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間違いのフェイト  作者: 青木りよこ
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試合はマジックナイツの完封負けだった。

先発の島田君は五回八失点。

野宮さんは四の一。

盗塁一。

試合は九時には終わってしまった。


「まあ、こういう日もありますよー。三島が良すぎたんですよ。今日はさっさと寝ろってことですよ。スポーツニュース見ないで」

「負けた日は見ません?」

「見ないですね。お風呂先にどうぞ」

「でも・・・」

「朝頑張って洗ったんでどうぞ」

「お掃除してくれたんですか?」

「はい。せめて風呂くらい綺麗にしとこうと思って」

「すみません」

「いえ、本当に先にどうぞ、俺ちょっと見たいものあるので」

「じゃあ、すみません。遠慮なくお先させて頂きます」

「はい、ごゆっくり」


理さんに案内されたお風呂のドアを開けると洗濯機がありその横は洗面所になっていた。

洗濯機の前で服を脱ぐと少しホッとした。

浴室に入ると明らかに新しいシャンプーとコンディショナーとボディソープのボトルがあり、買い物や掃除に時間がかかるから今日午後の電車にしてくれと言ったのだとわかり嬉しかった。

新しいネグリジェと下着を買いに行き、散々迷って紺と白のボーダーのネグリジェにした。

白とかピンクのレースとか考えたけど、余りにも気合が入っていると言うのは引かれないかと思い勇気が出なかった。

これからずっと一緒に暮らすんだし、本当は二度目の結婚だし、特別感がない方がいいのかなって。

どうせすぐ脱ぐし、うん。

洗面所の上半身しか映らない鏡を見て意味のない確認をし、新しい歯ブラシとコップがあるのに気づく。

恐らくピンクの歯ブラシと兎さん柄のコップが私のだろう。

これを買いに行く理さんを想像するだけで頬が緩むのを感じた。

台所兼居間のドアを開けると理さんはお笑い番組を見ながらゲームをしていた。


「お風呂お先にでした。有難うございます」

「いえー。じゃあ俺も入ってきますね。冷蔵庫の適当に飲んでてください」

「はい」


本棚を眺めふと気づく。

そう言えば今日どこで寝るんだろう。

バタバタしてて二階に上がってないけど、そこだろうか。

野宮さんのポスターで埋め尽くされた理さんの自室もまだ見ていないし。

ドライヤーで髪を乾かし、椅子に座りテレビを見ながら炭酸ジュースを飲む。

乾いた喉が癒されていき、爽快だ。

楽。何だろう、楽。

部屋の温度も寒すぎず暑すぎず丁度よく優しい。

テレビでは前からよく出ていたお笑い芸人が地元の銘菓についてプレゼンしている。

一年じゃそんなに出てる人なんて変わらないらしい。

何かいいな、こういうの。

だらだらして弛緩しまくってる身体。

呑気で何も考えずに見れるテレビ。

冷たく喉を潤す甘い炭酸ジュース。

微かに聞こえる虫の声。

星とか見れるのかな。

京都では一度も夜出かけたりしなかった。

テラスや近所のコンビニすら危ないのでやめてくださいと言われたから、一度も京都の夜空を見ないまま終わった。


「暑いですねー」


理さんは黒い無地のTシャツにベージュのハーフパンツ姿で濡れた髪のまま頭をタオルでガシガシさせながらドアを開け入って来た。

マジックナイツ以外のTシャツも持ってるんだ。


「丁度いいです」

「そうですか?」

「はい。寒すぎず暑すぎず丁度いいです」

「それなら良かったです。暑かったら温度下げますんで」

「はい」


理さんは冷蔵庫から水のペットボトルを出してグラスに氷を入れ注いだ。


「テレビチャンネル変えてくれていいですよ」

「いえ、私は何でもいいです」

「そうですか」

「はい」

「ご飯美味しかったです。すみません。野球見てると遂そっちにばっか意識が行っちゃて」

「そんな、いいんです。私も面白かったです。野球中継初めて見ました」

「そうですか。勝った試合だったらもっと面白いですよ」

「そうですね」

「明日は勝ちますよ。今日はローテ通りなら水田だったんですけど、背中痛いって言いだして急きょ島田になったので。明日は牧なんでやってくれます。今年は沢村賞取れそうなんですよ。今の勢いなら」

「沢村賞ってなんですか?」

「その年の最高のピッチャーが貰える賞です。防御率二点台と十五勝以上が最低条件なので何とかなりそうなんですよ。今十二勝なので」

「あと三勝ですね」

「はい。牧は去年もいいピッチングしててくれたんですけど、牧の投げる日打たないもんだから去年は中々勝てなくて」

「そうなんですか」

「ピッチャーは打ってくれないといくら押さえても勝てないですからねー」

「そうですね」

「まあ、いいピッチャーが出てきたら打てないですよ中々」

「はあ」

「まあ、野宮が一本打ってくれたからいいです。打率は下がりましたけど、野島も打てなかったので首位打者キープだし。まあ、まだ六月ですからわかんないですけど」


本当に野宮さんの話すると生き生きするな。

顔が違う。

お風呂上がりのせいだろうけど、頬が上気し、瞳が星を見る様に煌めく。

恋する少女漫画のヒロインのように。

暫く野球の話をした後理さんはテレビを消した。

途端にお部屋は静かになるけど、気まずくはない。

というよりそろそろかな、そろそろかなと少しそわそわして落ち着かなかった。

気づかれただろうか?

理さんは平然としているようで掴めない。

申し訳ないけれど今日は試合が早く終わってくれて良かった。

だって今夜は長い夜になるはずだから、今夜ぐらいは私に集中してほしい。

野宮さんのことは頭の片隅に置いといて。
















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