表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

第1話 契約書

俺は白川孝(しろかわたかし)年齢は27歳、そしてフリータ−、会社を辞めてもう一年、結局どこにも就職できず毎日をバイトで何とか食いつないでいる日を過ごしている。貯金も底をついてきた。正直、早く就職を決めたいが…。そんなある日、俺はネットカフェに行った。ネットの求人を探すためだ。普通に受付をしてエレベーターで7階にあるネットの繋がっている個室に入った。辺りは非常にタバコ臭い。禁煙ではないため、空気清浄機は24時間稼動しているが、全く効果を感じない。そして、パソコンの電源を入れ、自分のフリーメールをチェックした。先日何社かに入社希望のメールを出したが、相変わらず1通も良い返事は返って来ない。そんな、メールの受信ボックスに「あき」という差出人で「年契約希望」というタイトルのメールがあった。

「なんだ?どこの会社だ?」と独り言をつぶやきながら開いた。そこには一言「いつ会えますか?ちょっとHな関係はどうですか?」と書かれていた。


俺は白川孝(しろかわたかし)年齢は27歳、そしてフリータ−、会社を辞めてもう一年、結局どこにも就職できず毎日をバイトで何とか食いつないでいる日を過ごしている。貯金も底をついてきた。正直、早く就職を決めたいが…。そんなある日、俺はネットカフェに行った。ネットの求人を探すためだ。普通に受付をしてエレベーターで7階にあるネットの繋がっている個室に入った。辺りは非常にタバコ臭い。禁煙ではないため、空気清浄機は24時間稼動しているが、全く効果を感じない。そして、パソコンの電源を入れ、自分のフリーメールをチェックした。先日何社かに入社希望のメールを出したが、相変わらず1通も良い返事は返って来ない。そんな、メールの受信ボックスに「あき」という差出人で「年契約希望」というタイトルのメールがあった。

「なんだ?どこの会社だ?」と独り言をつぶやきながら開いた。そこには一言「いつ会えますか?ちょっとHな関係はどうですか?」と書かれていた。

俺はすぐにいたずらだとわかった。しかし、わかっていながらも遊び心で返信してしまった。

「今から大丈夫です」と、それからすぐにネットカフェを出た。もちろん、返信を待つ時間もなく…。ただ期待をしていなかったと言えば半分は嘘かもしれない。


次の日、俺はバイトを終えて夜9時頃またネットカフェに行った。ネットの求人目的というのもあるが、昨日のあのメールもいたずらだと思いながら少し気になっていた。受付を済ませたあと、ネットのできる個室に入った。そして早速、自分のフリーメールを開いた。「あき」という女性からの返信が俺が昨日返信をしてからすぐに来ていたみたいだ。俺は1番にそのメールを開いた。そこには「今すぐは無理です。お会いできそうな日を、明日の22時にメールします。」と書かれていた。

「22時?あと1時間近くある」

俺は何故か緊張しながら、求人サイトを見ていた。少し落ちつかなかった。就職のための求人サイトの閲覧が、暇つぶし扱いのように感じた。そして時計は22時になろうとしていた。その時!電話が鳴った。突然、冷や汗が体中から出て来た。着信は知らない番号 からだった。恐る恐る出た。

「もしもし…」

電話の向こうから

「孝!今何してるの〜?」

電話の相手は彼女だった口調からしてなんだか酔っ払っている感じだ。でも少し安心した。彼女の名前は野原恵美(のはらえみ)、年齢は25歳で前の会社が同じで俺の後輩になる。彼女はその俺と同じだった会社をやめて、今は派遣で事務の仕事をしている。俺が会社を辞める1年前から付き合い始めてもう2年になる。

