2話 少女の性格は明るい――そのように思えた
場所を移した先は、古びた神社だった。
神社の休憩できる場所――木材のテーブル一つに木材の椅子四つ。僕と少女は対面状態。
「他の公園の方が良さそうだったけど、万が一救急車が公園すべてを探していたらまずいからね。場所神社に移しちゃった……てへっ」
「……それは別にいいけど、君はどうして倒れていたんだい? ――いや、どうして急に僕の目の前で倒れたんだい?」
「簡単だよ、倒れたいと思ったから倒れたんだ! 芝生の感触を顔面で味わいたかったんだよね!」
と、少女はにっこりした笑顔でそう答えた。
「それなのにお兄ちゃんったら勝手に電話をかけて、しかもその番号先が救急車を呼び出す番号なんて……救急車の人に迷惑だよ!」
救急車の人、ね。そんな人間がいれば見てみたいけど。まあ、小学生くらいだろうし、揚げ足を取るのはいいや。
「そうだね、僕の勘違いで救急車の人には迷惑をかけたよ」
この際、少女の言葉間違いを指摘するのはどうでもいい。
本題は、どうして少女は倒れたことを隠したのか――そこに焦点を当てたい。
たしかに、倒れた場所はたまたま芝生だった。だから顔に大きなけがをせずに済んだ。しかし、本当だったら――倒れた先が地面だったら、少女はかなりの怪我をしていたと思う。
何より。
倒れ方が、気絶したように倒れた――そういう倒れ方をした。普通、いきなり倒れるにしても自分に怪我がないように、受け身などの――怪我をしないための動作を行う。だけど目の前の少女はそれをしなかった。
理由は簡単。間違いなく、気絶していたから。だから少女は怪我も恐れずに無造作に倒れたのだ。もしあれがわざと倒れと言うのなら、彼女は反射という機能が欠けている。
まあ、その疑問も少し置いておこう。
やはり問題は、少女が気絶したことを隠している理由――これがよく分からない。少女が歩いている途中で意識を失い倒れる――かなり酷く辛い状況だったのだと思う。
高熱でもあるのだろうか? そう思ったけど、少女は元気だ。……いや、元気なように見える。
実際は分からない。指先一本で倒れてしまうほど脆いのかもしれない。
欲が湧く。この少女は、どうして隠し事をしているのか、暴きたくなる。
「お兄ちゃん、今日、私を見たこと忘れてくれるかな?」
相も変わらず無邪気な笑顔ながらも、それに反して内容は笑顔で喋る内容ではなかった。『私を見たことそれ自体を忘れろ』などという、少女――小学生ではありえない対応の仕方。
僕の前で倒れたことが、忘れてほしいような出来事であるのは分かるが、だからといって忘れてくれないかと半ば脅迫染みた行動を少女に取られた。……あまりにも冷静、いや冷徹というべきか。普通の少女ならばここまで冷徹に対応できない。笑顔を作ってその奥には一体何を隠しているのか――
「お兄ちゃん。返事してほしんだけど」
笑いながら首を傾げる少女。もはや恐ろしいという感想以外出てこない。ここまで笑顔になり続けるのは大人でも子どもでも誰でもキツイはず。当然、目の前の少女もキツイはずで、だから僕は、
「分かった。さっきのことは忘れるよ」
「本当に?」
「ああ、嘘は吐かない」
「良かった。もし今日見たこと忘れていなかったら危うく――ううん、なんでもない。じゃ、私は忙しいからもう帰るよ」
「……ああ」
少女は帰る。
きっと家に帰るのだろう。
僕は少女の後を追った。