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飛脚

 

 時は太平。徳川が天下を治めそろそろ足場も固まって来た頃。

 戦国の武将達の名声も今は鳴りを潜め、剛剣の使いと称される者も全国に名を轟かせるようなことは無かった。

 だが、そんな一見平和な世の中に逆らってここに一つの騒動が起こる。


 ばたばたと慌ただしい足音が長い廊下に鳴り響いた。

 詰め所に屯していた男達は雑談を止め、一同顔を見合わせる。

「御城代の居所を知るものはおるか!」

 スパーンと勢いよく襖が開かれ、初老の男が部屋の中の男達に声を掛けた。

 部屋の中では五人の若い侍と、今し方慌ただしく襖を開けた御仁と同い年程度の侍が開け放たれた襖の方へと首を巡らせていた。

「今日は非番ゆえ、御屋敷かと」

 初老の侍が答える。

「それが使いを出してより一刻、連絡がつかぬのだ」

「さて、私にはどうにも…ご子息ならば居場所の見当がつくと思うが」

 慌てている男とは対照的に初老の男はゆっくりと立ち上がり、襖の処で焦れったそうに顔をしかめている男をなだめながら部屋を後にした。

「何をそのように慌てておるのじゃ」

 今し方駆けてきた廊下を戻りながら浮かない顔をしている男に、初老の男がおっとりとした口調で問う。

「実は殿の身によからぬことが」

 初老の男が慌ててこの場で語るなと言いたげに咳払いを一つ立てると、男も内容が内容なだけに口を閉ざした。


 城内の一角からけたたましい叫び声が上がっていた。

 ダンッ、と床を踏み鳴らす音と共に、甲高い声が上がる。

 先程会話を交わしていた家老の二人が近付くに連れ、その声は益々大きくなっていった。

「せいっ、せいっ」

「どぉぉぉぉ」

 掛け声と荒い息使いがその一角で何が行われているかを物語っている。

「これはこれは、やってますな」

 格子戸から中の様子を窺いながら、よしよしと頷く。

 さして広くない板敷の道場では、若竹を彷彿とさせる若者と、その若者より一回りは歳を取っていると思しき男が竹刀を交わしていた。

「ちょいと、お邪魔しますよ」

 家老二人は汗くさい道場の扉から、顔だけを場内へと突っ込んでそう言った。

 その声に気を削がれた若者の頭部に竹刀が打ち下ろされる。

「せぇぇぇい」

 ぱしっ、と小気味良い音が鳴り響いた。

「ひどいなぁ」

 苦笑と共に若者が抗議すると「ばかもの!竹刀を交えておる最中に油断するなど修行が足りぬわ」と、一括する声が浴びせられた。

「これこれ師範代、そう責めんでもよかろう」

 師範代と呼ばれた男は「勘定方がこのような処へおいでとは、何事で御座いますか」とあらたまった。

 顔はいかにも剣一筋といった風貌である。

 連られて若者もあらたまる。

 こちらは対照的に、手習いで笛を少々といった方が似合そうな、目元の涼やかなどちらかと言えば線の細い青年であった。

「御城代の御子息とはそのほうか」

 一瞬の間の後、若者が「はい」と短く答えた。

「本日御城代はどちらへ行かれたか心当たりはあるまいか」

「釣りに出掛けると申して居りましたが…」

「して、その場所の心当たりは…」

 一口に釣りと言ってもここ津軽には岩木川からの支流が至る所に流れている。溜池や掘りも加えれば釣り場は数限りなくあると言えた。

 若者は申し訳なさそうに声の調子を落とし「存じておりません」とだけ答えた。

 家老の二人が無言で顔を見合わせ頷きあった。

「何事でございましょう」

 師範代を務めている藤本が重ねて問いかける。

 が、しかし二人とも口を開こうとはしない。

 そのことが返ってお家の大事だと告げていた。

 津軽藩は盛岡の南部氏から別れて独立した経緯がある為、太平の世とは言え常に警戒を怠る訳にはいかない事情がある。

 何処に間諜が潜んでいるとも限らないのだ。

 お家騒動など起こして幕府に進言などされるわけにはいかない。

「ときに御子息は幾つになられた」

 先程までの剣を交えていた時の迫力が消え、言葉少なに会話をする限り、大人と呼ぶには語弊があった。まだ初々しい元服姿から想像するに十七、八といったところであろう。剣により鍛えてはいるのであろうが、顔立ちや線の細さにはまだ幼さが残っている。

