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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【完結】Survive for 3 days 【短編】

とある作品の間に挟む休憩として書いていたもの。

しかし無駄に壮大になり、なんかもう方向性が行方不明になったので単独自立の短編小説として供養することにしました。


単なる暇潰しの暴走みたいなものなので、細かい設定とかもう決めてません。

適当ですので突っ込まれても知りません。


以上、ご理解頂ける方のみ続きをどうぞ。






 俺は今日、有休を使ってまでこの日を愉しみにしていた。

 本日からサービスが始まる完全没入型VRゲーム。


 『Re:Survive for 3 days』


 ある日、突然ゾンビだらけになり封鎖された都市。

 そこから3日間生き延びたのちに脱出するというのが目的の協力型マルチゲームだ。

 元々『Survive for 3 days』という名でサービスが始まったゲームだったのだが、色々な問題で一度サービスを終了したのだ。

 その理由もまたリアルなVR故の欠点としか言いようがないものばかり。


□あまりのリアルなゾンビに追い回されるためトラウマになった人が続出した。

□ゾンビとはいえ、人を殺害するような行為がリアル過ぎて倫理系の団体から抗議が殺到した。

□痛みは無いものの怪我などの表現もリアル過ぎてトラウマに(ry

□拘束時間が長い(最初期はリアル3日間だったらしい)

□ゲームルールの問題で人間不信になってしまいトラウマに(ry


 などなと、まあ細かな点を踏まえ色々あり過ぎて終了に追い込まれたといった感じだ。

 しかし徹底したリアル感は、ファンも多かった。

 俺もその中の1人。

 何より本物の人間によるリアリティ溢れるやり取りは、下手な映画よりも映画になっていた。

 そのため未だに有名なプレイ動画などは、脅威的な再生数をしている。

 実際、それらを元ネタにした映画まで作られたほどだと言えば、その人気も解って貰えるだろう。


 まるで本物の映画の中で命懸けのサバイバルをするような体験。

 そして自分達の行動次第で結末はいくらでも変化するというのも最高だ。


 気づけばインストールが終わったようなので、さっそくINする。

 表示されるID名は……『ムラマサ』にしよう。


 決定するとかなり昔の大都市が足元に表示されている。

 そこで突然音声による説明が開始された。


 ゾンビが出てきて街がパニックになったという流れだ。

 そして最初に指定される場所まで逃げ込むまでが最初の試練。

 逃げ込んだ先で今回の参加者達と出会って協力するという流れになるようだ。


 説明の最後に赤・青・黄色の3色の選択肢が表示される。

 このうちの1つを選ばなければならない。


 俺は、何となくで赤色を選ぶ。

 すると表示されていた赤色の選択肢が回転し、文字が出てくる。


 『特定の条件をクリアすること【条件:どこかにある下水道のカギの入手】』

 『報酬:特殊脱出【下水道から脱出せよ】の解放』


「まあ、運次第だなぁ」


 どちらかと言えば微妙なミッションだった。

 このゲームは、開始時に1人1つ何かしらのミッションを受けることになる。

 それを達成すると報酬が手に入る。

 俺の場合は正規ルートである『ヘリ脱出Aルート』ではない特殊な脱出ルートが解放されるという奴だ。

 状況次第では強力なものだが、どこにあるかが解らないので運次第だと言える。

 それに脱出出来るのなら正規ルートでも別に構わない訳で。


 どういう方向性で行こうかなと作戦を考えている間に、マッチングが終了したようで街中に移動させられる。

 周囲の映像が切り替わると、俺は地下鉄のホームに居た。

 大量のNPCキャラ達がホームで電車を待っている。

 かなり昔の世界が元になっているようで博物館に展示されているようなものが普通に動いていてビックリした。


 『電車がホームに停車した瞬間からスタートです。マップ上に表示されている場所まで制限時間内に逃げ込んで下さい』


 目の前にそう表示されていた文字が消えた瞬間、スグに『ミニマップ』と声で呼び出す。

 すると表示されたマップに『駅から少し離れた場所にある小さなビルの2階』が表示されていた。


 それを確認した直後、電車がホームに入ってくる。

 ……明らかにおかしい。


 窓には大量の血痕。

 血だらけの人々が、必死に窓やドアを叩いている人々に襲い掛かっていた。

 NPC達も違和感を感じ出し、そして電車が完全に停車してドアが開く。


「キャー!!」


 悲鳴と共に電車から逃げ出す乗客とそれを追うように出てくるゾンビの群れ。

 そして逃げ惑う人々。

 NPC達の必死の形相やゾンビに捕まり捕食される感じが妙にリアルだった前回に比べると、ゾンビに捕食され始めた瞬間に光の粒子になって消えるNPCというのは残念な修正だ。

