第6章 第13話 青春の続き
2019年 8月21日(水) 14:12
「それじゃあ今から散策に向かうわよ。遅れないよう注意して」
美味しくも不味くもない炒飯を食べ終わり、初日のイベント。山の散策が始まった。
林間学校はまぁ、言ってしまえば遊びでしかない。一応後日林間学校で学んだこととかをまとめて提出するそうだが、そんなものはおまけにも満たない。
だから異様に自由時間が多く、付近ならば誰にも何も言わず出歩くことができる。そこで迷わないよう道を教えるのがこの散策だ。特に初めてここに訪れる卯月たち1年生たちには大事なイベントだろう。
「ほら、行くぞ」
「兄貴うざい。命令しないで」
陽キャの習性からか後ろに溜まろうとする卯月たちを連れ、列の前の方を歩く。これが俺の仕事。卯月や瑠璃さんと仲がいいことから、1年生の面倒を見る担当に選ばれてしまった。今の俺は実質初対面なんだけどな。
それと宍戸さんからの隠しミッション。天平と卯月たちとの仲をとりもってほしいそうだ。林間学校に来ている1年生は、卯月たち3人と天平だけ。陽キャ組の中に陰キャが一人入るのは当然辛くしんどい。そこで俺に何とかしてほしいらしい。いや俺に何ができるんですかね。
「……あれだな、天平……」
「お兄さん! 見てください綺麗な鳥がいますよ!」
「あーほんとだー……」
これはまずい。俺と瑠璃さん。卯月と大雪さんで話し、天平が後ろの方で一人ぼっちになってしまっている。ここで俺が抜けたところで三人組ができるだけで何の発展もない。かと言って間をとりもつことなんか陰キャの俺にできるわけもない。ならば選択肢は一つ。
「リル! ハロウ!」
わざわざ苦手なことをする必要もない。できない奴はできないでいいのだ。がんばっても迷惑かけるだけなんだから。
「リルですよっ!」
「……なんですの?」
後ろからやけにハイテンションなリルと、とてもつまらなそうな顔をしたハロウが歩いてくる。この二人は一応1年生という設定。卯月たちも話しやすいだろうし、天平にはハロウという話し相手ができる。とりあえずはこれでいい。
「逃げたね~?」
「逃走は弱者の勝利条件ですよ水菜さん」
リルたちと入れ替わるように、俺は水菜たちのもとに下がる。第一仲をとりもつのは俺じゃなくてもいいんだ。適材適所というやつだろう。
「あ、見て~。あの川で前遊んだよね~」
水菜が指差す場所にはあの頃と一つも変わらない。綺麗で透き通り、そして俺に二度目の死を与えるところだった川が静かな音を立てて流れていた。
「確か文ちゃんが溺れて~……」
「そうそう。紅と主水が助けてくれたんだよね。あん時はさすがに死んだと思ったわ!」
喉元過ぎれば何とやら。水菜と七海の間では、もうただの少し恥ずかしい笑える思い出に変わっているのだろう。
そして思い出というのはひどく曖昧なものだ。あの時俺は何もできなかった。溺れていた七海を助けようと川に飛び込んだのはいいものの、七海を助けたのは樹来一人で、俺は死にかけていたところを実体化したリルに救ってもらった。
「本当に、なつかしい」
そう小さくつぶやいた芽依と喧嘩していた最中の出来事だった。
「あの時わたしは止めたのに、必死に助けようとして……。まだ全然文と仲良くなかったのにね」
芽依の囁くような小声が俺の後ろから包み込んでくる。しかし俺は振り向けない。
俺は芽依にひどいことを言った。全部俺の言う通りにすればいいと。まだ死ぬのに慣れてなく、生き返るのに必死だったとしても。それは到底許されるものではない。
それでも芽依は俺を許してくれた。俺が俺じゃない間。やり直しの間の時間に、芽依は俺を受け入れてくれていた。
「あの頃からずっと変わらない。主水は誰でも助けちゃうんだよね」
芽依にとってはとっくに消化した、過去の出来事なのだろう。
だが俺にはたった1ヶ月前に起きた、まだ清算できていない罪だ。なぜ許してもらえたのかもわからない。ただ時間だけが過ぎ、俺を好きだと言ってくれた。
改めて考えてみると、一番わからないのがここだ。そして現状、わからないというのが一番の問題だ。
俺はなぜだか誰かから嫌われ、打ち上げに参加できずに死んでしまったのだから。
だからちょうどいい機会なのかもしれない。
「もしわたしが溺れてたとしたら……主水はどうしてた?」
俺はこのやり直しで、芽依との過去にケリをつける。
はい。ハロウちゃん編と見せかけて……裏ヒロインは芽依ちゃんです。
正直この章は前作第1章を読んでいただけないと理解できないかなと思います。なのでよろしければそちらの方もよろしくお願いします……! お手数おかけしてしまい申し訳ありません。
そして今読み返すと……中々恥ずかしいですね。リルちゃんそんなキャラだった?




