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第3話 心理関数

孝とあきなとの一見普通には見えるデートではあったが、その裏では孝には見えない何かがたくさん動いていた。そして、孝の身の周りにも少しづつ、その見えない何かが忍び寄っていた。

あきなとのデートから2日後、孝にはあきなから何の連絡もなかった。また、孝からはあきなに、連絡しようにも連絡先すら知らない状態であった。

一方、恵美とはおはようとおやすみ程度のメールのやりとりだけで、孝から恵美を誘っても、恵美は意図的に時間を作ろうとしなかったのか、二人の時間はなかった。そして、そんな日が過ぎて行く中で、孝はいつもの洋食屋にバイトに行った。いつものように、店のドアを開けた。

鈴木「孝!オイッス!」

孝「おはようございます。」

孝は普通の寝起きのような挨拶だった。それに対して、鈴木は朝からかなりのハイテンションだった。

鈴木「孝、今日も、頼むよ!」

孝「は〜い!」

孝はそのテンションについて行けない様子で返事をした。その後、店は普通に開店して、毎日のように、ランチタイムは戦場だった。そして、それを越えると昼過ぎには、ディナーに向けての準備が行われていた。いつもように、夕方から達也が来た。

達也「おはようございます。」

達也は孝を見るや否や

達也「あ〜!」

達也はニヤニヤしながら裏のロッカールームに行った。

鈴木「あいつ、何をニヤついてるんだ。何かいい事でもあったのか?」

ただ孝にはあの時の事を思い出してニヤついていたとわかっていた。

孝「そう言えば最近、小川さんを見ないですね?」

鈴木「なんか卒論が忙しくて休んでるみたいだよ!でも、この前も俺の代わりに呼ばれたのだろう?悪い事しちゃったな〜」

孝「そうですね?でも、そうなるとこの店ってますます人手不足ですね〜」

鈴木「そうだな!」

そう言ってる孝も、就職が決まれば…と思っているものの、現実は厳しかった。

すると、店のドアが開いて

鈴木「すみません。ディナータイムまで準備中ですけど…あ、小川!」

理香「どうも!氷川いる?」

鈴木「さっき、来たからロッカールームに」

理香「大さん、サンキュー!」

理香は、走ってロッカールームに行った。

鈴木「あいつ、卒論で忙しいんじゃなかったのか?」

鈴木は独り言のように言った。

ロッカールームで理香と達也が何か話していた。


理香「達也君!ナイス」

達也「小川さん、大丈夫ですか?」

理香「大丈夫だって…」

孝にはそう聞こえた。


理香はロッカールームから笑顔で出て来た。

理香「じゃあ、氷川また!」

その時、孝は理香の手に持っている厚みのある封筒に目が行った。

孝「この前、コンビニで達也が持っていた厚みのある封筒?」

孝は心の中で思った。

理香「では、大さん、先輩!がんばって下さ〜い。あ!それから大さん先日のお礼は気にしなくていいですよ。どうしてもって言うなら、仕方ないですが…」

鈴木「あ?ああ〜あれね!ハハハハ…」

鈴木は苦笑いで、理香は愛嬌を振り撒き、封筒を大事そうに、満面の笑みで出て行った。

孝と鈴木は、呆然としていた。理香が出て行った後、達也がロッカールームから出て来た。

孝「あ、達也!さっき、小川が持ってた封筒って前にコンビニでおまえが持ってた、エロ本?」

孝は、ギャグの軽いツッコミのような感じで言った。

達也「ちょ、ちょっと、まだ言ってるんですか?違いますよ!真面目な本ですよ。」

孝「真面目な本?」

達也は、少し暗い口調だった。。


店を出た理香は、無我夢中で走っていた。そして、曲がり角を曲がったところで、誰かにぶつかった。

理香「キャ!」

ぶつかった相手は平田だった。となりには、もう一人の男性がいた。彼は木下雄二(きのしたゆうじ)、年齢は30歳で平田の片腕である。

平田「あ、ゴメン!大丈夫?」

理香「いたた〜」

理香の持っていた封筒から本が飛び出していた。それを見た平田は、その本を拾って

平田「なんか難しい本を呼んでるね!」

平田は本を軽く叩いて、封筒に入れて理香に渡した。

平田「はい!大丈夫?ケガはない?」

理香「あ!ありがとうございます。大丈夫です。」

平田は優しい笑顔で封筒を渡した。理香は、その封筒を貰って、焦って立ち上がって去った。

平田「木下!」

木下「はい!」

平田「小川理香だよな?」

木下「はい!そうです。間違いありません」

平田「見守って、おかないといけないかもな!」

木下「見守る?ですか?」

平田「今は、それしか言えないからな!でも、身辺調査は必要だな!」

木下「わかりました。」

平田「そういえば、この前行った、洋食はまだやってるかな?」

木下「今ですか?」

平田「昼、食ってないだろう?腹減って…」

木下「はい…でも、もう夕食時ですが…」

平田「え?もうそんな時間?」


理香は平田とぶつかった後は封筒を両手で抱え込んで走って駅を目指した。途中で赤信号に捕まった。

理香「あ〜!また、信号だ!」

理香は息を切らして信号待ちをしていた。その時誰かに左肩を軽く叩かれた。

「すみません。小川理香さんですか?」

理香は、振り返った。そこには、帽子をかぶり、マスクと黒いサングラスで顔を隠した男が一人いた。

理香「え!誰?」

理香は一瞬で、身の危険を感じた。

その場から逃げようとしたが、遅かった。その男に左手を掴まれた。相手の腕を振り切ろうとしたら理香は両腕に持っていた封筒を奪われた。

理香「あ!キャ−、あぁ…」

そして、バタフライナイフで太モモを切られた。

理香「あぁ…」

理香はその場に倒れ込んで、男は封筒を持って立ち去った。理香の太モモからはおびただしい血が、辺りに流れていた。理香は意識が遠くなって行った。

「おい、誰か人が倒れてるぞ!血を流してるぞ−!」

ある、通行人が叫んだ。

「早く救急車を呼べ!」

まわりにたくさんの人達が集まって来た。

数分後、理香は救急車で運ばれた。



店はディナータイムに入っていた。

鈴木「いらっしゃいませ」

店に来たのは、平田とその部下の木下だった。

平田「2名だけど…」

鈴木「そちらの空いてる席にお願いします。」

2人は窓側の空いている席に座った。そして、孝はお冷やとお手拭きを持って行った。

孝「いらっしゃいませ。どうぞ」

平田「あ!君は、あの時の…」

孝「先日はどうも…」

平田「あの時は、なんか悪い事をしちゃったね?」

孝「え?何の事ですか?」

平田「ほら、僕が二人のデートに割って入ってしまったために、あの後すぐに二人は帰ってしまったじゃない?」

孝「あ、あれは別にそういう事が原因とかじゃないので!」

平田「そうなんだ。それならいいんだけど…」

孝と平田が話している間にまた、誰か入って来た。

鈴木「いらっしゃいませ!」

コ−トを着た年齢は40代くらいの一人の男性だった。

「営業中、ちょっと失礼。所轄署の山田と申しますが、ちょっとお聞きしたい事が…」

鈴木「刑事さんですか?」

平田と話していた孝はレジのところに戻った。店長の木山と達也も何事かという感じで厨房から出てきた。

店長「何か?」

山田「実は、今日の夕方頃ですが、女性が何者かに切りつけられまして…通り魔的な犯行かとは思うんですが、その辺のところでちょっと、聞き込みを」

その時、達也は動揺を隠せない驚いた表情になった。平田と木下も少し驚いた表情でこちらを見ていた。

鈴木「刑事さん、事情聴取ですか?そんなら、ここにいる4人は全員白ですよ。夕方から4人全員はずっとこの店で仕事をしてたからな!」

山田「そうですか〜。でも念のために」

刑事という職業柄なのか、一人一人の住所や年齢を始め現在の身辺の状況など細かく聞かれた。そして、客として来ていた平田や木下も聞き込みの対象であった。

山田「ご協力、ありがとう!営業中にもかかわらず、悪かったな!」

そう言って山田は去った。平田と木下は何か二人で話し込んでいた。そして刑事が出た後すぐに

平田「すみません。」

鈴木「はい、今お伺いします。」

平田「いや、そうじゃなくて、僕達やっぱり帰りますので!」

鈴木「はい?」

孝「え?」

孝と鈴木は少し拍子抜けした感じだった。

平田「本当にすみません。ちょっと、仕事の時間が迫ってまして」

二人は急いで、店を出た。鈴木はちょっと、ムカっとした表情で

鈴木「絶対にさっきの刑事のせいだよな!」

孝「なんで、ですか?」

鈴木「俺達が変な聞き込みに付き合ってたから、あの客に料理を出すのが遅れて、それで仕事の時間が迫って帰ったんだよ」

鈴木は、少し悔しがっていた。

店長「向こうも仕事だからな!」

店長の木山は優しく言った。

そして、店の電話が鳴った。

店長「ありがとうございます。洋食屋KIYAMAです。え?ほ、ほんとうですか?」

木山は、驚きの表情だった。

鈴木「店長どうしたんですか?」

木山「小川が刺されて病院に!」

孝「え?」

鈴木「小川が?」

達也「小川さんが?」

そこにいた。全員が息を飲んだ。


店を出た平田と木下は走っていた。

平田「さっきあの刑事が言ってた女性が刺された場所はたぶん近くだよな」

木下「はい、そうと思われます。」

二人は警察車両が止まっている場所を発見した。周りにはたくさんの人が集まっていた。数名の警察官は交通誘導をしていた。