 まあそうでもしない限りまた色々言われるのだろうなと思いながらそれらを見ていると、周囲のNPCの減りが異常に速いことに気づく。

 そして消えたNPCは、一定時間後にゾンビとして消えた場所から出現する。


「あ、そうか!食べられるシーンカットで次の行動に移るのが早いのか!」


 なるほどなと思った瞬間に『これはヤバイ』と気づいて全力で逃げる。

 気づけば横に制限時間が表示されていた。

 意外と短い時間に気持ちが焦る。


 逃げ惑うNPC達が非常に邪魔だが、何とか駅から外に出る。

 既に外は、大量のゾンビにより世紀末な雰囲気になっていた。

 近くに放置されているパトカーの中を見ると明らかにアイテムですよという箱が置いてあった。

 中身は、ショットガンと弾だ。


「銃とは幸先が良いな」


 それらを回収した瞬間、背後に気配を感じて振り返るとゾンビとなった警官が襲い掛かってきた。

 飛びつかれる前に先ほど手に入れたばかりのショットガンを撃つ。

 するとゾンビの頭が吹き飛んだかと思えば、これも光の粒子になって消えた。


「とりあえず全部消えるのか……」


 何とも微妙な変更点だなと思いつつも、集合地点に急ぐ。

 集合地点には既に4人のプレイヤーが待っていた。


 『Mule』*シークレット

 『にゃんこ』*正規ルート:ヘリ脱出Aルートにて脱出する【報酬】特殊アイテム:通信機の入手

 『伯爵』*シークレット

 『☆ミヤビ☆』*シークレット


 名前の横にその人のミッションが表記されている。

 とりあえず挨拶をしつつ様子を見る。


 Muleは、若い男性。

 茶髪でニヤニヤとしていて、如何にもホストっぽい感じがする。


 にゃんこは、中年のおじさんという感じだ。

 少し大きめのお腹が印象的な人だが、気の良さそうな感じがする。


 伯爵は、少し神経質そうなメガネのサラリーマンといった感じだろうか。

 細身で常に周囲を睨みつけているような印象だ。


 ミヤビは、唯一の女性でセミロングの20代美人だ。

 愛想よく周囲に挨拶している感じが新人社会人っぽく見える。

 先ほどからチャラ男ことMuleが積極的に口説いているようだが、どうやらあまり相手にして貰えていないらしい。


 ……にゃんこさんは、羨ましいな。

 正規ルートでクリアするだけで、特殊アイテムが貰えるのだから。

 