孝「驚かすなよ!知らない番号だったから焦ったよ」

恵美「ごめ〜ん。元カレがあまりにしつこいから携帯の番号変えちゃった。」

孝「おまえ、なんか酔ってるのか?」

恵美「わかる?今日は合コンだったの!元カレがあまりにしつこいからうさばらしに、パァ−ッと飲んじゃった!」

孝「合コンとか、元カレって…。じゃあ、俺は何なんだよ」

恵美「だから、無事に何ごともなく、こうして、孝のところに戻ってきたじゃない?今から会う?」

孝「今から?」

恵美「ダメ?」

孝「いや、大丈夫だけど…。今どこ?」

恵美「渋谷!じゃあモアイ像のところでどう?」

孝「わかった。あと30分程待って」

恵美「30分?寒いよ〜もっと早く来て。じゃあ15分以内にね!」

(プツ!)

孝「あ!」

一方的に電話を切られた。ちょっとわがままな女性である。だいたい、いつも彼女のペースで進む。でも俺はそんなところもなんだか無邪気で可愛く思っている。

そうしている間に時計は22時を過ぎていた。そして「あき」という女性からのメールが来ていた。そして、俺はドキドキしながら開いた。

そこには「ご連絡ありがとうございます。本人確認のためこちらのサイトにアクセスをお願いします。」と書かれていた。やはり、怪しいサイトの勧誘だと思ったが…俺は怖い物見たさにアクセスした。すると…。

「え?何?」

俺は驚きがすぐに恐怖感に変わり、冷や汗が出た。アクセスしたサイトには自分自信の学歴や職歴そして住所など、あらゆる個人情報が載っていた。それはまさに履歴書そのものだった。趣味、特技まで本人しか知らない情報が載っていた。

「どういう事だ?俺の携帯の番号まで!あれ?」

ところが、何故か生年月日は空白だった。しかしその謎はすぐに解けた。ページの下に「本人確認のため生年月日を入力してください」と書かれていた。俺は迷った。正直、犯罪の臭いさえ感じたが、生年月日を入れてしまった。すると、ページが切り替わり一言「ありがとうございます。」と表示された。そして、逃げるようにネットカフェを出た。


その後、渋谷に向かった。恵美の電話から15分は確実に過ぎていた。はっきり言って15分以内になんて行ける訳がない。もしかしたら怒って帰ってしまったかな?とも思った。そして、メールのやり取りをした「あき」という女性の事も何が何だかわからずいろいろ考え事をしながら、待ち合わせ場所のモアイ像のところに向かった。それにしてもこの時間は寒い!遅れたお詫びと寒い思いをして待ってるかもしれない彼女の事を考えて途中の自販機で暖かい缶コ−ヒ−を買って行く事にした。連絡もない事から、「やはり怒って帰ってしまったのかな?」という予感もあり走る事なくただのんびりと歩いて、やっとモアイ像に着いた。やはり、恵美はいない!それにしても寒い!ここは恵美に電話して謝っておこうかと思っていたその時!携帯が鳴った。多分、恵美からだろうと思って携帯を見ると…。そこには非通知!

「これは恵美じゃない。」

俺は戸惑いながら電話にでた。

「もし、もし…」


「お忙しいところ失礼します。あきと申しますが白川孝様の携帯でよろしいでしょうか?」

俺は絶句状態だった。不思議な感じだった。少し恐怖もあった。恐る恐る返事をした。

「あ、は、はい!」

何もかもが不思議な感じだった。

あき「ご連絡ありがとうございます。明日でも、お会いする事は可能でしょうか?」

孝「あ、明日ですか?午前中なら大丈夫ですが…」

あき「では、少し早いのですが明日の朝8時に銀座の時計台の前はどうですか?」

孝「わかりました。大丈夫です。」

あき「ではよろしくお願いします。」

孝「あ、こちらこそ!」

電話は切れた。


俺は会う約束をすんなりしてしまった。というよりも、出会い系サイトのような感覚でやり取りをしてしまっていたのかもしれない。ただ知らない女性に会える。何かあるかも、つまらない男のサガとでも言うべきか、俺は少し虚しさを感じていた。その後、俺は一人モアイ像の前で途方に暮れていたら、後ろから突然!

