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第10話 影の遂行

恵美との約束を確証できない孝であったが、ある時、見知らぬ男性が孝の前に現れた。あきなと交わした契約書と何か関係があるのか?

孝は、何か怪しい雰囲気を感じた。しかし、自分の名前を知っていたこの人は何者か不思議に思った。

金田「突然、お引きとめして申し訳ありません。私、金田と申します。」

孝「金田さん?」

金田「もしかして、白川さんではないかと思いまして…あきなさんとは大学時代からの知り合いで、よく白川さんのお話を聞いております。」

金田は孝の事を初めから知っていたような感じで一方的に話し始めた。

孝「俺の事をですか?」

孝は怪しい雰囲気から、自分が白川である事を名乗らなかったが、その一言で、金田は孝である事を確認した。

金田「はい。最近、なんか気になる人がいて、その人の前では、何かうまく自分を出せなくて困ってるみたいで…。」

孝「気になる人?」

孝は、少し興味津々になった。

金田「実は、ここだけの話し、はっきり言ってしまいますが、あきなさんは白川さんの事が気になっています。」

孝「え?俺の事をですか?」

孝は少し、内心嬉しさが込み上げて来そうだったがそれを押さえるように言った。

金田「あ〜。でも、私がこんな事を言ったなんて、言わないで下さい。友人として、本当は内気なあきなさんのためを思っての事ですので!」

金田は一方的に話し続けた。孝は、あきながそんな風に自分の事を思っていたと知ると少しづつ嬉しくなったが、敢えて金田にその感情を悟られないように平常心を保った。しかし、孝には本当にこの人があきなと知り合いであるという証拠はなかった。そして孝は

孝「何故、俺が白川ってわかったのですか?」

金田の怪しい雰囲気を暴くように思い切って聞いた。すると金田は

金田「もう、本当に内緒ですよ。実はあきなさんから気になる人がいるという事で相談を受けた時に、何か証明写真のような物を見せて貰いまして…。その時の写真の方に似てましたので!」

孝「証明写真?」

孝はあきなと出逢うきっかけがフリーメールに送られた自分の完成された電子履歴書であった事を思い出した。孝は、金田があきなと友人であるような気がしてきた。すると金田が突然時計を見て

金田「あ、長々と申し訳ありません。では、私はこの辺で」

そう言って金田はその場を立ち去った。孝は何か不思議な事が起こった感じだった。しかし、あきなが孝の事を気になっていると、金田から告げられてから、嘘のような話しと思いながらも、悪い気がしなかった。そして、孝も金田の後ろ姿を少し見た後、駅に向かった。


金田「金田ですけど、そちらは?」

孝と話した後、金田は角を曲がって、電話をした。

金田「なるほど!全滅!フッ…面白くなりそうだな。残りは白川孝だけか〜。とりあえず、軽くジョブみたいなのは与えておいたからこれからが楽しみだな!」



そして数日後、季節は既に春を通り過ぎようとしていた。梅雨が来る前に夏の足音が聞こえてきそうな程の暖かい日の午後だった。孝は就職が決まる事なく相変わらずのフリータ−で、恵美はお飾りのような平田の秘書をしていた。そして、洋食屋KIYAMAでは孝はいつものようにバイトだった。

理香「もうすぐですね?」

孝「何が?」

理香「ちょっと鈍いですよ!私の退院祝い&日野さんの歓迎会ですよ。」

孝「え?いつ?そんなの聞いてないよ!」

理香「大さんからみんなの携帯にメールが行ってるはずですよ。」

孝「本当に?来てないけどな〜!」

孝は携帯を取り出して履歴を見た。すると、そこに鈴木が来た。

鈴木「白川、わりぃ!おまえだけ何故かメールが届かなくて…。」

鈴木は苦笑いで申し訳なさそうに言った。

孝「メールが届かない?」

鈴木「あとで、口答で伝えようと思ったんだが…。本当にわりぃ!」

そう言いながら再び、携帯を見た。すると

孝「あ!いつの間に!」

理香「どうしたんですか?いつの間にって!」

理香は何事かと言う顔をして孝の顔を覗き込むように見た。

孝「え!…アハハ…」

孝は携帯がドメイン指定されているのに気付いた。もちろん、設定を変えたのは恵美だとわかった。孝が弁解のために恵美をデートに誘ったあの日に変えられたのは間違いなかったが、たった今、気付いた。そして、これは報いかそれとも、小さな仕返しかと孝は思った。そして、孝は