 そしてシークレットが3人か、多いな。


 その名の通り、ミッション内容が他人に見えないようになっている状態。

 こういうものは基本的に『他人に知られると達成困難になる』という理由で運営側がロックしているのだ。

 特定の状態になると表示されるようになるが、コイツに関しては当たりはずれが大きい。

 当たりだと『誰にも知られずに特定のアイテムを入手して脱出』とかその辺だ。

 特に害はないし、たまに凄く簡単な脱出方法が解放される場合もあったりと難易度が高い分だけ報酬も大きい。

 逆にハズレは怖すぎる。

 前作では『プレイヤー1人を殺害して脱出』や『2日目の夜までに密告を行う』などあまり歓迎出来ないミッションもあったからだ。 

 今作でそれら嫌がらせのようなミッションが無くなっているとは思えない。

 この辺りが人間不信になる人を続出させた理由でもある。


「へ~、別ルート解放ってのも保険になるかもしれないな!」


 俺のミッションを見たMuleさんが、そんなことを言い出した。


「確かに、Aルートがどうしても無理ならそっちに行くのもアリかもね」


 にゃんこさんも賛成するかのようなことを言い出す。


「でも、にゃんこさんはAルートクリアしたい……ですよね?」


 ミヤビさんが、にゃんこさんを見ながらそう尋ねる。


「まあ、確かにミッション的にはそうなんですけど単純なクリア報酬だけでも十分ですし」


 にゃんこさんは苦笑しながらそう言う。


 このゲームは、途中で死亡脱落した場合はほとんどポイントが貰えない。

 生存クリアした場合に大きくポイントが貰え、そのポイントで様々なアイテムを購入することが出来る。

 例えばハンドガンを購入して装備すると『次回以降のゲーム開始時点から【ハンドガン】を持ったままスタート』出来たりする。

 これがあると無いでは、難易度がはるかに違ってくる。


 ちなみに、にゃんこさんのようなミッション報酬による特別アイテムは、このポイントでは購入出来ない。

 ミッションクリア限定アイテムということで、入手は運次第なのだ。

 それが最初から出てくるなんて運が良いのだろう。


 『街の生存者が減り、ゾンビの数が増えました。安全地帯まで逃走してください』


 生存者達で交流がてらの会話をしていると、効果音と共に全員にそんなメッセージが表示される。


「安全地帯があるってのが既にゲームっぽいよな」


 Muleさんがそんなことを言い出す。

 まあ確かに本来こんな状況になれば安全地帯など存在しないだろう。


「とりあえず移動指示が出ましたんで移動しませんか?ここに居てもあまり良い事はないでしょうし」


 にゃんこさんも移動に賛成する。

 あまり一か所に留まるのは良くないという意見には賛成だ。

 このゲームは、とにかくユーザーが楽をしようとする行為を嫌う。

 一番の敵は性格の悪い運営だなんて声もあるほどだ。


「移動するならとりあえず早くいきませんか?時間制限もありますから」


 唯一の女性である☆ミヤビ☆が、こちらを見ている。


「そうですね、ここであれこれ言い合っても仕方がない。行きましょうか」


 初日であるからか、それともルート選択が良かったのか、初日はそこまで苦労せず移動出来た。

 また周囲では悲鳴がよく聞こえており、NPC達が囮のようになっているのだろう。

 しかしこれが続けば襲われた数だけゾンビが増える。

 後半が怖そうだ。


 結局、特にイベントなどもなく安全地帯に逃げ込むことに成功する。

 全員で安全地帯に入るとメッセージが出てくる。


『本日は、ここで夜を過ごしましょう(10分間)』


 そのメッセージが出ると周囲が急に夕方になり、どんどんと夜になっていく。

 まだ設備が生きているのか、街灯などが道路を照らしている。


 安全地帯となっているのは、雑居ビルの2階だ。

 ここは倉庫のようになっており、比較的スペースもある。

 1階も事務所のようになっていて休日だったのか、しっかり施錠されていたためゾンビなどが入ってくることもない。


 そのメッセージを見たメンバーは、それぞれ安全地帯として指定されたビルの中を見回る。

 昔ながらの旧式建築で建てられた3階建てのビルだ。

 ちなみに3階は生活スペースなのか、台所やトイレなどもあり人が住んでいた痕跡がある。


「万が一もありますから、周りだけ確認してきます」


「あ、お願いします」


 伯爵さんが夜の襲撃を警戒してか、単独で外を見に行った。

 あまり褒められた行為ではないが、かといって何もせず休んでいる所に突然イベントがというのもゴメンだ。

 なのであえて危険な役割をやってくれるのなら助かる。


 それにその神経質そうな感じのせいで誰も声をかけなかった。