「コツ!」

孝「イテ!」

恵美だった。頭を叩かれた。それにしても、合コンに行って来たというだけあってか、服装に気合いが入っている。珍しくスカートをはいている。普段は俺とのデ−トでもはかないくせに…

恵美「遅い!いつまで待たせるの?全く、電話したら話し中だし…」

孝「ゴメン。ちょっと突然、急用の電話があって」

恵美「急用?さっき電話したら会えるって言ったじゃない?電話繋がらないし、遅いし。寒いし、もう帰りの電車はないよ」

孝「悪かったよ!じゃあ、どこかホテルにでも泊まろうか?お金ならそれぐらいあるから」

恵美「何バカな事言ってるの?私は明日、仕事なの!この、格好で行けるわけないでしょう。帰りはタクシーよ。孝のおごりで」

仕方ないかと思いながらタクシーを拾って恵美を送る事になってしまった。

俺と恵美は渋谷からタクシーに乗った。自分の所持金とタクシーのメータ−を気にしていた。その時ポケットにさっき買っておいた缶コ−ヒ−を思い出した。少し冷めていたが…

孝「コ−ヒ−飲む?さっき、恵美が寒いところで待っていると思って買ったんだ。ちょっと冷めちゃたけど!」

恵美「ありがとう。さすが、気がきくね!」

孝「それにしても、今日はかなり服装に気合いが入ってるな!」

恵美「人生、初の合コンだったからね。ちょっとがんばっちゃった。」

孝「がんばっちゃったって…別に頑張らなくても。彼氏を作るとかそういう理由で合コンに行ってないだろう?」

恵美「え〜?合コンてそういうところじゃないの?もしかして妬いてる?」

孝「そりゃぁ、少しは妬くし、不安にはなるだろう?」

恵美「で、何が聞きたいの?今日の合コンの成果?」

孝「成果というのじゃなくて…何もなかったのかと思って」

うまくは言えなかったが、俺は単刀直入に聞いたつもりだった。


恵美「だから、何もなかったからこうして、孝と一緒に帰っている訳でしょう?」

孝「そ、そうだよな!俺の考えすぎか」

少し安心した。自分の事は棚にあげて…。

恵美「でも一人だけ連絡先は交換したゃった」

孝「え?」

恵美「その人ってすごいんだよ!27歳で今は会社を経営してるんだって」

孝「27歳?俺と同じか」

恵美「孝と同じね!今度ご飯でもどうかって誘われたけど孝がいるからお断りはしたけど」

孝「でも、連絡先は交換した訳だ」

恵美「また妬いてるの?連絡先交換しただけだよ。別に会う約束はしてないから。それより、就職決まりそう?」

孝「就職?あ、今探してるところ」

俺は一瞬、「あき」という女性の事が頭をよぎった。それから、タクシーは恵美の家の近くまで来ていた。タクシーのメータ−は、1万を越えていた。

孝「まずいな一万を越えたな!所持金オ−バ−だな」

恵美「え〜!タクシー代もないの?」

孝「ゴメン、所持金が足りそうにない。」

恵美「大丈夫よ!実は帰りのタクシー代は連絡先を交換した人から貰ったから」

その時、結局「自分て?何?」と思った。


その後、タクシーは到着して、代金は恵美が払った。二人は恵美のマンションに着いた。

タクシーを降りて恵美は無言だった。原因は自分なのか?やはり、タクシー代も払えなかった俺に少し、がっかりしているのか?時間はもう午前2時だった。

孝「俺、ここで帰るよ」

恵美「なんで?もう電車ないし。どうせタクシー代だってないでしょう?」

孝「歩いて帰るよ。」

恵美「外は寒いよ!遠慮しないで泊まって行きなよ。さあさあ!」

恵美は俺の手を引いた。俺はそのまま恵美に導かれるままに、マンションの階段を登った。マンション内は、完全な静寂に包まれていた。この空間には俺と恵美の二人しかいないかのような静けさだった。そして、その静寂を通り抜けるように、部屋のドアを開けて入った。


