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間違いのフェイト  作者: 青木りよこ
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特に突っ込んだ話をすることもないまま歩き続けフードコートにたどり着くと、一番最初に目に入って来たアイスクリーム屋さんでアイスを買った。

理さんはチョコレートヘーゼルナッツ私はピスタチオ、二人ともコーンじゃなくてカップ。

お財布を出したけどここでも理さんが二人分ののアイスクリームのお金を出してくれた。


「すみません」

「いえ、いいですよ。いちいち謝らないでください」

「はい」


あんまりお金出しますと主張したら気を悪くされるかもしれない。

楓さんとはどうしていただろうかと考えてみたけれど、彼とは結婚前も結婚してからもフードコートに来たことは一度もなかった。

フードコートはそんなに混んでいるわけではなかったので四人掛けの席に向かい合わせに座る。


「すみません。あんまり駅ビル見ることないので遂うろうろしちゃって」

「いえ。私もないです。こんなに色々見たの初めてです」

「住んでたらそういうものですよね。京都なんか行くとこいくらでもあるでしょうし」

「どこも行ってないです」

「出不精ですか?」

「そんなこともないと思うんですけど、どこ行っていいかわからなくて」

「複雑ですもんね、京都」

「はい」

「フードコートで良かったですか?」

「え?」

「嫌、どうもいつも一人なんで洒落た店入れなくて、甘いものって言ったらもっとちゃんとした店想像しますよね。すみません。今日は一人じゃないから美弥子さんもいるんだし、入っても良かったですよね」

「いつもお一人なんですか?」

「はい、一緒に行く友達いないんでいつもぼっち参戦です」


意外と簡単に聞けてしまった。

でも友達はいなくても彼女はいるかもしれない。

あれ?


「あの、参戦って?」

「あー、あの野球です。これ」


理さんは赤いTシャツの魔法使いらしき双子の男女を両手の人差し指で指さす。


「野球のTシャツなんですか?」

「はい、奈良マジックナイツの。知ってます?」

「すみません。知らないです」

「野球見ませんか?見ないですよね」

「見ないです、ね。えっとプロ、ですよね?」

「はい」

「奈良に行くのはそのためですか?」

「はい。土日のホームゲームだけですけど。でもたまに遠征もします。甲子園と広島と。岡山にもそれで行ったんですよ」

「岡山に野球チームありましたっけ?」

「ないですけど、球場はあるので」

「そうなんですか」

「はい。俺そこの野宮って選手が凄く好きで。このキーホルダーの選手なんですけど」


理さんは隣の席に置いてあったリュックをテーブルの上に乗せキーホルダーを見せてくれる。


「アニメのキャラクターかと思っていました」

「デフォルメしてるんで本物はこんな可愛くないですよ。これです」


理さんの携帯にはやたらと首と腕が太い男の人達が恐らく私服なのだろう、皆思い思いのTシャツ姿でくつろいだ様子で映っている。

場所は何処かの居酒屋さんだろう、手書きっぽいメニューが後ろに見える。

皆弛み切った笑顔で仲の良さを想像させるには十分だった。


「右から二人目が野宮です。右端が佐野」


野宮と言われた男性は五人映っている男の人の中で一番体が小さく見えた。

顔は丸めで、それ以外に特徴を見出すのは難しく、あのショタ顔のアクキーと同一人物というのは詐欺に近い気がした。


「わかりにくいですよね。これ最新なんですよ。一昨日のインスタで。皆でご飯食べに行ったんですよ」

「山田さんが撮ったんですか?」

「まさか。佐野のインスタです。野宮インスタやってないので。でも佐野のインスタ毎回野宮出るので」

「おいくつなんですか?野宮さん」

「二月二十二日で二十二です。背番号は6。ポジションはショート」

「皆さん野球選手なんですか?」

「はい。こんな体の一般人いませんよ。実物は本当に大きいです。野宮は俺より小さいですけど」

「野球選手もインスタやっておられるんですね」

「やってますよ。やってない野宮が珍しいんですよ。野宮ちょっと古風なとこあるんですよね。野宮の嫁もやってないし。やって欲しいですよ。まあ代わりに佐野がやってくれるのでいいんですけど」

「これから奈良に行くのは野球を見に行かれるんですね?」

「はい」

「そうなんですか。毎回お一人で?」

「はい。マジックナイツのファンの知り合いなんていないし。それにどっちかっていうと地蔵状態で見ていたいので、一人でいいんです。初対面の人に話しかけるの同じ趣味ってわかってても恥ずかしいし」

「そういうものですか」

「これ俺の部屋です」


写真には何の変哲もないベッドが映っている。

そのベッドが異物として浮き上がる様に部屋一面が野宮さんと思われるポスターで埋め尽くされている。

これと似た部屋を私は知っていた。

岡山の実家の私の部屋。

野球選手もポスター出るんだ。

それもこんなに沢山。

アイドルと違って意識してポーズを取っているわけじゃないんだろう。

走ったり、バッドを振ったり、ボールを投げたりしているが、どれも凄い形相で偽物じゃない本気なんだということが写真からでも伝わってくる。


「あの、でも、その、ポスター外しますし」

「え?」

「嫌、落ち着かないかなって。全部の部屋こんなじゃないんですけど、台所と繋がった居間っていったらいいんですかね?家そこで食事してるんですけど、そこも結構浸食してて」

「はあ」

「あの、でも、落ち着かないなあって言うんなら外すんで」

「はあ」


理さんはアイスを慌てて呑み込む様に食べると「トイレに行ってきます」と言って席を立った。

空席を見つめ、理さんが言ったことを思い出し三周目でやっと彼の言った意味を理解した。










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