孝「なんか、ドメイン指定になってたみたいで…アハハ!」

孝は作り笑いで言い訳をした。すると理香が、素早い動きで孝の携帯を奪った。

理香「どれどれ!」

孝「あ!また、おまえは…」

そう言いながら、孝は理香から携帯を取り返そうとした。端からは、どこかふざけ合っているように見えていた。するとそれを見ていた翔が

翔「ハハハ…。白川さんと小川さんは何かいいコンビですね!」

すると、孝と理香は止まった。それから、店はディナータイムに入った。そして、ディナータイムの1番最初の客が入って来た。

鈴木「いらっしゃいませ!」

鈴木の威勢のいい声が響き渡った。ディナータイムの最初の客はあきなだった。そして、その隣には亀田がいた。当たり前のように、あきなは孝がいる事を意識する様子はなく振る舞っていた。入口の受付で鈴木が応対して、二人は向き合って話しができるテ−ブル席に座った。そして、鈴木と理香はその二人の方を見ていた。孝も、また、自分のバイト先にあきなが来たという事で意識しながら見ていた。すると理香が

理香「確か、あの人って…」

驚いた表情で言った。隣にいた鈴木も、理香に同調するように

鈴木「誰だったかな〜。思い出せないな〜!」

考え込むように言った。そして、孝は

孝「前に来たお客さんじゃないですか?」

と言いながら、あきなの方を見た。すると鈴木が

鈴木「あ!思い出した。前の経団連の会長だ!」

鈴木は、目を大きくして言った。すると理香が

理香「あ、そうですよ!確か、そうです。経団連の前の会長で、京産自動車の亀田社長ですよ。」

理香は答えにたどり着いたという笑顔で、鈴木に言った。すると孝は

孝「え?あの女性がですが?」

あきなの方を見て言った。すると、理香が

理香「ちょっとぉ〜!先輩、何を言ってるんですか?女性の方じゃないですよ!男性の方ですよ!」

孝「え?そっち?」

孝は、たった今、理香や鈴木が見ていた人の話題と自分の視点がズレていた事に気付いた。

理香「まさか、ここにそんなすごい人が来るなんて驚きですね?」

鈴木「ああ〜!俺もテレビでは見た事はあるがまさか本人に会えるとは…」

二人は意外な表情をしながら言った。すると理香が

理香「あの女性はもしかして愛人ですかね?」

と小声でニヤつきながらに言った。すると孝は、あきなの事を知っているせいか、何か含み笑いをしながら

孝「いや〜、それはわからないな〜!もしかしてあの女性に主導権を握らて、騙さて、デートをしてたりして!アハハ!」

と意味深な言い方をした。すると、理香は

理香「でも、所詮あの女性が騙したところで、あれ程の人だったら、愛人くらい、当たり前のようにいるかもしれませんね?」

鈴木「そうだな〜!結局、金の力で何でも可能にしてしまうのかな!」

鈴木は仕方ないような感じで言った。

理香「人生の勝ち組ですから、それはそうでしょうね〜」

と、二人は亀田の肩を持っているのか、または彼を認めての発言のような感じで言った。その事が、孝にとっては自分が振り回されているあきなを、亀田が手の平で転がしているような捕らえ方にも聞こえた。孝は自分の状況を考えると、人間の格というものを少し感じた。そしてなんだか、寂しくなったが、あの男性が自分のような立場であっても、孝は不思議と心配する事など何一つないだろうと、自分の中で勝手に答えを出した。また、一般の人からも称賛されている男性を範疇に抑えているように見えるあきなを見て孝は自分との差を見せつけられているように感じた。そんな、あらゆる劣等感を感じながら孝はバイトを上がって、店を出た。すると、孝は再び、あきなを店で見た事で、今が恵美と会う一つのチャンスだと思い携帯を取り出して電話した。そして、恵美の携帯をしばらく鳴らした。すると恵美が出たが

