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「さて。

 ここに至ってようやく、このタイムマシンはどういう原理で動いているのだろうとわたしは考えました。

 SF小説で描かれるタイムマシンなら、わたしは消えているはずです。消えて、わたしは生まれず、生まれないということは父も祖父も殺せず、父も祖父も生きていて……と、タイムパラドックスが発生するはずです。

 けれど現実には、わたしはまだ存在し、父と祖父が死んだ世界がそのまま続いている。

 わたしはこの時点で4回、過去に飛んでいます。4回過去へ飛んで、1回未来へと飛びました。過去へと飛んだ時のことをよく思い出してみると、4回とも月が見えていたことをわたしは思い出しました。昼間に出発したのに、急に辺りが暗くなって、月がはっきりと見えていたことを。

 月は止まっていました。

 タイムトラベルを扱った映画でよく表現されるように、高速で回ってはいなかった、という意味です。

 時間を遡っていることを示すように、ぐるぐるとは。

 太陽もです。太陽も元々見えていた場所で静止していました。

 そこまで考えて、わたしは気づきました。

 そう言えば、月は見えていたけれど、地球は見えていなかったな、と。


 未来へ飛んだときはどうだっただろうと思い出すと、地球は、はっきり見えていたような気がします。

 過去へ飛んだ時とは違って、太陽と月はぐるぐると回って、何度も昼と夜が繰り返しているように見えました。

 つまり、過去へ飛ぶ場合と、未来へ飛ぶ場合は、原理が違うんじゃないか、わたしはそう気づきました。


 沖縄に行ったときに話したように未来へは行けます。方法はともかく、速く動けばいいのです。光と同じ速度で飛べば時間は止まります。

 では、過去へはどうやって行くのでしょうか。

 そもそも過去へは行けるのでしょうか。

 方程式上は時間は過去へと進むことができると聞いたことがあります。けれど現実には時間の矢は未来へしか向かわない。

 仮に時間の矢に逆らって過去へと飛んだとして、そもそも過去は変えることが出来るのでしょうか?

 変えられるとしたら、どこかに過去がある、ということになるのでしょうか。例えば1年前の過去。1時間前の過去。1秒前の過去。そうした過去が無数に存在しているのでしょうか?

 そしてまた、その過去と現在はどのように繋がっているのでしょうか?

 わたしのいた元の時間では時間が流れていました。当たり前ですが。

 過去でもです。

 過去でも普通に時間が流れていました。1時間は1時間として。少なくともわたしにはそう感じられました。

 もし現在と過去の時間の進む速度が同じなら、わたしが過去に加えた変更は、現在--過去から見れば未来--に永遠に追いつくことはないのではないか。わたしはそう考えました。

 けれど、祖父を殺したあと飛んだ未来には、わたしの加えた変更が、つまり祖父も父も存在しない時間がそのまま続いていました。わたしは時間を飛び越えたはずです。そのわたしより早く、過去に加えた変更は未来へと反映されたのでしょうか?

 考えれば考えるほど判らなくなって、もう考えるのを止めようかと思った時に天啓とでも言うべき閃きがありました。

 それは、そもそもわたしはタイムトラベルなんかしていないのではないか、という閃きです。


 あなたにも話しましたが、この世界はわたしの知っている世界とは異なっています。ソ連がすでにないように、細かなところが異なっています。

 タイムトラベルをすると時間が分岐する、という考えがあることもいろいろ調べているうちに知りました。それで、もしかするとここはわたしが元いた時間ではないのではないか。わたしは別の時間を発生させたのではないか、とも考えました。

 でもまだ納得できません。

 何かしっくりこない。

 わたしが変更を加える前のこの世界の歴史は、わたしの知っている通りです。でも、わたしが変更を加えた後の世界は、まるでわたしのいた時間がなかったかのように進んでいます。

 エウレカ!

 そうです。まるで、わたしのいた時間がなかったかのように。


 あなたはご存知ですか?ブラックホール情報パラドックスという言葉を。

 詳しい説明はわたしにも難しすぎて無理なのですが、ブラックホールに落ち込んだ情報は量子力学的には取り出せる筈なのに、ホーキング放射により情報が消えてしまうと想定されることが問題なのだそうです。このパラドックスは現代物理学でもまだ解決はされていないものの、パラドックス解消の一案として、量子重力と弦理論の性質としてホログラフィック原理というものがあり、ブラックホールの表面にはそれまで蓄えたすべての情報が映し出されている、という考えがあるのだそうです。

 過去へと飛んだ際に見えなくなっていた地球と、このホログラッフィク原理が、わたしの中で繋がりました。

 わたしの出した結論はこうです。

 わたしのタイムマシンは、未来に進む時には光の速度で飛ぶ。そうすることで搭乗者の時間を止めて未来へと運ぶ。

 では、過去へは?

 わたしのタイムマシンは過去へ飛ぶのではない。

 世界そのものを、地球をちっぽけなブラックホールに変えてしまう。直径が1センチにも満たないちっぽけなブラックホールに。

 ブラックホールになっても情報はすべて残っています。ちっぽけなブラックホールの表面に、地球が生まれてからの情報はぜんぶ。

 つまり、わたしのタイムマシンは、地球を初期化して、それまでの過去をなかったことにして、ブラックホールとなった地球から過去の情報を取り出して、過去を作り出しているのです。

 わたしは過去へと飛んでいません。

 わたしはただ、世界を滅ぼしていただけだったのです」

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