平田「すみません。何かあったのですか?」

平田は近くにいた見物人に尋ねた。

見物人「なんか、若い女の子が刺されたみたいです。」

平田「若い、女の子ですか?」

見物人「通り魔らしいけど、怖いな!」

平田は軽く流して鑑識が行われている現場一面を見渡した。すると、そのやじ馬の中に平田は偶然、恵美の姿を見た。

平田「あれ?恵美さんじゃないですか?」

恵美「あ、平田さん!」

平田「偶然ですね?こんなところで会うなんて!」

恵美「そうですね!」

平田「それにしても怖いですね?通り魔なんて!恵美さんも気を付けて下さい。」

恵美「私は大丈夫です。逆に襲う方かもしれませんよ!」

恵美は、自信満々な表情だった。

平田「今日はどうしたんですか?こんなところで」

恵美「いや、何か人がたくさん集まっているからどうしたのかと思って」

実は恵美は久しぶりに孝の店に顔を出してみようと思っていた。

平田「そうですか〜。実はたった今、恵美さんの彼氏がお仕事をされているお店に行ってたんですよ!すごく、元気そうでしたよ。」

恵美「え、そうですか〜」

恵美は全く興味のない素振りをしたが、平田は、

平田「どうですか?今から、ちょっとお茶でも、お腹空いてたらご飯でも」

恵美は断ろうとしていたが

平田「わかった!じゃあ、今日の一回デートで僕が恵美さんにふさわしいかどうか決めてくれていいよ!それで駄目だったら僕は諦めるよ」

恵美「え!じゃあ、ご飯くらいだったら」

恵美はなぜか、少し嬉しかった。

平田「じゃあ、今から近くにいいお店があるんだけど一緒にそこで、ご飯でも」

平田は笑顔で言ったが、それを見ていた木下が

木下「社長!」

平田「わかってるって!少しくらい、息抜きは必要だよ!」

木下「そうですが、今は仕事中です。女性とは、仕事が終わってからで!」

平田はかしこまって…

平田「これも仕事の一つだ!アハハ!」

そのやりとりを見ていた恵美は

恵美「あの、平田さん!また次回でも…」

平田「いやいや、気にしなくても…」

と言って平田は恵美と会話が聞こえない場所に木下を連れて少し離れた場所に移動した。そして平田は、真剣な表情になり、小声で

平田「木下!おまえは今から事務所に戻って、うちのサイトからあの本を買った小川理香の身辺調査をしてくれ!もし、救急車で運ばれた女性が小川理香だったら、俺は明日の朝一で南先生にアポを取る。今日の仕事はこれで終わりだ!」

木下「は、はい、わかりました。」

木下は平田のオ−ラに圧倒されたのか、了承してその場を去った。

平田「では、恵美さん今日はよろしくお願いします。」

恵美「よろしくお願いします。」

恵美は、かわいく微笑んだ。

そして、平田はついに恵美と二人で、ご飯に行く事になった。

平田「今日は、秘密のデートですね?」

恵美「またまた〜、そんな大袈裟な〜!」

平田「本当にこれは、秘密のデートですよ。恵美さんには、すばらしい彼氏がいるにもかかわらず、僕みたいなダサイ男とご飯に行ってくれるなんて、彼氏にはこの事は秘密ですよ。」

恵美「そんなダサイなんて…。わかりました。孝には言いませんよ!今日はどんな、デートをしてくれるのかしら」

恵美は、嬉しそうに言った。

平田「任せて下さい。いいお店があります。」

そう言って平田は恵美の手を握った。

恵美「あ、平田さん?」

平田「ゴメン!早かったかな?」

そう言いながらも平田は手を離さなかった。恵美は一瞬、心臓の鼓動が大きくなった。二人は手を繋いだまま、歩いた。恵美は平田に手を引かれるような形で歩いた。孝に少し罪悪感を感じながらも悪くないかもと思っていた。そして、そのまま、イタリアンのレストランに入った。

「いらっしゃいませ」

店の入口で店員が会釈をした。平田は来慣れているような感じで、軽く手を挙げて、通り過ぎた。恵美と手を繋いだまま店内を歩き、2階へと続く階段を登った。

恵美「平田さんどこへ?」

恵美は心配そうに聞いた。

平田「僕に着いて来て下さい。」

恵美に優しく微笑みながら言った。そして、ドアを開けてある個室に入った。

恵美「ここは?」

平田「僕達だけのVIPルームです。」

恵美「VIPルーム?」

平田「そう!ここは僕のお店なんだ!だから、今日は恵美さんのために、たくさんのおもてなしをするよ」

恵美「平田さん!」

恵美は言葉が出なかったが、嬉しかった。平田はウェイタ−を呼んで、たくさんの料理を運ぶように言った。そして、しばらくして、たくさんの料理が運ばれて来た。

恵美「すごい!」

恵美は驚くだけだった。

平田「どうぞ!」

恵美「あの〜、私…今日、そんなにお金を持ってないのですが!」

平田「今さら、そんな!大丈夫だよ!これは僕が恵美さんにふさわしいかどうかのテストだよ。恵美さんにお金を出して貰ったら減点だよ!」

平田は笑いながら言った。恵美は、平田の精一杯のコ−ディネイトに自然と笑顔が出た。しばらくの間は二人は料理を食べながら、普通の世間話しをしていたが、平田が核心をつくような話題をふった。

平田「最近、彼氏とはどう?」

恵美「え?」

恵美は突然、現実に戻された感じだった。

恵美「どう?というのは?」

平田「うまくいってるのかなぁと思って!」

恵美「それが、最近全然会ってなくて、おはようとかおやすみのメールのやりとりぐらいで…」

平田「へぇ、じゃあ、お互いに忙しいのかな?」

恵美「別にそうじゃないんだけど、付き合っても孝の気持ちがよくわからないというか、私も何かこのままでいいのかわからなくて…。それに、この前なんか、孝の方から、誘っておいて会って少ししか時間が経ってないのに、突然帰るとか言い出したり…。もう、なんだか…だから私はちょっと距離を置こうかなぁ〜と思って。」

恵美は、気付いたように

恵美「あ!私、何しゃべっちゃったんだろう!別に平田さんに、相談とか愚痴みたいな事を言うつもりじゃ!」。

平田「アハハ!大丈夫だよ!僕で良ければいくらでも、聞くよ」

恵美「そんな…せっかくこんなにすばらしいところに招待して頂いたのに私の愚痴ばっかりじゃ!そうだ、平田さんの恋バナなんて聞きたいな〜!」

平田「僕の事?そんなに話せる程の事はないよ!」

すると、平田は恵美のネックレスに気付いていたかのように

平田「実はさっきから気になってたんだけど、そのハ−ト型のネックレスかわいいね!すごく似合ってるよ」

恵美は、戸惑った。

恵美「え?これですか?」

平田「なんか、珍しいデザインだよね?この前、会った時はしてなかったよね?もしかして彼氏からのプレゼント?」

恵美「いや…そういうのではなく!」

平田「もしかして、僕以外に恵美さんに気がある人からのプレゼントとか」

恵美「そんなんじゃありません!!」

恵美は、少し声を張り上げて言った。

恵美「あ!ゴメンなさい!」

平田「ハハハ!気にしなくていいよ。聞いたら駄目な質問をした僕が悪いんだから」

平田は、微笑んでいた。

平田「ネックレスか〜」

少し、遠くを見るような感じで平田は言った。

平田「そう言えば、昔どんなに指輪やネックレスをプレゼントしても、喜ばないし、僕に笑顔一つ見せない女性がいたな」

恵美「彼女だったんですか?」

平田「付き合って、結局、フラれちゃったけどね」

恵美「あ〜!この前会った奈津子さんの事ですか?」

恵美は図星?のつもりで言ったが

平田「ハハハ!奈津子と別れたのは最近だよ!その前の学生時代からの話しだよ」

恵美「学生時代から?」

平田「そう!学生の頃から付き合ってその後、社会人になっても付き合いは続いたんだ。」

恵美「学生の頃からですか〜?あ!」

恵美はふと自分と宏の事を思い出した。そして、一瞬、自分の恋愛に重ね合わせた。平田は、話し続けた。

平田「僕はとにかく、その彼女が喜ぶと思って、クリスマスや誕生日など記念日には、いろんなお店をまわって、指輪やネックレスを彼女のために用意してたんだ。おかげで、その度に貯金がなくなっていったけどね!ハハハ〜!」

平田は恵美に笑いながら言った。

恵美「その彼女とはなぜ別れたのですか?」

平田「ある日、突然、彼女が、『指輪もネックレスもいらない、そしてあなたもいらない』って!ハハハ〜!全部、捨てられちゃったわけだよ」

平田は笑いのオチのように語った。

恵美「じゃあ、奈津子さんとは、なぜ別れたんですか?」

恵美は探るように言った。

平田「奈津子?ハハハ!付き合ったと言っても6ヶ月くらいだからな!疲れたから、僕から振った!」

恵美「疲れた?ですか?」

恵美はア然とした。

平田「奈津子はまだ、僕の事が好きで、付き合ってた頃は今すぐにでも結婚したいとか言ってたけど、なんか疲れちゃって…あ、僕って勝手かな?」

恵美「平田さんも勝手ですね。」

平田「平田さんも?」

恵美「え!いや、男はみんな勝手だって言う事です。」

恵美は、ちょっとふくれていた。平田は少し困った表情だったが

平田「でも、人間というのは不思議なもんだな!目の前にあって、すぐに手に入るものには、なぜかその物の価値を感じないのに、遠くて手に入るかどうかわからない未知なるものに高い価値感を抱き、なぜかそれを誰もが求めてしまう。そしてそこには必ず、傷付く者が存在する。あ!、ゴメン!なんかキザな事を言っちゃったね?」