 向こうも声をかけてこないので、実質少し浮いていたのだ。

 なのでこうして仲間のために動いてくれたのは、正直ありがたかった。


 そう思って彼に任せてビル内を漁ると何故か金属バットなどが出てくる。

 一応武器扱いなのだろう。


 それを武器を持っていなかったにゃんこさんに渡す。

 流石にゲームとはいえミヤビさんにバットを持たせて戦わせるほど男を止めてはいない。

 ある程度探索も終え、マップを見ながら次のルートを考えている時だった。


 突然鳴り響く警報音。


「な、なんだっ!?」

「なにっ!?」

「キャー!」


 3人が何事かと声を上げたが、それどころではない。

 突然目の前に表示されたメッセージ。

 それを読んだ瞬間、思わず『やられたっ!!』と声をあげた。


『プレイヤー:伯爵が【密告】を行いました』

『プレイヤー:伯爵に専用ミッション【街からの単独脱出】が解放されました』

『プレイヤー:伯爵はミッション【2日目の朝までに密告を行う】をクリア』

『ミッションクリアにより【報酬:感染防止薬】を入手』


 密告とは、様々な場所に点在している交番の中にある専用通信装置を起動することで成立するシステムだ。

 これを行うと自分に最短脱出ミッションが発生して、3日間を待たずに逃走可能になる。

 ただし代償として『味方を売る』必要があるのだ。


「シークレットの内容それかよっ!!」


 チャラ男が叫んだ。

 俺も同じことを思ったよ。

 ロクでもないな、シークレット。

 しかも噛まれても感染死しなくなるアイテムとか羨ましい。

 これで伯爵の奴は、あとはルート指示が出ている通りに単独脱出するだけだろう。


 こちらは密告によって周囲のゾンビが一斉にこちらに向かって走ってくる。

 障害物など関係なく、常にこちらの位置を把握して襲ってくる『レイジモード』だ。


 みんなで急いでビルから逃げる。

 周囲が暗いが、まだ街灯があるだけマシだった。

 途中なんどかゾンビに飛びつかれそうになるも何とか回避して、ひたすら走る。


 後ろから物凄い数が追いかけてきている声がする。

 これはヤバイと思っていると「キシャー!!」というゾンビではない声が聞こえてきた。


「な、なんだこれっ!?」


 にゃんこさんの叫び声が聞こえたかと思えば、触手のようなものが何本も暗闇から伸びてきていてにゃんこさんに巻き付いていた。


「ま、待ってっ!助けてくれっ!!」


 力が強いのか、ジワジワと引き寄せられはじめるにゃんこさん。

 とりあえずショットガンを撃って触手を吹き飛ばすが、なかなか相手もしぶとい。

 そうこうしている内に、ゾンビの大軍の声もかなり近くなってきた。


 ……迷った。

 そりゃもうかなり。

 そんな時だった。


「……悪い。ゲームじゃなきゃもう少し粘ってやれるんだが」


 そう言ってチャラ男が走り出す。


「ウッソだろ、お前ー!!」


 そんなにゃんこさんの言葉をスルーしながら、ひたすらチャラ男は逃げていく。


 逃げていくチャラ男。

 だが俺は見てしまった。

 彼の横に出ていた『シークレット』の中身が表示されていたことを。


『3日目の朝までにプレイヤーを1人以上見捨てて生存していること』


 そう表示されていた。

 なるほど、そういうことか。

 見捨てるのは仕方がないという振りをしてミッションを堂々と達成する。

 見た目通りというべきか、見た目に反してというべきか。

 なかなかずる賢い。


 それに気づかなかったにゃんこさんは、それでも必死に足掻いていた。

 今のを見せられて俺まで逃げ出す気にはなれなかったということもある。

 俺は『もったいないな』と思いながらもショットガンを全弾撃ち切って触手全てを吹き飛ばす。

 遠くから明らかにヤバイバケモノの声がするが、それどころじゃない。


「ムラマサくん!ありがとう!ホントありがとう!」


 感謝しまくりなにゃんこさん。

 そりゃ見捨てられた直後だからね。

 助けてくれた人には、感謝もするよね。


 一応弾が拾えるかもしれないので、銃を持ったまま3人で走る。

 そして車で通行止めのようになっている場所の横にあるコンビニ。

 その中から裏口を通って奥へとひたすら進む。


 途中何度かゾンビが飛び出してくるもにゃんこさんがバットで思いっきり吹き飛ばしてくれるので、何とか逃げ切ることに成功した。

 ゾンビの声が聞こえなくなった所で、丁度休めそうな空きテナントを見つけてその中で休む。

 しばらくすると急に目の前にメッセージが表示された。


『プレイヤー:Mule【立体駐車場C地点にてスカベンジャーに捕食され死亡】』


 あ~、あいつ死んだのか。

