第5章 第8話 脅迫~芽依の場合~ 後編
「この写真、お友だちに見られたくないですよね?」
翡翠芽依の中学時代。陰キャだった過去の写真を見せ、勝利を確信する。陰キャを隠して陽キャぶっているこいつに、この一手は会心の一発のはずだ。それなのに。
(ぇ……それは別にいいや。たぶん知ってるし……)
翡翠芽依の心の中は、平然とそれを受け入れていた。
……ん? 過去を知られた上で陽キャと仲良くできている……? そんな……ありえない。陽キャは何よりもブランド力を大事にする。そんな奴らが陰キャを受け入れるわけないんだから。でもまぁ……いいや。攻め方を変えるだけ。
「とりあえずかんなのクラスメイトたちに見せますねっ」
「それはまってっ!?」
(そんなことされたら終わる! みんなにばれちゃうっ! ああどうにかしないと……!)
なるほど。仲のいい友達には知られているけど、それはそれとしてあまり話を振れ回られたくないみたいだ。それなら一つも問題ない。
「安心してください。誰にも言うつもりはありませんから」
「ほんと……? ありがと……」
そう。かんなの目的はたった一つだけ。そしてこの人にとっては、どうでもいいことだ。
「今後大矢主水に関わらないでください」
「ごめんそれは無理」
「……は?」
短くそう告げた翡翠芽依の顔は、さっきまで今にも泣き出しそうだったのに強い意志がこもっていた。
「……どうして?」
大矢主水だよ。あんなどうしようもない人間を切り捨てるだけで、全て解決するというのに。一体何を考えているんだこのバカは。
(主水はわたしにとって大事な人だから。主水がいない高校生活なんかありえない)
「主水はわたしにとって大事な人だから。主水がいない高校生活なんかありえない」
……本当に馬鹿だ。心の中と同じことを口にしている。どうして大矢主水なんかをここまで……!
「おはよう、芽依」
こんがらがっていく頭の中に、聞くに堪えない声が入ってきた。
「……大矢主水」
「あ、主水! おっはよーっ!」
憎々しく睨むかんなとは対照的に、翡翠芽依は笑顔で大矢主水の横に駆けていった。
「悪いな、芽依。この子俺の知り合いなんだ。でもちょっと頭がおかしくてさ、迷惑かけただろ?」
「ううん、全然。……ん? てことはもしかしてリルちゃんの友だちだったりするっ!?」
「ああ友だちっていうか……腐れ縁?」
天使を……知られてる……!? なにを、したこいつは。くそ、心を読む力が乱れる……! どうしてこんな声が聞こえる……!?
(今日頼りになる方の主水だ! 暗い主水もいいけどやっぱりわたしはこっちの方が……好き)
こんなの、ありえない……! 大矢主水が過去に飛んだのはたった4週間だけでしょ……? それなのに、どうしてここまで……!
(いつもはわたしが引っ張ってあげてるけど、こういう時の主水なら……甘えても……)
これじゃあ……まるで……!
「大矢主水のことが……好きなんですか……?」
ありえない。ありえない、けれど。
「……そうだよ。わたしは主水のことが好き」
顔を真っ赤にして、腕を掴んで身長の割に大きな胸に押し当てる翡翠芽依の姿は、完全に恋をしている女の子だった。
「ってわけだ。お前邪魔だからどっか消えてろ」
腹が立つ。なにを偉そうに言っているんだ大矢主水は。めちゃくちゃ照れてるくせに。
「……まぁいいです。まだ他にも手はある」
翡翠芽依程度、捨ておいても問題ない。まだまだこっちにはいくらでも攻撃対象は残っているんだから。




