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あたしが飛行機に乗ったのは、あれが初めてだった。
沖縄に着くとすぐに水着を買いに行って、空港に近いビーチで二人で遊んだ。夕方の飛行機でとんぼ返りして、帰りの道中にはもう妹のことを話すことはなかった。
あの短い旅で心が軽くなったのは確かだ。
お姉さんがあたしの想いを分け合ってくれた。あたしの心の時間が少しだけ動いた。少しだけれど、とても意味のある"少し"だった。
「どうしたの?何かあった?」
お姉さんと最後に会ったのは、あたしが就職して数年が経ってからのことだ。
お姉さんは変わらない。
ずっと若い。
初めてお姉さんに会ってからもう10年以上が経っているのに、まるでお姉さんだけ時間が止まっているかのように。
あたしは黙ってお姉さんの隣に座った。
「呑む?」
あたしは頷いて、お姉さんが差し出してくれたビールを受け取った。
「いつの間にかビールが呑める歳になったんだねぇ」
「父と母が離婚したんです」
「それで?」
いつもと変わらない声でお姉さんが先を促す。
「妹が死んでから、二人の間がぎくしゃくしてるのは気づいていました。父が家に帰って来ないことが多くなって」
「外に女がいたの?」
声もなく頷く。
我ながら笑ってしまいそうだった。あまりにもよくあることで。でも、笑えなかった。
「お母さんはもう家を出たの?」
「父とは別の人のところへ」
怒りと虚しさに声が強張る。
「なんとまぁ」
お姉さんがビールを口に運ぶ。
そして手元に視線を落とし、しばらく沈黙した後、お姉さんはあたしに尋ねた。
「ねえ。本物のタイムマシンに乗ってみたい?」
と。