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第5章 第2話 虐げられてきた二人

「かんなとハロウちゃんの契約内容は、大矢主水さんを殺すこと。過去であなたさえ死んでくれれば、あなたが原因で死ぬことになる今が変わるというわけです」



 恐ろしいことをさらりと告げ、微笑む天平さん。理屈的には過去で友だちをつくることで、ボッチが遠因で死んだ今を変える俺と同じだが、



「悪いけどリルがいる限り君に俺は殺せない」



 卒業論文を書き切るために、やり直しの最中の死はリルが止めてくれる。天使の力で生き返らせてくれたり、庇ったり。何度もリルには助けられた。



「だからそれが不可能だと言っているんですのよ」



 天平さんの宣言を補足するようにハロウが言う。



「天使見習いの卒業論文作成を、他の天使見習いが邪魔してはならないというルールが存在するのですわ。これはリル様の意思でどうこうできるわけではない、絶対的なルール。つまり、リル様が神無様に干渉することはできないんですのよ」



 リルは天平さんか俺を守れないということか……。でもそれはおかしい。



「その話が本当なら、ハロウがリルの観察対象である俺を殺そうとすることはできないんじゃないのか?」

「認識が違いますわね。リル様の研究は、過去をやり直した場合どうなるのか。つまり、あなたが途中で殺されても問題ないんですのよ。対してこちらは、過去に戻って復讐することができるかどうかという限定的なもの。リル様が大矢様を守れてしまうと、こちらの目的が達成されることはない。これは明確にアウトですわ。殺害可能かをわかりやすく図にするとこうなりますわ」


挿絵(By みてみん)


 ハロウの影が消え、空中に図が描かれる。物体に接触できるが能力が制限される実体化を解き、天使本来の姿に戻ったのだろう。



「限定的にしたせいでやり直せたのは神無様が高校に入学した今回が初。過去に戻れるのも大矢様が過去に戻っている期間のみになりましたが……おかげでこちらの勝利は確実ですわ」



 ハロウの足元に影が戻り、図を形作っていた光が霧散する。だいたい話はわかったよ。でもまだ、わからないことが一つ。



「この計画……全部リルをハメるためだろ? なんでここまで……」

「え? むかつくからに決まっているじゃありませんの」



 きょとんとした顔で。当たり前のことのようにハロウは言う。



「まともな言葉遣いもしないくせに、いつも一人で周りを馬鹿にしたような目をしているいけ好かないエリートが無様に敗れるのが見たかっただけですわ」

「…………」

「それにしても大矢様もかわいそうですこと。リル様に関わったせいで死の恐怖に怯えることになるなんて……。でもご安心を。死後地獄に送られないようわたくしがお口添えをしてさしあげますわ」



 あぁ……そういうことかよ。



「陰キャが虐げられるのはどこも一緒だな」



 小学校でも、中学校でも、高校でも。いつだって俺たちは教室の隅で怯えていた。こんな風に、理不尽な暴力が襲ってくるのが怖くて。



 そして俺もリルも、陰キャだからという理由で倒れていく。一人ぼっちで、誰も助けてくれる人がいないから。



 でも俺は。リルに出会って救われた。クラスメイトと友だちになるより先に。リルが俺の元に来てくれたから、今の俺がある。



 そのリルがボッチのせいで苦しんでいるのなら。



 今度は、俺の番だ。



「俺が絶対にリルを助ける。お前らいじめっ子の好きにはさせない」



 それが今の俺にできることだ。



「驚いた。本気でわたくしたちを倒そうとしていますわ」



 俺の心を読んだハロウが、クスクスと馬鹿にしたように笑う。でも俺たち陰キャだって口には出さないだけで、お前らみたいな奴を馬鹿にしてるんだぞ。



「陰キャが冗談なんて言えるわけないだろ。そこの被害妄想女と違ってな。お前らみたいな奴は、自分より弱い奴に怒りを発散することでしか自分を正当化できないんだ。どうせ俺に殺されたってのも八つ当たりなんだろ?」

「あ?」



 さっきまで楽しそうに笑っていた天平の顔が醜く歪む。それでいい。なんか知らないけどコンクリートに穴を空ける奴に正面からかかっても勝ち目なんかないからな。



「主水さん……下がってください」



 煽られ続けていたリルが、ゆっくりと俺の前に出る。



「確かに私が天平さんを傷つけることはできませんが、そこの万年2位女をぶちのめせば全て解決します」

「でも知り合いなんじゃ……」

「そうですね。でも私の目的はたった一つですから。あまり関係ありません」



 そう言ってリルは一つ笑顔をこちらに向けると、初めて。ハロウに力強く宣言する。



「天使失格だろうが、構いません。これ以上主水さんは死なせない。その邪魔をするのなら、あなたにはここで消えてもらいますっ!」

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