 そんな感じで割と興味が無かった。


 むしろ興味があるとすれば―――


「スカベンジャーって何でしょう?」


 ミヤビさんがそんなことを口にした。

 小首をかしげて質問する姿は、流石美人だけあって魅力的に見える。


「さっきの触手みたいなものですかねぇ」


 にゃんこさんも知らないのか、悩みながら答えていた。


「あー、それはですねぇ」


 仕方がないので俺が解説する。


*スカベンジャー

 ネズミ男というものがしっくりくるだろう。

 人間のような見た目なのに、顔や手足などがネズミで尻尾が生えている。

 人間とネズミの合成生物と言えるかもしれない。

 そんな見た目の怪物だ。


 前作では『プレイヤー殺し』の1匹として有名で、中盤あたりから出現するラスボスみたいなもの。

 狭い場所を好み、突然音も無く奇襲してくる姿に『アサシン』などの異名が付いたほどだ。

 とにかく音と臭いに敏感で、その姿に似合わず気づけば近くまで迫ってきているという非常に面倒な生物。

 一応倒せなくもないが、なるべくなら出会いたくない相手である。


「ちなみにですが―――」


 そう言ってさっきの奴の説明もしておく。


*マンイーター

 巨大な食虫植物のような見た目の肉塊。

 大量の触手でプレイヤーを拘束してそのまま捕食するバケモノ。

 これもスカベンジャー同様に中盤あたりから出現する。

 そして厄介なことに【密告】で必ず1体は出現することでも有名だ。

 一番厄介なのが触手に捕まると単独では、ほぼ詰みだということ。

 複数で協力でもしない限り逃げ出せない。


「そういうのが居るんですね」


「いや~、ムラマサくん詳しいなぁ!居てくれて助かったよ!」


 2人が説明を聞いてそれぞれの感想を言う。

 こういった情報も知っているかどうかで生存確率が違ってくるのだ。


 そうしている間にシステムから2日目を過ごす場所が表示されたが、比較的近い場所でスグに到着する。

 2日目の夜は何事もなく、ようやくまともに休める時間となった。


 そして3日目の朝。

 システムが移動を促してくる。

 ただそれだけではなかった。


 『脱出ルート:ヘリ脱出A地点解放』

 『制限時間内に脱出地点より脱出してください』


 ようやく少し先に行った所が脱出地点として表示される。

 あと少しだ。

 そう思って3人で移動し始めた直後だった。


 『プレイヤー:伯爵【街出口にてデストロイヤーに攻撃され死亡】』


「は?」


 思わず間抜けな声が出た。


「ムラマサくん、このデストロイヤーって何か知ってるか?」


「い、いえ、聞いたことがないですね。間違いなく新種でしょう」


 にゃんこさんの質問に答えながらも考える。

 まあ確かに新種が居ても不思議じゃない。

 しかし気になるのは『攻撃され死亡』だ。

 今まで出てきた奴は、全て『捕食』だった。

 それが何を意味するのか……。


 まあそれにしても、伯爵ざまぁぁぁ!!である。

 脱出出来ずに途中死亡すると、せっかく手に入ったアイテム類も失ってしまう。

 つまり今回せっかくミッション達成したのが全て無駄になったのだ。


 結局、裏切った2人はどちらも死んだ。

 それだけ単独行動というものは大変なのである。


 最終日ともなると、あちらこちらにゾンビがウロウロしていて動きにくい。

 ヘリが待っていてくれる時間も考えると、なるべく早く移動したい所だ。

 各所にあるギミックを使ってゾンビを誘導し、何とか大きな騒動も無くヘリポートが見える所までやってきた。

 倉庫街のような所にある3階建てぐらいの鉄塔。

 その上にヘリポートがある。


 俺達は何とかその鉄塔の階段までたどり着くが、その入口を見て思わず顔を顰める。


 立派な扉のゲートだ。

 それが閉まっている。


 その横にスイッチがあり『押すと強制レイジモード発動。時間経過後にゲート解放』と書いてあった。

 つまり最後に迫りくる大量のゾンビを何とかしなければならないのだ。


「どうしましょうか?」


 にゃんこさんが探るように声をかけてくる。


「どちらにしろ押さない訳にはいかないでしょうね」


 俺の言葉に2人とも何も言わない。

 そりゃそうだ。

 最後の最後にこんなデカいリスクなんて取りたくない。


 ふと見ると車が一台止まっていた。

 何気なくドアを開けてみると簡単に開いた。

 しかも中にカギが刺さったままである。


「2人とも安全そうな場所まで避難しておいて下さい。俺が囮になりますよ」 


 そう言ってカッコつける俺。

 にゃんこさんはクリアするだけで報酬貰えるから逃げたいだろうし、未だ何のミッションか知らないがミヤビさんを囮にする訳にはいかない。

