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PenGuin  作者: 万々時意
10/13

吼える鼠



〜理性なんてものは情熱の奴隷ですからな。

私の方がかえって被害者かもしれませんよ。〜

『罪と罰』 F,M,DOSTOEVSKI










海上都市は大きく分けて、国連、経済、警察、医療、歓楽、それはまるでピザカットのそれの様で。

更にそこから細分化される形で居住地等があり人々は生活していた。


歓楽街、入り口である中心部は華やかな彩りで日頃の疲れを癒す者や、快楽を求める者で賑わいを見せる。だが、中心から離れて行く程に怪しい店も多くなり、犯罪や貧困などの差が強くなっていく。


ストリップ劇場『ドストエフスキー』

かつては歓楽街でも有名な店で、踊り子の評判も高く映画スターや実業家など多くの浮き名があったが、今では中心の店に客を持っていかれ羽振りのいい客など殆ど来ずに、廃れた店として時代錯誤だった。


店の2階、踊り子の住み込みに用意した部屋がイワトビの住処だ。

乱雑に物が置かれた部屋、ベッドで目覚めたイワトビは隣に寝る女に見覚えがある。それよりも、呑みすぎた二日酔いの喉がカラカラでキッチンへ行く。冷蔵庫には食べかけのピザとビールが2本だけで、仕方なく水道水を流し込む。

「はぁ~......。」

「イワちゃんおはよ~。」半裸で起きてくる女。

「また人のベッドに潜り込んだのかよ?」

「え~、覚えてないの?」

昨日の出来事など覚えているわけもなく「......?」


「久々に帰ったと思ったら、下でドンチャン騒ぎして階段も昇れなかったんだよ。運んであげた事に感謝してよね。」

なんとなく思い出したが曖昧だった。

「まっ、熱い夜だったよ!」

「うるせ~、とっとと踊ってこい!」

女は服を取ると部屋を出て行く。




店の裏手に通じる階段を降りる。

通りを走る車はクラシックと言えば聞こえはいいが、要は古臭い黒煙を噴き出す代物で、呑んだくれて路上で眠る人、その人間から財布をくすねる人、くすねた財布を奪う人......社会の底辺の様な所だった。


そんな場所でもイワトビには愛着があり住みやすい街だった。


店の前女達が話し掛ける。

「ちょっとイワちゃん!なんで昨夜(ゆうべ)はあの娘だったの!?」

「イワトビ~、今夜はアタシが行くよー!」

「抜け駆けズルい~!!」


この街に来たばかりの頃、イワトビは住む場所も決まっておらず途方にくれていた。偶然店の前を通りかかった時、男に襲われそうな踊り子を助けた事がきっかけで2階に住むようになったのだが、それからと言うもの用心棒紛いの事をさせられ、本職が何なのか自分でもハッキリしなくなってきた。

「また今度な~。」







路上で売るホットドッグ。

ワゴン販売と侮るなかれ世界一美味いとイワトビは豪語する。

ノリノリのDJ風スタイルで店主が話す「いらっしゃいイワさん!」

「いつもの1つ。」

「あいよ!」手際よくソーセージを焼きパンも軽めに焼く、ワゴンから取り出したどっさりのザワークラウトを挟みソーセージを乗せる、仕上げにケチャップとマスタードをかけて渡した。