恵美「あ〜、疲れた!さっさとシャワー浴びて寝よ!そういえば、孝は明日は何時からバイト?」

孝「明日は、11時半から」

恵美「じゃあ、少しはゆっくりできるからいいね!私は朝8時半からだから6時には起きないと」

そう言って、恵美は一人で脱衣所に行った。俺は何も言葉を返さずテ−ブルの上の時計を見た。約束の時間まであと6時間足らずだった。その後、恵美がシャワーから出た後、俺もシャワーを浴びてそれぞれ別の布団に入った。恵美はベットの横に布団を用意してくれた。

そしてそれぞれ布団に入った。

孝「恵美!まだ起きてる。」

恵美「何?今日はしないよ!疲れているし、明日早いから」

孝「いや、そうじゃなくて、番号交換した人とは何もないよな?」

恵美「まだ、言ってるの?しつこいよ!」

孝「ゴメン!」

恵美「でも孝、来るの遅かったね。電話くらいくれると思ったけど…」

孝「いや、だから急用で」

恵美「別にいいよ!そんなにフォローしなくても。誰かと電話してたら仕方ないけど、ただ待ち合わせの場所でボーッと気が抜けた感じでいたから」

俺は何かを探られているかもしれないと思った。もしかして、恵美は俺が「あき」という女性と電話していた時に実はすでに後ろにいたのではと何か複雑な気持ちになった。

孝「明日、俺も7時に起きるよ。一緒に出よう!」

恵美「いいよ!そんなに気を使ってくれなくても…。合い鍵持ってるでしょう?私が出た後に鍵だけちゃんとしてくれたらいいから」

孝「いや一回、俺も自分の部屋に戻ってやりたい事もあるし…」

恵美「あ、そう?どっちでもいいよ!もう寝よ、おやすみ!」

孝「おやすみ」

軽い嘘のようなものをついてしまった。そして、俺は恵美のどこか冷めたものを感じた。



翌朝7時半頃に俺と恵美は部屋を出た。

恵美「眠い!やっぱり仕事の前日だったから、早く切り上げて帰って寝た方がよかったかも。誰かさんは来るのが遅かったし!」

孝「…」

確かに、恵美は眠そうだった。目の下に少しクマを作って、それを化粧で隠しているようにも見える。逆に俺は全く目が冴えている状態だった。その時、携帯が鳴った。もしかして、と思ったが相手はバイト先の先輩の大さんからだった。彼の本名は「鈴木大(すずきだい)」年齢35歳でバイト先ではたのもしい先輩であるが、俺と同じフリーターだ。俺は電話に出た。

孝「もしもし」

鈴木「白川!わりぃ今日何だけど、入りの時間俺と代わってくれないか?」

孝「入りの時間ですか?」

鈴木「そう!おまえ今日11時半からだろう?俺、今日9時からだけど、昨日風呂の湯が突然出なくなって、ガス屋に電話したら朝しか駄目みたいで、今から出られそうにないんだ。だから、ちょっと代わってくれ。11時半なら俺も行けると思うんだ」

孝「9時ですか?」

鈴木「店長の方には俺から言っておくからさ〜」

俺は非常に迷ったが…

孝「すいません。俺、今、外にいまして、早くても11時くらいになってしまいそうで。」

鈴木「そうか〜!困ったな〜。じゃあ、他当たってみるかぁ〜!悪かったな〜朝早く!」

孝「すいません!お力になれず」

鈴木「気にするな!じゃあ店でな!」

電話は切れた。今からなら9時は間に合うが、嘘を言ってしまった。すると隣にいた恵美は

恵美「行けばいいのに!」

孝「え?」

恵美「早く行けば、その分、時給がもらえるんでしょう?今からだったら全然、間に合うじゃん!別に嘘言わなくても!昨日のタクシー代だって払えなかったんだから、少しは稼いだ方がいいんじゃないの?」

孝「あの時は、ただ、たまたま手持ちがなかっただけだよ!」

恵美「さあ、どうだか?あ〜あ!私、今度平田さんと二人でご飯に行っちゃおうかな?」

孝「平田って?」

恵美「昨日、合コンで連絡先を交換した人。昨日のタクシー代も、平田さんから貰った、帰りのタクシー代で帰れたようなものよ」

俺は何も言い返せなかった。恵美は包容力のない俺にがっかりしているのか?

