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PenGuin  作者: 万々時意
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飛べない鳥2



澄み渡った空に一羽の鳥。

渡り鳥だろうか?仲間とはぐれたのか?何処までも続く青を飛ぶ。

羽を休める場所を探しているのか?餌を欲しているのか?首を左右に振りながら何処までも続く青を見ていた。




海を渡る一筋、存在を押し通す様にグングンと前に進む。

操舵を握るキング、潜水スーツをチェックするイワトビは破格のボーナスにニヤケが止まらない。

大地が失われつつある世界で海に入るという行為は危険で、潜水などはもってのほかだった。流された汚染物質や放射能それらが及ぼす人体への影響、そうして作られたのが潜水様スーツだ。と言っても、原型は1世代前の宇宙服であり、それに改良を加え海中での動きやすさを重視したスーツになった。潜水、浮上、移動様のブロアー(空気を吹き出す装置)を背中に搭載し、転換、緊急用のブロアーを腕に搭載、汚染等による海中での活動時間に制限はあるものの、効率良くスピーディーに動ける仕様となっていた。



キングは改めて依頼書に目を通す。

自動航行に切り替え、ボーナスに目が眩み判断を誤ったかと考える。

「ん~......。」操舵室に入ったイワトビはそんな様子を笑う「心配するなって。」

「そうは言ってもだ......モノのサイズは小さいし、ポイントの海域は流れも速い、冷静に考えりゃ、ライバルはいないかもな。」

「そりゃ、ラッキー。」イワトビは楽観的に応える。

「まぁ、唯一の希望は保管状態が、かなり良いぐらいか。」

「自前の金庫だろ、流されてる心配はないな。」

生まれ持った性格を変える事は難しい、キングは慎重派、イワトビは行動派、だが相反するからこそ感化され、柔軟になる事をキングは知っていた。

が、「......嫌な予感がするよ。」受け入れるのもまた難しい。






インド洋沖合、赤道から伸びる軌道エレベーター、その直下に拡がる海上都市。都市が建設されたのは軌道エレベーターとほぼ同時期、年々進む海面の上昇に合わせる様に避難民を受け入れ、その規模は3500k㎡の面積を作り上げ、1800万の多種多様な人種が暮らす様になり、大都市となった。

更にその規模を拡張しようと建設が始まった頃、火星への移住が発表され、建設は中止、今では頓挫した建設現場があちらこちらに見られた。

また『N,S,S』もこの海上都市をベースとしている。





HOTEL『ヘミングウェイ』

海上都市で唯一の2つ星ホテル、富裕層をターゲットにしたその作りは絢爛豪華で最高級のもてなしを提供し、カジノや娯楽施設など、一時期の海上都市ブームを牽引し、3つ星間違いなしと言われていたのだが......。


ある年、審査を任された調査員が訪れ、提供されたサービスやスタッフの対応などに良い好感を持っていた。抜き打ちとは言えホテル側も情報は掴んでおり、スタッフも万全の体制で調査員を迎えていた。

レストランのウェイターは体調が悪かったのか?それとも何時もそうなのか?トレーに乗せた食事を調査員にひっくり返してしまう。調査員は仕方の無い事だと怒る事はなかったが、ホテル側は大慌て、直ぐに替えの服を用意しクリーニングを試みたが染みは消えずに、調査員はホテルを後にした。

その後下された評価が星2つ。調査員の服は亡き妻からの贈り物だとか、ホテル側のやりすぎたサービスだとか、噂は絶えなかった。ちなみに、トレーをひっくり返したウェイターは、その後ホテルで見る事はなく、今でもホテルを恨んでいるとか、こちらも噂が絶える事はなかった。



最上階、スイートルームに老人は居た。

都市を見渡せるその場所から、外の音に耳を傾ける。時折、車のクラクションが聴こえ、サイレンの音、聞こえてくる高さではないのに、罵り合う人の声が聞こえた気がした。

幼い頃そんな環境で育ったからか、そんな環境に長くいたからか、罵声や暴言を聞くと自分が存在している事を実感した。良くない事ではあるが、そう生きて来た自分を否定する事も出来なかった。