恵美「孝、ゴメン!今は仕事中なんだ。」

そう言って繋がったと思ったら、すぐに電話を切られた。孝はなんだか、寂しさを感じながら、一人駅に向かった。その頃、洋食屋KIYAMAであきなと亀田は深刻そうな表情で話しをしていた。

亀田「なるほど〜!バレ始めている…ですか〜!」

あきな「はい!どういった経緯でそうなったかは調査中ですが…」

あきなは、亀田の目を見て言った。

亀田「しかし、実験デ−タの収集のその最後の目的までバレているという事ではないだろう?」

あきな「はい…」

その返事は暗かった。

亀田「で、今は何人ですか?」

あきな「一人だけです。」

亀田「一人ですか〜!」

亀田は特に驚く様子もなく言った。すると亀田は

亀田「確かに学者という立場上、研究は最も大事な事ではあるが、君は学者である前に我社の社員である以上、会社という組織で結果を出さないといけないという事を忘れないようにな!」

あきな「はい、存じております」

あきなは改まって答えた。

亀田「最近では、幹部の間では研究室の廃止を示唆する声もある。」

あきな「廃止?ですか〜?」

亀田「まぁ、心配する声はない。何でも、立ち上げたばかりのプロジェクトに実績がないのは当たり前。だからこそ、そこに否定的になる人間がいるのはいつも当然の事だよ!」

あきな「は、はい、精進して参ります。」

あきなは、少し亀田の器の大きさを感じて、緊張した様子で答えた。すると亀田は

亀田「そういえば、先生は元気ですか?」

あきな「はい、なんとか持ちこたえているという感じですが、今のところは特に悪化する様子もなく…」

あきなは、暗い雰囲気で答えた。

亀田「そうですか〜!先生の研究は非常にすばらしいものですから、これからも心理関数の発展は願ってますよ。しかし、会社である以上はそれとこれとは別の問題。研究室本来の目的は私と君島君しか知りませんからね。それなりの結果は出して貰えると信じていますよ。」

あきな「はい。わかりました。」

あきなは、亀田の見えないオ−ラを感じて、プレッシャーを感じて緊張していた。





孝は帰りの電車の中で寂しさと不安を感じながら、焦っていた。それは、あきなが別の男性と会っている今が恵美に会うチャンスと思っていたからである。しかし今、孝は恵美に会えない。その事が一掃、会いたいという気持ちを膨らませたがどうする事も出来なかった。電車内には仕事帰りらしき疲れきった表情の人が多数いた。孝もその仕事帰りの一人であったが、今は恵美に会いたいという意思が勝り疲れを忘れていた。そして、不安と焦りを感じながら、電車は孝のマンションの最寄の駅に着いた。結局、恵美から電話もメールもなかった。

孝「仕事、忙しいのか〜!」

暗い夜道を一人歩きながら小さくつぶやいた。そして、考え事をしながら、ただひたすら無意識に自分のマンションの前に着いた。携帯を見ても恵美からの着信がないのはわかっていたが、しばらく見つめていた。孝は、会いたいという気持ちを伝えるためにメールをして、そのまま自分の部屋に戻った。その日は、恵美から連絡はなかった。


孝が一人で帰っている頃、恵美は会社でまだ仕事をしていた。社内のオフィスには平田と恵美は二人きりだった。社長に付いて外回りをして、社内の事務作業がどうしても会社に帰ってからとなるため必然的な残業であった。しかし、平田は社長室で本を呼んでいた。それを見た恵美は自分の忙しさと正反対に感じたため、社長室のドアを開けて