孝「なあ、今日仕事終わり空いてる?メシでも行かない?」

恵美「今日の仕事終わり?」

孝「俺の方は7時過ぎには終わるから渋谷にいつものモアイ像辺りに7時半くらいでどうかな?」

恵美「わかった。じゃあ、今度は遅れないようにね!あ、私こっちだから」

そう言って二人は別れた。


俺は約束の場所の銀座の時計台の前に向かった。さすがにすごい人の数である。まるで飲み込まれしまいそうな人の流れで、俺はその流れに身を任せるように歩き、待ち合わせの時計台の前に着いた。もう、時計は8時になろうとしていた。その時、携帯が鳴った。やはり非通知だった。

孝「もしもし」

あき「おはようございます。お着きになられましたか?私は黒のレクサスで歩道の脇に停車していますが、見えますか?」

孝「え?車ですか?」

誤算だったまさか車で来ているとは思わなかった。てっきり、2時間くらいお茶でもして帰るだろうと思っていたからだ。やはり車というからにはどこかに行くのだろうか?いろいろ疑問が浮かんだ。そして、

孝「車、わかりました。今から向かいます。」

車の場所はすぐにわかった。そして、近付くとすでにこちらに気付いてたかのように、車の後ろのドアが空いて、一人のス−ツ姿の女性が出てきた。年齢は30前後くらいに見える。モデルのような綺麗な女性である。恵美とは違うタイプの女性である。

あき「おはようございます。孝さんですか?さあどうぞ、こちらへ」

俺は、立ち止まった。車に乗っていったいどこへ行くのか、見当もつかない。もしかして…。頭の中に最悪の事ばかりが思いつく。誘拐?拉致?しかし、金も何もない、ただのフリーターの俺を連れ去る価値はないはず、いろいろ試行錯誤をした。

あき「あの!どうかされましたか?」

孝「あ、いや別に!まさか、車で来ると思いませんでしたので」

あき「驚かせてしまいましたら。申し訳ありません!今日は初日ですので、よろしければドライブでもして、お話でもと思いまして!」

孝「あぁ〜そうですね!」

動揺を隠せないまま、俺は車に乗り込んだ。

あき「車を出してちょうだい。」

運転手「はい、かしこまりました。」

俺とあきさんは後部座席に座り。車は出発した。運転手の人は年齢40手前くらいの男性で、運転手というわりには普通のス−ツ姿で、自分が思っているテレビなどで見る執事のような感じではなかった。むしろ、ボディーガ−ドのような感じである。それにしても、運転手付きの車というのは、このあきという女性はいったい何者?また、これからどこへ行くのか?そして、俺のフリーメールに届いた内容などわからない事だらけだ。

孝「あの、今からどこへ?」

あき「後でわかります。今日はお時間は取らせません。あ、申し遅れましたが、実は、私の本名はあきなと言います。メールではあきでしたが!」

孝「あ、あきなさんですか?」

車はとりあえず銀座を抜けたみたいだ。ただ、どこに向かっているかはわからない。外を見るとレインボーブリッジを渡ろうとしていた。その時

あきな「もう、そろそろね」

運転手「はい、承知しました。」

孝「え?どういう事?」

後部座席と前の座席の間にシャッターが降りた。そして後ろの窓にも完全にシャッターが降りて後部座席には外の視界が全く入らない状態になった。結局、後部座席で俺とあきなさんが誰からも見られない二人っきりの状態になっていた。これは、もしかしてと思ったが…。

