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深き愛情故に罪人となった男 5



「周りが騒がしいようだが、一体どうしたんだろうか?」


 コンコン。

「旦那さま。」

「どうした?」

「どうやらこの貴族街に賊が入ってきたようで。今、憲兵と他の貴族の護衛が追いかけています。」

「そうか。賊とやらは今はどこに?」

「現在も貴族街を逃げ回っているそうです。旦那さまもお気を付けください。」

「わかった。情報が入り次第伝えてくれ。」


 その言葉を聞くと、ドアの外にあった気配が消えた。

 ドアの方からベッドに向け視線を移す子爵は目は、窪み頬は痩けとてもではないが健康的とは言えない見た目であった。

 ほんの少し前までは、健康的で活力が漲り、悪い噂もなく職務を全うする立派な貴族であった。

 それが現在のような状態になった原因は、ベッドで眠っている最愛の娘の事による精神的ストレスであろう事は予想できる。

 最愛の娘、メイサがかかっている病気とは、


 【硬質化壊死症】

 現在は解明されておらず、発症者は10代までの子供がほとんどである事から、今のところ成長中の突然変異ではないかと推測されている難病である。

 症状は、身体の末端から皮膚や筋肉の硬質化が始まり、やがて全身に行き届き最終的に心臓も硬質化し停止するという病気である。


 メイサの状態は胸付近まで硬質化しており、もうあまり時間がない。

 フェーン子爵は祈るように、


「早く。早く薬を。もし今追われているのが依頼したSG商会なのだとしたら……。頼む!なんとか間に合わせてくれ!」




 俺達は夜の貴族街を疾走していた。

 こういう言い方だととてもカッコよく聞こえるが実際は、


「待てこらー!」


 バンバンバン!


「私を狙うとかいい度胸してんなお前ー!」


 ドカン!ドカン!


「ぎゃあああ!」


 また1人やられて、それに巻き添えをくらった数人がもつれながら倒れた。


「いえーい!どうよロイド!」

「はいはい、ナイスショット。」

「だろぉ〜。あ〜楽しいな!」


 楽しいのはお前だけな!

 俺は疲れたわ!早く休みたい……。

 しかし厄介な事に、あいつがずっと追いかけてくるから休もうにも休めない。そうあいつだ。


「待てオリヴィアー!坊主ー!」


 ガシャーン!パリーン!ガラガラガラ!

 ブルゴが器物破損しながら猪の如く猛然と追いかけてくる。

 お前憲兵だろ!人様の物を壊してるんじゃないよ。

 ブルゴは俺達の事しか見えてないのか、何かにぶつかっても関係なく走ってくる。

 一体あいつの身体はどうなってんだ!?

 それに、身体強化の持続時間がもうすぐ切れる。

 いよいよヤバくなってきた。どうするか……。

 作戦を考えているとオリヴィアが、


「私に作戦がある。」

「どんな作戦だ?」

「ちょっとだけ危ないけど、成功したらさすがのあいつでも気絶するかもな!」

「よし!よく分からんがそれでいこう!」

「いいんだな?」

「ああ!」

「それなら止まってあいつの方を向くぞ。」


 俺は止まりオリヴィアを下ろした。そして振り向くとブルゴが追いかけてくる。

 それを見たオリヴィアは一息つき、


「ふぅ〜。ロイド、構えとけ。」

「ん?今から何をするーーー」

「いいから!あいつを殴る準備しとけ!」

「おっおう。」


 そう言われ、俺は構えをとった。

 それを見たブルゴはニヤリと笑い、


「やっと観念したか糞ガキ共!逮捕してやるわ!」

「……今だ!行くぞロイド!走れ!」

「わかった!」


 走り出そうとする俺の背中にオリヴィアの銃が当たる。

 おっおい、まさか……。


「いってこい!ロイドー!!!」


 ドカーン!!!


「うわぁぁぁーー!!!」


 作戦ってこれかーーー!!!

 人間砲弾と化した俺がブルゴの方に突進していく!

 ブルゴは止まって構えをとり、


「まずは……坊主!討ち取ったぞ!」


 ブンっと恐ろしくキレのあるパンチが飛んできた。

 身体強化してるのにギリギリ目で追えるくらいの速さだ!

 それを俺はなんとかかわし、


「いってぇー!クソ!くらえ!爆風に乗った俺のパンチをー!」


 ボコッ!!!


「ぐっ……。はぁーーー!!!」


 お腹にパンチを貰ったブルゴが、とてつもない勢いで吹っ飛んでいく。


 ガラガラガシャーン!!!


「「「そっ曹長〜〜〜!!!」」」

「よっしゃー!」

「やったぞオリヴィア!」


 俺達はハイタッチをかわす。しかしなんと!


「ぐはっ!はぁはぁ。やるな……お前たち……。」


 あいつの身体は機械かなんかか?