平田は、真剣な顔から突然、笑顔になった。恵美は自然とその話しに夢中になっていた。



一方、洋食屋KIYAMAでは、理香が病院に運ばれたという事を知った4人が、少し動揺しながら仕事をしていた。時計は7時を過ぎていた。

鈴木「白川!もう上がりじゃないか?」

孝「あ、そうですね?」

鈴木「小川の事は大丈夫だ!たぶん…。」

孝「そ、そうですね!」

孝はうまい言葉が出なかった。厨房では、達也がかなり沈んでいた。そして、孝は今日の仕事を終え、店を出た。


その頃、恵美は平田の話しに夢中になり、時が過ぎるのも忘れていた。

平田「何か、恵美さんといると、時間が経つのも忘れてしまうよ!」

恵美「そうですね!私も今日はたくさん平田さんとお話し出来て楽しかったです。」

平田「じゃあ、テストの結果は合格?」

恵美「え?」

恵美は戸惑いを隠せなかった。それを見た平田は恵美から目を反らして

平田「結果は焦っても、出ない。すべての真実は立証された後に価値が導かれる。」

平田は真剣な表情で言った。

恵美「それってどういう事ですか?」

恵美は理解出来なかったが、意味深に感じた。平田は笑顔になった。

平田「大学時代の先生の口ぐせだよ!それよりも今日はありがとう。行こうか?」

恵美は笑顔だった。二人は店を出た。そして店の前で

恵美「あの〜、今日はありがとうございました。」

平田「僕の方こそどうも!」

恵美「あの、私!平田さんの事は嫌いじゃないんですが…でも、すごく尊敬出来る人というか、その…」

恵美は揺れていた。平田はそれを察していたように

平田「再試験だね!」

恵美「え?」

平田「じゃあ今度はドライブに行こう!今の彼氏と僕で迷いがあるのならそれでもいい。でも、いつか答えを出してくれるまで僕は待つよ。」

恵美は平田の真剣な表情に、少し顔を赤くしていた。



一方、バイトが終わった孝は一人で帰っていた。孝は恵美とメールだけのやりとりに不安を感じていた。そして、恵美に直接電話をした。

孝「やはり、駄目か!」

何度も携帯を鳴らした。すると、

恵美「もしもし」

やっと繋がった。孝の中でわずかながら安心を感じた。

孝「今から、会えないかな?晩飯でも!」

恵美「今から?」

孝「いや、駄目ならまた、今度でも!」

恵美は平田と一緒にいたが

恵美「私、今友達とご飯もう食べちゃった。」

孝「そうなんだ?じゃあ、お茶でも!」

恵美「う〜ん、どうしようかな?」

ぎこちない誘いの孝に対して、恵美は迷っていたが、

恵美「いいよ!孝は今どこ!」

孝「俺は今、バイトが終わって店の近くだけど」

恵美「じゃあ、孝のバイト先の洋食屋さんで待ち合わせでいい?」

孝「OK!それじゃあ、俺は店で待ってるよ!」

電話は切れた。そして孝は、店に引き返した。店のロッカールームで、恵美が来るまで、テレビでも見て時間をつぶそうかと思っていた。孝は再び、店のドアを開けた。

鈴木「いらっしゃいませ〜!あ!」

相変わらず、威勢の良い鈴木の声が店内に響き渡った。

鈴木「あれ、また勤務か?」

孝「いや、恵美と店で待ち合わせなんだ!」

鈴木「ここで?相変わらず仲がよろしくて…。」

孝「いやあ、そんな…」

孝は照れながらも、少し浮かれていた。その時、孝の携帯が鳴った。非通知だった。

孝「まさか!」

心の中でつぶやいた。

孝「もしもし」

あきな「こんばんは、あきなだけど。これからどう?前のお詫びもしたいし」

孝は見えない束縛を感じた。さっきまでの安心感や浮かれていた気持ちは一瞬で消えた。

孝「あきなさんは今はどちらですか?」

孝は凍り着いたような感じで言った。

あきな「今は銀座だけど、また時計台の前でいい?」

孝「はい、わかりました。今からでしたら30分以内には!」

あきな「じゃあ、待ってるわ!」

電話は切れた。孝は恵美と待ち合わせの店を出た。鈴木は、孝の少し重そうな足取りを興味深く見ていた。

孝は今度は駅に向かった。

孝「恵美に電話しないと」

独り言を言いながら歩いていたが、電話をする勇気がなかった。その時、孝は偶然にも、恵美の姿を見た。そして、その隣には

孝「平田?」

孝は目を疑った。

孝「なんで、あの二人が?さっき恵美が言った友達って…」

孝は遠くから、二人を見ていた。しかし、今からあきなに会う事を考えたら目をつぶるしかなかった。それから、孝は結局、恵美にキャンセルの電話を入れる事なく、電車に乗り、銀座の時計台の向かった。



恵美と平田は店を出て、しばらく歩いた。恵美は知らない間に少し平田に打ち解けていた。

恵美「平田さんて、ちょっと不思議な感じがしますね?」

平田「不思議?僕が?」

恵美「そう!何か、いつも私の心の隙間を突いているような感じがして…」

平田「心の隙間?ハハハ!もし、それが出来たら、誰かのハ−トを射止めるのは簡単だけどね?」

平田は笑っていた。

恵美「あ、それでは、平田さん。私はこっちなので!」

平田「あれ!駅はこっちだけど…」

恵美「ちょっと用事があるので…」

平田「そうなんだ!じゃあ、また、電話するよ!よろしくね!」

恵美「いえ、こちらこそ!」

恵美は無意識に次回の約束をするような返事をしてしまった。それから、恵美は孝のバイト先である洋食屋に向かって歩いた。途中、理香が襲われた場所はまだ、警察車両が止まっていた。そして、恵美は孝との待ち合わせの店のドアを開けた。

鈴木「いらっしゃいませ!」

相変わらずの、威勢の良すぎる声が店内に響きわたる。恵美は少し驚いた。

鈴木「あ!恵美ちゃん!」

恵美「あれ?孝はいませんか?」

鈴木「白川だったら、さっきまで店にいて、なんか携帯に電話かかって来て出て行ったけど…」

恵美「電話?」

鈴木「あれ?あいつ、さっきまで、恵美ちゃんと店で待ち合わせとか言ってここにいて、携帯に電話があって店を出たからてっきり、白川の電話の相手は恵美ちゃんだと思ったけど…」

恵美「え?私、孝と電話で話したけど、かけてないんだけな〜!」

鈴木「そうか〜!まぁ、あいつの携帯でも鳴らしてみたら!近くにいるかもしれないよ!」

恵美と鈴木の会話のやりとりを達也は厨房から興味深く聞いていた。そして、恵美は店を出て孝の携帯に電話した。かなりの回数の呼び出し音が鳴ったが、やっと孝は出た。

孝「も、もしもし!」

恵美の電話から孝は息を切らして、やっと電話に出た感じだった。

恵美「孝!今、店に着いたけど、今どこ?」

孝「え、今?」

恵美「店に着いたよ!」

孝「恵美!ゴメン!」

恵美は嫌な予感がした。

孝「今日は、ちょっとたった今、急用が入って…」

恵美「急用?急用って何?誘ったのは孝の方だよ!だから、私、孝のために時間を作って来たのに!」

少し、沈黙が続いた。孝は無言だった。すると

孝「ゴメン!さっき、前に履歴書を送った会社から今すぐ会いたいって言われて、今から急に面接になっちゃって…」

孝は見えすいた嘘をついた。

恵美「今から?こんな時間に?」

孝「そう…今から…なんだ!」

時計は9時になろうとしていた。すると恵美は

恵美「そうなんだ。仕方ないね!その会社、合格するといいね!」

少し暗い声で言った。そして恵美は自分から電話を切った。恵美は完全に、孝が嘘をついていると疑っていた。一方、孝は、とりあえず今はなんとかごまかせたと思っていた。そして、孝は電車を乗り継いで銀座の駅に着いた。駅を出ると街はいつものように、高級感の漂う雰囲気の夜であった。孝は前回同様にあきなとの待ち合わせの時計台に向かった。恵美に嘘をついてまで銀座に来ている自分に、孝は罪悪感を感じていた。しかし、どうする事も出来なかった。そんな事を考えながら、孝は待ち合わせの場所に着いた。あきなは白い息を吐きながら待っていた。今日のあきなは、白のロングコ−トを全身に羽織っていた。前回のあきなは仕事帰りという感じの服装であったが、今日はプライベートのような服装かなと孝は勝手に分析した。そして、少し化粧にも気合いが入っている感じで孝には、それが魔性の美しさに見えていた。しかし、孝はもしかして今日は…というスケベ心もどこかにあった。

孝「遅れまして、すみません。」

あきな「そんな事ないわよ。気にしないで!」

孝「今日はどちらへ?」

あきな「今日は前のお詫びを込めて、とっておきのところを用意してあるわ!」

そう言いながら、あきなは孝の腕に抱き着いた。甘い香水の香りが、漂う。孝は恵美以上にあきなに女を感じていた。二人は、端からみれば誰も疑いようのない恋人同士であった。形だけを見れば…。

孝はあきなの案内で超高層ビルに入った。二人は腕を組んだまま、エレベーターに乗り、最上階に着いた。そこは薄暗いラウンジと静かなBGMが流れる展望台であった。そして、展望台を意識して作られたようなレストランがあった。。

あきな「ここよ!」

孝はちょっと、驚いていた。この少し非現実的な空間よりも店の前のメニューの値段に!