あきな「驚かなくても大丈夫よ!何もしないから」

孝「え?あ、そうですか?ちょっと驚きましたけど!大丈夫です。」

何かあれば驚きではあるが、何もしないというのも、ちょっと驚きと安心である。俺は何かする事に期待していたのかと自分に問い正した。しかしあのメールの内容が頭から離れない。年契約希望とかちょっとHな関係とか、期待の手前で落とされた感じだった。後部座席は完全に視界を遮断された状態で、車は今どこを走っているかわからない。いったいどこに着くのか?そして、隣にいるあきなさんをチラ見した。俺の視線に気付いたのか、

あきな「もうすぐで着きます」

孝「は、はい!」

それから10分程して、車は止まった。そして、後部座席の仕切られていたシャッターは上がった。

運転手「到着いたしました。」

あきな「では、降りましょう。」

着いた所は地下の駐車場と思われる場所だった。

俺は今、自分がどこにいるかわからなかった。外からの光が入らない地下の駐車場?いったいここはどこなのか?

あきな「こちらです。」

孝「は、はい」

俺は知らない間に、相手のペースに飲まれていた。車を降りた後は俺とあきなさんと運転手の3人でエレベーターに乗った。エレベーターの表示された階から地下1階であるとわかった。その時、俺はずっと着いて来た運転手から何か監視されている感じがした。そしてエレベーターはさらにに降りた。

あきな「私のオフィスはこちらです。」

孝「オフィス?」

地下3階でエレベーターは止まった。エレベーターの扉が開くと薄暗く、ただまっすぐに廊下が続いてるだけだった。そして、廊下に出た瞬間、明かりがついた。何かセンサーが働いていたのだろうか?3人はまっすぐ、その廊下を歩いた。途中、いくつかドアがあり、何個か部屋はあるみたいだが、すべて素通りで1番奥の部屋の前にたどり着いた。

あきな「ヒデはここで待ってて?あとで、白川様をお送りする時に呼ぶから」

運転手「はい、かしこまりました。」

俺とあきなさんは二人でオフィスに入った。

オフィス内にはたくさんの本が並んでいる。よく 見ると心理学の本だらけである。

あきな「そちらにどうぞ!今、お茶をお出しします。」

孝「あ、お構いなく」

俺はソファーに腰かけた。あきなさんは部屋の隣の給湯室に入って行った。これから何が起ころうとしているのか?変な予感がして仕方なかった。

しばらくして、給湯室からあきなはお茶とお菓子を持って出て来た。そして、それをテ−ブルの上に置いた。

あきな「どうぞ!」

孝「ありがとうございます。」

俺は自分の高鳴る鼓動を感じていた。

あきな「今日はお忙しいところわざわざ、お時間を作って頂きありがとうございます。」

孝「いえ、そんな!あの〜メールにあった年契約とか、あとそれと、ちょっとHな関係とかって言うのは」

その時あきなは笑いをこらえるように口を押さえて

あきな「フフ、そういうメールを送りましたね?」

俺はあきなさんの笑いを押さえた顔が少し、子悪魔のように見えた。

あきな「単刀直入に申しあげます。これから、1年間あなたの恋愛を500万円で買いたいと思います。」

孝「え?」

俺は言ってる事がよくわからなかった。

孝「俺の恋愛を、ですか?」

あきな「そうです。」

孝「買うと言われても、どうやって売るのか、よくわからないのですが」

あきな「簡単な事です。具体的には1年間、私と恋人同士の関係で過ごして頂くのです。」

孝「恋人同士?」

あきな「そうです。」

孝「いや、そう言われましても、今は彼女もいまして…」

するとあきなは少し顔色を変えた。そして、不適な笑みを浮かべながら

あきな「そういう事は、あなたのプライベートですればよい事よ。これは、ビジネスよ!」

孝「ビジネス?」

あきな「そうよ!ビジネスよ!1年間、私とあなたが恋人同士で過ごし、そして私があなたのクライアント、年間契約料は500万円という事」

複雑な事が頭の中でまわっていた。そして

孝「これって、もしかして逆援助交際とか?」

あきな「あなたが、そう思うなら仕方がないけど、私はそうは思ってないわ。私は1年間あなたと本気で恋人同士で過ごすつもりでいるわ。もちろん、恋人同士だったら、ゆくゆくは肉体関係もあるかもしれないけどその辺はこれからどうなるかはわからないわ。それも私が500万をあなたに払うというのはあなたにとって悪い話じゃないと思うけど!」

