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間違いのフェイト  作者: 青木りよこ
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沢村さんのお婆ちゃんにご挨拶するとお婆ちゃんは村田さんと違い涙ぐんだりはしなかったけど、理さんの言っていた通りヤクルトをくれ、もらい物だと言うバームクーヘンもくれた。


「じゃあ、自転車買いに行きますか?」

「はい」


理さんが自転車を押し、私は隣に並んで歩く。


「自転車あったらどこでも行けるんで」

「はい」

「ついでに買い物して帰りましょう。何か欲しいものあります?」

「いえ、何も」


ホームセンターで自転車を買い、理さんの後ろから付いていく。

自転車を漕ぐのは久しぶりだ。

風が心地いのと、先ほどと違い日の光の下で見ているからか、彼の背中がとても近く感じられた。

これからこんな風にいつも彼に付いていくのだろう。


「平和堂行きますね。ポイントカード作りましょ」

「はい」

「滋賀県中にあるんで、何処でも使えるから便利ですよ。現金と交換だし。多分ほとんどの滋賀県民が持ってます。ホップカード」

「そうなんですか」


風の中で話している様に自然と声が大きくなる。

楽しい。

理さんの顔は見えないけれど、彼も同じ気持ちでいてくれてると思える。


「京都にもあるはずですけどー」

「私の住んでたとこにはなかったですねー」

「そうですかー」


小さめのスーパーの駐輪場に二人で並んで自転車を止める。

自動ドアを抜け、理さんがカートに買い物籠を乗せる。


「どうします?今日はもう食べに行きます?」

「え?」

「疲れてますよね。それともデリカで何か買って帰りましょうか?」

「疲れてないですよ。私何か作ります」

「そうですか?」

「私押していいですか?カート」

「はい。あー、カード先作りましょう」

「はい」


受付でポイントカードを作るとクリアファイルをくれた。

平和堂のイメージキャラクターらしい。


「駅前にもありますし、さっき行ったホームセンターを少し行くとビバシティってのがあって、そこも平和堂なんです。そこに映画館があって、本屋があって、時々北海道物産展とかあってマルセイバターサンド買えます。まあ服も売ってますし、大体のものはそこで揃いますね」