孝「あ!な、なんかすごいお店ですね?ハハハ!ステーキ一枚、2万円とか…。」

一瞬、この前の500万の事が頭をよぎったが今日は手元にはなかった。

あきな「心配しないで!今日は私のおごり!お詫びの気持ちだから」

孝「そ、そうですか?」

孝とあきなはその店に入った。

「いらっしゃいませ」

一人のウェイタ−が立っていた。店内は高い天井と全面ガラス張りで夜景が一目瞭然になっていた。

あきな「さっき電話で予約した者ですけど!」

ウェイタ−「白川様ですね?」

あきな「はい!」

孝は一瞬、俺の名前?と思ったが、それもあきなが自分を出さない手段なのかとも思った。二人はそのウェイタ−に、夜景に向き合って座るような、カウンター形式の席に案内された。

あきな「孝!見てすごい綺麗!」

孝「うわ!すごいですね?」

あきなは、夜景に感動して、純粋な少女のような笑顔になっていたが、孝は夜景以上にそのあきなに無意識に見とれていた。

あきな「孝!本当にすごいね!」

孝「え?あ、そうですね?」

あきなに見とれていて、突然話しかけらて言葉につまった。普段は冷静でク−ルな雰囲気のあきなしか知らない孝だったが一瞬、可愛くも見えた。

孝「とりあえず、座りませんか?」

あきな「そうね!」

そして、あきなは近くのウェイタ−を呼んで白のロングコ−トを脱いで渡した。コ−トの下は季節感を少し無視した感じの、ピンクのドレスのようなワンピースだった。その姿に孝はまたも見とれるだけだった。二人は寄り添う形で座った。

あきな「先日は本当にゴメンなさい!」

そう言いながら、あきなは孝の腕を指でなぞっていた。

孝「いえ、全然気にしてませんから!大丈夫です。」

と言いながら、孝は自分の腕を指でなぞるあきなの方を気にしていた。

あきな「本当?また、これからも一緒にデ−トに行ってくれる?」

そう言ってあきなは肩を寄せて来た。孝は緊張のあまり、身動きが取れなかった。顔も夜景の方を向いたままで、自分の肩の近くまで来ていたあきなの顔を見れなかった。

孝「もちろん、これからもよろしくお願いします。」

孝は顔を反らして言った。

あきな「ありがとう!」

孝はあきなに抱き着かれて頬にキスをされた。孝は悪くないかもと思ってしまったが、恵美の事も頭をよぎった。そして、あきなはずっと孝に抱き着いたままだった。孝は隣の美女に、何か飲みこまれそうな気がした。気を紛らすために辺りを見渡した。客層はやはりというべきか、正装の人がほとんどだった。こういう夜景の見える高級なレストランに来る人は会社の重役に付けるようなエリ−トだけだろうと孝は心の中で勝手に分析した。その時、ふと孝の頭の中に軽い矛盾のようなものが浮かんだ。「会社の重役に付けるようなエリ−ト?あきなさんは、運転手付きの車に乗る程の身分でありながら、こういうところに来るのは慣れている人ではないのか?しかし、さっきの夜景を見た時の無邪気な感動の様子はまるで、初めて見た時のようにも見えた。いや、単に感受性が高いだけなのか?」

孝は頭の中で考えたが、何も答えは出なかった。

あきな「どうしたの?何か考え事?」

孝「いや、何もないです。」

孝は突然、何かを見抜かれたような感じがした。

孝「そう言えば、全然メニューを注文してなかったですね?」

あきな「そうだったわね?」

あきなはメニュー表を取った。

あきな「孝!何にする?」

孝「どれも、高そうですね?というより、どれも高い食材を使っているんでしょうね?」

あきな「そうね?う〜んどれにしようかな?」

あきなは迷っていた。孝は、あきなの横顔を見ていた。

あきな「決まった!オマ−ル海老とフォアグラのパエリア。あと、赤ワインも一本頼みましょう。孝は?」

孝「え!あ、僕も同じので」

あきなを見ていた孝は、突然こっちを向いたので焦った。そして、料理が運ばれて来て二人は目の前の夜景とともに、恋人同士の時間を過ごした。孝は、不思議というべきか、不可解というべきか、わからないあきなという女性についていろいろ知りたいと思った。ただ、それすらこの恋愛というビジネスにおいてはタブーであるという事はわかっていた。



洋食屋KIYAMAは閉店の時間になっていた。鈴木は8時過ぎにあがって、達也と店長の木山の2人で店の片付けをしていた。そして、客もいなくなり店のレジを閉めていた時、店の電話が鳴った。木山が電話をとった。

木山「ありがとうございます。洋食屋KIYAMAです。」

電話の向こうは男性だった。

男性「すみません!氷川さんいらっしゃいますか?」

木山「はい、おりますが、どちら様でしょうか?」

その後すぐに電話は切れた。厨房の片付けをしていた達也に

木山「おい、氷川!さっきおまえ宛てに電話があったけど、名前を聞いたらすぐに切れちゃったよ。今日、何か用事とかあったのか?」

達也「用事?いや何も!俺宛ての電話だったんですか?」

木山「そうなんだけど、名前を聞いたらすぐに切れたから、なんか気味が悪いな〜!」

達也「はあ…」

達也は嫌な予感がしたが、それが何かはわからなかった。その後、店の戸締まりをして木山と達也は店で別れた。そして達也はポケットに手を突っ込んで小走りで駅に向かっていた。

達也「寒いな〜!さっさと帰ろう!」

達也は途中の赤信号で立ち止まった。その時数名の、マスクとサングラスで顔を隠した男達に囲まれている事に気付いた。

達也「え?」

何か、危ない雰囲気の物を感じた。そして、信号が赤から青になった。その瞬間、達也は逃げるように走り始めた。周りにいた男達はそれに気付いたように、達也を後を走り出した。

達也「何?」

数名の男達は無言で達也を走って追いかけて来た。そして、達也は間違いなく自分が標的である事に気付いていた。達也は全力で逃げた。そして、曲がり角を曲がって、ビルの間に隠れるように潜り込んだ。

達也「何なんだ!あいつら!」

しかし、男達は辺りをうろついて達也を探していた。

しばらくの間、達也は辺りを見ながらビルの隙間から路上に出た。辺りは、街路灯一つないところだった。腕時計は10時過ぎになっていた。周りには人通りはほとんどなく静まりかえった状態で街は夜の闇を写していた。

達也「何なんだ、あいつらは?あ!」

達也はさっき店に自分宛てにかかってきた電話を思い出した。

達也「もしかして…」

達也は「店の電話は自分がいるかどうかの確認?なぜ?俺のバイト先がバレていたのか?昼に刺された小川さんと関係があるのか?」何も答えは出なかったが、やはりあの本のせいなかと思った。そして、考え事をしながら歩いていると、

達也「マジで?」

さっきまで、追い掛けられた数名の男達に、達也はいつの間にか囲まれていた。

達也「何だ!おまえら?俺に何か用か?」

男達は無言だった。1対3だった。そして正面の男の右手には、刃物のような物が見えた。達也は絶対絶命だと思った。その時、正面にいた男が刃物で襲ってきた。達也は、よけたと思ったがわずかに顔を刃物がかすった。すかさず、後ろにいた男に蹴られて、また刃物を持った男が顔をめがけて切り掛かってきた。

そして、一瞬の間合いで達也は刃物を持っている右手を掴んで、その腕を蹴り上げた。刃物は男の手から離れ、路上に落ちた。少しの間、動きが止まったが、達也は突然、後ろから羽交い締めにされた。そして、男は落ちたナイフを拾った。確実に、拾ったナイフで達也にとどめを刺そうと狙っていた。その時!

誰かが、中に割って入って来た。ナイフを持った男は、蹴り倒された。中に割って入ったのは、平田だった。

平田「おまえらだな!昼間に女性を襲ったのは」

達也「何?」

達也は一瞬、耳を疑った。

平田は達也を襲った男達に言った。すると、男達は無言で立ち去った。

平田「大丈夫か?」

達也「あ、ありがとうございます。」

達也は平田が今日、店に来た客である事はわかったがその事は言わなかった。その時、平田の携帯が鳴った。

平田「もしもし、平田です。あ、木下か」

木下「小川理香についていろいろ調べてみました。」

平田「で、どうだった?」

木下「彼女は今、卒論で心理関数解析について調べているみたいです。」

平田は木下からの電話を聞きながら、その場から離れるように歩いて行った。その時、達也はかすかだが、平田の携帯の相手先の言葉に「小川理香」という単語が聞こえたように感じた。

達也「小川理香?同姓同名?」

平田が立ち去った後、一人つぶやいていた。そして、平田は歩きながら

平田「心理関数解析?」

平田は少しニヤついた。

木下「はい!心理関数序論の本の購入審査のために、小川理香本人の書きかけの卒論を出したみたいです。あと、彼女は東西大学の学生です。」

平田「東西大学?なるほど!よし、わかった。ご苦労だったな!おまえはもう帰って休め!」

木下「ただ、今日夕方に刺された女性が小川理香本人かはまだ、わかりませんが…」

平田「いや、それだけで充分だ。明日は朝一で直接、南先生に俺が電話を入れる。」

平田はニヤついていた。

平田「お疲れさん。」

木下「お疲れ様です」。平田は電話を切って帰って行った。



孝はあきなと夜景を見ながら、絵に描いたような恋人の時間を過ごしていた。もちろん、孝にはその状況は制限されたもののように感じていた。しかし、夜景、赤ワイン、擬似恋人?のあきなは孝の目にはすべてが美しく溶け込んだ景色であった。そして、孝が見とれていると、一杯のカクテルが運ばれて来た。

