第6章 第9話 仁義なき戦い
2019年 8月21日(水) 08:04
(いい? バスの席はカーストの表面化なの)
『はぁ……』
出発時間である朝8時を迎え、バスに乗り込む時間が来たのでハロウちゃんに説明する。
(誰が決めたのかわからないけど、後ろに行けば行くほどカーストは上がっていく。つまり後ろの方の席に座らないと陰キャ確定なんだよ)
『くだらないですわね』
くだらないことなんかわかっている。それでも従わざるを得ないルールだ。狙いは中ごろの後ろ辺り。自主参加イベントなだけあってリア充の数は多く、それ以上を望むのは逆に危険。バスの中で気まずい思いをすることになる。
とりあえず安心なのは、ハロウちゃんという隣に座る人がいるということ。いつもはオタク共がかんなの隣を争った結果、誰も座らなくて先生の隣に座ってたからなぁ……。それに比べたらこの状況はかなりマシだ。
(大矢主水はなに考えてるの?)
かんなは天使と大矢主水の思考を読み取ることはできない。さらっと最初の方に並んでいる大矢主水を見ながらハロウちゃんに訊ねる。
『心の中でバスの席順の重要性をリル様に説いてますわ』
(ぐはっ!)
まさかの同じ思考。くそ……悔しい……!
『でも誰も隣に座る人がいないからいつも隣は空だったとか言ってますわ。神無様の方が上ですわよ』
(それは上なのかなぁ……)
そっちの方がいいと思うけど……。ていうかどうやったら学校行事で一人席とか作れるんだ。一種の才能じゃん。
(まぁでも、バスの席は陰キャじゃなくても気にするか)
バスに乗り込みながら、普段はうるさいのでオフにしてる無差別の思考読みを解除する。すると陽キャ共の思考が流れ込んでくる。
(主水の隣かつリルちゃんの近く……。これしかない……!)
(おーくんおーくんおーくんおーくんおーくんおーくんおーくんおーくんおーくんおーくんおーくん)
(ほんとは前の席がいいけど流されちゃった……。せめて大矢くんの隣に……)
(紅……紅の隣……!)
(リルさん……今度こそは……!)
(隣に座れれば芽依とワンチャン……!)
(女女女女女誰でもいいから女ぁ!)
(月長をおにぃの近くから遠ざける……!)
(できればお兄さんの隣がいいけど……倍率高そうだし後ろとか狙おうかなぁ……)
(なんでみんな静かなんだ?)
うわすごいことになってる……。樹来せんぱい率いるグループと大矢卯月グループの声だとは思うが、誰が誰かわからないくらいに思考が混み合っている。
にしてもここまで大矢主水が中心になってるんだ……。悔しいけどここは認めるしかない。さて、当の大矢主水はというと……。
「リル、窓際に座れよ」
「ありがとうございます」
平然とグループから離れ、前の方の席でリルさんと並んで座っていた。
「な~にやってるのかな~~~っ!」
ようやくそれに気づいた月長水菜が、珍しく大声で大矢主水に非難の声を上げる。
「いや前の席の方が落ち着くから……」
「最初に前の席座ったら後の人に迷惑だよ~??? あとリルちゃんは一度座ったからそこで決定! はいおーくんおいで~~~!」
うわ大人気な……。月長水菜ってこんな人だったんだ……。
ていうか大矢主水も大矢主水だ。バスの席の重要性をわかっているのに前の方に座るなんて……。それじゃあ他の友だちに邪魔されず、リルさんと一緒にいたいってことじゃないか。
「芽依ちゃんリルちゃんのこと好きだよね~? ほら隣空いてるよ~?」
「っ。で、でもリルちゃんわたしのこと嫌いだからさ……! しょうがないから友だちの少ない主水の隣に……!」
「大矢くん……たすけ……」
「月長! それ以上おに……兄貴に近づくなっ!」
「おにいさーん。周りうるさいしこっち来ません?」
「リルさん。よければ隣……」
「あなたは来ないでくださいっ!」
「あ? あんた紅に……!」
あーもうめちゃくちゃだよ。とりあえず巻き込まれないように……と思っていると、
「イベント同好会! あなたたち一応主催者側なんだから前の方よ!」
「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
生徒会長さんの一声により、月長水菜が勝利の雄叫びを上げた。確かこれ生徒会主催のイベントだけど、イベント同好会もサポートしてるんだっけ。じゃあかんなもハロウちゃんの隣には座れないかな……。
「おーくん水菜ちゃんが隣に……」
「なに言ってるの。水菜は私のサポート係でしょう? だから私の隣」
「は?」
るんるんとスキップする月長水菜が、生徒会長さんの一言によって沈む。……ん? 生徒会長さんと月長水菜が隣ってことはつまり……。
「「どうしてこうなった……」」
あろうことか、前の方の席で大矢主水と隣同士に座ることになってしまった。




