赤白青
あかはリンゴのあか。しろはユキのしろ。あおはソラのあお。
リンゴはあかくなくてもあまい。
ユキはどろにヨゴれててもつめたい。
ソラはオヒサマがシズむちょっとマエでもユビがとどかない。
ヘヤのあつさにぶつくさイいながら、ヒロトがアセをおでこのヨコとかアゴヒゲのさきとかからタらして、あたしのウエでゆっさゆっさするトキ、こっちのウチガワもおなじテンポでずりずりしてそれはコシとかセナカとかカタとアタマのウシろをずらしたりモドしたりモドシすぎたりするんだけど、そういうトキはもれなくトケイがキになっているあたしは、ベツにジホウのぴっぴっぽーんっていうテンポがスきでもなくて、ただトケイのマルいエンバンというカタチが、オトコとこんなコトをするというか、こんなドウグみたいにツカいあうカンケイがあるとかシるマエから、ずっとあたしのメのマエにあって、フシギなウゴきカタをしていたし、だからあたしはハハやチチやアニやアネといったウゴきシャベりワラいタタきウタうヒトたちにセカイをさっぴかれたノコりのとてつもなくタイらなジカンジュウ、ずっとトケイばかりをミていたキがする。
「何だってこの部屋いつもこんなに熱いんだよ」
「あー」
カルピス色を先っぽにためたゴムはだらしなく伸びている感じがして、使う前のほぼ正方形の包みにピシッと収まって、準備はいつでもできとりますぜ! ってクールな使命感にあふれていたのが嘘みたいに、へにゃんと萎えている。
プチンと入り口の輪っかが外れたヒロトのも、同じくらいくにゃりとしているから、情けない感じが共同作業の前後のあたしたちの関係を代わりに表現しているみたいでちょっと物悲しくて、胸がうううと切なくなるので、あたしは言いたいことが全部のどのちょっと鎖骨側の方にひっこんでしまって、結局、あーとしか言えないし、脇から胸のさきっちょにかけてぽつぽつと浮かぶ汗を手のひらでふくとかしかできない。
そしてその山ほどある言いたいことを一言にぎゅっとぎゅっとしぼってまとめると、
『あたしたちがサムいから、部屋の空気くらい熱くしたっていいじゃない』
となるのだけど、こんなことを声に出すと嫌味になっちゃうし、ヒロトは嫌味が受け付けないくらいにはめんどくさいロマンチストなので、グーパンチだって飛んでくる。
すごく速く飛んでくる。
あっと思ったら、あたしは全然別のところを向いていて、大体びっくりしている。そんな時、口の中も切ることが多くて、生臭い味がするんだけど、それはヒロトの出したのを呑み込む時とは別の、嫌な感じがして、あたしはとりあえず泣きまねをする。
多分ヒロトはそんな時のあたしが一番好きなので、困った顔をして、でも嬉しそうにあたしを抱きしめて、頭を撫でて、しわが寄ったベッドにもう一度倒す。
でもあたしはいきかけたりいったりしてる時に頭の中の言葉という言葉がとろけてひらがなやカタカナになっていってもっと真っすぐでドロドロで綺麗でふわっとした何かになるのは1時間に1回が1番良いので、2回目は気が進まない。
喉や胸や腰や太ももや足や手のつま先がいくらヒロトの舌や手や息や重みや胸の厚みや肌や腋毛や汗臭い腋臭にこたえて動いても、そこに口の中の痛みや殴られたほっぺたの熱がトッピングされても、心は空気を熱くしても足りないくらいに冷たくなっている。
そして本当に自分が死体なんじゃないかと勘違いしてしまうくらい、心は体と冷たくずれていく。
雪は白く冷たい。死体も多分冷たい。白雪姫は、雪みたいに冷たくなった死体だった時が一番綺麗だったのかな。王子様め。余計なことをしやがって。
ヒロトはいつも誰かの王子様だし、1回戦目をしたい時のむっとした顔は可愛くて、青空が似合う。夏の熱い空気の時のみっしりとした青の空で、セミの鳴き声も厚ぼったくて大きな雲の白もやっぱり似合う。あたしはそんなヒロトにほんのり甘くて痛い気持ちが湧いて止まらなかった時が、頭の中できらきらした神話みたいになっているから、結局誰かの王子様でしかないヒロトの相手をしているのだけれど、1回くらいはこのヒロトが鼻をぐしゃぐしゃに潰してはずみで上の歯が折れてめくれた唇から血を流しているのを見てみたいとも思う。
それは赤いだろうから。とりあえず、色のはっきりとしない林檎よりも。