恵美「ちょっと、平田さん!」

平田は、読んでいた本を開いたままで普通に恵美を見た。

恵美「あ、すみません。社長…でした」

平田「どうした?」

恵美は勢い余って、社長と秘書の関係である事を一瞬忘れていた。そして恵美は

恵美「あの〜!私ばかり仕事して…。少しは手伝って下さい。っていうか、社長はいつも本を読んでいるだけで…」

恵美は、自分なりに少し遠慮しがちに不満を言った。すると平田は笑いながら

平田「ハハハ…!じゃあ、明日やったらいいよ!」

恵美「え…、ちょっと〜そんなのでいいのですか?」

恵美は、少し怒り気味に言った。すると、平田は微笑みながらも真面目な顔で

平田「仕事というのは、どんな職業でも無限にあるものなんだよ!」

恵美「無限!」

平田「そう!無限に…。そして、会社も利益を追求していくというその姿勢は無限なんだ。しかし、人間の時間や体力、能力は無限ではないんだ。人はいつか、死ぬ。そこには限られた時間が存在する。年をとれば、若い頃の動きを維持できなく可能性があり、そこには体力の限界が存在する。無限にある物を片付けるために最大限に時間を使って、寝ずに一生働く事は不可能!仮に一生寝ずに働いたところで、無限に利益を追求し続ける会社の姿勢に答える事は不可能!たとえ目標があってもそれは最終の到達点ではなく通過点の目標。むしろ、最終点なんかは存在しない。会社は存続すれば、無限に利益を追求する。だから、仕事は無限に存在する。そこには、有限である物と無限である物が同じ次元で存在するという矛盾が起こる。」

恵美は、わかったようなわからないような感じだった。

平田「結局、焦っても仕方ないんだ。」

平田は微笑みながら言った。

恵美「じゃあ、私どうすれば…」

困った表情で言った。すると平田は

平田「この本読む?」

そう言って恵美に、一冊の本を渡した。

恵美「経済心理関数?何ですか?これは?」

恵美は手に取った瞬間、辞書のように厚く重たく感じた。そして、本を開けて、しばらく見たがさっぱり、何もわからなかった。理解不能のような恵美の表情を見た平田は

平田「ハハハ、少し早過ぎたかな!」

そう言って、恵美から本を取り上げて、自分のカバンにしまった。そして平田は、

平田「じゃあ、今日は終了!お疲れ!」

帰ろうとした。その時恵美は

恵美「平田さん!」

平田を呼び止めた。平田は恵美の呼び方から一瞬、会社での上司と部下の関係を忘れそうになった。そして、無言で振り向いて恵美を見た。

恵美「何故ですか?」

平田「え、何故って?」

平田にはさっきまで見せていた社長の表情はなかった。

恵美「何故、経験も何もない私を社長秘書として迎えてくれたのでしょうか?正直、自分でも思いますが、私では役不足というか、力量不足だと思っています。現に私がこの仕事に本当に必要であるか疑問です。」

恵美ははっきりと平田に言い切った。しかし、平田はすぐには何も答えなかった。しばらく恵美を見ていた。すると、平田は

作ったように微笑んで、

平田「そんな事はないよ。君は必要だ。誰でも最初は不慣れなものだよ」

そう言い残して帰ろうとした。すると、平田は思い出したように

平田「あ、それから戸締まりだけは頼むよ。」

平田は帰って行った。そして、誰もいないオフィスに恵美は一人で疲れきった表情でデスクに頬杖をつきながらボーッとした。恵美は平田の優しいフォローにも、自分がお飾りのような秘書になっていて、余り仕事が出来ない事に少し焦りを感じていた。そして、恵美は孝からの電話に返す事をすっかり忘れていた。時計はもう、10時を過ぎていた。昼でも、もともと静かなオフィスではあるが夜はまた別の静寂が広がっていた。すると恵美は気分転換に携帯を取り出して、思い出したように突然

恵美「茜に電話しよう。」

さっきまでの疲れきった表情が嘘のようになっていた。恵美の中で何故か電話をかけようと思った相手は孝ではなく茜である事に恵美自身は何も疑問に思わなかった。誰もいないオフィスに恵美はただ一人、片付かない仕事中に気分転換のため、茜に電話をした。すると、茜はすぐに電話に出た。