 痛みでも感じないように作られてるのか?

 ボロボロの姿になったブルゴが立ち上がってきた。

 しかし、ダメージは残っているようでふらついており、立ち上がるのがやっとだ。


「ロイド!今のうちに逃げるぞ!」

「了解だ!行くぞ!」

「まっ待て……貴様ら〜……。」


 吠えているブルゴを無視し、俺達は逃げ出した。

 そして逃げ切るのに成功するとそのまま、子爵の家まで戻り塀を乗り越えて窓から部屋へ飛び込んだ。


 パリーン!


 窓ガラスを割り、部屋の中に入ると頬の痩けたおじさんとベッドで眠っている少女がいた。

 驚いた顔の子爵と眠っている女の子を確認するとオリヴィアが、


「よぉ。あんたがフェーン子爵だな?」

「あっああそうだが。君達は?」

「あんたが依頼したSG商会のモンだ。これが依頼の薬だよ。」


 ポイッ。

 フェーン子爵目掛けて薬を投げ渡した。


「おお!これが。ありがとう……。本当にありがとう!」


 薬を受け取り、娘に飲ませるよう水を用意した。

 子爵はコップと薬を持っていき、


「さあメイサ。この薬を飲みなさい。」

「うぅ……。パ……パ。」


 コクコクと薬を飲み、再び眠り始める。


「なあ子爵。この薬の効果はどれくらいなんだ?」

「聞いた話によると、効果は約1時間くらいだそうだ。薬が成功していれば、メイサの硬質化した皮膚が柔らかくなってくる。」

「はっ!それまで待てるかよおっさん。」

「まあまあ。ちょうど休憩したかったし、待っとこうぜ。」

「ちっ!軟弱だなロイドは。わかったよ。」


 オリヴィアは近くの椅子に座りそのまま寝てしまった。

 って寝るの早いな!

 俺は子爵の方を向き、


「薬の効果も見たいですし、少し休ませてもらっても?」

「あぁ。構わないよ。ゆっくりしていってくれ。」

「子爵も少しは休んだ方が。顔色がかなり悪いですよ。」

「私は大丈夫だ。お気遣いありがとう。」


 子爵はメイサの手を握り祈るような仕草をする。

 これ以上何かを言うのは止め、俺も休むことにした。


 約1時間後……。


 俺はそろそろかと目を開きメイサちゃんの様子を見た。

 メイサちゃんの身体がほんのり光り出してきている。


「おぉ!成功だ。メイサの身体が柔らかくなってきている!」


 涙を流しながらフェーン子爵は喜んだ。

 薬の効果が出て本当に良かった。


「君達本当にありがとう!この恩は必ず返すよ。」

「いえ。俺達は薬を届ける依頼をしただけなんで。」


 子爵が右手を差し出したので、それに応え握手をする。その時、


 ドンドン!ドンドン!


 と、ドアを叩く音が聞こえる。

 いつの間にか起きていたオリヴィアが、


「奴等来やがった。」


 そう呟き。ゆっくりと身体を起こし、ほぐしていく。


「バロン!バロンはどこにいる!」

「はい。こちらに。」

「来客だ。誰か見てきてくれ。」

「かしこまりました。」


 そう言い残し、ドアの前にいた人の気配が消えた。


「うるさくしてすまないね。」

「いえ、お構いなく。それにしてもこんな夜中にも来客はあるんですね。」

「普段はそんな事ないんだがね。」


 トントントン。

 執事が戻ってきたようで、ドアを叩いて子爵に要件を伝えた。


「旦那さま、憲兵が来ております。どうやら窓ガラスが割れたのを近くの方が通報したそうです。」

「なんだと?今は不味い!私が対応する。君達は先に逃げてくれるか?」

「やっぱり憲兵か。嫌な気配がしたからなー。」


 オリヴィアはなんとなく予想していたのか、既に準備は万端だ。

 俺も急いで用意しーーー。


 ドンドンドン!


「フェーン子爵!こちらの部屋で何かあったと通報がありました。大丈夫ですか?」

「あっ……あぁ。大丈夫だ。少し気が滅入って思わずガラスを割ってしまった。」

「行くぞロイド!」

「あぁ。では子爵失礼します。」


 俺達は窓から外へ飛び出した。


「あ〜疲れた。さっさと帰ろうぜ。もう眠たいよ私は。」

「熟睡してたもんな。」

「お前!私の寝顔見たのか?」

「そりゃあんだけ堂々と寝てたら見えるだろ。」


 ボンッボンッボンッ!


「うぉわ!?何しやがる!」

「レディーの寝顔を見るな!」

「レディーはそんな物騒なもん振り回さねえよ!」

「とりあえず2・3回死んでこい!」


 依頼を達成し帰る途中、オリヴィアと壮絶な鬼ごっこをしながら帰ったのは余談である。



本日も読んで頂きありがとうございました。


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