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「わたしのタイムマシンにはね。悪魔がいるの。多分だけれど」

「悪魔?」

「ラプラスの悪魔っていう名のね」

 お姉さんが笑う。

「詳しいことは明日ね」

 お姉さんからの手紙が届いたのは、その夜のことだ。多分。新聞受けに入っているのを見つけたのは、翌日の朝のことだが。



「最初に謝っておきます。

 わたしはあなたと一緒には行けません。

 とても残念だけど。

 その代わり、わたしのタイムマシンをあなたに預けます。あなたがタイムマシンをどう使うかは、あなたお任せします。

 あなたがどんな判断を下しても、わたしはあなたの決断を支持します。


 わたしの妹も、幼い頃に事故で死んでしまいました。

 わたしの家族が壊れてしまったのはそれからです。でも今思うと、最初からわたしの家族は壊れていて、妹の死はただのきっかけに過ぎなかったのかも知れません。

 まず母がおかしくなり、家を出て行きました。

 母が出て行ってから父は、わたしに酷いことをするようになりました。具体的に父が何をしたかは、察してくださいとしか記せません。

 それでわたしも14歳になると家を出て、ひとりで生きていくようになりました。あなたが褒めてくれた歌で。幸いにもデビューできて、わたしは国民的と言ってもいいアイドルになりました。

 本当よ。

 幾つもの賞を取って、誰もがわたしの歌を口ずさむようなアイドル。

 でも、その時間はもうどこにもないけれど。

 アイドル時代は目が回るほど忙しくて、忙しいけれど幸せで、あっという間に時間が過ぎていきました。でもある日、幸せな時間は突然終わってしまいました。

 デビューして5年目に、週刊誌にわたしの家族のことが載ったのです。わたしと父の関係も。売ったのは父自身。

 わたしはたちまちアイドルの座から転落し、タイムマシンを見つけました。


 ああ、少し話を急ぎすぎましたね。

 マスコミから逃げて、わたしは雲隠れしたのです。雲隠れして、死に場所を探して、某県の山の中をさまよっているときに、タイムマシンを見つけたのです。

 つまりわたしは、タイムマシンを拾ったのです。

 なぜ、初めて見た乗り物をタイムマシンと判ったのか、あなたは不思議に思うことでしょう。あなたに納得していただくには実物を見ていただくのが一番早いと思いますので詳しくは記しません。

 とにかくわたしは見つけたのがタイムマシンではないかと疑い、試しに過去へと飛んでみたのです。週刊誌にわたしの記事が載る前の過去へです。わたしがデビューする前の過去へと。

 そして、それが本物のタイムマシンだと確信した時のわたしの喜びがあなたに判るでしょうか。

 これでわたしは父を殺すことができる。

 わたしはそう思ったのです。


 今はタイムパラドックスについても知っているけれど、当時はあまり深く考えませんでした。

 とにかくわたしは父を殺したかった。

 父を殺して、わたしの存在を最初から無かったことにしてしまいたかった。

 それで母と出会う前の父のいる過去へと飛び、父を殺しました。

 父をホテルに誘うのは簡単なことでした。

 ああ、これで終わる、と思って、何度も父を刺したことを覚えています。父だと顔が判らなくなるぐらい、何度も。

 どれぐらい経ったでしょう。

 正気を取り戻し、父を刺した返り血をシャワーで洗い流し、その時を待ちましたが、いつまで待ってもわたしは消えません。

 このままでは警察に捕まる。

 わたしは急にそのことが恐ろしくなりました。

 わたしという人間はこの時間に存在しないけれど、いいえ、存在しないからこそ逮捕されるのが恐ろしくなって、わたしはホテルから逃げ出しました。ホテルからだけでなく、更に過去へ、わたしの殺人がまだ行われていないはずの過去へと。

 過去へと到着して、ふと、この時間にはまだ父が生きているのだと気づきました。なるほどわたしの犯罪は行われていないけれど、行われていないからこそ、父が生きている筈だと。

 確認すると確かに父は生きていて、わたしは今度は、祖父を殺すことにしました。

 父の存在が許せない。

 父が生きていること、いいえ、生きていたこと自体が許せない。

 それは今も変わらずわたしの中にある感情です。

 祖父は嫌いでも何でもありませんでしたが、わたしを助けなかった、同罪だと思って殺すことにしました。

 人を殺すのは2度目です。

 少し確認したいこともあり、祖父を殺した後に、わたしは未来へ飛びました。祖父を殺してから50年ほど先の未来です。

 今度は確実に、父は存在していませんでした」

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