「数えで十七になります」

「それは好都合、あ、いや何、こちらの話」


 この時、藩内には不穏な動きがあった。

 現藩主を隠居させ、幼い嫡子の廃嫡を企てる動きがあったのだ。俗に言う主君押込である。

 内うちで次代藩主に兄の名前が上がってると知った同母弟が大いに慌てた。

 兄は現藩主にとって年の近い異母弟。嫡子に万一のことがあれば疑われるのは兄である。

 江戸に詰めている兄の身を案じた同母弟が、家老に早馬を出すように伝えたのだが、事がことだけに城代家老に話を通さなければ我が身が危うい。

 まかり間違って謀反を企てている側と思われたらば目も当てられない。

 極秘でことに当たらなければと一計を案じ、家臣に飛脚を装わせることにしたのだが、誰が殿の敵やら味方やら途方に暮れていたところ。

 御城代に話をする一方で、早々に飛脚役を探さなければと右往左往。

 参勤交代では十八〜二十日を要するところを、十日で着くようにと厳命されたこともあり、猶予は無い。

 そこに丁度良い、もとい、願ってもない御仁がいたのは僥倖。

 万一、文を紛失したり間者の手に渡ったとしても内容を悟られないようにと、正反対の文言を認めたものを用意し、杏葉牡丹と裏家紋の錫杖に隠字暗号を忍ばせた。

 これにより見るものが見ればどちらも同じ内容が読み取れる。

 さらに仕込み杖と御状箱を担ぐ棒に短刀まで仕込ませる周到さを見せたのである。

 さぁ、準備は整った。あとは御城代の了承を得るのみ。

 ちなみにこの時点で藤本は相方として江戸に同行する事が問答無用で確定していた。


 夕刻屋敷に戻り、事の次第を聴き終えた城代家老福真の決断は速かった。

 息子の芳幸と武道の指南役でもある藤本に旅支度をさせ、翌朝には江戸に向けて出立させたのである。

 二人はお互いに一通の文を携え、盛岡までは最短の峠越えを敢行し、その後奥州街道を仙台、白河へと登った。

 飛脚として宿場の宿に泊まるという経験の無い二人にとって、作法も何もあったものでは無い。

 白河に着いた頃には不審に思われたのだろう。距離を取りながらもつけてくる浪人者が目に付き出した。

「福さんや、何やらきな臭くは無いかね」

「藤先生もそう思われますか」

 謀反を起こす側にしてみれば、江戸に詰めている藩主の異母弟を何としても取り込みたいところ。

 さらには幼少の後継を現藩主と懇意にしている大名の元へと匿われでもしたらば厄介である。

 御状箱の中身が何なのか是が非でも掴みたいことだろう。

「一旦道を外れて水戸へ出ますか」福真が提案する。

 最短ではなくなるが、街道は開けている。

 御三家のお膝元、天下の往来で襲われることもないだろうと、さしたる危機感もなく早足で旅を続けたのだった。

 が、敵もさるもの引っ掻くもの。水戸を離れ暫くすると荷物を奪おうと詰め寄ってきた。

「福!ついて参れ」

 ここで荷を奪われる訳にはいかない。ちなみに万が一を考えて御状箱の中に密書は入れていないが、江戸上屋敷に届ける土産を持たされているのだ。

 藤本の一声で二人は水戸街道を離れ、山道へと一気に駆け出した。

 普段より鍛錬を重ねている身。体力には自信があった。

 ましてや身軽にして機動性の良い飛脚の格好に対し、帯刀の上、着流しの男達。

 一時近く走り続けた結果、男達を巻くことに成功した。

「福さん、もうよかろう」

 さすがに疲れたとばかりに走るのをやめ、歩調を緩める。

「藤先生、ここ、どの辺りでしょうか」

「ふむ、筑波山が前方とならば、このまま行けば下妻へ抜けるのではなかろうか」

 このままだとかなり迂回することになる。二人は歩きながら今後の相談を始めた。

 と、そこへ下からワイワイと声が近付いてきた。

 見ると、女子が鍛錬のため山道を登ってくるではないか。

 たすき掛けに鉢巻、袴姿。手には各々得物を握っている。

「あい、すまぬ。この辺りにどこか休めるところはござらぬか」汗をぬぐいながら藤本が気さくに声を掛けた。

 娘達は飛脚の分際でこの程度の山道でへばったのかと失笑する。

 もちろん慎しみ深い子女なので態度には出さなかったが。

「この先三町ほど登れば茶屋がございます」

 先頭にいた娘が答えながら二人の横を走り抜けて行く。

「かたじけない」と挨拶する藤本に倣って福真も軽く会釈する。

 娘達は少し先で道を外れ各々得物を手に素振りなどを始めたようだ。

「なかなか壮観な眺めだのぅ」

 剣技で師範代にまで上り詰めた藤本は、慎ましやかな女人を好む世の風潮の中、活発な女子に寛容だった。