あきな「すみません。注文してないのですが…」

すると、ウェイタ−は

ウェイタ−「我がレストランの専属バ−テンダーから、特別メニューをプレゼントしたいという事でお持ちいたしました。」

あきな「私にですか?」

ウェイタ−「はい!『2月の雨』という名前の裏メニュー用カクテルらしいです。直接メニューには載せてないのですが、よろしければ!」

あきなはそのカクテルを見つめていた。全く手をつけようとしなかった。

ウェイタ−「どうかされましたか?我がレストランの専属バ−テンダ−は協会からも高い注目を浴びておりまして、赤井満(あかいみつる)という名前でしたら、どこかでお聞きになった事はあるかと思います。」

あきなは、カクテルグラスを軽く爪で弾き微笑んだ。すると

あきな「バ−テンダ−の方に直接、お礼が言いたいので会わせていただける?」

ウェイタ−「では、こちらに連れて参りますが…」

あきな「いや、私から直接伺わせて!」

ウェイタ−「では、あちらのカウンターでシェイカーを振っているのが我がレストランの専属バ−テンダ−赤井でございます。」

あきなは、カクテルを持って立ち上がった。

あきな「孝!ちょっと待っててね!」

孝「はい…。」

そう言ってあきなは右手にカクテルを持ってカウンターに行った。そして、カウンターにカクテルを置いた。

あきな「プレゼント!ありがとう。」

赤井「気にいって頂けましたか?」

あきな「とっても素敵なカクテルね?でもこんな素敵な物は頂けません」

あきなはきっぱりと断った。

赤井「え?お口に合いませんでしたか?」

あきな「いいえ、これはあなたのオリジナルカクテルじゃないでしょう?」

あきなの言葉に赤井は少し、うろたえた。

赤井「お客様、なぜそれを!」

あきなは薄ら笑いをしていた。

あきな「フフ、オリジナルカクテルがこの世に2つは存在しないでしょう。」

赤井は、降参したかのように

赤井「おそれいりました。確かにこのカクテルは私のオリジナルではございません。尊敬する、ある先輩バ−テンダ−から、レシピを受け継いだものです。でもなぜ、わかったのですか?」

あきなは、カクテルを見つめながら

あきな「勘よ!」

赤井「勘ですか?」

あきな「そう、女の勘ってところかしら」

赤井「女の勘?ですか?」

赤井は、不思議そうに言った。あきなは微笑んでいた。そして、あきなはその場から、立ち去ろうとした時

赤井「待って下さい。」

あきな「何か?」

赤井「早坂さんを知っているのですか?」

あきなは赤井とカクテルを見つめながら、少し企んだ表情で

あきな「知らないわ、そんな人!でも教えてあげるわ。この世に2つとない物、それを手に入れる事ができるのは1人だけ!そしてそれが、プレゼントであれば、その貰う相手はその人にとって特別な存在のはず!」

あきなはそう言い残して自分の席に戻って行った。赤井は、自分を見抜かれた事に悔しさを感じていた。

あきな「お待たせ!」

孝「どうしたんですか?タダで出して貰ったので、とりあえず一口だけでも頂いらよかったじゃないですか?」

あきな「なんか、見かけとかネ−ミングが気にいらなかったから。」

あきなは優しい口調で言った。

孝「そうですか〜?」

あきな「行きましょう。今日はもう、遅いから」

孝「はい!」

二人は会計を済ませて店を出た。あきなは、またいつものように孝の左腕に抱き着いた。孝はそんなあきなを間近で見て、今、この時が止まればいいとも思った。そして、二人は、待ち合わせをした銀座の時計台の前に戻って来た。また、迎えの車が停まっていた。前回と同じ20代くらいの運転手が立っていた。

あきな「今日はありがとう。楽しかったわ!」

孝「僕もです。」

孝は普通に本心で言った。ただ、あきなと過ごす時間は一線を越える事は許されない事も知っていた。

あきな「また、連絡するわ!じゃあ!」

あきなは車に乗ろうとすると、

孝「あきなさん!」

あきな「何?」

孝は、無意識に呼び止めた。

孝「あ、あの〜。また、連絡下さい。」

あきな「わかった。また連絡するわ」

あきなは一瞬振り向いて微笑んだ。そして車に乗り込み、出発した。

孝は一人、時計台を見上げて少しその場に立ちすくんでいた。何故か、切なさを感じていた。

孝「恵美!怒ってるかな?」

孝は今の自分には恵美を受け入れるだけの資格はもうないのかもしれないと思っていた。


その後、あきなは車の中で考え事をしていた。

運転手「ねえ、あきなさん!」

あきな「何よ!」

運転手「本当にこのままでいいんですか?」

あきな「うるさいわね。何であなたに指図されなきゃいけないの?」

あきなは少しイライラしていた。

運転手「早くした方がいいんじゃないですか?」

あきなは少しの間、運転中の努を後ろから見ていた。そして、あきなは薄ら笑いを浮かべながら

あきな「ねぇ、努!」

運転手「何ですか?」

あきな「何をあなたが、そんなに、焦っているの?」

運転手「え?僕はただ、早くした方がいいかなぁ〜と思っただけで…」

あきな「ふ〜ん。でも、ただの運転手のあなたにとってはどうでもいい事のはずが、私をせかしてるのは不思議ね?」

運転手「どうしたんですか?僕を疑っているのですか?」

あきなは少し微笑んで

あきな「別に…」

運転手「な、なんか今日のあきなさんは怖いな」

あきな「そう?」

そして、あきなは車から窓の外を見て

あきな「努、ちょっと車を横に寄せて停めて」

運転手「は、はい!」

車は道の横に停車した。

運転手「どうしたんですか?突然、車を停めて」

あきなは真顔になった。

あきな「努、もう帰っていいわよ!」

運転手「え?どういう事ですか?」

あきな「もう、車を降りて帰っていいわ!そして、明日からは来なくていいわ!」

運転手「先輩!冗談きついな〜!」

あきなに笑顔はなかった。

あきな「はい、これはタクシー代と今までのバイト代よ。」

あきなは財布から、お金を出した。

運転手「で、でも、先輩はお酒を飲んでるし。車の運転は…。」

あきな「私の事は心配いらないから、もう、降りていいわよ!」

あきなに笑顔はなかった。努は嘘でない事に気付いた。

運転手「わかりました。お疲れ様でした。」

努は、車を降りてどこかに走って行った。努が車を降りた後、あきなは携帯を取り出した。

あきな「もしもし、(かける)?あきなだけど、今、永田町の駅の辺りだけど突然、運転手が降りちゃって帰れないんだ!悪いけど、車の運転をしに来てくれない?もちろん、お礼はするから」


