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「ねえ、それ不味くない?奈良に彼女いるってことじゃないの?」
月曜日仕事が休みの空ちゃんに楓さんが仕事に行くとすぐに電話をかけ、土曜日の理さんのことを報告した。
本当は土曜日すぐに話したかったけどイベント帰りだし疲れているだろうと思い遠慮したのところ、気持ちいいくらいの先制攻撃を受けた。
「そうかなぁ」
「だって泊まる?奈良なら日帰りできるじゃない」
「野球の試合って長いんだよ。九時とか終わんないの。延長したりすると十時とか過ぎるの普通なんだよ」
「でも帰れるよ。何でホテル泊まるの?それも一人で」
「日曜日も試合だからいつも土曜日は奈良に泊まるんだって。土日しか試合見に行けないから」
「だって毎週通ってるわけでしょ?」
「毎週じゃないよ。奈良行くのはホームゲームの時だけ。あとはたまに甲子園行ったり、広島行ったり岡山にも来た事あるんだって」
「野球オタクかー。まあそれなら気合うかもしれないよね。愛人いるかもだけど」
「いないと思うよ」
「どうして?イケメンじゃないから?」
「そういうんじゃなくて、そういうのより野宮だから」
「野宮ねー。見たこともないけど、二次元なら受けの名字だよね」
「ただの丸顔の、どっちかっていうと地味目の人だよ。野球選手っていう感じはしない。多分そのへん歩いててもわかんないと思う」
「地味受け。王道じゃない」
「地味で無口なの。よくある真っすぐで純粋な光属性主人公じゃない感じ。ジョブでいったら賢者」
「鞘師じゃない?」
「鞘師かも」
「気合うじゃない。流石なのかな、フェイト・システム。誤作動出るけど」
「ねー」
「何かでもおかしな話だけど、上位互換キャラじゃない?理さん」
「えっと誰の?」
「今の旦那さんの」
「もう旦那さんじゃないはずなんだけど、ね」
「まあそうか。なかったことになるんだもんね。ああ、ごめん。違うね。宮原さんが上位互換キャラだ」
「そうなの?」
「だって、身長百八十オーバーの眼鏡キャラでしょ?キャラ被りじゃない?」
「そんな人いくらでもいると思うけど」
「でもさ、普通この国で一生を終えるってことは結婚って一回じゃない?」
「うん」
「でもさ、美弥子の場合二回するわけじゃない。それも先に上位互換キャラとでさ、大丈夫?」
「何が?」
「これから先ずっと比べながら生活するんじゃないかってこと。ほら私達さー、ずっと学生時代も就職してからもどうせ結婚するからって男の子と遊んだことないまま結婚しちゃったじゃない?比べようがないわけよ。
比較対象がいないんだから。今の旦那でこういうものだって生きていくわけじゃない?でも美弥子はさ、比較対象が出来ちゃったわけじゃない?大丈夫?」
「考えたこともなかったよ。上位互換キャラだなんて思えないし」
「そう?」
「うん。だって全然違うもん。少しも似てないよ」
「ならいいけどー。まあ趣味に寛容な人ならこれからイベント行けるね。八月のインテ行かない?」
「うーん。岡山にも帰らなきゃだし、暑いしなー」
「京都よりは暑くないよ。京都の夏耐えられたんだから大丈夫でしょ」
「確かに岡山より暑かった気がする。盆地だから?」
「さー」
「もう一年以上同人誌買ってないんだけど大丈夫かな?」
「かみさや興味なくなっちゃったの?」
「ううん、鞘師は可愛くてしょうがないし、かみさや新規描きおろしなんてあったら相変わらず買うんだけど、何て言うか、カップリング脳が死んでないかなって」
「大丈夫。腐女子は何処までいっても腐女子だから」
「アニメもさそんなに見なくなったんだよ。昔は地上波で見れるもの全部とネット配信のやつもほぼ全部見てたのに」
