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PenGuin  作者: 万々時意
9/13

溺れる魚5


風が強く吹き波は勢いを増す。

金塊を1つ持ちイワトビは男達を見る。

「......嵐になるな。」キングの声が聞こえた。

「こいつらどーするんだ?」

賄賂と分かった以上届け出るのが得策とキングは考えていた。

「偶然出会った船乗りに挨拶しただけだ。」そう言うと縛っていたロープを1人ずつ切って行く。


「お優しいね。」


「逃がしてくれるのか?」

「挨拶を交わしただけだ。お前らもそれでいいな。」

男達は困惑するも助かったという表情で安堵した。

「あの金塊は何だったんだ?」

「......悪い奴の悪知恵だ。」キングはそれ以上喋らない。

イワトビはその様子を静観し船の中に戻った......。






『N,S,S』本社社長室

クロがコーテイに伝える。

「中型船の手配が整いポイントへ向かわせました。」

「天候の状況は?」

「恐らく後一時間程で荒れるかと。」

「......そうか。」

心中を察する様にクロは俯いていた。

「1つ頼み事がある。」

動くべきは今なのだとコーテイは決断した。






Pingouin(パングワン)

動き出した男達の船をコガタは見送る。

「逃がして良かったの?」ジェンツーが訊く。

「......おやっさんの判断だ。」

並べられた金塊がキラキラと輝く。

コガタが覗き込む「恨めしそうに見てますね。」

「違ぇーよ。帰ったら面倒だと思っただけだ。」

「報告書に経緯の説明、警察による取り調べ、その他諸々やる事いっぱいだからね~。覚悟しときなよコガタ。」

聞いていないという表情で驚く「え~!?」



操舵室から空の状況を見るキング。

雨雲がどんよりと広がり、やがてポツポツと雨が降りだした。

「ジェンツー後どのくらい掛かる?」

「......2時間ぐらい。」

「間に合わないな......嵐が来るぞ。」

その言葉に2人の顔は強張り、コガタは胃の中が逆流するのを思い出した。






雨は激しさを増し、風は飛ばされそうな程強く、波は大きくうねり、船の揺れは立っていられない程だった。

「きゃー!!!」コガタは右へ左へと止まれない。

「おやっさん!このままじゃ沈むぞ!!」

「そう簡単に沈むか!ジェンツー修理は!?」

「ムチャ言わないで!こんな状況で出来る訳ないでしょ!!」

揺れは更に激しさを増し、しがみつくのもやっとだった。

「こりゃ、マジでヤバいな。」イワトビは最悪を想像した。


勢いの止まらない波風が容赦なくPingouinを襲う、動けない船の上で嵐が過ぎ去るのを待つしか出来ず、それぞれに焦りが出る。


キングは過去を思い出していた。

嵐の日、伸ばした手が届かずに失った『彼女』を......。


コガタは恐怖した。

判断を誤ったかと、後悔と反省が続く......。


ジェンツーは奮起する。

こんな所で終われないと、意地を貫く......。


イワトビは冷静だった。

近所の野良猫に餌をあげるのを忘れたと思い出す......。



最期の追い討ちとばかりに高波がPingouinを襲う。

終わったと思ったその時、波を遮る影が現れる。









ケープは繰り返し速報を伝える。

「今回捕まった現職議員の賄賂問題ですが、何者かによる通報により発覚、火星移住の反対派としても知られ、多くの疑問が残る事となりました。」

街頭ビジョンに映るニュースに足を止める者も多く居たが、過ぎ去る者もまた多く居た......。






ダイダイが率いる中型船に助けられたPingouinは、なんとか修理を終え帰港する事ができた。

手に入れた証拠品は直ぐ様届け出て白日の物となったのだ。

だが、警察からの取り調べ等がありクルーは疲労困憊で、船はオーバーフォールに入り暫くの休暇が余儀なくされた。


キングが報告書を手にエレベーターを待つ。

開いた先に居たのはコーテイだった。

「......乗らないのか?」

無言で乗り込む。

「......わざわざ動いてくれたってな。」

「礼を言うなら遠回しに言うなよ。」


「助かった......。」

「あの時の......いや、社員を守るのも仕事だ。」


2人の間に流れる空気は張りつめる訳でもなく、2人にしか分からない緊張感があった。

「そういえば、警察から金塊が1つ足らないと言われたのだが。」

「......さぁな、海の中に置いてきたかも。」

「そう、答えておいた。」





『N,S,S』から程近いBar『ダザイ』

船乗りご用達のプールバーだ。

普段はやかましいぐらいだが、今日はジュークボックスの音楽が心地好く聴こえるいい日だった。ただ1人口の止まらない女が居た。


コガタは喋る「やっぱ奇跡ですよねあのタイミング!」

喋りすぎだとイワトビは呆れる。

「アンタの興奮はいつ収まるのよ?」ジェンツーも呆れていた。

「いやいや、だって凄くないですか?私達生きてるんですよ!」

「やかましぃ~......静かに呑ませろ。」

店のドアが開きキングが来る「やってるか?」

「おやっさん、この女黙らせてくれ。」

「何言ってるんですか!まだまだ喋りますよ!」

イワトビとジェンツーは疲れきった顔で椅子に深く座る。

止まらないコガタの喋りにキングは笑う。

「そう言やイワトビ、金塊が1つ足りないらしい。」

全員がイワトビを見る。

「まさか、アンタ!」

「盗んだんですか!!」

面倒くさそうに話す「......海に投げ棄てた。」

2人が口を開け呆然としているとキングが笑う。

「ハハハハ。」


「えっ?棄てたんですか!?」

「本当かしら、盗んだんじゃないの!?」

「やるかよ!」


責められるイワトビと責めるコガタやジェンツーを見てキングは笑う。話しの尽きない夜が始まったのを楽しそうに......。









帰港する船に出迎える人々は手を振る。

家族の無事を感謝する者、笑顔いっぱいの子供。

港に降り立った男の手には金塊が握られていた......。







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