 茶屋に着き、藤本は御状箱から絵図を取り出した。

 街道へ戻るか谷田部へ向かうかと、団子を食べながら今後の方針を相談している時、団子の串で汚れた手を手ぬぐいで拭いていた藤本が、突然、懐や袂を探り始めた。

「如何なさいました」

 藤本の顔色が変わった。

「無い」

「無いとは?」

「御城代より預かった文が」

 一瞬何を言っているのかと藤本を見つめた福真は「えええええ〜〜」と大声をあげ、動揺のあまり握っていた団子の串を折った。

「い、いつからですか」と問いながらも自分に持たされた文を確認する。

「肌身離さず下帯の上にさらしを巻いて挟んでおいたのに、こんな袴も身につけない半纏姿ではやはり無理があったのだぁっ」

 だから御免だと申したのにぃ〜 にぃ〜 ぃ〜

 両手で頭を抱えながら空に向かって叫んでいる。

「心当たりはござりましょうか」

 相方が取り乱している為か、冷静になった福真が問う。

 頭を抱えている場合ではない。はた、と正気にかえり懸命に記憶を手繰る。

「う〜ん、枝に荷物を取られて危うく転びそうになった、あの時か?」

 追っ手をまくために獣道のような所も通ったのだ。

「その場所なら覚えております。取って返しても一里もござらぬ由。某が見て参りましょう」

 言うが早いか仕込み杖一本持って峠を全速力で下り出した。

「いや待て、某も…」

 自分の失態を拭ってもらうわけにもいかず、藤本は茶屋の女将に荷物を預け、福真の後を追った。


 得物で打ち合いをしている娘達の横をものすごい勢いで走り抜けて行く若者がいた。

「今のは、さっきの飛脚では?」

 こんな峠でへばっているのかと小馬鹿にしていた娘達は目を見張った。

 若者の走りは下りの勢いも手伝って尋常ではない速さだったのだ。

 ざわざわ。鍛錬をしながらも雑談が生じる。

 と、そこへ福真を追いかける藤本が通りかかった。

「どうかされましたか?」

 慌てる様子につい声をかけると「いや、お恥ずかしい。落し物をしてしまいまして…」と語尾を濁す。

「もしや、懐紙か何かですか?」

 藤本の言葉に心当たりがあるのか、娘の一人が声をあげた。

 話を聞くに、藤本が汗を拭うために懐から手ぬぐいを取り出した際、何かが落ちるのを見たと言う。

「かたじけない」と話を切り上げ先を急ごうとする藤本に、先ほどもう一人が下って行ったのはどう言う事情かと問いが被さった。

 落とした場所の見当を間違えて麓近くまで探しに行ってしまったのだと告げると、「私が追いかけ事情を伝えましょうか」と気の強そうな娘が名乗りをあげた。

 山道で先頭を走っていた娘、名を琴音という。

「それは大変ありがたい申し出ですが、どうぞ気遣いなく」と言う藤本の言葉に対し、「私、早駆けには自信がございます。日頃の鍛錬の成果を確かめたく存じますの」と返す。

 そうまで言われては無下に断るのもどうかと思い「では、よしなに」と琴音に福真の後を追ってもらい、自身は密書を探さねばとそそくさとその場を離れた。

 程なく藤本は文を無事に回収すると娘達の元へと戻り、どこの家のものかと尋ねた。

 江戸についたならばこの手間の件を藩主に告げ(無論、詳細は隠し)なにがしかの物を贈ろと考えたからである。

 娘達は飛脚が自分たちの鍛錬に興味を惹かれたと思い、自慢気にそれぞれの出自を語った。

 どうやらどの家も子女が鍛錬するのは憚かられているらしく、自慢するはけ口が欲しかったらしい。

 いつの間にやら武勇伝の大合唱が始まっていた。

 その頃、藤本が娘達に捕まっているとはつゆ知らず、福真は当たりをつけた場所を丹念に探していた。

 と、そこへ山の上から娘が走りながら声をかけてくる。

 福真は何事かと訝しんだ。

 今は飛脚の格好をしているが荷物を運んで欲しいなどと言われても受けるわけにはいかない。

 どうしたものかと悩んでいると、娘は息を整え、ここへ来た経緯を語った。

 どうやら文を落とした場所の見当がついたらしい。

 福真は娘に礼を言うと颯爽と山道を駆け戻った。

 無駄にした分の時間を取り戻そうと躍起になっている為、わざわざ知らせに来てくれた琴音を置き去りにしてしまう。

 琴音は男の脚力に見惚れた。

 あれよあれよというまに背中が遠ざかって行く。

《えっ?ちょっと待って》

 琴音は旧家の娘として大切に育てられて来た。ちやほやされることが常で、こんな風な扱いを受けたことなど無い。容姿にも定評があった。褒めそやされること度々、ここ近年縁談の打診が後を絶たない。