孝「…」

すると、突然あきなさんは俺の横に体を密着させて座って来た。

あきな「どうする?」

俺は少し苦笑いで

孝「し、しかし500万円で俺があきなさんのような綺麗な女性に相応しい彼氏でいれるかどうか…」

あきな「心配症ね!」

そう言って、あきなは部屋の隅にあった金庫から、100万円の束を5つ出して

あきな「支払いは現金一括でいいかしら?」

俺は始めて見た大金だった。そして、フリーターである自分の事情を考えて悪くない取引かもしれないと少し思った。しかし

孝「これって、あきなさんに何か利点があるのですか?なんか俺ばっかり得するような感じで!」

あきな「恋愛に損か得かそれは、本人の価値感の問題よ。それ以前にあなたは恋愛において今まで損得勘定をした事ある?」

孝「…」

俺は何も言えなかった。

あきな「ただし、これはビジネスである以上、契約は交わして貰うわ」

孝「契約?」

そう言うと金庫の中から封筒を出して、その封筒の中から書類を出して俺の目の前においた。

孝「闇の愛契約書?」

あきな「そう、契約書よ!ビジネスに契約は当たり前の事ですから」

あきなはまたも、不適な笑みをうかべていた。


俺は契約書の中身にア然とした。

あきな「その内容であなたが承諾していただけたらサインをして!」


そして、その契約書は

1、このビジネスにおけるすべての権限は女性にある。

2、このビジネスにおいてお互いにプライベートを干渉してはいけない

3、このビジネスにおいて個人的な諸事情を持ち込んではいけない。

4、このビジネスの契約内容を他言してはならない。

5、このビジネスの契約期間は1年とする。

6、男性がこの契約に違反した場合は罰金として5000万円を女性に支払いその時を持って契約を解除する。

という内容である。俺はこの契約が要するに秘密の恋であるという解釈をした。そして、自分にとっても、おいしい条件のようにも思えた。

あきな「どうする?」

そう言ってあきなさんは俺の横に体を密着させるように座ってきた。しかし、俺は動けなかった。

孝「一つ聞きたい事があります。」

あきな「何でしょうか?」

孝「なぜ、俺なのでしょうか?」

あきなは微笑んだ。

あかな「それは、あなたが今、無職だからよ!」

俺は何も言えなかった。

あきな「決断するのは今しかないわよ。ダメならダメで、私は別にそれでいいのよ!」

俺は迷った。しかし、目の前の500万も貰えて、1年限定ではあるが綺麗な女性と…。今、まさに欲望の果てを手に入れるような状況にある。あきなさんは横に体を密着させ、無言で俺を見つめていた。しかし、これを承諾する事は逆援助交際?二股?あきなさんの言うビジネスか?その時、俺は、自分の欲望のために、これはビジネスであると心に言い聞かせた。これで就職活動もゆっくりできるかもとも思った。

孝「わかりました。お願いします。」

あきな「商談成立ね!じゃあここにサインして」

俺は契約書にサインをした。契約書は複写になっていて俺とあきなさんはそれぞれ1枚、控えとして持った。そして、一瞬にして500万円という大金を手に入れた。

これが、俺にとってのすべての間違いの始まりであった。



人の価値とは様々なもの。それぞれの、人生の中で人は何に価値を見出し、何を手に入れる事がその人にとっての幸せか?その答えは、誰にもわからない。現実で起こったすべての事が答えである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