「理さん映画見られます?」

「あんまり行かないですね。レンタルで十分かなって。映画見ます?」

「私もレンタルです」

「ここ出て真っ直ぐのとこツタヤです。その隣にココイチと、セブンイレブンがあってー」


ポイントカードを作るのに申込用紙に何のためらいもなく山田美弥子とすらすらと書けた。

間違うほど宮原美弥子と書いてないけど、名乗り慣れるほど名乗らなかったけど、呼ばれなれるほど呼ばれなかったけれど。

これから五十年以上書き続ける名前だ。

山田美弥子。

簡単な字で良かった。

山田理。

これも簡単だ。

宮原楓も簡単だったけど。


「何が食べたいですか?」


やっぱり自分でカートを押さないと買い物し辛いから言って良かった。

いつまでもお客さんでいてはいけない。

積極的にならなきゃ。

本当に結婚したんだから。


「何でもいいんですか?」


タイムバーゲンの卵を買い物籠にそっと入れ理さんは言う。

視線の先にはもやし。


「大体何でも作れると思います」

「じゃあ、豚汁で。和食食べたいです」

「私ごぼうとかしめじとか入れるんですけど大丈夫ですか?」

「大好きです。豚肉いっぱい入れてくださいね」


理さんはもやしなど見ていなかったみたいにごぼうを探す。


「お味噌お家にあります?」

「ありますよ。自炊してたので」

「お料理できるんですか?」

「一人暮らし長いので。普通に」

「キウイ剥けます?」


キウイが目に入ったので遂聞いてしまった。

拙い。

誰を想定しているのか火を見るより明らかだ。


「キウイ?真ん中で切ってスプーンで掬って食べます」


理さんはきょとんとした顔をした。

それはよくこんな顔描けたねと言うほど。

本人は何の意識もしてないんだろうけど今までで一番可愛く見えた。


「林檎は?」

「剥けます」

「桃は?」

「剥きますよ」

「スイカは?」

「スイカ剥くことあります?」

「食べますか?」

「スイカ大好きですけど」

「種、面倒じゃないですか?」

「スイカには種があるものでしょう?」

「そうですね」

「鯖の味噌煮も食べたいです」

「豚汁もお味噌ですけどいいんですか?」

「煮魚はやらないんですよ。一切れくらいじゃ面倒だし。秋刀魚とか鰯は煮ますけど」

「何で煮ます?」

「梅干しと」

「美味しいですよね。生姜あります?」

「ないですね。買ってください」

「後お野菜何が食べたいですか?」

「切り干し大根煮たの」

「私厚揚げと煮るのが好きなんですけど、いいですか?」

「はい。厚揚げ大好きです」

「薄口しょうゆありますよね?」

「はい。調味料は大体ありますよ。ニンニクと赤唐辛子も」

「本当にお料理なされるんですね」

「まあ、簡単なものですけど。夏はあんまりですけど、冬場は結構します。ポトフとかホワイトシチューとか、豆乳鍋とかですけど。後ホットプレートでできるやつ。お好み焼きと焼きそば」

「ホットプレートあるんですね?」

「はい。ままかり買います?」


鮮魚コーナーで鯖を見ているとままかりの酢漬けが置いてあって理さんが嬉しそうに言う。


「ままかり岡山の人間は食べないですよ。あれは観光客用のお土産です」

「そうなんですか?」

「はい。食べないですね」

「わー、すみません。偏見ですね」

「いえ、岡山来た時買いました?」

「はい。買って帰りましたし、お土産にも買いました」

「美味しかったですか?」

「はい。酢に漬けられたものって何でも美味しいですけど」

「そうですね」


何だか可笑しかった。

この人はこの人で私との食生活を想像してたのだ。

それはそうか。

私と食べようと奈良から葛餅を買って帰る人だ。

ままかりが常備菜として冷蔵庫に常にある生活を思い浮かべていたのだろう。

可愛い。


「お肉はどうします?」

「お肉は豚汁あるからいいですよ」

「鶏肉か牛肉で何かいりません?」

「じゃあ、から揚げがいいです。自分じゃできないので」

「揚げ物はしないですか?」

「しないですね。後片付けが大変そうで。揚げ物は買って帰ってました」

「どんなのがいいですか?」

「どんなって?」

「味付け」

「あー、何でもいいですけど」

「塩麹とか、生姜とか玉ねぎすりおろしたのとか」

「塩麹とか美味しそうですね」

「お好きですか?」

「はい。麹とか絶対美味しいやつじゃないですか」

「美味しいと思います」

「塩麹でお願いします」

「後サラダでいいですか?」

「はい。ドレッシングならいっぱいあります」

「え?」

「一本買っても中々なくならないので。毎日食べる様にしてるんです、カット野菜」

「そんなにかけませんもんね」

「はい。そうなんですよ。もう少し使い切りサイズの作って欲しいです。いろんなので」

「そうですね。オリーブオイルとかあります?」

「ありますよ。パスタはよくするので」


理さんがいつも食べているというトウモロコシ入りのカット野菜を籠に入れ、もうこれくらいですかと聞くと、アイスを見たいと言われた。


「お風呂上がりに必ず食べるので。一日一アイス」

「私も食べますね」

「せっかくだから高いの買いましょうか?」


理さんは一個248円のカップアイスに視線をやる。


「ファミリーパックでいいですよ」

「いいんですか?これも六本じゃないですか?一回買うと一週間食べなきゃいけないからやだったんですよ。お得ですけど、一人暮らしだと一人で食べなきゃならないから」

「そうですね」

「でも今日から二人ですね」

「三日でなくなりますよ。大丈夫」


理さんは甘いチョコレートでコーティングされた棒付きバニラアイスの赤い箱を買い物籠に入れた。

それはあの人が俺は食べませんから全部食べていってくださいと言った私が一番好きなアイスと全く同じものだった。







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