 しかし、用件を告げた時、男は眉一つ動かさずに聞いていたし、礼を述べた時も親しみの欠片もなく単に労いの言葉を言われたに過ぎなかった。

 男に惹かれている自分に気付いた。

 街中で見かける飛脚はもっとへらへらと愛想がいいし、家詰めの若党は大方が軟弱そうに見える。

 凛々しい横顔、誠実そうな態度、鍛えられた身体。若い娘にありがちな理想の殿方に福真が重なっていく。

 世の中にはこんな素敵な飛脚もいるのね。


 藤本は話の内容に辟易しながらも愛想良く相槌を打っていた。

 四六時中道場で汗臭い男どもに囲まれているのだ。たまには女子に囲まれるのも悪くない。

「先生、のんきに話している暇はありませんよ」

 軽快な足音とともに福真が現れた。

「おぉ、福さん、手間をかけたね」

「文は見つかりましたか?」

「心配要らぬ。ほれ、この通り」

 藤本は話足りなさそうにしている娘達に挨拶して福真と共に荷物を預けた茶屋へと急いだ。

 娘達は琴音の戻りを待ちつつ暫く雑談の余韻を楽しんでいると「ああっ」と、娘の一人が叫んだ。

「あの飛脚、落し物置いて行っちゃったわ」

 先ほどまで藤本が座っていたところに手紙らしきものが落ちていた。

 ぬけてるわね。ざわざわ。

 そこへ漸く琴音が戻って来た。

「あの飛脚は?」

 息を切らしながらあたりを見回すが、既に飛脚の姿はない。

 なにやら落ち着かない琴音の様子に娘達は色めき立った。

「若い方の飛脚と何かあったの?」「何を話したの?」と興味本位の質問が舞う。

 琴音は恥ずかしがりながらも若者に好意を寄せたことを打ち明けた。

「ちょうど良かったわ。この落し物、きっとまた取りに来るから」

 はい、と琴音に文を手渡す顔が笑っている。

 心なしか全員が心得ているとばかりにニヤニヤしている。

 一方、茶屋に戻った藤本が今日の宿場を決め荷物を背負う段になったところで、密書がないことに気付いた。

 のおぉぉぉぉぅ、と頭を抱え膝から崩折れる藤本を見て、「取って参ります」と荷物を担いだ福真が駆けて行った。

 はぁ、とため息をつき縁台に座り直し、気を落ち着けようと茶を頼んだ。

 なんたる失態。一度ならず二度までも。今日の宿場まで二里と少し、この調子なら明日の夜半前には上屋敷に着くからと気が緩んでいるのかも知れない。

 いかんいかんと藤本が反省している頃、福真は満面の笑みを浮かべた娘達に囲まれていた。

 先ほど知らせに来てくれた娘の前へとグイグイと押しやられ、何かの罠かと警戒する。

「どうも手間を取らせました」と手を差し出すも、琴音は何故だか文を渡そうとしない。

 仕方なく「重ね重ねの失態、恥ずかしい限りです」と愛想笑いを浮かべて、しっかり握り締めている琴音の手から文をもぎ取った。

 あの、その、と何やらもじもじしている琴音を訝しみながら「では、失敬つかまつる」と早々にその場を離れると、何やら後方で不穏な空気が膨れ上がった。

「何あの態度」「素っ気無さ過ぎない?」「飛脚の分際で生意気な」「お追従の一つも無しとは」「琴音の態度で察しなさいよ」

 折角応援してあげようと身構えていただけに納得がいかない。

 娘達にしてみれば一介の飛脚が由緒ある家の娘に好意を寄せられたのだ。光栄に思うがいいと、福真の気持ちはまるで無視だ。

「ちょっと、話つけて来る」と大柄な娘が福真を追うと、私も私もと数人が走り出した。

 悪寒に見舞われた福真が恐る恐る振り返ると、下からすごい形相で追いかけて来る数人の娘がいるではないか。「待てー」と声を荒げる娘達に恐れをなして速度を上げる。

 捕まったら身の危険と、茶屋で休んでいる藤本に「先に宿場へ向かいます」と告げながら走り抜けていく福真の後を、地響きとともに娘達が追って来た。

 あまりのことに「これ、これ」と声をかけた藤本に、娘達の怒りの矛先が移った。

 どうあっても福真には追いつけそうにない。こうなったら八つ当たりだ。

 娘達は異口同音に福真を女心がわからない朴念仁だと糾弾した。

 側で聞いていると、まるで藤本が数人の娘達に「どうしてくれるの」「好きなのに」「こんなつれないことをするなんて」と言われているように聞こえる。

 事情を知らない茶屋の女将が「きょうびの飛脚はもてるんだねぇ」と呑気な声をあげていた。

 遅れて琴音が茶屋までやって来ると数人の娘達に囲まれて糾弾されている飛脚に気付いた。

《私のせいであの方が責められている!》

「申し訳ござりません。はしたなくも私がもう少しお話ししたいと思っただけなのです」

 娘達の中へ割って入り、勢いよく頭を下げる。

「これも何かのご縁ですので…」と顔を上げたところで血の気が引いた。

