第6章 第11話 バスに揺られて 後編
「ところでなんですけど、この林間学校の目的ってなんなんですかぁ?」
「当然あそ……大自然に触れ、新たな価値観を得て今後の学校生活に活かすためよ」
かんなの質問に、前に座る3人の先生の視線を感じそれっぽい答えを用意する生徒会長さん。まぁ先生も遊びだとはわかっているだろうし、つまるところ目的はないということだろう。個人的には不便で汚い自然なんて大嫌いだが、こういうのが好きな人もいるというのは理解できる。
「それで……」
「あれ~? 桜花ちゃんその目隠しなに~?」
別のことも訊ねておこうと思っていると、月長水菜が今さら変顔アイマスクに気づいた。……ん? 普通アイマスクのこと目隠しって言う……?
「いいでしょう? おもしろくて」
「へ~。ちょっと貸して~?」
なぜ今になって興味が湧いたのかはわからないが、月長水菜は楽しそうに笑ってアイマスクをつける。
「おーくんどお~?」
「似合ってる以外が正解の質問って困るよな」
「はいおーくんもつけてみて~?」
「宍戸さん、いいんですか?」
「今さら気にする仲でもないでしょう」
かんなを置いてけぼりにし、独特の雰囲気の会話が横で展開する。……大矢主水もやり直しの結果イベント同好会に入ったはずなのに、なぜだか馴染めている。1ヶ月にも満たない時間でそれだけの経験をしたということだろうか。
「……はい。つけたぞ」
「お~。なんか似合ってる~」
「馬子にも衣裳というやつね」
「これが似合うってのは不安だし、宍戸さんはもっと勉強してください」
そんな会話の末、アイマスクが生徒会長さんの元に戻り、一転さぁ寝るかの雰囲気に包まれた。ほんとこの同好会の空気はわからない……。色々自由過ぎない?
「それで、さっき言ってた私たちに寝てる時間はないってどういうことですかぁ?」
流されそうになっていたので、聞きたかったことを訊ねておく。すると生徒会長さんはアイマスクをつけたまま答える。
「イベント同好会の使命はイベントを盛り上げること。色々打ち合わせもあるし、準備も私たちの仕事。だから寝れる時に寝ていなさいってことよ」
「うへぇ……」
なんだ……。ふざけた名前だし遊びまくるだけの同好会だと思ってたけど……。
「つまり貧乏くじってことか……」
他の人は遊んでいるのに、その時間周りのサポートだなんて、まるで陰キャそのものだ。そういうのは全部取り巻きのオタクにやらせていた身としては勘弁してほしい。
「そうでもないわよ」
遊べないことを悲観していると、生徒会長さんが親指でアイマスクを上げ、鋭い瞳をかんなに向ける。その仕草がやけにかっこよくて、少しドキッとしてしまう。
「時間が経ち、思い出を語れる時になってみると、案外メインイベントよりこういう細かい仕事の方が覚えているものよ。どうしようもないミスだとか、ちょっとした会話とか。そういう必要とされていないものの方が、本当は大事なのかもね。去年の暦祭準備とか、時間に追われていたのに楽しかったものね」
「そうだね~。おーくんの料理とかすごくおいしかった~」
「主水もそうでしょう?」
「まぁ……覚えてますね」
大矢主水に関しては単純につい最近の出来事だから覚えているだけだと思うけど……。
「そういう、ものなんですかね……」
「そういうものよ。こんなバスの中のくだらない会話も、未来の私たちからしたら二度と戻れない大切な宝物。そう考えると色々楽しくなるわよね」
二度と戻れない、か……。かんなと大矢主水は、その物理法則を無視している。それでもやはりこの時間はもうやり直せないわけで。
「……ふーん」
少しだけ、楽しくなってきた。




