溺れる魚4
世界が海に沈み始めた頃人々は逃げる場所を求めた。
海上都市、軌道エレベーターから伸びるコロニー、月。
それらを新たな住みかとし生きる事を決断した。が、暮らす為には金が必要だった。
持たない者は大地に生きた。
迫り来る海から逃げる様に中心へ......。
そこで待っていたのは、やはり金だった。
後ほんの少し、金があれば............。
男は話す「コンテナはまだある。」
言葉の真意を探る様にジェンツーは訊く。
「アタシ達がどういう状況か理解してるの?」
「壊れたんだろ......なら、使える物があるかもな。」
信じるに値するかイワトビは考える。
「なら、取りに行きましょう。」結論を出す前にコガタが決めた。
「あのな、こいつらの言う事信じるのかお前?」
「可能性はあると思います!」
その言葉に語尾が強まる「不確かなんだよ!何かの罠かも知れないとか、考えないのか!?」
「でも、ウソはついていないと思います!」
「だ・か・ら!根拠がないんだ!!」
ジェンツーはそんなやりとりに提案する「ハイハイそれまで。まっ、イワトビの言う事は正しいけど、どうにもならない状況で漂流して飢えるよりも、試して損はないんじゃない。」
その言葉に勝ち誇った顔をするコガタ「準備してきますね!」
納得のいかないイワトビはふてぶてしく目を逸らす。
「アンタって、もっと自由本坊だと思ったけど。」
「......アイツといると、ペースが崩れる......。」
『N,S,S』本社 社長室
「ですから、金塊についての情報を。」
《君が知る必要はない、言われた通り仕事をすればいい。》
「......噂があります。もしそれが本当なら、アレは存在しない物として処理されます。」
《......私を脅しているのか?》
「脅される様な事が有るのですか?」
《いいか、この件はデリケートなモノだ。君のやり方次第ではこちらもそれ相応に動くぞ......言葉は選びたまえ。》
「分かりました。」
裏は取れているが証拠はなく、押し通すには不十分だとコーテイは考えていた。
スーツに身を包み潜って行く2人。
「いい、細かい事言っても分からないだろうから、見付けた物を片っ端からカメラで見せて。判断はアタシがする。」
《了解。》
コガタは初の潜水という事もあり、不安や恐怖よりも、期待や嬉しさで楽しくて仕方なかった。
《うわ~魚だ!あ!あの魚見た事ありますよ!!》
はしゃぐ姿にイワトビは冷たくあしらう。
《うるせ~!さっさと終わらせて戻るぞ!!》
キングは縛られた男達から話しを聞く。
「んじゃ、その男に聞いたって言うのか?」
「そうだ。嵐の日コンテナを積んだ船が沈むのを見たって。」
情報の流出はその男。だが、分からない事が多すぎた。
「その男は金塊が積んである事も言ったのか?」
「いや、コンテナの事しか聞いてない。」
腑に落ちなかったがこれ以上の情報はないと判断した。
「......だが、無謀過ぎないか?あんな軽装で潜ったらどうなるか、知らない訳じゃないだろ。」
「安全な場所で暮らすお前らには理解出来ないさ。大勢の人間が陸地で暮らしている。海のすぐ側で!金があれば......家族だって。」
「......場所が欲しければ勝ち取れ、勝つ為には考えろ、恥かいて、笑われて、罵られて、それでも生きろ。」
「それで、いつか勝てるのか?」
「さぁな、負ける時もある。だが、負けない意地は生まれる。」
男は笑う「......意地で飯が食えるか。」
「プライドを腐らせるな。」
海中は暗く、うっすらと射し込む光りが照らしてはいたが、想像した世界と違う事にコガタは少しがっかりした。
《はぁ~......。》
《なんのため息だよ?》
《なんか、もっとこう、ブワーッと......感動するかと。》
イワトビは呆れていた。
《だって、初めての海ですし思ってたのと違う......。》
《知るか。》イワトビは1人深く潜って行く。
《あ!待って下さいよ!!》
更に深く潜って行くと沈んだ船が見えた。
《アレが例の船ですね!》
《ジェンツー、散らばったコンテナを見ていく。》
「了解。コガタ、気をつけなよ。」
2人は船の廻りを探索していく。
《でも、具体的に何を探せばいいんですか?》
「まぁ、エンジンパーツなんだけど......代用品って、アンタに言って理解出来る?コガタ。」
《機械です!》自信満々の答えにジェンツーは笑う「正解。」
《くだらない事言ってないで真面目に探せよな。》
散乱するコンテナは縦や横、斜めに連なり、今にも崩れ落ちそうで不気味な雰囲気を醸し出していた。
扉の開いた物がいくつかあり、探索した形跡が見られる。
《あいつら、手当たり次第だな。》
「開いてないコンテナはどれくらいあるの?」
《数的には多くない。》
「見付けてたら何か言ったはずだから、開けてない物を探して。」
コガタは1人捜索する《......こっち、閉じてるのありますよ。》
斜めに傾いた船の真下、開いていないコンテナ。
《調べて見ますね!》近付いて扉に手を伸ばすと引っ掛かっていて上手く開けられない《ちょ、硬い......!》
甲板に引っ掛かった錨がゆっくりと動く。
《イワトビさ~ん!!》
振り返りコガタを見た時、船の上から錨が落ちてきた《避けろ!!》《えっ!?》真っ直ぐコガタを狙う様に一直線に《チィッ!!》全速力でコガタに突進すると間一髪で錨が落ちる。
舞い上がる土煙の中コガタを庇うイワトビ。
「何があったの!?」
《......新人が死にかけた。》
「えっ!!コガタ大丈夫なの!?」
《はい......イワトビさんが助けてくれて。》
イワトビは不機嫌な顔でコガタを見下ろす。
錨の衝撃で開いたコンテナの中に、車が見えた......。
Pingouinに備え付けられたアームがキリキリと音をたて引き揚げる。
「車の部品なんか使えるのか?」キングは少し不安そうだった。
「とりあえずの部品だし試してみる価値はあるわよ。」ジェンツーはそんな不安を取り払う様に笑っていた。
海面からコガタが揚がってくる《言われた部品はこれで最後です。》
「サンキュー!イワトビは?」
《それが車の中に......。》
船のリビングテーブルに無造作に置くアタッシュケース。
「助手席で見付けた。」イワトビは煙草に火を点ける。
「中身はなんなんだよ?」
「さぁ......金目の物?」
「回収目的のない物は違法。アイツらと同じじゃない。」
「緊急処置とかなんかだよ、部品の回収中引っ掛かった。」
「ったく、持って来ちまったのはしょうがないし開けてみろよ。」
イワトビはアタッシュケースを嬉々として開ける。が、中にあったのはケースに入ったマイクロチップのみだった。
「んだよコレ!?」
「貸して。」ジェンツーは受け取るとPCに差し込む、モニターに映し出されたのは数字の羅列と人の名前。
コガタは身を乗り出し訊く「なんですかね?」
「......こりゃ、アレだな。」キングは頭を抱え応えた「いわゆる、裏帳簿。賄賂の証拠だ......。」
顔を見合わせる一同は金塊の意味を考えた......。