第6章 第18話 インターバル
〇主水
2019年 8月22日(木) 21:12
「カブトにクワガタハチトンボ~!」
なんかリルが変な歌を歌っているが、気にせず夜の森を歩いていく。リルと約束した通り、虫を捕る罠を仕掛けるためだ。そしてもう一人。
「ねぇ、あ、あそこ、人の顔見えない……?」
俺の服の袖を掴み、ビクビク震える芽依も共に来ていた。
「なんでわたしも誘ったの……?」
「いやリルが暴走したら一人ぼっちになるだろ……? 夜の森で一人とか耐えられない……死ぬ……」
「死ぬなら一人で死んでよぉ!」
もちろん冗談だろうが、中々心にクる台詞だ。死にたくなってきた。
「ていうか虫! 光に集まってないっ!?」
「懐中電灯消すわけにもいかないだろうが!」
「主水さん見てくださいあれ! うおおおおおおおおっ!」
「待ってリルさん置いてかないでっ!」
やばい。案の定テンションが上がったリルが一人突っ走っていった。
「主水ぉ……どうしよ……」
「とりあえずあれだ……真面目な話しようか……」
「絶対今じゃないぃ……」
芽依が泣き言を言っているが、元々このために芽依を呼んだんだ。
それに、こんな話をすることより怖いものなんてない。
「芽依……ごめん」
「ほんとだよぉ……早く帰ろうよぉ……」
「そうじゃなくて……1年前のことだ」
芽依の震えが一瞬止まり。そしてさっきまでより遥かに速く、小刻みに震え出す。
「俺は芽依にひどいことを言った。芽依は優しいから許してくれたけど……俺はまだ、ちゃんと謝れてない」
「謝ってた……と、思うけどな」
「俺は。まだ謝れてない」
今ここにいる俺は、まだ何も。だから、
「芽依、あの時はごめん。俺が間違っていた」
「そうだね。主水が悪い。でもいいよ、許す」
しかしそう言ってもまだ。芽依の震えは止まらない。
「ただ……。これだけはまだ、返せない」
俺の生徒手帳を持った芽依の手は、依然怯えたままだ。
「まだそれ持ってたのかよ……」
「わたしには、これくらいしかないからね」
夜の森に、芽依の自嘲染みた笑いがこぼれる。
「あのオタサーの姫っぽい子に言われた、気がする」
「天平のことか?」
「そう。あんまりはっきりとは覚えてないけどさ、言われた気がするんだよね。わたしには、何もないって」
その言葉が何を指しているのかはわからない。それでも、
「わたしには……これしかない」
ぎゅっと握りしめられた生徒手帳を見て、たぶんその答えは俺にあるのだと思った。
「わたしは主水が好き。水菜ほど好きじゃないと思うけど、好き。碧ほど付き合いは長くないけど、好き。文ほど強くないけど、好き」
震えは止まらない。それでも止めることなく、芽依は続ける。
「主水は最近1年生とも仲いいよね。ほんと陰キャのくせに……どこまでも遠くに、行っちゃうから」
一瞬言い澱み、それでも言う。
「生徒手帳さえ持ってれば、戻ってきてくれるでしょ?」
芽依は待つと言ってくれた。同時に、ずっとではないとも。
「……そうだな」
俺もそろそろ答えを出さなければならない。
芽依と水菜。2人に告白されている現状に、答えを。