茜「もしもし!」

恵美「あ、茜!元気!」

恵美は、少しテンション高めだった。

茜「久しぶり!どう?未来の旦那様との仕事は?」

茜も少しテンション高めで、探りを入れてるような感じで恵美には聞こえた。

恵美「ちょっと〜!未来の旦那様なんて…。」

恵美は軽く否定した。そして、

恵美「もう、仕事は毎日大変!今日も残業で…」

半分、愚痴っぽく言った。すると茜は

茜「いいじゃないの?セレブの花嫁修行と思えば!」

茜はますます、あおるような感じで言った。そして恵美は

恵美「だから、違うって…。そういう茜はどうなの?」

恵美は、少し呆れて言い返した。すると茜は

茜「私?今、少し気になってる人がいるんだ!」

茜の声は明るかった。

恵美「へぇ〜!誰?また、合コン繋がり?」

恵美も声は明るかった。そして、興味深い様子で聞いた。すると茜は

茜「また、合コンて…。しょっちゅうやってるような言い方しないで!そんなんじゃないわよ!」

茜は、明るい声で喋りながらも、軽く怒った雰囲気だった。

恵美「で、誰?」

恵美は興味津々だった。すると茜は

茜「早坂さんよ!」

茜は嬉しそうに答えた。

恵美「早坂さん?」

恵美は、すぐに宏の事であるとわかった。そして、声のト−ンは無意識に落ちていた。しかし茜には、恵美が誰の事かわからずに考え込んでいると思い

茜「ほら、この前二人で行ったショットバーの店長さんよ!。」

さらに恵美に詳しく言った。すると恵美は

恵美「あ、あの時のね…」

恵美は複雑な気持ちだった。

茜「そう、思い出した?なんか、あの優しそうな雰囲気と、ワイルドな感じがかっこよくない?まだまだ、これからなんだけどね!」

茜はかなりテンションが上がって来ていた。それに対して恵美は、少しテンションが下がって

恵美「でも、まだこの前一回、会ったばかりじゃない!」

少し、後ろ向きなコメントだった。すると茜は

茜「ゴメン!実はこの前、恵美には内緒でまたお店に行っちゃった。」

茜は嬉しそうに言った。

恵美「え!そうなの?茜ってすごいね!」

恵美は少し、驚いた雰囲気で言った。すると茜は

茜「だから、恵美も応援して!」

恵美「え…わかった」

そう言いながら、恵美は社長室のカレンダーに赤でマ−クされた宏の結婚式の日付を見ていた。恵美は高いテンションで舞い上がっている茜に真実を語ろうにも、今の茜の勢いに圧倒されて、うまく言い出せなかった。

茜「そう言えば、この前の件はどうなったの?」

恵美「この前の件?」

茜「彼氏の浮気の事!」

恵美「あ、孝の事?」

恵美は忘れていた訳ではなかった。思い出したくないだけだった。

茜「まだ、付き合ってるの?」

恵美「とりあえずは〜!」

茜「え!なんで〜?恵美、この前すごい怒ってたじゃない?許したの?」

恵美「別に許した訳じゃないけど…。」

茜「じゃあ、これからどうするの?」

恵美「しばらくこのままなのかな〜!」

恵美は今の自分の状況から、これからどうしたらいいかわからないというのか正直な意見だった。すると茜は

茜「もう、平田さんにしちゃいなよ!」

恵美「え?」

茜は単刀直入だった。

茜「ハハハ!冗談よ!」

そう言いながらも恵美には冗談には聞こえなかった。そして恵美は時計を見た。もう11時を過ぎていた。すると恵美は

恵美「あ、もうこんな時間!終電がなくなっちゃう!」

恵美は慌てて言った。

茜「え!もしかして恵美ってまだ会社だったの?」

恵美「茜!ゴメンネ!突然電話して、また今度ね!」

茜「いいよ、気にしなくて!また、今度ご飯行こうね!」

恵美「そんだね。じゃあ!」

そして茜との電話は終わった。少しの気分転換のつもりが長話になり、全く仕事は進まなかった。その時、恵美は平田の言葉を思い出した。

恵美「仕事は無限にある…か〜!」

独りつぶやきながら帰る準備を始めた。すると、オフィスの入り口のドアの開く音が聞こえた。そして、誰かがオフィスに近づいて来る足音が聞こえた。

恵美「誰?こんな時間に…」

恵美は、高鳴る緊張と恐怖を感じた。すると、オフィスに入って来たのは木下だった。

恵美「あ、お疲れ様です。」

木下「なんだ、まだ居たのか?」

そう言いながら木下は自分のデスクのパソコンを立ち上げた。

恵美「木下さんの方こそ、こんな時間にどうしたんですか?」

恵美は、パソコンの画面を見ている木下を見ながら言った。

木下「本の販売許可がたった今、下りたので、ちょっと発送の手配をな…。」

恵美「本の販売許可?発送?」

恵美は何の事かわからなかった。木下は何か気難しい表情をしながら、パソコンのキ−ボ−ドをたたいていた。そして、恵美はそんな木下をチラ見をして、遠慮した様子で

恵美「お先に失礼します。」

木下「お疲れ!」

木下はパソコンの画面を見つめたままで、恵美を見る事なく言った。そして、恵美は会社を出た。孝からの電話に返事する事を忘れていた訳ではないが、疲労と面倒臭さでそのまま帰った。


