第5章 第30話 壮絶☆かんなちゃんの超!悲惨な過去♪♪
〇神無
2019年 4月8日(月) 16:18
別に。過去のことを話したからって殺されなくなるなんて考えていない。ただ、この時間にいられるのは16時23分まで。その残り5分間生き残るためにかんなは語る。
5分間でなるべく体力を回復させ、大矢主水を殺せるようになるまで。耐えることが目的。
心を読めるリルさんにはばれているだろうが、かんなの行動に干渉することはできない。だから純粋に自分が殺したというかんなの死因を知りたい大矢主水の興味を惹くことはできた。
「世の中にはカーストってものがありますよね」
話を延ばすために、ゆっくり遠くから語り始める。
「小規模の階級制度。かんなたち高校生に一番身近なのはクラス内カーストでしょうか」
「おい。いいから本題を話せよ」
「陽キャがカースト上位で、陰キャはカースト下位。あなたのクラスは樹来せんぱいたちが最上層で、あなたは確実に最下層でしたよね」
リルさんとの最後の時間を大事にしたいからか大矢主水が急かしてくるが、無視して話を続ける。
「かんなのクラスの場合、トップは大矢卯月。あなたの妹です。かんなは下の上辺りかな。あなたの言う通りオタサーの姫をやっていたので言うほど不便というわけではなかったですけど、クラス全体で見た場合。かんなはどうしても下の辺りにいた」
そう。トップにいたのが大矢主水の妹だから。かんなは死ぬことになった。
「当然ですけど、カーストトップだからといって誰からも好かれるわけではありません。人なんだから、当たり前に人に嫌われる。大矢卯月の場合、カースト上の下辺り。いわゆる二軍女子から特に嫌われていました」
妹の嫌な話を聞かされて大矢主水の顔が少しムッとした。話を聞いてくれるならこんなにありがたいことはない。
「大矢卯月は割と完璧超人に近いですからね。気が強いくせにいじめはしない。顔がよければ頭もよくて、運動もできる。悪口を言おうとしても少し背が低いとか、近寄りがたくて彼氏がいたことがないとかしょうもないことしかありませんでした。たった一つを除いては」
それこそが、大矢主水。彼女の兄の存在だった。
「陽キャの中の陽キャのくせに、兄は学校でも随一の陰キャ。大矢卯月をトップの座から引きずり落としたい二軍連中にとって、これほど格好の的はいません。だからあいつらは、大矢主水を嵌めようとした」
そう言われても、いまいちピンとはこないのか大矢主水はつまらなそうな顔で話を聞いている。やっぱり覚えていないんだ、こいつは。本当に、むかつく。
「簡単に言うと嘘告白です。告白して全部ウソでしたーってやつ。ほんとくだらないですよね。でも楽しそうでしたよ、あいつらは。自分たちがとてもおもしろく、センスのあることをしていると疑っていない様子でした」
もうここまで言えばわかるだろう。
「つまり、天平が俺に嘘告白をしたってことか」
「ええ。陰キャウケはいいですからね。二軍連中に言われてやりましたよ。正直めんどうでしたが、まぁたいした手間でもないし、何よりかんなも大矢卯月が好きではなかったので。嵌めてやろうとしました」
なんて言ったかはかんなも覚えていない。たぶん「ずっと前から好きでした」とかそんな感じだろう。こんな陰キャならどれだけ適当でもフラれることはないだろうと思っていたから。でも、大矢主水は。
「――かんなを、無視した」
あろうことか後輩からも馬鹿にされるようなクソ陰キャ野郎は。かんなの告白をスルーして帰ったのだ。
「告白を無視するのはよくないことですよ?」
「いやでも嘘告白なんて一年に三回はされるからな……。俺のことを好きになる奴なんていないしそりゃ無視するだろ」
呑気にリルさんと大矢主水が笑い合っている。
「笑いごとじゃ、ないんですよ」
そのせいでかんなは死んだのだから。
「それで? そろそろ本題に入れよ」
「本題も何も、これが全てですよ。陰キャの中の陰キャに無視されるような。さらに下層の人間だと判断されたかんなはいじめに遭うようになった」
ああ腹が立つ。話を引き延ばそうとしていることなんて忘れるほどに。怒りが止まらない。
「いじめと言ってもたいしたことはない。無視されるとか、すれ違う時叩かれるとかその程度。その程度だけど、許せなかった。お前みたいな陰キャのせいで、このかんながいじめられていることが。どうしようもなく、認められなかった」
だからかんなは。
「だからかんなは、自殺した。こんな屈辱を味わい続けるくらいなら死んだ方がマシだと思って。学校の屋上から飛び降りたんです」
それがかんなが、死んだ理由。そして得たんだ。かんなが死ぬ原因になった大矢主水に復讐し、生き返るチャンスを。
「……あなた。なにを言ってるんですか」
一通り語り終えたかんなに。何よりも早く、拳を強く握ったリルさんが言う。
「主水さんはなにも悪くないじゃないですか……! 悪いのは全部、その二軍の方々でしょう!? 復讐するなら彼女たちに……」
「はぁ……」
リルさんはわかっていない。人間のことを、何も。
「カースト上位が下位を虐げるなんて当然のことでしょ?」
それがカーストというものだ。下は決して上に逆らってはならない。これが破られたらカースト制度なんてなくなってしまう。そしてそれは、どんな人間にも不可能なことだ。
人類は身分制度を。カースト制度を作ることで、発展してきた。上が下を搾取し、一部の富裕層だけが得をするのが人間という社会的生物だ。
「だから許せないのは……最下層のくせに。かんなを無視した大矢主水に決まってる」
大矢主水はあろうことか、自分より上の存在に逆らった。だから痛い目を見るのは当然のことだ。それこそが人間のルールなのだから。
「……わかりませんし、わかりたくもないし、わかったようなことを言わないでください。私が見てきた人間たちに、そんなことを言う人間はいませんでした」
「ハッ。隣にいる人間の方がよっぽどひどいと思いますけどね。相手を無視すれば、その子がどんな目に遭うかくらいわかっていたはずなのに。自分かわいさに他人を見捨ててきた非道な人間が大矢主水です。大矢主水はそうやって、多くの人間を苦しめてきた。最期くらい他人のために犠牲になってくださいよ、クソ陰キャ!」
無茶な論調だということはわかっている。それでもこれがかんなの本音で、世界の真実だ。
それにあと少し。あと少ししたら身体の痺れが抜ける。あと1分……。1分持ちこたえられればかんなの勝ち……!
「天平は。何人くらい友だちがいるんだ?」
向こうが話に乗ってくれるのを待っていると、大矢主水が突然関係のない話をし出した。
「まぁ普通に……小中も合わせれば70……100を超えるくらいじゃないですか」
「そうか……。なら、仕方ないな」
大矢主水のゲイ・ボルグを掴む手が震えた。それは力を入れたからか、怒りに震えているかはわからない。
だが確実なのは、大矢主水がかんなを殺そうとしていること。あと少し、時間を稼がないと。
「かんなが――」
「俺が――間違っていた」
カラン、と。
ゲイ・ボルグが、床に落ちた。
「俺が死ぬべきなのかも……しれない」