30分程して、あきなに呼び出されて翔が来た。彼は日野翔(ひのかける)、年齢は27歳である。

翔「どうしたんですか?突然!」

あきな「突然!運転手が降りて帰っちゃった」

あきなは可愛く行った。すると翔は

翔「突然、降りて帰ったのですか?ハハハ!また、冗談を!あきなさんが降ろしたんでしょう?」

あきなは無言で、少しムスっとした。

翔「僕が運転すればいいんですね!どこに、行けばいいのですか?」

あきなは微笑んだ。

あきな「ありがとう。じゃあ、私が案内するわ」

車は翔の運転で出発した。

翔「全く、もうこういうのはやめて下さいね!僕も忙しいので!明日の仕込みの途中だったんですよ。」

あきな「ゴメン!」

あきなはその一言だけだった。

翔「で、今はどうなんですか?順調ですか?」

あきなは黙っていた。

翔「順調じゃないんですね?」

翔はしばらく、それ以上は聞かずに黙って運転していた。あきなもまた、無言だった。そして、

あきな「そこを左に曲がって、そして、突き当たりを右に行ったら、左にスロープがあるから…」

翔「早いよ、そんなにたくさん言われても覚えられないよ!ハハハ!いったいどこに行くの?」

あきな「とりあえず、私の事務所に戻りたいから」

翔「事務所?」

あきな「ちょっと、調べたい事もあるので…」

あきなは少し暗い表情だった。そして、あきなの案内で車は事務所のある駐車場に着いた。

あきな「ちょっと、寄って行く?お茶くらいなら出せるわよ!」

翔「それが僕の報酬かな?」

あきなは一瞬、表情が変わった。

翔「じょ、冗談ですよ!じゃあ、ちょっと遊んで帰ろうかな〜」

二人はエレベーターに乗った。

翔「すごい、ところに事務所があるんだな〜!」

あきなは翔の言葉にも反応する事なく黙っていた。そして、二人は真っすぐ廊下を歩き事務所に入った。

あきな「今、お茶を入れるから、そこに座っていて!」

翔「お!ふかふかだ〜!これだったら徹夜で仕事をしてもグッスリ眠れるな〜」

翔はソファーに寝転んだ。少しして、あきなはお茶を持って来た。

あきな「どうぞ!」

翔「では、お言葉に甘えて」

翔はお茶を一口飲んだ。

あきな「何年ぶりかしら、翔とゆっくり話すなんて」

翔「何年ぶりかな?まあ、でもこの前、店に来てくれたからね!」

あきな「あれは、仕事よ!」

翔「仕事ねぇ〜!料理は自信あるんだけど、演技は自信ないんだよな〜」

あきな「仕事だから、仕方ないのよ!」

あきなは少し疲れた表情で言った。それを見た翔は、笑顔が消えた。

翔「やっぱり、3つ揃わないとダメなの?」

あきなは答えに困っていた。

あきな「たぶん、駄目かも…。」

翔「そうか〜?」

あきなは暗い表情で

あきな「あと、先生はもう長くないかもしれない」

翔「え?本当?」

あきな「たぶん!」

翔は驚きで言葉が出なかったが

翔「そうなると…もしかしたら、生きているうちに、先生の提唱した心理関数は立証されずに終わる。という事か〜」

あきな「そうなるわ」

二人は黙っていた。沈黙が続いた。翔が話題を変えた。

翔「そう言えばこの前、店に一緒に来た人って誰?どうせあきなさんの彼氏じゃないのはわかってるけど!」

あきな「白川孝っていう27歳のフリーターよ!」

翔「27?僕やあきなさんと同い年だ。で、その人って彼女とかいるの?」

あきな「何かいるみたい!ちょっと、不釣り合いな感じだけど…」

翔「不釣り合い?」

あきな「そう!あの男にはもったいないという感じの彼女よ」

翔は笑っていた。

翔「ハハハ…ハハハ」

あきな「何が、そんなに可笑しいの?」

翔「ハハハハ!不釣り合いなんて、あきなさんらしくない答えだ」

あきな「私らしくない?どういう事?」

翔は突然、笑うのをやめた。

翔「恋愛において、釣り合っているかどうかなんて第3者から見た勝手な批評!釣り合っているかどうか正しい答えがわかるのは、付き合っている当事者のみ。ただし、現実の恋愛で釣り合う事は必要とされない。それが必要とされるのは、ドラマや映画の作られたラブストーリーのみである」

あきなは黙っていた。そして、翔はお茶を一気に飲み干して

翔「無くなった恋愛心理関数の実用解析書!早く探した方がいいね!さあ、帰って仕込みの続きをしないと。」

翔は立ち上がって帰ろうとした時

あきな「ねえ、翔」

翔「ん?」

あきな「その男性は一年持つと思う?」

翔「無理だな!与えられた定義域がたとえ一年であっても線形的要素しか持たない恋愛心理関数は存在しない。」

あきな「私もそう思う!」

翔「でも、無くなった実用解析書の膨大な実験データを、あきなさんが集めるために疑似恋愛をしているのも理解できます。」

あきなは見抜かれた感じだった。

あきな「その通りよ!でも、時間が…」

翔「時間!そうですね!4万ページからなる恋愛心理関数の実験データは、先生が20年以上にかけて集めたもの!終わりがいつになるやら」

あきなの表情は暗かった。

翔「白川さん?でしたっけ?その男性の名前…。たぶん、今の彼女と別れると思います。」

あきなはニヤついた。

あきな「そんな事は、関係ないわ」

そして、翔は少し微笑んで

翔「そうですね!あきなさんには関係ない事です。でも、あきなさんは実験データを集めてる間は本当の恋はできませんよ。では、おやすみなさい!」

そう、言い残して翔は事務所のドアを開けて出て行った。あきなは、無意識に後を追った。

あきな「翔!待って!」

翔「何ですか?」

あきなは、一瞬沈黙になった。

あきな「今日は、ありがとう!話せてよかった」

翔は微笑んだ!

翔「その言葉!あきなさんの本当の彼氏に言ってあげて下さい。」

翔はエレベーターに乗って、いなくなった。そしてあきなは、誰もいなくなった事務所で黄昏れていた。

翌日、平田は東西大学の南教授の研究室を訪れた。平田は軽くドアをノックした。

南「はい、どうぞ!」

平田「失礼します」

南「おはよう!」

平田「おはようございます。」

南「いったい、朝早くから何の用だね!何か良い情報でも持って来たのかね?」

平田「いえ、小川理香の事で少しお話が」

南「小川理香?ああ、先日、心理関数序論の購入に応募して来た子だな?」

平田「はい、そうです。」

南「その子が何か?」

平田「小川理香は、我が社のサイトから、本の購入審査のために彼女は書きかけの卒論を提出したみたいですが…」

南「ああ、そうだ!それが何か?」

平田「心理関数序論の購入に関しましては、その本を購入するに相応しいかどうか、その人の熱意、研究成果やその学問にどれだけ精通しているかを、学会の権威でいらっしゃっいます南先生に審査をお願いをして販売しております。」

南「その通りだが、君は何を言いたいのかね?」

平田「単刀直入に申します。小川理香の本の購入審査には疑問を感じます。」

南は少し、眉をひそめて

南「何を言ってるんだ。!私の審査に君はケチをつけるのか?私は彼女の提出した卒論は素晴らしいものと判断した。だから、本の販売許可を君の会社に通知した。そんな、くだらん事ならもう帰ってくれ」

平田は動揺した感じで

平田「ちょっと、待って下さい。先生!長年に渡って心理学の研究を続けている学者の中にもあの本の購入を希望している人はたくさんいます。なのに、そういった方々の論文は審査に落ちて、学生の書きかけの論文が合格というのは、私自信、納得いきません。」

南はため息をついて

南「平田君!君は学生時代に心理学は多少は勉強していたと思うが、こっちは君よりも何年いや何十年以上も、その心理の探求をしているんだ。どちらが、この学問に長けているかはわかっているだろう。」

南は余裕のある表情だった。それに対して平田は感情を抑えながら

平田「わかりました。一つだけ教えて下さい。小川理香が本の購入審査に合格したのは、彼女が東西大学の学生で、もしかして先生の講義を受けていたからという理由ではないですよね?」

南は一瞬、平田を見た。

南「まあ、合格の理由が直接でなくとも、間接的にはあるかもしれんが…」

平田は、驚いた感じで

平田「どういう事ですか?それは審査に公平性がないという事ですか?」

南は少し笑った

南「いいかね!現在、心理関数の研究で、最先端を行っている私の講義を受けた学生が、講義を理解して優秀な論文が書けても当然という事だよ!」

平田は南に反論出来なかった。平田は立ち上った。

平田「わかりました。今日は失礼します。」

平田は帰ろうとした時

南「平田君!」

南は一瞬、平田を呼び止めた。

平田「なんでしょう?」

南「心理関数と言っても、序論だ。我々の目的は、3つの心理関数の実用解析書を手に入れる事だ。」

平田は、少し冷や汗が出た。

平田「は、はいその通りです。」

南「たかだか、序論ごときに無駄に時間を使わんようにな!3つの実用書が揃った時、私は今後の研究に使わせてもらう。そして、君は私の名前で本が売れる。お互いに良い方向に進むように願っているよ!」

平田「はい、失礼します」

平田は、振り向く事なく退出した。平田がいなくなったあと、南は内線をかけた。

南「あ−、南だけど、金田はいるかね?ちょっと、私の研究室まで…」

数分後、南の研究室に一人の男性が来た。彼は金田信二(かねだしんじ)26歳で南の助手である。

金田「先生!お呼びでしょうか?」

南「さっき、平田君が来ていたよ。」

金田「平田が?」

南「ああ!心理関数序論の購入審査にケチをつけにな!」

金田「ケチを付けにですか?」

南「先日の小川理香の購入審査に合格を出したのは何故か?と…全く…。ド素人の分際で!」

金田は呆れた表情だった。

金田「全くのド素人ですか〜!ただそうとは言えないかもしれませんね!彼は、学生時代に北山秀雄の研究室にいた学生の一人ですからね。」

南「ああ確か、そうだったな!そもそも、心理関数序論の著者は北山秀雄で、このわしが購入審査をする事もたぶん気にいらんだろうな!」

金田「仕方ありません。北山秀雄は、5年前の火事でもう生きてはいないと思われますから、現在の学会の権威でいらっしゃっいます南先生が審査員である事を全面に出さないと本は売れませんし、実用解析書を手に入れるためには、平田は先生の力は必要です。」

南は薄ら笑いを浮かべて

南「ハハ!そうだな!でも念のためだが、5年前の北山秀雄と研究に関わっていた人間のリストはできたかね?」

金田は微笑んだ。

金田「はい、こちらに」

金田は南にリストを渡した。

南「ん〜。全部で4人か〜」

金田「はい、平田修二を含め、5年前の時点で北山秀雄の心理関数の研究に関わった人間は4名という事がわかりました。

南「そうか〜!」

金田「その他にわかった事ですが、5年前の火事が起こった日に、負傷者として救出されたのは、当時、卒論の学生として研究室に入っていた君島あきなだけだったらしいです。」

南は考え込んでいた。

金田「もしかしたら、5年前の火事で、実用解析書も燃えてなくなっているのでは?」

南「いや、そんなはずはない!当時の研究室の学生だった平田が直接、わしのところに来て、わざわざ、心理関数序論を売るための購入審査を頼みに来たからには絶対にどこかにあるはずだ。」