「いや、そのようなお申し出、いやいや参りましたなぁ〜」と照れ照れの藤本が琴音を見下ろしている。

《あの方じゃない!!!!》

 まさに目が点。

「あ〜、はいはい」大柄な娘が固まってしまった琴音を引きずって、来た道を戻り始めた。

 それに倣って娘達も引き上げていく。

 今度は藤本が固まった。

《一体、何だったのだ?》

 夕焼けの混じり始めた空をカラスが寝ぐらへ飛んでいく。

「そろそろ仕舞いにするよ」という女将の声とともに、風が山頂を吹き抜けていった。


 日暮れ前に江戸までおよそ十四里というところまで来ていた。

 宿場の外れで待っていた福真にジト目で藤本が絡む。

「どこぞの朴念仁のおかげで娘御に詰られたぞ」密書を落としたことは棚にあげる。

 福真は鬼の形相で迫り来る娘達に怯んで藤本を置き去りにした後ろめたさに視線を泳がせた。

「この先は女人のあしらい方も伝授せねばな」

 はっはっはっと声をあげて笑う藤本を急かして宿を探したが、飛脚の格好で旅籠に泊まるのは不自然だ。

 以前それで目をつけられた手前、木賃宿を探す。

 大部屋に身元の分からない者との雑魚寝は落ち着かないが、どうにかなるものだ。

 自炊に不慣れな二人は、夜になる前に食事がてら飯屋で明日の段取りを話し合うことにした。

「明日は宵の口までには屋敷に着きたいものだが」

「出立を早めましょうか」

 などと話し込み、明日に備えて握り飯も用意してもらい目星をつけた宿へと向かった。

「御目通りの前に髪結いに行きたいところですね」

「明後日の夜にはゆっくり酒でも飲みたいのぉ」

 雑談を交わしながら二人が宿の上がり框で脚絆を解こうとしていると、突如数人の侍に入り口を塞がれた。

 不穏な目つきに狙いが自分たちであることが知れる。

「福さん、ここは某に任せ使命を果たせ」小声で藤本が告げる。

 幸いにして仕込み杖は手元にある。密書は未だ福真が二通とも懐に忍ばせていた。

「しかし」と口を開きかけた福真を藤本が視線で黙らせる。

 人一人分がすり抜けられる隙間を作るため、藤本が入り口に向かって歩を進めた。

「何用ですかな」いたって自然に声をかける。

「二人とも同行願おう」

 藤本に向かって手を伸ばした侍の腕が、仕込み杖によって弾かれた。

 侍達の視線が藤本に集まった瞬間を逃さず福真が外へと走り出る。

 福真を追おうとした侍の足元をすくい、よろけた男のみぞおちに一撃を食らわす。

 追っ手を阻む藤本に侍達は色めき立った。


 遡ること二時、琴音を連れ帰った屋敷で一悶着が起こっていた。

 娘達が飛脚の態度が悪いと口々に言い合っていたせいで、心ここに在らずの琴音を見た家臣が早合点したのだ。

 自慢の娘が飛脚に袖にされたと憤慨した当主が、飛脚をひっ捕らえて参れと屋敷に詰めている若党達に命じたのだった。


 宿の前で大立ち回りを繰り広げている飛脚に目を留めた侍達がいた。

 水戸の先で追跡を振り切られた侍達は、二手に分かれ宿場町を見張っていたのだ。

《あの飛脚、一刀流の使い手か》

 津軽藩は一刀流の範士を招いている。太刀筋から探していた飛脚であることに見当をつけた。

 しかし争っている輩が敵か味方かわからない。

《太刀筋が違う。南部の手のものか?》

 そうであるならば己が藩の秘密を他藩に知られるわけにはいかない。飛脚の荷を奪うのは後回しだ。

「助太刀いたす!」

 いきなり参戦してきた侍が藤本と対峙していた男の腕に扇子を振り下ろした。

《何者だ?》

 襲われる心当たりはあっても助太刀される心当たりはない。藤本は隙を見て逃げるつもりでいただけに、身の振り方に迷いが生じる。

「これは我が当主の命、邪魔立ていたすな!」

 新手が現れたことにより、飛脚を捉えようとしていた侍達が刀を抜いた。

《おいおい早まるなっ!刃傷沙汰なんぞ御免被る!》

 これではあくまでも飛脚として振舞ってきた苦労が水の泡だ。

 天下の往来の宿場町。町人達はあまりのことに岡っ引きを呼びに行くが、侍同士の立ち回りに手の出しようがなかった。

 ついには奉行所が動く事態にまで発展する仕末。

 御用提灯を引っ提げた役人に取り囲まれるに至って、藤本は逃げることを諦めた。

《今日は厄日か〜っ》


 江戸へ登ったことのない福真は、勘を頼りに進んでいた。

 月夜が幸いして辛うじて道は見えるが、取るものもとりあえずの強行軍だ。

 武器になるものは仕込み杖一振り。

 懐には密書が二通と握り飯のみ。

 身分を明かすものは何もない。通行手形も置いてきた。

《藤本師範代はご無事であろうか》

