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間違いのフェイト  作者: 青木りよこ
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「髪切ろうと思うんだけど、どう思う?」

「いいんじゃない?短いのも似合うと思う。見たい」

「ホント?」

「うん。絶対可愛い」

「じゃあ、明日切りに行ってくるね」

「うん」


今日は野球中継がないからゆっくり喋りながらご飯食べれるかなと思ったけど、理さんはテレビをつけ、リモコンでパチパチとチャンネルを替えて最後はクイズ番組に落ち着いた。


「野球見ない日はクイズ見るの?」

「嫌、何でもいいよ。見たいのあったら」

「ううん、私は何でもいいんだけど」

「ごめん。ご飯食べる時テレビ見ない?」

「ううん、家見てたよ」

「一人長かったからテレビ付いてないと静かすぎてダメなんだ。ごめん」

「ううん、違う違う。食べよ」

「うん。美味そうひじき」

「ホント?」

「うん。蓮根好き」

「私も。きんぴら好き?」

「好き」

「じゃあ、明日はきんぴらに蓮根入れるね」

「あー。美味そう」

「食べて食べて」

「うん」


理さんはクイズの問題が出るたびに答えを言う。

間違ってても言う。

宮原さんとはクイズ番組を比較的よく見た。

一緒にアニメを見る気はしなかったし、ドラマは私も興味がない。

芸能人が出て来てのトーク番組はその人達に興味がない以上見る気がしなかったし、そうなるとクイズしかなかった。

あの人はいつも黙って見ていた。

私が今の答えわかってました?と聞くといつも「わかってましたよ」と言った。

わかっていたならどうして言わないんですか?と聞くと「別に声に出すほどのことではないでしょう」と言われた。

今思うと全くその通りだと思う。

鬱陶しかっただろうな、私のこと。

喋るのきっと好きじゃなかったんだろうな。

それとも気が合う人となら喋るのかしら。

もう今となっては確かめようもないけど。


「この鰈の煮つけも美味いよ」

「良かった。味濃くない?」

「丁度いい」

「良かった。後ね、パートに行こうと思うんだけど」

「あー。いんじゃない」

「ホント?」

「うん。でも、あー」


理さんはお箸をおいた。


「土日はやめてほしいかな。俺休みだし、寂しい」


理さんは豚肉とキャベツともやしと人参とにらを塩胡椒で炒めただけのシンプルな野菜炒めにお箸を伸ばし、まるでコマーシャルみたいに誇張された大きな口で食べる。

それだけ言うのにお箸をおいたのかと思うと何て可愛いんだろうと思った。


「大丈夫。貴方のお休みに合わせるから」

「そう?」

「うん」

「調理師免許持ってるよね?そういう仕事するの?」

「調理師免許は学校出たら誰でも貰えるから」

「でも料理滅茶苦茶美味いよ。おかずいっぱい作ってくれるし」

「多い?」


少しぎくっとする。

今日はひじきの煮物に、からすがれいの煮つけ、野菜炒め、生姜とネギと青じそを乗せた冷ややっこ、と作りすぎないようにしたはずなんだけど。

あの声が聞こえた気がした。


「嫌、嬉しい。腹減ってるし、美味いからいくらでも食える。お弁当も美味しかったよ」

「良かったー。明日は鶏肉の照り焼き入れようと思ってるんだけど」

「美味そう。照り焼きって何であんな美味いんだろうね」

「ね」

「パートさー、本格的に働くつもり?」

「ううん。何て言うか時間余ってるし勿体ないかなって」

「お金かかるもんね。オタク」


ああ、実感こもって聞こえる。

二重の意味で知っているのだ、この人は。


「うん、かかるね」

「DVDでしょ、CDでしょ。ゲームに課金でしょ。コミカライズ、ノベライズ本、グッズ、同人誌、イベントへのチケット代、交通費。お金いくらあっても足りないよね」


やけに楽しそうに言う。

過ぎ去った楽しい学生時代に思いをはせる様に。

その時間の全てにあの人はいるのだ。

誰かに強制されたわけじゃない好きで付き合っていた人だ。

楽しかったに決まっている。

その人は彼の寂しさを埋めてくれていたのだろうか。

それならいいんだけど。

あの時が止まったお部屋も見たのだろうか。


「彼女、さん?」

「うん。絶対お金持ちと結婚したいって言ってたもん」

「叶ったの?」

「うん。島根のホテルの息子だったよ」

「へー」

「あ、ごめん」

「何で?」

「嫌、嫌だろうなって。すまん」

「いいえー」

「怒ってる?」

「怒ってないよ。ねえ漫画描いてたの?彼女さん」

「うん。美弥子もやってるアイローのレキシントンのひめぞのだったかな。描いてたよ。瀬尾ナツメって名前で」


ご丁寧にこの人は。

後で調べろってか。

まあ、調べるんだけど。

レキシントンの姫宮×前園か。

リーマンパロがものすごく流行ったカプだ。

趣味は合いそうにない。


「あ、彦根で女性の遺体だって」

「え?」

「佐和山で。うわー。マジかー」


私がデザートのラ・フランスを剥いていると理さんが台所に向かって大きな声で言った。

そんな大声出さなくても聞こえる。


「佐和山って、あのもののふの夢って看板があるとこだったよね?」

「それそれ。うわ、怖えー」

「殺人事件かな。こんなの初めて」

「そうなの?」

「うん。俺が生きてて彦根で殺人事件って聞いたのは初めて」

「殺人なの?」

「切断された遺体っていうからそうでしょ」

「切断・・・」


そう言われると怖さが増す。

背筋がぞくっと震える。


「怖いな。美弥子探検あんまり人気のないとこ行かない方がいいよ」

「うん。そうする。今日もね滋賀大見つけたんだけど、結局一人じゃつまんなくて、貴方の市役所見て帰って来たの」


理さんは「え」と行ったきり、無言でラ・フランスを食べた。

美味しいとか何か言ってよと思ったが、ひょっとしたら自分は思ってたよりずっと恥ずかしいことを言ったのかもしれないと思い、リモコンをとった。
















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