第6章 第2話 不釣り合い
「いやー、お母様の作るお料理はとても美味ですね! 主水先輩が理想とするのも納得の腕前です! これならいくらでも食べられちゃいますよっ!」
「ほんと!? もっと食べていいからね!」
「お父様も主水先輩のおっしゃっていた通りとてもおもしろくてごはんが進んじゃいます! 幸せな家庭というのはこういうことを言うのですねっ!」
「ははは! そうだママ、確かケーキがあったよな? みんなで食べるか!」
「今さらですが、卯月さんってとてもお綺麗ですね! 主水先輩が常々おっしゃっていますよ! 自分とは不釣り合いなほどによくできた妹さんがいるとっ!」
「そんなことないよー……。そうだ、プリン食べる?」
「とても楽しいですねっ、主水先輩っ!」
「あぁ……そうだな……」
気がつけばリルはうちの家族と一緒に食卓を囲み、俺以上に家族に馴染んでいた。
元々俺以外の家族は完全な陽キャで、リルも人に取り入るのが上手い。なんかもう……ピカピカ眩しすぎて俺にはしんどい。すごく帰りたい。ここが家なのに。
ちなみにリルは人間時には「古布・A・リル」という名前を名乗っており、俺に助けてもらった遠くのお嬢様学校に通う1個下という設定になっている。加えて家に泊まるために、少し複雑な家庭で、よく俺に面倒を見てもらっているという設定まで生えてきた。家族に家の外だとなんか実はいい人みたいな感じになるのすごく勘弁してもらいたい。なんか恥ずかしい。
「ごちそうさまでしたっ!」
両親を褒めちぎり、大量の料理を口に入れることに成功したリルは、律儀に食器を片付けようとするが、少しまずい。
「リル、ここは俺がやっとくからゆっくりしてろよ」
「いえ、お世話になるのですからこれくらいは……」
(そうじゃなくて……洗い物とかできないだろ?)
『確かに……そうですね』
心の中でそう付け加え、リルの分の食器を引き受ける。リルさんタレがこびりついた皿の上にコップとか乗っけられると困るんですよ……。洗い物は効率が全てなんですから。
「リルちゃん、まだ誰も入ってないしお風呂入ってきたら?」
「そう、ですね……! では、いただきます!」
母さんからそう提案されたが、これもまずい。
(リル、風呂の入り方知らないよな?)
『存じ上げないです……!』
天使は人間界の細かな常識に全く詳しくない。風呂に入らなくても身体は常に綺麗だし、食事をする必要もないからだ。
食事については俺が教えたことで少し行儀の悪い子程度にまでなったが、風呂は気を遣って入らないようにしてくれていたので完全な初見。いきなり冷水シャワーを浴びて悲鳴を上げたり、泡を流さないで出てきたりが予想できる。
「卯月、一緒に入ってくれないか?」
「え? あたしはいいけどリルちゃんは……」
「リルってハーフだろ? 向こうでの暮らしが長くて日本のことがよくわかってないんだ」
新たにもう一つ設定を付け加えてしまったが、まぁアリな設定だろう。これであの赤ちゃんみたいな箸の持ち方にも説得力が出るし。
「ん。ならリルちゃん一緒に入ろっか!」
「はい! お願いしますっ!」
褒められて機嫌のいい卯月が、リルを連れて脱衣所に消えていく。それを見送り、母さんの隣に立って洗い物を手伝うことにした。
「それじゃあ俺は部屋に戻ってるよ」
「ごめん……迷惑かけて」
珍しく気を遣ってくれた父さんにきちんと謝罪する。もしかしたら俺が母さんと父さんに会うのは、これで最後かもしれない。俺は天平に殺されてしまうのかもしれないのだから。
だからちゃんと、話をしたかった。こうやって普通に話をできることが特別なことだと、既に知っているから。
俺がやり直す前。元々の世界では、母さんと父さんは海外で事故に巻き込まれ、死んでいた。それを俺の自殺未遂によって防ぎ、ようやく。この家族での食卓を手に入れた。
「それにしてもお前があんな子を捕まえるなんてな。どこまでいったんだ?」
「…………」
でもあれだな。やっぱりうざいものはうざい。それに。
「見ればわかるだろ? 釣り合うわけないって」
性格とか顔もそうだが、それ以前に。俺は人間で、リルは天使だ。
「俺とリルは、そんな関係になれないよ」
どこまで行っても、その事実が変わることはない。
そんなことはとっくにわかっているはずなのに。
口に出して、なぜか、少し。悲しくなった。
昨日は更新できず申し訳ありませんでした! 体調が不良でした!