 不安が過るが、兎にも角にも筑波山を斜め後ろにひたすら夜道を進む。

 夜が明けて富士が見えれば進むべき道の見当も付く。

 人通りがあれば道を聞くこともできる。

 使命を果たせと託されたからには何が何でも果たさなければならない。


 福真が悲壮な決意を胸に夜道を進んでいる頃、藤本は谷田部藩の陣屋に於いて拘束されていた。

 密書は手元にない。御状箱の中にあるのは旅に必要な絵図や路銀と着替え、江戸屋敷への土産物だ。

 朝になれば奉行が荷物を検め津軽藩の使いであることが証明されるはずだ。

 藩の御用で荷物を頼まれた飛脚と言い張るしかあるまい。

 懸念は福真の所在が不明であることをどう説明するかだ。いきなり襲われたので慌てて逃げたと言って通用するだろうか。

 全くあやつら、天下の往来で抜刀するなど笑止千万。はた迷惑甚だない。

 刀を抜いた手前、お咎め無しとはいくまいに。いっそこのまま暫く留め置かれて居れば良い。

 拘束されている割には楽観的とも言える考えで、福真の心情など思い浮かべもしなかった。


 昼前に松戸までどうにかたどり着いた福真ではあったが、江戸川の渡し賃すら持ち合わせが無かったため、結局のところ『小岩市川の渡し』の関所に留め置かれた。

 賊に襲われ荷物を奪われたため手形も無いが、津軽藩の江戸屋敷に届けなければならない文があると切々と訴えたところ、下男を上屋敷まで同行させてもらえることとなった。

 さすがに急いでいるから走って欲しいとは言い出せず、およそ五里の道のりを延々と歩く。

 藤本の安否も気になるがここで藩のいざこざを話すわけにもいかない。

 心中で下男を急かしながらも、屋敷へ着いた時には夕暮れ時になっていた。

 髪結いどころか湯浴みもせずに江戸詰家老に目通りを願った飛脚に対し、当然門番は渋った。

 仕方なく、江戸詰家老の名前と弘前城が招いている剣の師範の名前を出し、説得を試みるもなかなか頷かない。

 付き添った下男も訝しみ出すに至り、「御用である」と、杏葉牡丹の描かれた方の文を掲げたのだった。

 これを見ても頷かなければ、強行突破だ!と意気込む一方、そんなに飛脚の偽物に見えるのであろうか…と凹む福真であった。


 目通りがかなった家老に人払いを頼み、谷田部の宿場で密書を狙う浪人風の男たちに囲まれた際、藤本が囮となりその場に留まったことを語った。

 密書を届けるという用件は済んだ。すぐさまとって返したいと申し出る福真に対し、さすがに家老の子息を飛脚の格好のままでいさせるわけにもいくまいと、急遽衣装を貸し与える。

 飛脚の発言よりも武士の発言に重きを置くことは世の常だ。

 藤本が身元を明かさず、万が一にでも無礼討ちされようものならそれこそお家騒動が勃発する。

 福真は着替え終えるなり早馬を飛ばした。

 江戸詰家老の心配をよそに、お嬢様大事の若党達は「我こそは旧小田家に仕える某なり」と名乗りを上げてしまっていた。

 御状箱を持った飛脚に刃傷沙汰とあっては一大事。しかも依頼主は津軽藩。すぐさま屋敷の当主が奉行所に呼びつけられた。

 江戸上屋敷に荷を届ける飛脚だと言い張る藤本。

 お嬢様を辱しめたのだから無礼討ちだと騒ぐ若党達。

 素人相手に多勢に無勢は卑怯だから助太刀したのだと称する浪人風の侍達。

 事の真相を確かめる為に琴音も同伴させられていた。

 袖にされたにもかかわらず『是が非にも家臣に召し上げるべき逸材だ』と熱く語る娘に、どれほどの者か見定めてやろうと意気込む当主。

 お白州で神妙にうなだれている飛脚の姿を認めた琴音は慌てて飛脚の元へと駆けつけた。

 時を同じく、藤本を認めた福真が駆け寄る。

「「ご無事でしたか!」」

 二人の声が重なった。

 その声に顔を上げた藤本は、とっさに福真を突き飛ばし琴音を抱きとめた。

 ずざざざーっと砂が音をたてた。

「藤先生、あんまりです」

 福真の言葉に固まった者が二人。

 言わずと知れた琴音である。

 抱きついたはずの飛脚が転んでいる。《なぜにっ!》

 もう一人は琴音の父。

 いい年をした親父ではないか、これが娘が薦める男か?《まじかっ!》

 福真の登場に顔色を悪くしたのは他でもない浪人風の侍達である。

 武士のなりで現れたと言うことは既に江戸上屋敷に出向いた後に他ならない。

 しかもよく見れば城代家老の子息ではないか。

 現藩主は異母弟を重用している。

 城代家老は藩主の右腕的存在だ。

 詰んだな。

 騒動の経緯を聞き終えた福真は藤本と自分の身分を明かし、事の真相はぼかしながらも自分たちに何ら非が無いことを申し立てた。加えて娘達に世話になったことを告げ、今回の若党達の不祥事に対し減刑を望んだ。