金田「もしかしたら、先生は、平田を含めた4人が、何か実用解析書の存在について知っているかも?というお考えで?」

南「その可能性は否定できないな!」

南はまた、考え込んだ。

南「平田修二か!何かおかしいと思わんか?」

金田「と、おっしゃいますと」

南「やつは、若干27歳で社長!そして、あの研究室の学生の一人であった。もし、心理関数の実用解析書が存在するとなると…」

金田「ま、まさか、あいつがですか?」

金田は驚いた表情で少し止まった。

南「そのまさかだ。3つの実用解析書の一つ、経済心理関数は平田の手にあっても不思議ではない。」

南と金田は少しの間、沈黙になった。南は、窓の外を眺めていた。

南「そう言えば、努のやつはどこに行ってるんだ!卒論でわしの研究室に入ったのはいいが休んでばかりで!金田!努によく言っておけ!卒業出来るかどうかわからんとな!」

金田「は、はい〜!」



研究室を出た平田は、駐車場に向かっていた。突然、平田は後ろから誰かに呼ばれた。

「平田さんですよね?」

平田は振り向いた。そこにいたのは努だった。

平田「誰だ!おまえ!」

平田は、さっきの件で気が少し立っていた。

努「南教授の研究室で卒論を書いています。宮田努と言います。」

平田「卒論の学生か?何の用だ?こっちは急いでるんでな」

平田はあしらうつもりだったが…

努「そんなに、威圧的な態度にならなくても…」

努は笑っていた。

努「取引しない?」

平田「取引?」

努「そう!」

平田「ハハハ!笑わせるな!学生のおまえが、会社の社長相手にか?身の程をわきまえろ」

平田は見下した感じで言った。そして、その場から立ち去ろうとした時

努「あきなさんの居場所、知りたくない?」

平田「何?…おまえ…」

平田は、意外な表情だったが、努は笑顔だった。


平田が大学を訪れている頃、あきなは事務所にいた。一人で、調べものをしていた。事務所は日の当たらない密閉された空間である。その時、誰かがドアをノックがした。

あきな「はい!」

ヒデだった。

あきな「あ、先生!起きてもよろしいのですか?」

ヒデ「大丈夫だ!それよりも、努をクビにしたのは本当か?」

あきな「はい!亀田CEOの方には私の方から、朝一番で話しをしておきました。」

ヒデ「そうか!お前がそういうのであれば、仕方はないが…」

あきなは、ヒデのその後の言葉が気になっていたが、敢えてそこには触れなかった。

あきな「先生!話しは変わるのですが先日、美幸さんには…」

ヒデ「いや、会えなかった。」

あきな「やはり、私の方から、直接話しをする方がよろしいかと思いますが!」

ヒデは何も言わず、ただソファーで疲れきった体を支えているようにあきなには見えた。そして、あきなはそれ以上何も言えなかった。ただ、あきなは心の中でヒデの病状を心配していた。



孝は達也に誘われて、昼過ぎに、理香のお見舞いに行く事になっていた。二人は、駅で待ち合わせていた。孝は待ち合わせの場所に先に到着していた。孝は恵美に嘘をついて、あきなとデートをした自分に罪悪感はあったが言い訳の電話やメールを出来ずにいた。

孝「会社の面接か〜!後でなんて恵美に言ったら…」

孝は一人心の中でつぶやいていた。そんな、考え事をしていると、人混みの中から右手に菓子箱を持って達也が現れた。

達也「遅れて、すみません。ちょっと、寝坊しちゃいまして!」

孝「え?寝坊?あ〜、そうなんだ?」

孝は考え事をしていたせいか達也が待ち合わせの時間に遅れて来た事も気付いていなかった。そして孝は、達也の顔を見て

孝「あれ?その傷どうしたの?」

達也「あ!これですか?ちょっと…ニキビを潰しちゃって、アハハ…」

達也は真実を話さなかった。孝もまた、その事には触れなかった。

そして、二人はしばらく歩いて理香が運ばれた大学病院に行った。受付で病室の番号を聞いて、二人はその部屋に向かった。大学病院という事で、さすがにたくさんの医師や患者が行き交っていた。達也は若さ故なのか、すれ違うナ−スに目移りしていた。

達也「白川さん!やっぱり…」

孝「わかった!お前の言いたい事はわかったから!今日はお見舞いだからな!」

20歳の彼女いない男子学生とはこうなのか?と孝は自分の二十歳の頃を少し思い出した。

達也「確かここですよね?」

孝「そうだな!」

すると、中から笑い声が聞こえた。中を覗くと、理香はテレビを見ていた。普通に元気そうだった。そして、理香はこっちに気付いたのか

理香「あれ、二人共!わざわざ、来てくれたんだ」

孝「どうも!」

達也「あ、全然、元気そうじゃないですか!」

そして、達也は持ってた菓子箱を渡した。

理香「ありがとう!わざわざ、悪いですね」

達也「ケガ、大丈夫ですか?」

理香「全治、1ヶ月程みたい!でも、全然大丈夫!」

足には包帯が巻かれていた。そして、理香は達也の顔を見て

理香「あれ、氷川その顔の傷は?」

達也「いや、ちょっとニキビを潰しちゃって」

理香「ニキビ?ふ〜ん!」

理香は黙って達也の顔を見ていた。すると

理香「やっぱり、氷川も私みたいに狙われたのかな?」

達也「え!狙われたって…」

孝「私みたいに?」

理香「そう!後ろから、突然!名前を呼ばれたと思ったら、ナイフで!」

達也「名前を呼ばれた?え?犯人は小川さんの名前を知っていたのですか?」

理香は坦々と話した。

理香「そしたら、私の持ってた本を奪って…。あ〜、もう本当にショック!」

孝「本?」

孝は達也が持っていた封筒を思い出した。

孝「達也!本て!あの時の封筒?」

孝は達也を見た。

達也は下を向いていた。

達也「そうです。」

達也はその一言だけだった。

孝「ちなみに、その本てどんな内容の本なんだ?」

達也「心理学の本です」

達也は真顔で言った。

理香「心理関数序論という名の付いた…」

理香は、どこか呆れた感じで達也の言葉の後に付け足した。

孝「なんだそれ?」

孝は顔をゆがめた。

達也「人間の行動、考え方などを数学的手法によって理解しようとした学問です。」

孝「人間の行動や考え方を?」

達也「そうです。この世の中には、決して同じ人はいませんが、ある人に対する反応や、言動をXとするとそれに伴う反応や言動はYという風に表せます。つまり、XとYの間の関係は、その人自信の心理関数を導く事ができれば、その人そのものを理解する事が可能なのです。」

孝「へぇ〜!なんか、わかったような、わからないような…」

孝は不思議そうな顔をした。それを見た達也はテンションが少し上がって来た。

達也「具体的に言いましょう。恵美さんが、白川さんに電話で今日会いたい、と言いました。これが、Xです。ここで、白川さんの心理関数を導きだせば、そのXに対する次の行動は自ずとわかる訳です。まぁ、たぶん、Yは、のこのこと呼び出しに応じるでしょうが…」

達也は、少し得意げな顔をした。

達也「イテ!」

すぐに、孝に小突かれた。

孝「でもそんな事、簡単にできたら、誰も人間関係に苦労しないよ。恋愛だって、みんなうまく行くって事じゃないか?」

達也は少し笑っていた。

達也「その通りです。簡単にできたら、誰も研究しない訳で、簡単じゃないから、解明されないからその学問は研究されているんですよ。」

達也は自慢げな感じだった。

孝「なるほど〜!」

達也「だから、僕もいつかは未来の彼女の心理関数を解くために…」

達也は一人で熱くなっていた。孝と理香はひいていた。

孝「でも、達也!詳しいな〜!」

達也「大学で数学の先生から、心理関数の事を聞いたんです。」

孝「数学の先生?心理学じゃなくて…」

達也「はい、提唱者は、北山秀雄という数学者らしいです。」

孝「じゃあ、その人のところに行って、その何だっけ?心理…なんとかっていう本を売って貰えば簡単に手に入る訳で、別に小川を襲わなくても…」

達也「無理です。残念ですが、北山秀雄はもう、この世にはいません。」

孝「え?死んじゃったの?」

達也「らしいです。」

孝「らしい?」

達也「はい、何年か前の研究室の大火事で死んだという噂になってますが、遺体は見つからなかったらしいです。」

孝「あれ?じゃあ、本は燃えてなくなってるんじゃ!」

理香「それが、ネットで売っているんですよ!」

達也「そうです。ネットで序論だけ売っているんです。」

孝「序論だけって?」

理香「先輩!実は、心理関数は実際の社会生活やその他ビジネス向けに実用書が存在するという噂ですよ!」

孝「実用書?」

理香「そうです。それを手に入れて、ビジネス、プライベートなど社会生活に役立てるために、その本を欲しがっている人がたくさんいるらしいです。」

理香は、どこか遠くを見る目をして

理香「そして、先輩も実用書を応用して、恵美さんの心理関数を知れば…」

孝「結局、おまえもそのネタか…」

孝は細い目で理香を見ていた。

達也「と言っても、実用書を見た事がある人は、いないらしいですからね」

孝「そうか〜!残念なような、ホッとしたような!でも、序論だったらネットで買えるんだろ?また、買えばいいじゃないか?」

理香「無理ですよ!あの本30万もするんですよ!」

孝「さ、30万?」

孝は普通に驚いた。

理香「そうです。だから、氷川と半分づつ出し合って買ったんです。それに、購入審査があって論文を出して合格しないと買えないんですよ。あ〜あ、まだ私、全然、読んでないのに…」

孝は少し、諦めた感じで

孝「おまえら、暇なのか?よくそんなものに30万も…」

理香「夢ですよ!そんな、すごい物とわかれば、手に入れてみたいものですよ!」

達也「でも、そんな価値ある物だから、誰かが常に狙ってる。時には、裏社会の人間から命さえも狙われるかもしれない。だから、そんな物は欲しがるな、と数学の先生が言ってました。でも、怖い物見たさってあるんですよねぇ〜!」

