第5章 第27話 閃光
2019年 4月8日(月) 16:13
大丈夫。かんなに負けはない。
天使と同等のパワー、タフネス、感覚。断言できるが、戦車でさえ10秒とかからず破壊することができる。まさに神が如き力だ。
対して大矢主水はただの人間。いや、陰キャだしどうせ並の人間より運動能力は劣るだろう。
唯一危惧すべきなのは、右手に構えた警棒。あれの先端に当たると、ハロウちゃんですら動けなくなるほどの電撃が奔る。
だが所詮はそれだけ。赤ちゃんがナイフを持っていようが当たるわけがなく、たいした脅威でもない。
そう。余裕だ。5mほど離れた位置にいる大矢主水なんて一瞬で――
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
その思わず耳を塞ぎたくなるほどの悲痛な悲鳴を上げたのは、大矢主水。しかしまだかんなは何もしていない。
それなのに、大矢主水がいた場所は。神の視力を持つかんなですら見えなくなるほどの雷撃に包まれていた。
ミス……? いや、まさか。
「自分の身体に当てた……!?」
目くらましをするためだけに。天使ですら致命傷になりうるほどの雷撃を自分に当てたというのか。
「あぁぁぁぁぁっ!」
電撃が発生していたのは時間にして2秒ほど。それでもかんなの目はいまだに眩み、大矢主水の殺意に溢れた声は轟いていた。
まだ大矢主水は動ける。かんなを殺せる。かんなの目は見えない。それでも、だ。
この力は圧倒的。確かに視界はまだチカチカしているが、大矢主水のシルエットのようなものは見えている。
右腕を前にし、かんなに向かって走ってきている。これは足音と声からして間違いない。であれば。
「はぁぁぁぁっ!」
かんなは回し蹴りで大矢主水の右腕を文字通り。落とした。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
一層激しい大矢主水の悲鳴が病院の屋上に轟く。右腕と一緒にゲイ・ボルグも消え失せたことだろう。たとえナイフを隠し持っていたとしてもかんなには効かないし、そもそも出血多量でそのうち死ぬ。
でもまだだ。もっと苦しませて、もっともっと苦しませて。大矢主水を殺――
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
さっきまでの悲鳴とは比べものにならない悲鳴が。
かんなの口から漏れ出した。
な……んだ……! 右腹が、死ぬほど、痛い……! そしてショックで視力が蘇り……!
「ぞんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
右腕をなくした大矢主水が。左手でゲイ・ボルグを掴み、かんなに突きつけているのが見えた。
まさか。右腕を囮にして。犠牲にしてまで。かんなを殺そうとしたのか。
でも、ありえないっ! これほどの痛みを浴びて尚、動けるわけがない。
ただの人間が。こんな痛みの中で。生きているなんて。あ、り、え――!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
閃光が爆ぜ。かんなの身体が沈み。
「俺の……勝ちだ……!」
かんなの後ろに立った大矢主水が、勝利宣言をした。
「驚いた。まさか勝つとは……。さすがはリル様が見惚れた人間、と言うべきでしょうか」
床に座り込み、激しい痛みの中痙攣することしかできないかんなを前にして、ハロウちゃんは何の興味もなさそうな声を出す。
「ご褒美ですわ。あなたは見逃してさしあげましょう。病院なのでなんとか生き長らえられるでしょうし……まぁ癪なので腕は治しませんが、大矢様。あなたはこれから自由ですわ」
な……にを言ってるんだ……。それじゃあかんなは……生き返れないじゃないか……。
「た……すけ……て……」
とにかく、この痛みだ。ハロウちゃんならこの痛みも消せるはず。そうすれば、大矢主水を……。
「はぁ? 嫌に決まっているでしょう」
…………。? いま、なんて……。
「もうわたくしの目標は達成しましたし、あなたは用済みですわ。そのまま死んでくださいまし」
――は? なんで……? なんで……助けてくれないの……?
「なんでと言われましても別にあなたが生きようが死のうがどうでもいいですし……。たっくさんのズルをしたのにも関わらず何も成し遂げられなかったあなたと、右腕を失ってでも目的を達した大矢様を比べたら、当然大矢様が生き返るべきでしょう?」
うそ……でしょ……? かんなは……死ぬの……? また……あの……痛みを……。
「あぁそれと。たぶんあなたは地獄行きなのでもっと苦しみは続きますわ。こればっかりはわたくしでは何ともできませんし、かけあってもいいのですが……正直手続きが面倒なので諦めてくださいまし」
そ、んな……の……。
「や、だぁ……」
「そんな泣かれましても自業自得としか言えませんわ。相手が殺そうとしてくるから殺すのもしょうがない? そんな理屈通りませんわ。思い出してくださいまし、あなたの死因を。全部、あなたが悪いんでしょう?」
そ、かもしれないけど……。
「おねがい……たすけて……。死にたくない……!」
それでも、死にたくない。まだかんなは。やりたいことが、たくさん……!
「うる……さいな……!」
かんなにも負けないほどの苦しそうな声が、上から聞こえる。
「まだお前は死んでないんだ……。じゃあ諦めんなよ……。おとなしく身体が動かなくても俺を殺せる方法を考えてろ……!」
「おお……もん……ど……?」
もう遠くなってきた耳に。大矢主水の声だけが聞こえる。まだ何も諦めていない、声が。
「そうだ……俺たちはまだ誰も死んでいない……。まだ生きてるんだ……。そうだろ……リル」
辛うじて顔を上げるとそこには。リルさんしか見えていない大矢主水が。まだ、生きていた。
「リル……生きてるんならさっさと出てこい……。早く美味いもの食いに行くぞ……!」