一度だけ、存在している事を実感出来た場所があった......。


庭に置いたテーブル、並べられた食事、妻や子供達、孫の笑顔、馬鹿にする言葉も、貶める言葉もなく、日常を語る、暖かな午後。


あの瞬間だけは祈った事もない神に感謝した。

老人は思い出して微笑むが、同時に涙をながしていた。




スーツに身を包んだイワトビがダイブする。

「いいか、とりあえず状況確認だけに留めとけよ。」

《確認も何も、見つけたら頂くだけだ!》イワトビは背中のブロアーを回すと深く潜って行った。

キングはモニターや資料を確認しながら、パソコンで算出を繰り返す。

《んで、計算は合ってたのかよ?》

その無線に根を上げる。「まぁ、......多分な。」

《おいおい、おやっさん、居ないクルーの代わりは務まらないか?》

「......適材適所って言葉は、便利だよな。」


ヘルメット両側に付いたライトを点ける。

潜り続け、やがて海底へと着く。光りが淡く差し込む位の水深。

《おやっさん、底に着いたぞ。》

「何かあるか?」

《特に......あ、多分鋪装された道だ。》劣化が進み完璧な状態とは言えなかったが、そこには人工的な道があった。《行ってみる。》

「了解、注意は怠るなよ。」




荒波を立てる一隻の船。キングはそのエンジン音で外を窺う。見馴れた小型船が近付いて来た。「イワトビ、面倒な奴が来た。」

《......客か、誰だ?》

「クランチだ。」近付いた小型船は横に着け停まる。

《はっはっ、おやっさんにぶん殴られた事、まだ、根に持ってたか?》

「さぁな......。」小型船の給料は基本出来高だ。火星移住発表後増加する個人案件に伴い、小型船は業務を委託する様になった。成功報酬の大きさや失業率の増加が拍車を掛け、今や小型船は軽いゴールドラッシュの様相を呈していた。

正規の社員であるキング達は最低賃金の保証が有り、委託された完全出来高正のクルー達から敵視され、会社内外から孤立する存在だった。その状況をイワトビは「少数精鋭、孤軍奮闘、自由だねぇ。」と、楽しんでいた。


「よぉ~キング!!出てこいよ!!」

「......呼ばれてるから行くわ。」重い腰を上げる。

《ちょっと待て......。》イワトビはゆっくり動く明かりを見つけた。《奴の相棒も来てるな......そっちは任せた。》

それを聞いて船外へと顔を出す。「よぉ、クランチ。」




イワトビは明かりの場所へ近付くと、石畳の広がる小さな町である事に気が付く。「昔の映画にありそう。」建物は崩れ、屋根のない家屋、その中から魚の群れがこちらを警戒していた。

町の中心、広場にある一体の女神像は腕が無く虚ろに見上げている。

「水も滴るいい女......ってか。」建物から明かりが漏れる。イワトビは自分のライトを消し様子を窺う。

明かりの主は家屋をしらみ潰しに探し、その後を静かに追った。




「ここで何してる......何て質問は馬鹿みたいか!?」クランチは不適に笑う。

「遠洋してるって噂だったが、成果はあったのかよ?」

「あぁ、この近くだったんだが無線が入ってな、なんでも多額の報酬だって話じゃねーか、来ない理由はないだろ?」

キングは煙草に火を点ける「ふー......先にポイントに居たのはウチだ、今回は諦めろ。」

「そうはいかねーなー、ウチのラチェットがポイントにいる。」

火急を要する依頼はサルベージポイントへの先着順が適用され、同着の場合は両者による話し合いが適用された。

「潜らせたまま行かせたのか!どれぐらい経った?」

「速い者順だからしょーがねーだろ。」その答えに怒りを表にする

「分け前は半々でいい!直ぐに上げろ!」スーツで身を守っているとはいえ汚染を完全に防ぐ事は不可能であり、潜水していられる時間が定められていた。大幅に時間を越え二度と潜る事が出来なくなったり、命を落とした人間を何人も知っていた。

キングは無線を繋ぐ「イワトビ聞こえるか!?」


イワトビは建物の陰からラチェットを見張っている。

《なんだよあわてて?建物の調べならもうすぐ終わるぞ。》

「ラチェットは近くか?」

《近くも何も目の前に居るよ。》

「潜水の許容範囲を越えてやがる、直ぐに上げてやれ!」

《......了解。》ラチェットへ近付き肩に手を掛ける、驚いて振り返るが予想した様に無線を繋いできた。

《イワトビ......随分遅いご到着だな。》

《んな事より、お前何時間潜ってる?》

《あ?......他人の心配とは余裕だな、俺はもう目星は付いてんだぞ。》

キングが無線に割って入る。《聞こえるか、ラチェット!何時間潜ってるか知らねーが危険だ、直ぐ上がって来い。》

《ラチェット、コイツらその間に横取りする気だ。》クランチが更に割って入ってきた。

《わーてるよクランチ、先に見つけて俺らの物だ!》ラチェットはそう言うと建物の外へと出る、その瞬間ラチェットの姿は消え、無線から聴こえる叫び声。

ハウリングの後キングは慌てて無線を取る。

「なんだ!?何があった!!?」


《......サメだ......しかも、ミュータントだ......。》




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