達也はうまく閉めたという表情だった。

孝「じゃあ、犯人はその本を目当で、小川を?!」

3人はしばらく沈黙になった。窓の外から日常のざわめきが沈黙の時間を埋めた。その時、誰か入って来た。努だった。

努「こんにちは!理香ちゃんお見舞いに来たよ!」

理香「あ!努!ありがとう」

その時、孝は心の中で

孝「え?あいつ、あの時の運転手?では?」

孝は変な胸騒ぎがしていた。

しかし努は、孝と会った事がある素振りを全く見せなかった。孝の目には理香と努はかなり親しい雰囲気に写っていた。

達也「小川さん!こちらの人は?もしかして彼氏?」

達也は一言余計に付け加えて聞いた。理香は、笑いながら、

理香「え〜、まさかぁ〜!」

努「あ、はじめまして宮田と言います。」

努は自分から名乗った。

理香「努と私は、卒論で同じ研究室に入ってるの」

孝「へぇ〜そうなんだ!」

理香「努に紹介しておくね!こちらは同じバイト先の氷川と白川さん。」

努「どうも!」

孝「あぁ、どうも!」

孝は一度会った事あるためか、どこか不自然なものを感じていた。時計は昼3時になっていた。そして、達也は立ち上がって

達也「じゃあ、今からバイトがあるので、俺はここで!小川さん、早く元気になって…」

達也は一瞬、理香を見て

達也「あ、元気ですね!では、早く、お店に復帰して下さいね。」

そう言って病室を出た。

理香「ちょ、ちょっとどういう事?私はケガ人よ!」

そう言ってる理香は孝にも努にも元気に見えた。

孝は、初めて会った素振りを見せる努が少し気味悪かった。その時

努「白川さんて、どこかで会った事があるような気がするんですけど…」

突然、努が孝に振ったが、孝に返答をさせる間もなく

努「やっぱり、人違いでした。ごめんなさい!」

と、すべて努の自問自答で終わった。孝はどことなく気味が悪かったためか

孝「俺も帰ろうかな?」

理香「え、先輩も帰っちゃうんですか?」

そして、理香は努を見て

理香「やだぁ〜、二人っきり?」

孝はツッコミようがなかった。そして

孝「じゃ、じゃあ早くケガ治るといいね!」

理香「今日はわざわざありがとうございます。」

孝も達也に続いて病室を出た。孝は少し逃げるような感じで、早足で病院の廊下を歩いた。そして、孝が病院の建物を出た辺りで追い掛けて来たかのように

努「白川さん!」

努が後ろで叫んでいた。

孝「え?」

何か、怪しい怖さを感じた。

努「すみません。やっぱり理香ちゃんと二人っきりなんて、なんかまずいかなと思って、白川さんが出た後すぐに僕も出て来ました。」

努は走って来たせいか少し息が切れていた。

孝「あ、そうなんだ。」

孝にとっては理香と努が二人っきりでどうなろうと関係なかった。しばらく、二人は一緒に帰っていたが、孝は半分無視した状態だった。そして、病院の門の辺りで突然、努が

努「白川さん!あきなさんの居場所や連絡先知りたい?」

孝「え?」

孝は一気に冷や汗が出た。やはり、間違いなくあきなとのデートの時の運転手だと、確信した。孝は年下の学生を相手に恐怖を感じていた。

努「どう?知りたい?」

孝は、少しづつではあるがあきなに惹かれ始めていた。しかし、連絡先、居場所を知りたいが、それは契約に反する事を理解していた。

努「契約の事なら心配いらないよ!僕は、絶対に誰にも喋らないから。確か、他言してはいけないんですよね?」

孝「え?」

孝はすべてを知られている事に気づいた。そして、孝は思った。努が誰にも、喋らなくても自分があきなの連絡先、居場所を知る事はプライベートに干渉する事!結局、それでも契約違反だと言う事に変わりはないと思った。

孝「いや、遠慮するよ!あれは、仕事だから…」

孝は、はにかみながら言った。

努「そうなんだ!じゃあ、仕方ないね!では!」

努は、その場から去った。孝は、普通に努の後ろ姿を見ていた。

孝「あいつ!なぜ?」

孝は呆然としている状態だった。そして、孝の携帯が鳴った。非通知である。孝は相手があきなである事に無意識に気付いた。

孝「もしもし!」

孝は電話に出た。相手は案の定あきなだった。

あきな「孝、今日はどうする?」

孝「え?今日ですか?」

あきなの口調は、ごく自然な恋人のような感じだった。孝は、少し恵美と付き合い始めの頃を思いだした。付き合い始めは、特に予定はなくとも電話やメールでその日の予定は、その日に二人のためだけに突然埋まる。そして、恵美も突然、電話して来た時は決まって「今日どうする?」という 喋り出しだった。あの頃は、お互いのために時間が空いていたのは当たり前であったが、今はそれもめっきり減った。というより、消えかけていた。ただ、恵美と付き合い始めの頃と、今のあきなさんのとの疑似恋愛とは違いが一つある。

あきな「孝!聞いてるの?」

孝「あ!すみません!」

あきな「今日もご飯に行きましょう。7時にいつもの銀座の時計台で待ち合わせね?」

孝「はい!わかりました。」

あきな「じゃあ、後でね!」

電話は切れた。孝には何の権限もなかった。その代わり、500万というお金はあるが…。



孝と別れて努は大学に戻っていた。キャンパス内は赤い夕焼けに包まれていた。しかし、努は研究室には戻らず大学内の喫茶店に入り、アイスコ−ヒ−を飲みながら、窓の外の笑顔であふれる大学生達を見ていた。そして、一人の男性が近付いて来た。

努「あ、金田さん!」

金田「どうだ?計画は順調に進んでるか?」

金田は笑顔で言った。

努「それが、僕、あきなさんにクビにされちゃいました。」

努は目の前のアイスコ−ヒ−の氷をストローで突きながら言った。すると、金田は真剣な眼差しで

金田「気にするな!そのうち、実が熟す!人間というのはどこかで必ず何か満たされないと気が済まないものだからな!」

金田は努を見ていた。努に笑顔が戻った。

夕日の差し込んだ大学構内の喫茶店は赤く包まれていた。

そして、昼のざわめきは消えつつあった。

努は突然現れた金田の言葉に少しひっかかった。

努「どこかで満たされないと?って?」

金田は微笑んだ。

金田「そう!」

努「金田さん!それってどういう事なの?」

金田「人間というのは、どんなに優秀であっても、どんなに善人であっても最終的には私利私欲のために生きて行ってしまう贅沢でもあり、悲しい生き物なんだよ!」

努は目を大きく見開いた。

努「そうだよね!僕もわかります。」

金田は話し続けた。

金田「だから、自分の利益、欲望を満たすためには、時には誰かを裏切ったりする事もある。場合によっては友人や恋人までも…。何かの犠牲やリスクを伴うのは当然の事なんだ!」

努は聴き入っていた。

金田「そして、利益や欲望を満たす度に、誰かを傷付けたり、傷付けられたり、結局目的が達成される度に人は罪を犯しているようなものなんだ。だから、すべての人間は犯罪者!そして、誰もが、罰せられる要素を必ず持っている。言い換えれば、なんらかの報いを受ける理由を誰もが持っている。」

努「なるほど〜!」

金田は真顔になった。

金田「何かを手に入れようとした時、その何かが、世界にたった一つしかなかった時、犠牲者が出るのは免れない。」

金田は再び笑顔になった。努もまた、笑顔になった。

努「その何かっていうのが、心理関数の実用解析書だよね?」

金田「その通り!この世の中で、何の犠牲も払わず、タダで手に入って満足できる物は数少ない。いや、そんな物は存在しないと思って間違いない。!」

金田は、どことなく笑いをこらえたような笑顔だった。努はそれを見て

努「ねぇ!実用書ってそんなに価値がある物なの?」

金田「価値か〜!わからないね。でも、闇価格では1冊、数億円と言われている本が存在すると知れば、学者なら誰もが一度は読んでみたいと思ってしまうものなんだよ!ただ、学者であってもなくても金儲けのため手に入れて売りたい人間、その内容を必要としている人間、価値観は人それぞれだね。」

金田は、仕方ないという表情だった。

努「ねぇ!金田さんは本が手に入ったら、どうするの?」

金田「そうだな〜!読んで、つまらなかったら売ってしまうかな!売ったお金は次の研究費用だな!努にも3割くらいはやってもいいかな!ハハハ!」

軽く笑った。

努「ふ〜ん」

金田「それよりも今はこのゲームを楽しむ事の方が先だよ!」

努は笑顔になった。

努「そうだね!」

金田「僕が主催者で、努が先導者!努はこのゲームに何人招待できたかな?ゲームの参加者はたくさんいる程、楽しめるからね」

努「何人だろう?でも、金田さんに言われた通りにあきなさんの連絡先を白川さんに教えようとしたら、知りたくないって言ってたよ!」

金田「心配するな!それは白川孝の心理関数に基づいて作られた契約書の効力のせいだ。だが、いずれ、彼もゲームに参加する。さっきも言ったように、人間はどこかで満たされないと駄目な生き物なんだよ!現に白川孝は誰かを既に傷付け、満たされない物を抱え込みつつあるんじゃないのか?」

努「そうだ!白川さんは彼女がいるのに、あきなさんとたくさんデートしてる。たぶん、彼女は傷つくんだろうな〜!」

金田は落ち着いて聞いていた。

そして、努は少し考え込んで嬉しそうに

努「やっぱり、金田さんはすごい人だ!本当にすごい!」

満面の笑顔になっていた。

金田「でも、このゲームの勝者は僕と努だけ!平田もあきなも敗者としての報いを受ける事になる。もうレ−ルは決まってるけどね!」

金田は優しそうに言ったがその後、表情が一変した。

金田「まぁ、所詮、心理関数と言っても私の哲学の前では子供騙し!」

金田は企んだ表情で優しく言った。そして、努は嬉しそうな笑顔で、アイスコ−ヒ−を飲み干した。

人の欲望とは様々、またその満たし方も様々!時には誰かを傷付けてしまう事もあります。そして、その答えは・・・

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