 揚々と解決するかと思いきや、納得いかない御仁もいるようで。

「津軽は一刀流と聞き及んでおります。この機会に御披露頂けますまいか」

 娘が思いを寄せる(と思い込んでいる)この男をけっちょんけちょんに伸して幻滅させてやる。

 もともと武芸で身を立てた藤本と、こんな機会でもなければ他流試合など望めない一介の武士である福真に厭は無い。

 奉行にしてみれば穏やかにお開きにしたいところだが、片や良いところを見せたい若党、一方自分の腕前を確かめたい剣士とあっては、このまま済ませばまたいざこざが起きかねないと判断した。

「では、明後日改めてこの場で試合うと言うことで如何であろう」

 双方了承の上、若党達に対する厳重注意で一件落着となった。


 屋敷へ戻った琴音は、いつもの鍛錬仲間に何の用で出向いたのかと尋問された結果、平和的和解のため明後日に飛脚と若党達の武術試合が行われることを白状した。

 試合当日、あの御仁に会えると喜ぶ琴音の元へ、何やらめかしこんだ娘達がこぞって集まって来た。

「皆様、如何なさいました?」と問う琴音に若党達の晴れ舞台を見に付いて行くと、気分は物見遊山である。

 当然のことながら琴音は好い顔をしない。

 お目当ての若者が他の娘の目にとまって欲しく無いからだ。

 一方、若党達は俄然やる気を起こしていた。

 先日の失態を帳消しにするくらいの活躍を見せ、名誉挽回を図ろうと目論んでいたからだ。それに加えて女子達の熱い視線にますます気合いが入る。

 意気揚々と団体様で乗り込まれても困るのだが、奉行所の役人はとりあえずお白州の隅に席を設け、訪れた面々を追いやった。

 大人しく座っている女子達の前を、藤本と福真が連れ立って横切るとざわめきがおこった。

 先日の飛脚姿ではなく、月代をきちっとまとめた袴姿。

「あれは何時ぞやの朴念仁!」「なぜ飛脚があのようななりを?」「奉行所主体の武道大会だからでは?」「あの抜けた親父どのが強そうに見える!」早くもおしゃべりに花を咲かせる。