「見てたねー。確かに最近見ないかも。声優チェックして見なくていいやってなったら見ないし。でも旦那がいるから撮り逃しはないね。有り難い」
「そうなんだ。あー」
「どうしたの?」
「見てないアニメいっぱいレコーダーに溜まってるんだけど引っ越すまでに消さないと悪いよね?」
「そうだね。妻に出てかれた後レコーダーにアニメいっぱい残ってたら、何か嫌だね。振られたみたいで」
「そんなこと思わないだろうけど、冷蔵庫のアイス食べていってくださいって言われた。甘いもの食べない人だから」
「それ面白いね。離婚だ」
「離婚みたいなものなのかな?」
「そうなるよね。まあ実際は結婚してたんだもんね。考えたら凄い話だよね。上手くいってたらどうするつもりだったんだろ。そりゃ人権侵害国家って言われるわけだよね。で、今度は姦通罪でしょ?」
「成立すると思う?」
「そりゃするでしょ?あれだね田中総理はきっと女の人に興味ないんだね」
「そうなのかな?」
「そうでしょ。じゃなきゃ姦通罪なんて言いださないでしょ。不倫したいじゃない。お金あるんだし」
「お金あるからするの?」
「ううん、お金なくてもする人はするでしょ。でも反対派が国民の最後の権利をって言ってて笑う。不倫は権利なんだ」
「興味ある?」
「ない。ソシャゲ忙しい。ねえ、この間も話したけど、いのまたいいよー」
いのまたは空ちゃんが最近坂道を転がり落ちる様にハマりだしたカップリングだ。
正式には井上×又吉。
吸血鬼×ヴァンパイアハンターの殺伐ケンカップル。
「もう新しいの開拓したくないよー」
「そう言わずにさー、一回見て見て、何なら送るし」
「いいよー。ハマるの怖い。新しいこと増やしたくない」
「何お婆ちゃんみたいなこと言ってんの。これから新しい生活始まるんだよ。どんどん開拓してこ」
「流行ってるのは知ってるんだよ。でもハマるとはあんまり思えないんだよね。受けがさーどっちかって言うと華やかで明らかに目立つキャラでしょ。どっちかって言うとあんまり目立たない子が好きだから」
「鞘師ね」
「そう、鞘師。もうこれから先鞘師以上にハマるキャラいないと思うんだよねー」
「私もそう思ってたよ。でも一回見て。検索したら滝のように出てくるから。今旬ジャンルだし」
「滝・・・」
私はハーレクインじゃないですかって言う理さんを思い出し吹き出してしまった。
そういえばどうしてそんなこと知ってるんだろう?
やっぱり腐男子?
それとも腐女子な彼女がいる?
まあいいか。
彼女がいてもいなくても、私が今週の土曜日に彦根に行く未来に変わりなんかない。
土曜日試合が終わると理さんはメールをくれた。
マジほー。野宮猛打賞。あとホームラン出てればサイクル惜しい。
佐野20号。浅宮2盗塁。2年目福山プロ入り初完投勝利。
途中までノーヒットだったのでエラーするなよ、えらーするなよって緊張しました。
野宮ファールいっぱい見れたしいい試合でした。
明日勝って4カード連続勝ち越し決めましょう。
今日は有難うございました。
楽しかったです。
おやすみなさい。
まるで暗号文の様だったけど試合が終わりすぐにメールをくれたのが嬉しく、初めてスポーツニュースというものを見た。
ユーチューブの映像より野宮さんは鮮明なので素敵に見えたし、この球場のどこかにあの人がいるんだと思うと誰かに自慢したくなった。
散々迷った挙句お菓子のお礼と今日私も楽しかったですと返信した。
簡潔すぎるかと思ったけれど、知ったかぶりして野球のこと書くのもどうかと思ったのでやめておいた。
寝る前に佐野さんのインスタを見て、野宮さんのお嫁さんの手料理を調べた。
思ってたより普通で、凝ってるなあというものではなく、生活感と言うか、誰もが食べたことのある料理ばかりだったけど、鶏むね肉と茄子とセロリの南蛮漬けは美味しそうだったので、彦根に行ったらこれを作ってみようと思った。