 いつの時代も美人の前ではカッコつけたくなるのが男ってものだ。

 それに一番死んでも被害が無いのが俺だろう。

 ミッションもクリア出来ないだろうからな。


「ありがとう!頑張ってくださいね!」


 急に俺の両手を掴んだミヤビさんの上目遣いのお願いとかテンションあがるね。


「任せて下さい」


 そう言うと2人が逃げていくのを待つ。

 そして決められた時間になると、ゲートの前に立つ。


 一度大きく深呼吸をしてから俺はボタンを押した。


 大きな警報音が鳴り響く。

 その間に俺は車に乗り込んでエンジンをかける。

 すると周囲のゾンビ達が一斉に襲い掛かってきた。


 だがこちらは車だ。

 止まってしまうと危ないだろうが、動いている間はそれなりにマシだろう。


 数えきれないほどのゾンビを跳ね飛ばし、フロントガラスにはヒビや血痕だらけでロクに前が見えなくなってくる。

 それでも止まる訳にはいかず、ひたすら走り続けているとメッセージが表示された。


 『ゲートが解放されました』


 スグになるべくゲートから離れるように動くと、2人が隙を見てゲートに向かって走っていくのが見えた。

 そこで大きく離れた位置から再度全力でゲートまで車を走らせると、ゲート前で止まって車を乗り捨てる。

 ゾンビ達が車でにヘリまでたどり着ければ勝ちだ。

 そう思ってゲートに近づいた瞬間だった。


 ゲートから人が転がり落ちてくる。


 ―――にゃんこさんだ。


 そしてログが更新された。


『プレイヤー:☆ミヤビ☆がプレイヤー:にゃんこを【殺害】しました』


 一瞬意味が解らなかった。

 でも身体が勝手ににゃんこさんの元へと動く。


 にゃんこさんが光の粒子になって消えていく。

 それを見て、ふと視線に気づいた。

 目の前のゲートの中にはハンドガンを構えた、今まで見せたことが無い冷酷な笑みを浮かべた女が居た。


 彼女の横にミッションが表示されている。


 『プレイヤー1人以上を殺害して単独で脱出する』


 やっぱりシークレットミッションは、クソだな。

 なんて思いながら彼女を睨みつける。


「ごめんねぇ~。ミッションクリアしたかったの~」


 少しも罪悪感など感じていないかのような声に思わずイラっとくる。

 おそらく彼女は、こういう性格なのだろう。

 ハンドガンもいつの間に手に入れていたのか。


 ゲートがゆっくりと閉まっていく。

 彼女が閉じたのだろう。


「というわけでぇ、単独脱出しなきゃダメなのぉ。だからぁ、アナタは別ルートで脱出してねぇ~」


 ほら、その下水道ミッションがあるでしょ?とでも言いたげな彼女。

 3日目の夜を超えると『終末が訪れた』というメッセージと共に『永久レイジモード』に突入する。

 こうなるとどう頑張っても逃げ切ることなど出来はしない。

 どこにあるか解らないカギを、あと半日程度で探して逃げ出せばいいじゃないと言っているのと同じだ。

 つまり彼女は俺に『死ね』と言ってるに等しい。


 ハンドガンを持つ彼女に弾の無いショットガンではどうしようもない。

 こうして彼女の高笑いと共にゲートが閉じた。


「……あ~あ。終わったな」


 脱出ルートを閉じられ、別ルートを探すにも時間が無い。

 しかも現在この倉庫街がレイジモードでゾンビ達が集まってきている。

 マンイーターやスカベンジャーが現れてもおかしくはないだろう。


 俺が諦めかけたその時、足に何かがあたった。


 ―――にゃんこさんに渡したバットだ。


「にゃんこさんも残念だっただろうな」


 もう少しで報酬込みでクリア出来たのだ。

 それをまさかあんな女にやられるなんて。


 俺はバットを拾う。

 そして段々と腹が立ってきた。


「このままあんな女にやられて終われるかよっ!!」


 迫りくるゾンビ達から逃げながら、車で走っている時に見つけた小屋まで走る。

 途中、背後に違和感を感じて振り返ると―――


「くっそ!!」


 思わずショットガンで受け止めた。

 そのショットガンに噛り付いているのは、ネズミ男こと『スカベンジャー』だ。

 俺は弾が無いのもあってショットガンを諦めると、スカベンジャーにくれてやる。

 奴がショットガンに噛り付いている間に、奴の頭をめがけてバットを振り抜く。


 叫び声をあげながら、それでもショットガンを銜えたままスカベンジャーは逃げ出した。


 その隙に小屋のドアを確認すると運よく開いていた。

 なので何とか中に逃げ込むことに成功。

 スグに扉に小屋の中にあったロッカーを移動させて扉を封鎖する。


 外ではドンドンと扉を叩く音。

 小屋には他に出口らしきものもない。

 完全に詰みだ。


「やる気を出したものの、結局はこれまでか」