恵美が帰った後のオフィスで木下は本の発送手配をしていた。

木下「柴山徹(しばやまとおる)?医者か〜」


そしてある日の昼の休憩時間に一つの内線が鳴った。

「柴山先生、金田様が見えられていますが…。」

「金田?」

「心理関数序論の論文と言えばわかるとおっしゃってますが」

「心理関数…!あ、ああ通してくれ」

その時、柴山は少し、冷や汗を書いていた。知らない相手だったが、心理関数という言葉に反応した。そして、しばらくしてドアがノックされた。

柴山「どうぞ!」

金田「失礼します。」

金田は一礼をして入った。そして、柴山に案内されて椅子に座った。

柴山「失礼ですが、どちら様でしょうか?」

柴山は、初対面だった。すると金田は

金田「この度は、論文の審査に合格しましておめでとうございます。」

金田は微笑みながら言った。柴山は意外な表情をして

柴山「何故、それを?」

金田「申し遅れました。私、心理学の南先生の助手をしております。金田と申します。合格者の方々に挨拶のために伺わせて頂きました。」

金田は普通に礼儀正しい雰囲気だった。

柴山「ああ〜。そうですか〜!それは、わざわざありがとうございます。」

少し、安心しきった感じで答えた。すると金田は

金田「ちょっと、お聞きしたいのですが、心理関数についてはどこでお知りになられたのでしょうか?」

柴山「実は、無記名でこういう物が送られて来ました。」

そう言って柴山は、1冊の精神心理関数の本を出した。そして、金田はそれを手に取り、本を開いてしばらく黙って、読んでいた。すると、突然ニヤつきながら

金田「なるほど〜!」

金田のその意味不明なニヤつきに柴山は疑問に思いながら

柴山「どうかされましたか?」

金田を覗き込むように言った。すると金田は

金田「すばらしいですね。実は、心理関数を研究されている方々の情報交換の目的としまして、パーティーでもしようかと思ってまして!」

柴山「パーティー?」

金田「はい!学会でも、未だに謎の多い、研究分野という事もありまして、今後のさらなる発展を願っての企画です。どうでしょうか?柴山先生も!」

柴山「本当ですか?それは、願ってもない事です。是非、お願いします。」

柴山は、驚きと喜びの笑顔で答えた。そして金田はさらに

金田「それから、もし、先生のお知り合いで興味がある方がいらっしゃいましたら、その方も是非お誘いして頂ければと思います。その時は私のこちらの携帯までご連絡頂ければ、パーティーの詳細をご連絡します。」

そう言って金田は携帯の番号とアドレスを書いた紙を柴山に渡した。

柴山「ああ、そうですか〜。ありがとうございます。」

柴山は一礼をしながら金田から連絡先の書いたメモ用紙を受けとった。すると金田は

金田「ちなみに、失礼ですが、どなたか柴山先生の周りで心理関数に興味を示されている方とかご存知ないでしょうか?」

愛想のいい雰囲気で聞いた。すると柴山は

柴山「そうですね〜。知り合いの中にも、興味を示している方もいますのでその時は、また改めてこちらから、連絡をさせて頂きます。」

柴山は、敢えて特定の人物の名前を挙げる事はしなかった。そして、金田は部屋を出る準備をして立ち上がった。すると、

金田「一つ、言い忘れておりました。パーティーの参加資格ですが一人につき本を1冊、お持ちになるという事ですのでよろしくお願いします。まぁ、柴山先生は既に、精神心理関数をお持ちですので大丈夫かと思われます。では、失礼します。」

そう言い残して金田は部屋を出た。柴山はその金田の雰囲気に何か、腑に落ちない物を感じていた。



一夜明けて、朝の満員電車に恵美は揺られて出勤途中だった。昨日の残業の疲れが少し残ったままだった。そして、駅を降りて、高層ビルのエレベーターに乗り、フロア−に降りたら、いつもの静かなオフィスのはずだったが、どこか慌ただしい雰囲気を感じた。そして、オフィスに入ると社長室に一人の女性がいた。広田だった。

