第6章 第21話 わずかな一歩
宍戸さんと天平の来訪。正直かなり面倒だが、同時に大きなチャンスでもある。
なぜなら天平の隣には、リルと同じ天使がいるからだ。
(ハロウいいところに来た! 俺の怪我治してくれ!)
『はぁ? 嫌ですわ。なぜわたくしがそんなことを……』
今までやったことがなかったが、ハロウとも問題なく心の中の会話ができるようだ。だが当然と言えば当然。反応はよくない。
『わたくしたちの目的は、あなたを殺すこと。助ける義理はありませんことよ』
(そこをなんとか頼む! この場を治めるためにはそれしかないんだって……!)
宍戸さんの隣を通り抜け、天平の横に立ってハロウにお願いする。リルに頼めない以上もうこれしか手がないんだ。
(頼む、あとでころ……)
「桜花ちゃんストップっ!」
水菜の叫びが、突如轟いた。
「落ち着いて! 生徒会長でしょっ!?」
「知らないのよ生徒会なんてっ! 放しなさい水菜! 私の後輩を傷つける奴は絶対に許さないっ!」
どういう、ことだ。さっきまで感情のままに暴れていた水菜が引き止めている。普段の冷静な顔を捨て、怒りに囚われた顔をした宍戸さんを。
「よくも、主水を――!」
宍戸さんが、俺のために怒ってくれている。
(ハロウ、頼む。俺が止めないといけないんだ)
『だから嫌だと言って……』
「ハロウちゃん、いいよ」
怒号と焦りに包まれた空間に、一つ。つぶやきが漏れる。
「大矢主水を、治してあげて」
誰よりも俺を殺したいであろう天平が、小さくつぶやいた。
「宍戸さん!」
「止めないで主水っ! 私があなたをまも――!」
「ドッキリ、大成功~!」
俺にしては珍しい。というかたぶん初めて出すふざけた口調に、宍戸さんと水菜の視線がこちらを向いた。
「実はさっきの怪我、全部マジックなんです。宴会芸の練習をしてたんですよ」
ハロウに治してもらい、綺麗になった身体を二人に見せる。苦しい言い訳だが、きっと大丈夫だろう。
「なんだ……そうだったのね。ごめんなさい、ひどいことをしようとして」
よし、めちゃくちゃわかりやすくホッとしている。やっぱりクールなのは顔だけ。基本属性はただの馬鹿だ。
「んん……? んーーーー。まぁ……おーくんが無事ならいっか」
水菜も俺の頬をペチペチと触り、とりあえず考えることを放棄したようだ。こちらもある種単純で助かる。
「主水、会議の時間を30分遅らせるわよ」
「あーはいわかりました」
さすがにこの場に残り続けるわけにはいかないので、風呂の道具を手に取り宍戸さんの後ろをついていく。
「それにしても本当に焦ったわ……」
「ね~。水菜ちゃんほんとに殺すとこだったよ~」
よし、とりあえずこの二人は元通り。だが一人、明らかに普段とは違う行動をした奴がいる。
「……どういうことだよ、天平。なんで俺を治した? いや助かったからありがとうなんだけど……」
「別に。あなたを助けたつもりはありません」
小声で会話する天平は。あくまでも前だけを見て、答える。
「ただ、あなたならこうするでしょう?」
……天平にどんな心境の変化があったのかはわからない。でも一つ。天平は普通の人間だということはわかっている。
やばい奴に自己保身という考えは存在しない。そして普通の奴は、何よりも自己保身を優先する。
天平が何の考えもなく俺を助けるわけがない。きっと天平なりにメリットがあったから助けたのだろう。
たぶん天平は、友だちがほしかった。誰かと仲良くなりたかった。
だから俺を助けた。今現在俺のために怒ってくれる友だちがいる俺を真似て。
それが愚かな行為だとは思わない。友だちがほしいなんて、陰キャの極みである俺でさえ思うことだ。
だから行動に起こせた天平に、俺は感服するしかなかった。




