表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

5話 被害者は被害者面をしない

「どうして? ……どうして知ってるの?」


 少女が茫然としながらもそう口にした。


「たまたま見えてしまったから、というしかないね」


 たまたま、スーパーマーケットで勘定の際、手首から先が見えただけ。そしてアザがあった。それで察した。何もかも。

 少女は親に暴力を受け、命令されて、買い物をしている。

 少女は笑顔を振りまいているが、それは笑顔を振りまいているときが一番親に殴られないから――あるいは両親が不機嫌にならないからに他ならない。

 少女が長袖長ズボンなのは、暴力よってできたアザや血を隠すため。恐らく、腕だけではなく、足も酷いことになっているのだろう。この暑い時期に、長袖長ズボンなのだから、足も少女らしからぬ傷を負っているのだろう。


 親が、ストレスの捌け口として少女を虐め続けていた。

 それが少女の家庭の常識であり日常であり、僕にとっての日常の謎。

 常識は人によって異常識に――異常式に――異常志気に変化する。

 日常は弱肉強食の世界であり、日常は蹴落とし合いの日々であり、――日常は虐めだらけである。

 虐め――大人がやっているから暴行罪となるのだろう。そして親は子を脅して、その罪を隠す。

 幼い娘に罪を隠す行為なんて簡単だったのだろう。

 例えば、このことをバラせば殺すだとか、もっとひどい目に合わせるとか、果てには友達を虐めると言い続けたり。考えたらキリがないが、少女は少女ゆえに世界を全く知らずに、親に支配され続けて、ここまで異常な人物に育て上げられていた。


「殺される……!!」


 箱の中の少女は、解決策を持っていない。脅迫され、逃げ道がないように思わされている。だから少女は勘違いして逃げ道が無いと――そう思っている。

 ばれたから、イコールで殺される。そんなバカげた思考で固定されている。

 僕はその考えを訂正させる。


「殺されるわけないじゃないか、君の親は放任主義なのに、いつまでも見守ることもない。君は多分GPSもつけられていないだろ? もしも仮にGPSとかで場所が割れていてももう遅い――警察に言ってしまえば、それで親に殴られたりすることはなくなる。さあ、今から交番に向かおう。あるいは電話するってのもありだけど」


「駄目」


 ずいっと僕の目の前に迫る。

 少女は、再び笑う。このときばかりは既に事情が分かった僕でも恐怖した。無邪気というにはあまりにも黒過ぎた。そんな笑い。薄ら笑い。シニカルな笑い。


「家庭環境を壊すなんて駄目だよお兄ちゃん。私は日常を送らないといけないんだから」


 腕を引っ張られ、さらに少女との距離が近づく。

 少女は脅迫されていることから逃げるために、他人を脅迫せざるを得ない状況にされている。それが今の少女の常識観で――異常識観。

 頭で脅迫されている理由が分かっていても――理解していても、僕は動けない。

 少女は手をチョキにする。

 この距離で、僕を脅して、手の形をチョキの形。ゾッとした。少女はもうそこまで異常な存在になってしまっているのかと痛感してしまう。

 そして少女はそのまま僕の眼に手を――、


「おい、君たち何をやっている!」


 僕は助かった。彼らが――救急隊員が現れたからだ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