第5章 第11話 脅迫~碧の場合~ 前編
2019年 4月2日(火) 12:22
月長水菜に手を出したのは失敗だった。かんなが悪いんじゃない。月長水菜の頭がおかしかったんだ。
そもそも陽キャ自体がおかしい。かんなは大矢主水みたいな陰キャ……ではないけれど。陽キャでは残念ながらない。だから行動原理がわからない。
言うなれば異文化交流。いくら神のような力を持っているかんなとはいえ、常識が違えばコミュニケーションは難しい。
そう。狙うなら陰キャだ。わかりやすく、単純な、陰キャ。
だがここで大矢主水のめんどくささが道を拒んでくる。
大矢主水は陰キャ。すぎるんだ。並の陰キャじゃない。
陰キャの友人はおらず、一周回って陽キャにしか友だちがいない。
でも、一人。家が近所で、幼稚園から高校までずっと同じクラスだった友人が、一人いた。
「こんにちはっ、十六夜碧せんぱいっ」
「ふえぇっ!?」
昼休み中に廊下をうろついていると一人でとろとろと歩いているターゲットを発見したので近づいてみる。
十六夜碧。彼女もまた、友人が全くいない陰キャだ。
身長は170cmに近いという高身長で、細身ではあるがムチムチ感もある絶妙なボディ。そして髪が邪魔で見えづらいが、間違いなく美人という高スペックの持ち主。
しかし彼女はそのスペックを全く活かせていない。
(ぅへぁ……。知らない1年生だ……こわぁ……)
心の中でさえ人畜無害な容姿をしているかんなにビビりまくっている始末。これ相手なら、あえなく二連敗をかましたかんなでも勝てる!
「うーん……十六夜碧せんぱいじゃちょっと長いですよねぇ……。『ダーク睡蓮』って呼んだ方がいいですかぁ?」
「ひょぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「そんな大声出さなくたっていいじゃないですかぁ。中二の時の自分の名前なのに」
「ふぇぁっ、ほわぁっ」
「それともツイアカの『獄極闇病』? 渋垢の『♰闇魔導士ミドリ♰』の方がいいですかねぇ?」
「ひぃぃぃぃ……ふよぇぇぇぇ……」
「そうそうダメじゃないですかぁ。16歳なのにR-18のイラスト上げちゃぁ」
「ぁ……あぁ……!」
「ダメといえばこっちの方がダメですかぁ。顔は見えませんけど、この『むちむちみどり』って自撮り垢、せんぱいの……」
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そうそうこれこれっ! これがやりたかったのっ!
かつての闇と、現在進行形の闇を暴かれて悶え苦しむ十六夜碧。これなら確実に、いけるっ!
「これ、ばらされたくないですよねー?」
「お、お願いしますぅ! 誰にも言わないでぇっ!」
「どうしよっかなー。かんなにメリットないからなー」
「なんでもっ! なんでもしますぅっ!」
勝った。
「じゃあこれ以上大矢主水に関わらないで……」
「神無ちゃぁ~ん。なにやってるのかなぁ~?」
瞬間、耳元であの、もう聞きたくなかったあの声が。
「月長水菜……!」
前に出ながら振り返ると、そこにいたのは一つ年上の、陽キャ集団。
翡翠芽依。月長水菜。そして、
「七海文……!?」
「先輩つけなよ、1年」
暦学園のクイーンが襲来した。