「おっと、忘れる所だった。イワさん特製ソース!!」

そう言って取り出したタバスコをこれでもかとかけはじめた。パンの色が変わるほどに......。

「コレが1番美味いんだよ!」


味覚が変な事を店主は言わない、売れればいいから。だが、作り手としては少し悲しかった......。

「んじゃ!」代金を払いイワトビは歩きながら食べる。






白衣姿に眼鏡をかけた女が走る。

走る格好には似つかわしくないが、何より合っていないのは場所だ。

歓楽街、しかも貧困層の路地裏。

わき目も触れずに必死に走る。その表情から見て取れたのは逃げるという表現の方が当たっていた。現に彼女を追う2人組の男は血走った目で捕まえようとしていたのだ。


裏路地から大通りに差し掛かった時イワトビに当たる。


イワトビはホットドッグを大事そうに掲げ、女を庇う様に抱く。


「......大丈夫?」

その言葉にハッとする女「す、すいません、急いでいて。」

「いや、怪我がなくて良かった(ホットドッグも無事だし)。」

「あ、あの......私......。」

女の表情に焦りが見え何事かと気になったその時。

「もう逃がさねーぞ!!」2人組の男が追い付く。

咄嗟(とっさ)にイワトビの後ろへ隠れる。

「なんだテメー!邪魔する気か!!」

「邪魔っていうか、関係ないというか。」

「ごちゃごちゃうるせー!!!」不意打ちの右フックが入る。

その衝撃で落下するホットドッグ。


「......俺の楽しみを......。」


一瞬だった。男は自分が何をされたのか分からなかったが股間を強烈な痛みが襲う。有無を言わさず回し蹴りをくらわせ男は飛ぶ。


もう1人が叫ぶ「テメー何しやがる!!」

「ホットドッグの恨みだ。」

ナイフを取り出し切り付ける。が、呆気なく弾かれて右ストレートで殴られる、2人組は敵わないと悟ると「お!覚えてやがれー!!!」捨て台詞を吐き、逃げて行く......。




「あ~、クソ!俺のホットドッグ!!」


そういえばと女を探したが既に居らず、何に捲き込まれたのかさえ分からないままイワトビの苛立ちが募る。

ふと足元を見るとカードが落ちていた。


「なんだ?......製薬会社、社員証『ジェーン・ムラサキ』。」











商業街

ショーウィンドウに並ぶブランド品や輝きを放つアクセサリー、新作を取り入れたバッグ。だが、コガタにはあまり興味はなかった。

「あ~ん!」大口を開けホットドッグを頬張る。

アデリーは昔から変わらないと思う「花より団子よね~。」

「ん?なに?」

「なんでもない。それよりどこか行きたい所ないの?折角の休暇なんだから、付き合うわよ。」

「ん~......特にない。」誘われた時から考えてはいたのだが思い浮かばなかった。

「何かあるでしょ!?地球に来たのだって今回が初めてなんだから、見たい物とか?行ってみたい場所とか?」


コガタとアデリーは軌道上にあるコロニー産まれ。地球に来た事がない人間もこの時代では大して珍しくもなかった。


「なんか......地球に来る前は、色んな事考えていたんだけど。」

この前の事件で何かあったのだろうとアデリーには分かっていた。だが「言いたいなら聞くし、言わないなら訊かない。」妹の様に可愛いからこそ、甘やかすのはダメだと思った。


「私達って恵まれ過ぎているのかな?」

「......そう、捉える人もいるわね。」

「火星移住もあるし、皆、気持ちは変わらないと思って。」

「価値観なんて人それぞれよ。妬んだり、恨んだり、そうしなきゃ生きれない人もいる。」


悩み考える姿が成長を感じ、余計可愛いく見えた。

「まっ、アンタはアンタの答えを信じなさい。」

コガタは自分さえ疑っていたのかもと、気分が少し晴れた。

「うん。そうする!そうと決まればやっぱイワトビさんに会って来る!!あの人......内緒だけど、金塊盗んだかも。」

アデリーは何の話しだと困惑する。

「そうだよね!ちゃんと謝って返す様説得してくるよ!!」

鼻息荒く歩き出すコガタにアデリーは何か違うと感じた。










歓楽街、警察署

特異な場所という事もあり、商売繁盛、大盛況、何時も人でごった返していた。景気の良い警察ほど悪い事はなく、この場所への移動が伝えられ、多くの警察官が辞めて行ったという逸話が残るほど、面倒な場所だった。


そこで働く1人の刑事『マカロニ』幾つもの修羅場をくぐり抜け得た鋭い目は女性受けが高く、男からは一目置かれていた。

忙しさにくたびれていると電話が鳴る「はい、刑事課。」

聴きなれた声に笑う「......よう。」




警察署の向かい、イワトビは2個のカップを手に待つ。

道路を小走りに渡るマカロニ「よう、久しぶり。」

無造作に持っていたカップを渡す。

「お前の奢りなんて怖いねぇ~。」

「要らねーなら捨てる。」

「まっ、貰っとくか。で、急に連絡してきて何の用だ?」

「女が襲われてた。」社員証を渡す。

「......ラットマット製薬会社。」

「2人組に狙われてた。」

「奢りに人助け、お前偽物か?」

「人助けはお前の仕事だろ!斡旋だよ。」

「生憎、商売繁盛なもんでな。手はまわせねーよ。」

カードを奪い取る「そーかよ。」


「顔出したのはそれだけか?」

「......あぁ......。」

「軍に戻る気なら、大佐に話して」「いらねーよ。」

イワトビは目線を反らす。


「まっ、製薬会社については調べてやるよ。しかし、潜水士の次は私立探偵とは......お前もいい加減、定職着けって。」


「バーカ。落とし物を届けるだけだ。」







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