ。十六夜碧と話し。黄冬瑠璃の対応に困っている大矢主水を見て、言う。
「言い方は悪いけどさ、大矢せんぱいって陰キャでしょ? あんな、友だちに囲まれるような人間じゃないと思うんだよ。でも、変わった。かんなもあんな風に、変わりたいと思ったの」
本音を語ることは怖い。大矢卯月的には兄を罵倒されたと思うだろう。嫌われる。嫌われたら一人だ。でもたぶん大矢主水は。ずっと本音で友だちと語っている。
どうして大矢主水は……あんなに変われたんだ。
「別におにぃはそんなに変わってないよ」
しかしそんな想いを無視するかのように、大矢卯月は本音で答えた。
「ずっと陰キャで、やることなすこと全部だめで、それは今も変わってない」
「でも、大矢主水は……」
「だからおにぃが変わったんじゃない。みんなが変わったんだよ」
かつての翡翠芽依は周りの顔色を窺うギャルだった。
かつての月長水菜は犯罪者に縛られていた。
かつての十六夜碧はただのボッチだった。
きっと、リルさんも。かつては違っていたのだろう。
「たぶんおにぃは関わろうとしただけだと思うよ。それだけでみんなが変わった。……たぶんあんたも、そうなんじゃないの?」
かつてのかんなは。大矢主水に逆恨みし、殺すことしか考えられなかった。それが正しいと思っていた。
でも大矢主水と出会い。かんなは。
「……そっちの方が、すごいじゃん」
変わって、しまった。
何でもできる神様から。少しの変化を望むただの人間へと。
変えられてしまっていた。




