第6章 第28話 縛り 前編
〇神無
2019年 8月23日(金) 20:41
スポーツ大会が終わり、お風呂に入り、夕食もとい宴会。とは言ってもかんなたちは高校生。お酒はないのでただのなんちゃってパーティーに過ぎない。
だがさすがは陽キャ集団。ナチュラルに楽しむ力だけはすさまじい。騒ぐだけ騒ぎ、飽きたら部屋に帰ってしまった。
だから今残っているのは、後片付けに残ったイベント同好会と、その周辺人物。しかし仲いいだけあってそのままお開きにはならず、実質的な二次会のようになってしまっている。
「うぅ……もんどぉ……」
「おおやくん……うぅん……」
いやほんと……二次会。呂律の回らない様子で、翡翠芽依と十六夜碧が大矢主水に張り付いていた。ちなみにスポーツ大会の罰ゲームの一発芸は、誰かが持ってきたやっすいメイド服を着て6人でダンスするというもの。男共は早々に脱ぎ捨てたが、翡翠芽依、月長水菜、黄冬瑠璃はいまだ恥ずかしい格好をしたままだ。
「はぁ……」
そんな宴会場を俯瞰で見て、一度ため息をつく。そして隣で実体化しているハロウちゃんに気になることを訊ねてみた。
「これ……アルコール入ってるよね」
「入ってますわね。まぁ誰も気づいていないでしょうが」
ドリンクを飲んだ時、味に違和感があった。おそらく誰かが混入させたんだ。まぁ心が読めるので誰が犯人かはわかっている。
「おーくぅん……ちょっとあっちの部屋で休憩しようか~」
(ぇへへ……。好きにしていいって言ったのはおーくん……。おーくんが悪い……。へへ、【R-18】【R-18】【R-18】……!)
犯人は言わずもがな、月長水菜。しかもこの女、これがアルコールだということに気づいていない。どうやらあっち系の薬だと勘違いしているアメを溶かし、それをドリンクに混入させていた。わざとじゃない以上法律的には大丈夫だと思うけど……倫理的にはそれ以下でアウトだ。
「にしても天使の身体にアルコールって効かないんだねぇ」
「人間界の毒程度簡単に分解できますわ」
正直一度酔ってみたかったという願望はあるが……まぁ仕方ない。でも……。
「じゃああれはなに?」
「もんどしゃんからはなれてくだしゃいっ!」
顔を真っ赤にして大矢主水に群がる女子を払っている天使、リルさんを指差して訊ねる。
「あれは……天使の力が相当弱まっているんでしょうね。それでもわたくしより上でしょうが」
「らめっ! もんどしゃんはわたしのれすっ!」
あれ……酔うと独占欲が高まるタイプだ……。
「ねぇもんどしゃん……。もんどしゃんはわらひのれすもんにぇぇ……」
大矢主水の膝の上に座り、背中に手を回して肩にかぷかぷ甘噛みするリルさん。対して大矢主水は、
「リル……リルぅ……」
リルさんの背中に手を回し、胸に顔をうずめて甘えていた。あれも酔っ払っている。気持ち悪いけど……まぁあの生き辛さだと……それくらいさせてあげてもと思ってしまう。
「ねぇ、ハロウちゃん……」
「わたくしはああはなりませんわよ」
「そうじゃなくてさぁ、雑談だよ。今日はずいぶんと楽しそうだったね」
「楽しくありませんわ。人間と身体能力を競っても虚しいだけですもの」
別に。かんなも大矢主水とリルさんの関係のようになりたいとは思っていない。
「ただ……」
ただ。
「今までルールというものは煩わしいものとばかり思っていましたから。少し、新鮮でしたわ」
どうせなら、ハロウちゃんにも。少しは楽しんでほしいと心の隅の方で思っていただけだ。
「縛られた状態での試行錯誤。あれは悪くありませんでしたわ」
ハロウちゃんは今まで、ずっとルールの裏をかこうとしていた。勝つために。時にはルールを破ってきた。
それが許されない状況。弱めなければならない力。きっとハロウちゃんが元いた場所では体験できなかった感覚。
「スポーツ……。機会があれば、もう一度やってみたいですわね」
そう口にしたハロウちゃんの表情は、微笑と呼ぶしかないほどの控えめな笑顔。
それでも出会ってから一番、楽しそうに見えた。
「まぁかんなはスポーツ嫌いだからやるなら一人でやってね」
「一人ではできないのがスポーツでしょう?」
「そうだね……だから」
友だちが、必要だ。ハロウちゃんのためにも、かんなのためにも。
「大矢卯月……黄冬瑠璃……大雪晦花……」
宴会場の隅で寝ているあの3人と。かんなは仲良くならなければならない。




