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過去に戻って高校生活をやり直してたら、知らない美少女後輩が俺のことを殺しにきている件。  作者: 松竹梅竹松
第6章 高2夏・林間学校

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第6章 第4話 幸せ 2

2019年 8月20日(火) 23:32




「本当におにぃの部屋でいいの? あたし全然代わるけど」

「いえ、大丈夫です! 慣れているのでっ!」

「は?」



 また面倒なことになった……。寝る場所をどこにするかってだけなのになんでこんな気を揉まなきゃいけないんだ。



「ほらたまに部屋に来てたから……」

「ふーん……。まぁいいや。とにかく明日6時起きだから。寝坊厳禁ね!」



 もう全く騙しきれていないが、とにかく。リルと卯月を見送り、俺はソファーに薄い毛布をかけて寝そべる。



 ようやく就寝場所をリルが俺の部屋、俺がリビングと決めたのはいいが、問題はここからだ。



 別にソファーで寝ることくらい何の苦でもないが、朝6時起きというのが鬼門だ。



 陰キャは夜に強く、朝に弱い。元々寝坊しがちだし、自由登校の高3を直近に経験している俺にとって、早起きほど辛いものはない。下手したら死ぬ方が楽なんじゃないかと思ってしまうくらいに、早起きは無理だ。



 ならばどうするか。決まっている。徹夜だ。俺たち陰キャにとって旅行のバスの中は寝る場所でしかないし、むしろ寝不足の方が効率がいい。



 ただ今度は何をして時間を潰せばいいのかという問題がぶち当たる。録画してあるテレビは既に見たものだし、サブスクも2019年じゃまだ使いやすいとは言い難い。2021年から来た身としてはだが。



 仕方なしに普段見ない深夜番組でも見ていると、階段の方から足音が聞こえた。



「主水さん……」

「……リルか」



 暗くなった部屋にも、その顔はよく見えた。少し恥ずかしそうで、何かを欲しているような、少し紅くなったリルの顔が。



「……一緒に寝ませんか?」




2019年 8月21日(水) 01:12




「だからって一緒にベッドで寝る必要はないよな……。下りようか?」

「いえ。こちらの方が、落ち着きます」



 一人用の狭いベッドに二人で並び、天井を見上げる。いや、上を見ているのは俺だけなのかもしれない。



「……ふふっ。いつも通りなのになんだか新鮮ですね」



 リルの微かな笑い声が耳元で聞こえる。手と手が触れ合った。慌てて引っ込める。



「まぁ……普段リルはベッドにいないからな」

「天使は睡眠なんかなくても自然に疲れがとれますからね。結構退屈なんですよ? 主水さんが寝ている間」


「謝らないぞ。俺悪くないから」

「えー? 素直に謝ってくれればいいのに」



 リルのクスクスという声と、クーラーの稼働音だけが耳に届く。人と話すだけでも辛いのに、密着するなんて地獄でしかないが、それでも不思議と不快ではなかった。



「……寝なくていいのか?」

「どうなんでしょう。眠るのなんて初めてですからね。なんだか少し緊張しちゃいます。でも少し……ぽかぽかして気持ちいいです」


「それが眠いってことだ。眠るのも悪くないぞ。余計なこと考えなくて済む」

「そうですか……。ならやっぱり寝たくないかもですね。もったいないです」



 ふと、横を見てみた。特に意味があったわけではないが、ほんの少し。リルの顔を見たくなったから。



「やっと見てくれた」



 リルは横になって、横を見ていた。ずっと俺の方を。俺だけを、眺めていた。



「……楽しそうだな」

「ええ、楽しいですよ。私にとって今は、とても貴重な時間ですから」



 リルの水晶のような瞳が揺れる。わかっていた。わかっていたが、綺麗だ。とても、美しい。



「ごはんを食べるのも、家族の方と話すのも、お風呂に入るのも、歯磨きをするのも、眠るのも、主水さんと一緒にいるのも。私にはかけがえのない大切な時間です」



 俺の顔をじっくり見つめたリルが微笑みを深める。



「主水さん。私、今幸せなんですよ。ただ上から見ているだけじゃなくて、人間と同じ時間を過ごしている。主水さんと同じ時間を共有している。それだけのことが、私にとって天国なんです」

「……天使の言う天国ほどアテにならない表現はないな」


「照れてます?」

「照れてるな。少し恥ずかしい」



 ふふっ、と。リルが笑った。それを見て、俺も少しうれしくなる。



「……同じだよ」



 リルは天使で、俺は人間だ。それでも、同じなんだ。



「俺も今、幸せだ」

「……そうですか。それはよかった」



 だが幸せな時間は長くは続かない。幸せだからこそ、その幸せを長く享受することはできない。



「……すぅ。……すぅ」



 静かに、リルが、眠りに落ちた。



 リルが眠った以上、俺がここにいる理由はない。早くリビングに戻らないと、家族にリルと一緒に寝ているということがばれてしまうかもしれない。それでも。



「……おやすみ」



 もう少しだけ、この幸せに浸っていたかった。




2019年 8月21日(水) 06:15




「……ん?」



 あー……まずい。なんか感覚的に寝坊している。しかもここ俺の部屋だ。あのまま寝落ちしちゃったのか。



 とにかく早くこの部屋から脱出しないと。誰かに見られたらまためんど……。



「もんどしゃん……」

「リル……!?」



 身体が、動かない。リルに、抱きしめられている。ぎゅぅっ、と。まだ涎を垂らして眠っているリルが、俺を放してくれない。



「リルさん……?」

「朝だぞー! 起きろーっ!」



 ま、ずい! 卯月が部屋の外で騒いでいる。この姿を見られたら……力つよ! 弱っていても天使は天使ってことか。



 いやそんなことより……胸! はだけてるし当たってるし毛布は剥がれてるし……下! ズボン脱げてる! 白!



「リルちゃーん! 開けるよー?」

「リルさんまずいって! 早く起きて!」

「ぅへへ~……。もんどしゃぁん……」



 まずい……! 眠るのが初ってことは起きるのも初ってことでそう簡単には起きな……!



「おにぃ……」

「……おはよう、卯月……」



 ただでさえ低かった俺の地位が、さらに下がった音がした。

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