溺れる魚3
TVキャスターの席に座るケープはニュースを伝える。
「続いてのニュースです。火星移住に反対を唱え、反対派の支持を集める欧州の政治家が、我々の取材に応えました。」
「火星移住など論外だ。各国の主張や領土問題など何も解決していないのに、こんな状態のまま火星で安全に暮らせると言うのか?」
「ですが、この先地球での暮らしが困難になると言う見解があり、食糧などの問題もあります。」
「だから、今すぐ計画を破棄しこの星で生きる道を模索すべきだと、私は言っているのだ。」
「......もう1つお訊きしたいのですが、反対を唱える事で反対派からの恩恵があると噂がありますが、それについては?」
「なッ!何の話しだ!!関係ない話しなら私は帰る!」
船は穏やかな海を進む。
雲1つない空は、太陽の熱を直接伝え、肌が焼けていく。
「......だから、結びが逆なんだよ!」
「あれ?教えてもらった通りなんですけど。」
イワトビは苛立っていた。ロープの結びを何度教えても間違えるコガタ、勢いで乗り切る不器用な性格が露呈した。
「おやっさん、こいつダメだ!海に捨てよう!」
「えッ~!待って下さい!次は必ず!!」
なんだかんだと面倒をみてる事にキングは笑う。
「大将、レーダーに船影!何か見える?」
双眼鏡を手に辺りを見回す。
「......定置網の船......?」
ポイント付近に停泊する一隻の船、見えたのは大量の金塊だった。
「違法サルベージャーだ!!!」スロットルをフルに加速する。
急な発進に頭をぶつけるコガタ「痛ッ!なんなんですか!?」
「違法行為だよ!おやっさん!銛使うか!?」
「あぁ!用意しとけ!!ジェンツー!」
「分かってる!それより、無茶させないでよ!」
何かに掴まっていなければ振り落とされそうで、コガタはまだ状況を飲み込めず、激しい揺れの中、平然と動くクルーに驚いた。
「違法サルベージなんですか!?通報すれば!!」
「依頼品なのよ!いいから、アンタはしっかり掴まってな!」
定置網の船はようやく気付き逃げようとするが、Pingouinは突っ込む勢いで近付く。エンジンをスタートさせ全速力で動き出すが、その差はみるみる縮まる。
船首で捕鯨砲の準備をするイワトビ「おやっさん、もう少し近付け!!」セットした銛を狙い定める。
「おう!!逃がすなよぉ!!」
波のリズムに合わせ、呼吸を整え、スイッチを押す。捕鯨砲から発射された銛は船を捕らえ、すかさずレバーを後方へ切り替える。
「ちょっと!エンジンから煙り!!」
前進する力と後退する力が銛に結ばれたロープを張る、イワトビはそれをつたい相手の船へ乗り込んだ。
「おい!そこまでだ。」
拳がイワトビの頭をかすめカウンターの膝が相手の腹を打つ。
「久々だねぇ、この感覚......3対1ってのも、悪くない!!」
脱兎の如く1人目を殴り倒し、2人目の右フックを避けて回し蹴り、3人目が銃を手にしたその時「やぁーッ!!」飛び蹴りが3人目を見事にとらえ銃は海の底へ......現れたのはコガタだった。
「ふしゅ~......。」
3人目はコガタに突進するが「はぁッ!!」正拳突き、そのキレイな構えは一瞬時を止めた様に、優美さを誇っていた。
構えを整えコガタは発する「......押忍ッ!!!」
見せ場だと思っていたイワトビは呆気にとられる「へッ?」
『N,S,S』本社 社長室
「失礼します。」アデリーは慌てた様子で入って来る。
その姿にコーテイは手を止めた「何事だ?」
「それが、欧州からの依頼の件が外部に......。」
「......サルベージには誰が行ったんだ?」
「Pingouin号が向かいました。」
「直ぐに連絡を、それと欧州に取り次いでくれ。」
アデリーは言いにくそうに告げる「その事なのですが......。」
「なんなんだお前!俺の手柄横取りしやがって!!」
