第6章 第30話 縛り 後編
2019年 8月23日(金) 22:13
「はい、おつかれ~。きもちよかったね~?」
「ぁっ……ぁっ……」
すごいものを見てしまった……。すごかった……。すごい、あれだった……。
「ごめんね~? ちょっとやりすぎちゃった~。卯月ちゃんかわいいんだもん~。おーくんと同じだね。硬い殻で覆ってるけど、中身はとろとろ。一度剥いちゃえば後はすっごい脆かったね~。ま~おーくんは比べものにならないけどさ~。ほんっとおーくん強情で……」
「ぁ……ぁぅ……」
楽しそうにペラペラ喋る月長水菜と、縛られた状態でピクピクと痙攣する大矢卯月。大矢卯月の顔は見えないが、意思の感じられない呻き声だけが聞こえてくる。
「そうそう。写真撮っておかないとね~。はいパシャリ。あは~。みてみて~この情けない顔。こんなの晒せないよね~?」
脅し。1年生のトップに君臨し続けている大矢卯月への脅迫だ。
「じゃあまたね~? これに懲りたら、ちゃぁ~んと水菜ちゃんと仲良くすること。将来の家族なんだしね~? あ、お風呂入った方がいいよ~?」
大矢卯月を縛っていた縄を解き、月長水菜が部屋を後にする。見つかりそうだったので天井のヘリを掴み回避。そして部屋に残っている大矢卯月の様子を見ることにした。
「ぁ……へ、あぁ……」
「うーわ……」
いつも強気に相手を睨み、小さい身体で存在感を露わにし続けてきた大矢卯月。
今の彼女にその輝きはなく。焦点の合わない瞳、投げ出された舌、垂れ流される涎。
リア充の中のリア充。それが大矢卯月だったはずだ。だったはずなのに。
「なに……やってんだよ……」
「ぁ……ぅあ……」
涙が浮かんだ瞳がかんなを捉える。だがまともに喋れず、指先をピクピクと動かすことしかできない。そんな状態なら。
「だっさ」
かんなの方が、上の気がする。
「なにその格好。メイド服で? アヘって? 何もできない。悔しくないの? こんな陰キャに罵倒されて」
「ぁ……あぁ……?」
敵意がかんなに向く。でも所詮は敵意。お兄さんの、殺意ほどではない。
「かんなは悔しいよ。むかつくけど……嫌いだけど。でも絶対的なトップだったはずのあんたが。あんなに無様に、やられるなんて」
励ましたいわけじゃない。嫌いなのは事実だ。大矢卯月が遠因で死ぬことになったのだから。
でも、大矢主水だったら。
「かんなが守ってあげる」
自分を殺した相手でさえも、許してしまうのだろう。だから今、友だちに囲まれているのだろう。あんな風には、たぶん絶対なれないだろうけど。
「一緒に復讐しよう」
得意な方向で、近づくことならできる。
そうしたらかんなにも。友だちが、できるだろうか。




