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 公園のお姉さん。

 あたしは彼女をそう呼んだ。あたしが彼女と出会ったのが、あたしが通う小学校の通学路の途中にある小さな公園だったからだ。

 好きなアニメを見ていて、家を出るのが遅れた。

 ランドセルを背負って懸命に動かしていた足を、あたしは公園の前で止めた。

 歌声が聞こえた。

 とてもきれいな歌声が。

 公園のベンチに女の人が座っていた。

 きれいな人。

『まるでアイドルみたい』

 そう思ったことを覚えている。

 そしてそれは間違いではなかった。

 多分、ではあるが。


 翌日は、いつもより早く家を出た。

『あの人、今日もいるかな』

 走る足も胸も期待で弾んだ。確かにお姉さんはいた。ただ、昨日とは雰囲気がぜんぜん違った。

 お姉さんは歌っていなかった。歌う代わりに、酔っぱらっていた。一人で、とても機嫌よく。ゆらゆらと身体を揺らし、右手にはビール缶があった。足元にも何本も空っぽのビール缶が転がっていた。

 公園の入り口で立ち竦んだあたしに、お姉さんが気づいてゆっくりと首を回した。とろんとした顔に、笑顔が浮かんだ。

 酔ってはいても、やっぱりとてもきれいな笑顔だった。


 翌日は雨。

 あたしはやっぱりいつもより早く家を出たけれど、公園にお姉さんはいなかった。ビール缶もない。

 あたしは「なーんだ」と呟いて学校へ向かった。あまりにつまらなそうな自分の声が妙におかしくて、くすくすと笑いながら。

 以来、お姉さんを見かけることはなかった。

 あたしが中学生になるまで。

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