恵美「政治家?」

恵美は事情がわからず、しばらく見ていた。すると

「野原さん!社長は?」

出勤する否や、恵美は突然言われたが、もちろんまだ出勤していない平田がどこにいるかを知るはずもなかった。そして、恵美は社長室にいる広田に事情も何もわからないままお茶を持って顔を出した。

恵美「おはようございます。平田の秘書をしています。野原です。」

恵美は少し緊張してお茶をだしながら言った。すると広田は

広田「おはようございます。どうぞ、お構いなく!」

恵美「お待たせして申し訳ありません。少々お待ち下さい」

そう言って社長室を出て、自分のデスクに戻り手帳を開いて改めて見たが広田と会う予定はなかった。そして、木下が出勤して来た。

恵美「あ、木下さん!おはようございます。」

恵美は状況がわからず助け船が来たような気持ちでの挨拶だった。すると木下は

木下「おはよう…ん?」

恵美に挨拶する途中で、いつもと違う社内の雰囲気を察したのか社長室に目が行った。木下はしばらく眺めて

木下「今日は、政治家の方と会う予定なんか会った?」

眉間にシワを寄せて、木下も事情がわからない様子だった。そして、特に関わる様子もなく、木下は、そのまま自分のデスクに戻った。

恵美「あ…木下さん!」

そして、恵美が途方にくれていると、平田が出勤して来た。

平田「おはよう!」

爽やかな笑顔で周りに挨拶をしながら入って来た。そして平田は社長室を見るや否や恵美に

平田「誰?」

平田も何故、広田がいるのかわからなかった。

恵美「今日のスケジュールにはないのですが、私が出勤したら…」

平田「あ、そう!午前中は確か空いてるよな?」

恵美「はい!」

平田は午前中のスケジュールを確認すると、広田の待っている社長室に入って行った。そして、恵美は社長室の平田と広田を不思議そうに見ていると、恵美のデスクに内線が入った。

「東西大学の南様から社長にお電話が入っています。」

受付からだった。恵美は、社長室の平田を見て電話を取り次いだ。すると

南「南だが、どういう事だ!平田!」

電話の向こうからものすごい剣幕で怒っている声がした。恵美は怒っている事情がわからず

恵美「申し訳ありません。社長は今、席を外しておりまして、用件でしたら、代わりに私がお伝えしておきますが…」

恵美はわからないままで謝罪しながら答えた。すると、南は

南「わしは、本の販売許可なんか出してないぞ!あとで、電話するように平田に言っておけ!」

そう言って一方的に電話は切れた。すると、恵美は昨日木下の言葉を思い出した。

恵美「本の販売許可?」

恵美は、突然の広田の訪問と言い、南からの電話と言い、全く事情がわからない応対で少し、気疲れをしていた。


その頃、洋食屋KIYAMAでは孝と理香はランチタイムの準備に追われていた。そして、一通り準備が終わって椅子やテ−ブルを整理をしていると理香が

理香「いよいよ今日ですね!」

孝「え!何が?」

理香「ちょっと鈍いですよ。歓迎会ですよ!私の退院お祝いと日野さんの歓迎会とそして、私の大学院入学祝いですよ!」

孝「歓迎会!ああ〜そうだ!ん?一つ増えたような…」

孝は昨日、恵美から電話が返って来なかった事で、考え事をしていて忘れていた。

理香「店を閉めた後にするみたいですよ!」

理香は嬉しそうに言った。

孝「じゃあ、今日は徹夜だな!」

孝は笑顔で言った。そして理香は窓を拭いていた翔にも

理香「もちろん、日野さんも参加ですよね?」

翔「はい、僕は大丈夫ですよ!白川さんも、もちろん最後までいますよね?」

孝「え?俺?ああ、もちろんだよ。」

翔は笑顔で言ったが、孝は翔の質問の意図はわからなかった。それは、もしかしてあきなに呼び出されても行くなという事か、または自分を何かの罠にハメるためか、意味不明だった。



人の見えないところで実行されているというのは、それなりの理由があるものです。でも結局それは、目的達成の守秘義務でしょうか?もし、それが罪なら・・・。

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