男達を縛り上げ船に戻ったイワトビは怒りに震える。
「だって、イワトビさん危なかったし!助けたんですよ!」
二人の喧嘩を楽しそうに眺めるキング。
「イワトビ、良い相棒が出来たな。」
「はぁ?いいかおやっさん、戻ったらコイツ捨ててこい!!」
「そんな権限無いと思いますけど!」
そんなやり取りをジェンツーが止める「ストップ!問題発生よ。」
「結論から言えば、エンジンが壊れた。」一様に驚く。
「船を動かせないって事か。」
「えっ!?帰れないって事ですか!?」
「まぁ、今のままじゃどうにもならないわね。」
イワトビは笑い飛ばす「大丈夫だろ、助け呼べば。」
「それもムリなの。」ジェンツーの真剣な顔に不安が募る。
キングは船長としての責任から、クルーを落ち着かせる為ゆっくりと、状況を理解する様に訊く「どういう事なんだ?」
「エンジンが壊れた事に関しては、前から話していた通りなんだけど......無線に関しては、不感地帯なのかスキップゾーンなのか。」
「なんですかそれ?」
「簡単に言えば、電波の届かない穴に落ちた。」
「んじゃ、船で穴から出れば......」
「動かない船でどうやって?」呆れた顔でイワトビを見る。
コガタは状況を理解した「......漂流......。」
本社ビル20階 総合司令室 通称『覗き屋』
大型のモニターに並べられたPC、全船を監視出来るその場所は『N,S,S』の社員でも限られた人間のみで構成される。
司令室代表『クロ』もう1人のコーテイと呼ばれる影の男。
「お待ちしておりました。」
コーテイが司令室に入るとクロは説明を始める。
テーブルに触れ3Dの映像が現れた「Pingouin号からの最後の通信がこの場所で、彼等の目的地がこちらになります。」
「......目と鼻の先だな。金塊についての情報が漏れているらしが、関係性はあるか?」
「それについては調査中ではありますが、コンテナ船の乗組員から漏れた可能性も考えると、足取りを追うのは難しいかと。」
「今は船を探すのが先決だな。近くの船に捜索させろ。」
「その事なのですが、天気の状態が不安定で、二次災害の危険性があり、目的地付近への接近が困難な状況です。」
コーテイは驚き困惑するがそんな顔を見せる訳にはいかないと、一呼吸し落ち着くと、何時もの自分へ戻る。
「分かった。天気の回復後捜索を開始してくれ。」
コーテイはそう言うと司令室を後にした。
廊下の角を曲がると、壁を叩く。
「......キング、お前まで......。」
定置網船でジェンツーは使えるパーツを探す。
イワトビは金塊を手に考える。
「......まぁ、盗みたくなるのも分かるわ。」
「そんな事したら、一発退場の逃亡者よ。」
「......ハリソン・フォードだな......。」
コガタは船の装備を見て廻りある物を見付ける。
「あの~......。」
「どした新入り?」
「これ。」出して来たのはウェットスーツと酸素ボンベ。
「それがなんだよ?」
「いや、こんな格好で潜ったのかなって思って......。」
「......どーでもいい。」
「ダメですよ!こんな、何の防御も出来ない格好で潜ったら、汚染されて、命を削っているだけじゃないですか!」
「俺には関係ないし!お前にも関係ないだろ!」
縛られた男が笑い出す「ハハハハハハ......アンタの言う通りだよ。誰だって他人なんか関係ない。命を削る?汚染?生きてるだけで、削って侵されてんだ!今さら......。」
「それでもダメです。自分でも誰でも守る為なんですよね、あんな軽装で潜って金塊を手に入れたのは、守る為なんですよね。だったら、残された人は悲しみます......だから、ダメです。」
男達の目にコガタがどう見えたのかどう感じたのか分からないが、イワトビには後悔している様に見えた......。