 琴音は二人の素性を明かしていない。勿論、娘達の若者を見る目が変わっては困るからだ。

 対戦方法は飛脚組二人対若党組七人の勝ち抜き戦。

 人数に偏りがあるが、藤本は師範代。このくらいの差では返って生ぬるい。

 まずは若輩者の福真が先鋒となった。

「はじめ!」の掛け声に、福真が相手の胴に打ち込みながらすり足で走り抜けた。

「一本、左方」

 福真の速攻に娘達の黄色い声が飛ぶ。

「やるわね、あの朴念仁」

 次は籠手、次は面と多彩な剣技を見せる福真に娘達の目の色が変わっていく。

 夢見がちな妄想が一気に繰り広げられて行った。

 見目麗しい若者がか弱い姫を守ってくれる場面を想像する…当然『か弱い姫』とは自分のことだ。

 つれない態度をとったことなど、些末なことだ。

 大切な使命のためには他のことに目もくれない、なんて真摯な人なの。

 世の中にはこんな素敵な飛脚もいるのね。

 街中を颯爽と走る飛脚姿の福真。

 目があうと爽やかに笑いかける飛脚姿の福真。

 妄想とはいえ本人が知ったら大層嘆くことだろう。

 藤本を琴音の意中の人と思い込んでいる琴音の父も目を見張っていた。

 どうせならあのくたびれ親父よりこちらを娘婿に出来まいか。

 身を乗り出して見物していると「見応えがありますのぅ」と試合を提案した奉行に声をかけられた。

「他流試合など滅多に見られるものではございません。このような場を設けていただきありがたく存じます」

「今の若者は剣豪として名を轟かせようなど思わないであろうから」

 武者修行中と称する者が道場破りよろしく訪れたところで、普通は相手にされない。

「折角の機会、最強の者にうちのじゃじゃ馬娘を貰っていただきたいくらいです」

 ざわ。

 それを聞いて若党達も目の色が変わった。

《勝てばお嬢様を嫁にできる!…かも》

 バシッと竹刀が鳴った。

「一本、左方。これよりしばしの休みとする」

 五人抜いたところで小休止の声がかかった。

 お白州の隅にいた娘達が一斉に立ち上がる。

 福真包囲網発動。

 自慢げに藤本の元へと向かい「先生の出番はございませんよ」と笑みを浮かべる福真に娘達が詰め寄ってきた。

 いつぞやの悪夢再び。なにやら殺気立っている。

「お許しあれ」福真は迫り来る女人の前に藤本を突き飛ばした。

「おどき遊ばせ!」「邪魔ですわよ」よろけた藤本へにべもない言葉が浴びせられる。

 福真は女性が立ち入れない殿方の雪隠へと逃げ込んだ。

「これぞ雪隠詰め」と虚しくつぶやき、福真は小休止の終わりを告げる声を待ちわびるのであった。

 コソコソと陣へと戻ると藤本が不貞腐れていた。さもありなん。

 若党達の陣に残るは副将と大将。こちらも不貞腐れている。

 若造と侮っていたら大間違い。このままではお嬢様を娶られてしまう。

「一本、それまで」

 あああぁぁぁ。

 声にならない嘆きがそこかしこで上がった。

 速攻で二人を片付け七人抜きを達成した福真に、出番の無かった藤本が竹刀を構えた。

「手合わせ願おう」

《願わなくていいから!》と琴音が心の中で叫ぶ。

「望むところ」

 じゃっ、と砂を鳴らしたかと思うと藤本が間合いに入っていた。

 福真の竹刀を下から搦めとるように弾く。

 半歩避けながら腕を回し跳ね上がった竹刀で藤本の面を狙いに行く。

 わずかに屈んだ藤本が首元めがけて突きを繰り出す。

 とっさに後ろへと飛び福真は大きく間合いを取った。

 この間、瞬き一つ。

『最強の者にうちのじゃじゃ馬娘を貰っていただきたい』とのたまった言葉を受け、琴音を除く女子全員が藤本の味方だった。福真を琴音に取られてなるものか。

 殿方達はお嬢様を嫁がせるならばせめて若者に。親父に渡してなるものかと福真の味方だ。

 流石、師範代。これまでの相手とは格が違う。

 今度は福真が仕掛ける。

 左足のつま先に力を入れた瞬間、「あ、キヨ殿」視線をわずかに動かし藤本が呟いた。

 その声に気を削がれた福真の頭部に竹刀が打ち下ろされる。

「せぇぇぇい」

 ぱしっ、と小気味良い音が鳴り響いた。

「先生、その名は勘弁してください」

 キヨとは福真家の長女の名である。

 おっとりとしているようでいて頭の切れる彼女に、福真家の男達は頭が上がらない。

 苦笑と共に福真が抗議すると「ばかもの!竹刀を交えておる最中に油断するなと言っておろうが」と、一括する声が浴びせられた。

 一同唖然。先ほどの鬼気迫る立ち合いは何だったのか。

 あっけない幕切れに《なぜにっ!》《まじかっ!》と心の内で琴音と琴音の父が叫んだのは言うまでもない。


 結局のところ藤本も福真も『娘を貰っていただきたい』発言に応えることはなかった。

 藤本は妻も子もいる身だからと答え、福真は若輩者ゆえと答えていた。

 本当は迫り来る娘達に恐れをなしたからだなどとは口が裂けても言えない。

 武術試合もお開きとなり帰り支度を整えた藤本と福間が奉行に挨拶を終え、手合わせをした若党達にも挨拶をと向き直ると、何故だか娘達も一緒に整列していた。

 バツの悪そうな男達と満面の笑みの女達の対比が怖すぎる。

「あ〜、世話になり申した」

 藤本は言葉のキレが悪い。元々は因縁をつけられたから迎え討ったようなものだ。

 刃傷沙汰を起こして騒ぎを大きくしたのも相手方だ。

「こちらこそ穏便に済ませてくださりありがたく存じます」

 穏便に済ませての意味するところは【娘を娶られずに済んで】が大方であろう。

 まさか本気にするとは思えないが、武士を相手に戯論では済まされない。

 下手に話す当主に対し、存分に剣技を振るえた福真は機嫌よく言葉をかける。

「有意義な時を過ごせました。ご縁がありましたらまたこのような場を持ちたいものです」

「是非!」福間の挨拶に被せるように娘達が一斉に声を上げた。


 こうして騒動はあったものの、本来懸念していた『お家騒動』は未遂に終わった。

 奉行所に引っ立てられた時点で浪人を装っていた者達の身元がバレたのだ。裏で糸を引いている者へ辿り着くのも時間の問題であった。


 その後、娘達がことあるごとに飛脚を屋敷へ呼びつけるという奇行がしばらくの間続いていたが、騒動というほどのことではない。


 あえて付け加えるならば、弘前に帰った福真がこの一件以来、十人近い女子が集まる場所へは決して近寄らなくなったということくらいだろうか。


実際に存在した藩名や人名が出てきますが、全て架空の出来事です。

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