 ため息を吐きながら椅子に座ると、机にカギが置いてあることに気づく。

 何気なくそれを手にすると―――


 『プレイヤー:ムラマサはミッション【どこかにある下水道のカギの入手】をクリア』

 『ミッションクリアにより【特殊脱出:下水道から脱出せよ】が解放されました』


 とメッセージが表示された。

 しかも足元の床が光っている。


 思わず机を動かすと床に鍵穴が見えた。

 まさかと思いながらも先ほどのカギを差し込むと『カチッ』という音と共に開錠される。

 床が自動的に動くと、地下へと続く階段が見えた。


「ははっ……まだ可能性はあるってか」


 信じられない強運を引き当てた俺は、勇気を出してその階段を下りて行った。






 その頃、ゲートを閉じて一人悠々と屋上にあがるミヤビ。

 もうヘリは到着しており、あとは乗ればゴールだ。


「あ~しんどかった~。報酬なんだろな~」


 作戦が上手く行きご機嫌な彼女は、鼻歌を歌いながらヘリに向かう。

 そして乗るために空いている扉に手をかけ、足をあげた瞬間だった。


「あれ?」


 身体が前に行かないのだ。


「なんで―――」


 ふと足に違和感を感じて視線を向けると、そこには一本の触手が巻き付いていた。


 ―――マンイーター


 前作でも数多くのプレイヤーを殺してきたボスの1体だ。

 それがヘリポート近くの倉庫の屋根の上から、彼女に向かって触手を伸ばしていた。


 ミヤビは悲鳴を上げながらハンドガンを触手に向かって撃つ。

 何発か命中して触手がはじけ飛ぶように切れる。


 しかし既にその頃にはもう何本もの触手が彼女に絡まっていた。


 『マンイーターの厄介な所は、単独では抜け出せないという点です』


 先ほど見捨てた男の話が頭の中で蘇る。


「ここまで来てッ!こんなところでッ!!」


 思わず叫びながら全力でヘリに乗り込もうとするが、マンイーターの方が力が強い。

 ジワジワとヘリから引き離される。


「やめてぇぇぇぇ~!!助けてぇぇぇぇ~!!」


 叫んでも誰も助けなど来ないのは、彼女自身が一番よく解っていただろう。

 それでも叫ばずにはいられない。


 あと少し、ほんの少しでゴールだったのだ。

 それが目の前から遠ざかっていく。


 ズルズルと地面を引き摺られるようにしてヘリから離されていく。


「なんでよっ!なんでこんなことにぃぃぃぃ!!」







 『プレイヤー:☆ミヤビ☆【ヘリポートA地点にてマンイーターに捕食され死亡】』






 あれからどれくらい進んだだろうか。

 周囲からゾンビの声がする暗闇の中を備え付けのライト1本で歩くのは精神力が削られていく。

 それでも入手した地図に従って、ようやく地下にある施設までたどり着いた。


 その施設の中にあった大型エレベーターを起動させる。

 エレベーターが下りてくるまで時間がかかりそうだったので、ふと外を見る。


「―――ッ!!」


 それを見た時、思わず息を呑んだ。


 巨大な人型。

 身体は非常に大きいが、肝心の頭が無い。

 腕も左腕は普通なのに右腕だけ以上に大きく爪が刃物のようになっている。

 何よりその右腕に目が付いていた。


 一目で理解した。

 あれが『デストロイヤー』なのだと。


 奴との距離は、かなり離れていた。

 しかもこちらは施設の中だ。

 にもかかわらずこちらに身体を急に向けると、一直線にこちらに向かって走って来るではないか。

 俺は慌てて施設内のエレベーターに向かって走る。


 丁度エレベーターが到着したので急いで起動して上にあがる。

 ゆっくりとだが、確実に上昇するエレベーターに思わず安堵した瞬間だった。


 大きな破壊音がしたかと思うとエレベーターの床に穴が開いていた。

 そこから飛び出しているのは、先ほど見た右腕と思われる部分だ。

 大きな目玉がこちらを見ている。


 手を開いたかと思うと手のひらに口のようなものがあり、そこから何か緑色の液体が噴射された。

 思わず飛び退くと緑色の液体がかかった場所は音を立てて金属が解けていた。


「ウッソだろ」


 このままではマズイ。

 そう思った俺は、何か無いかと探すと消火器を見つける。

 それを思いっきり床から生え出ている腕に向かって投げつけた。

 すると刃物のような爪で消火器は切り裂かれた。

 だが中の消火剤が勢いよく噴射される。


 その隙に俺はバットを握りしめて突撃した。

 相手がこちらを見失っているうちに後ろに回り込むと勢いよく目玉に向かってバットを振り抜いた。


 強烈な音と共に俺はバットを落とした。

 まるでコンクリートの壁にバットを叩きつけたかのような衝撃。

 手が完全にしびれていた。


 しかし効果はあったようで叫び声をあげながら右腕は逃げていった。


「はははっ……」


 思わず乾いた笑みがこぼれる。

 すると空気を読んだのか、エレベーターが停止した。

 やっと終わる。


 そう思って歩き出そうとした瞬間だった。

 ひと際大きな叫び声が周囲に響く。


 その瞬間、俺は全力でドアに向かって走り出す。

 その直後、エレベーターの床を貫いてヤツが飛び出してきた。


 ドアを閉めるとロックをかけてから逃げる。

 するとドアを激しく叩く音が2度ほど聞こえたかと思うと、3度目は破壊音に代わった。

 もう振り返ってる暇はない。

 急いでそのまま施設の外へと出ると、旧式の車が目の前に止まっていた。

 思わずそれに飛び乗る。


 運の良いことにカギがそのままついていた。


「くっそ、旧式の車ってどうやって動かすんだっけ?」


 あれこれやっているうちにカギを回すのだと思い出してエンジンをかける。

 だがなかなかかからない。


「これだから旧式はッ!!」


 そう叫びながら何度目かになるエンジンスタートをした瞬間。

 デストロイヤーが施設から飛び出してくると同時にエンジンがかかった。


 スグに車を走らせる。

 追って来るデストロイヤー。


 ふと見ると施設の外への門が閉じようとしていた。


「いっけぇぇぇぇぇ!!!」


 アクセルを踏み込んで門へと突き進む。


 ガシャーン!!


 大きな音と共にサイドミラーが門に当たって吹き飛ぶも、ギリギリ車は門を抜け切った。

 閉まる門にデストロイヤーがぶつかった音がしてバックミラーで確認するが、門はしっかりと閉まっていた。

 するとメッセージが出る。


 『おめでとうございます!脱出成功です!』


 その文字を見て、喜びから思わず全力で叫んだ。



 その日『Re:Survive for 3 days』プレイヤー達が集う掲示板は、カオス空間となっていた。

 やれ誰に裏切られただ、ハメられただといったものから難易度が高すぎてクリア出来ないという不満などが大半ではあったが。

 そしてただの1人もクリア報告が無いことから『難易度を下げるべきだ』という声が続出する。


 そんな中、1つの動画が話題になる。

 初日プレイでクリアした人の動画としてアップされたそれは、プレイヤー達に衝撃を与えた。


 数々の裏切りに遭いながらも諦めずにクリアを目指す男。

 裏切ったものの、脱出直前で死んでいくプレイヤー達。

 中でも途中でプレイヤーに裏切られて死んでいく男には、数々の同情的なコメントが多く寄せられた。


 そんな中でも決して最後まで諦めなかった男は、全てのボスに遭遇しながらも奇跡の脱出を遂げたとして称賛される。


 このプレイ動画は、攻略の参考になるだけでなく『映画よりも映画』という名言と共に世界中に拡散。

 ついには映画化まで決定するほどの人気動画となった。


 これにより『Mule』『☆ミヤビ☆』『伯爵』の3人は、このゲームに参加するたびにこの話をされてしまう。

 そして必ず『信用出来ない』と言われて真っ先に切り捨てられてしまい、結局アカウントを作り直すハメになってしまった。


 対して『にゃんこ』は、不遇の死を遂げた優良プレイヤーとしてプレイヤー達から歓迎される。

 そして『ムラマサ』は、英雄扱いされるようになり、ゲームに参加するたびに頼られてしまい多少ウンザリした感じになっていたらしい。

 それでも彼は、その話をされると必ずこう答えるらしい。


「それでも俺は、このゲームが大好きなんだ」





最後まで読んで頂きありがとうございます。


もう何かどうしてこうなった?感が凄いです。

結局こうして短編化するほど暴走したのは全て眠気が悪い。


愉しんで頂けたのなら幸いです。

反応次第では、こういう投稿も増えるかも?

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― 新着の感想 ―
[一言] ゾンビゲームだって言ってるのに必ず出てくる おかしなクリーチャーさんとかあるある! パワーと耐久力が高いやたらガタイのいい不思議ゾンビとかも スキン違いで肉体労働者(工事現場勤務)になってて…
[気になる点] 『裏切る』『密告する』『殺害する』等人間関係が確実にアレになるゲームでプレイに支障が出る程の晒し者になっているので運営は3人に「IDネームを無料で変更する」「1プレイ毎にIDネームを変…
[良い点] 友情破壊を超えての何か。 [一言] ID「ALICE」のやつは、きっとクリア率くそ高い。 (100%まで出来るかわからない)
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